49 加速する情勢
―国王執務室―
今、この場に国王を始めとした大臣、王位継承権第三位までの人間が揃っていた。
「皆に伝えなければいけない事がある」
大臣らは固唾をのんでみ言葉を待ち、マリアとシャーリーは国の行く末を案じ、そしてまだ五歳の末っ子は寝息をたてんながら母親に抱かれている。
「私は帝国からの要請を受けようと思う」
「! 父上、それは!」
マリアが慌てて抗議しようと声を上げるが、国王はそれを手で制してマリアの言葉を遮った。
「ただし、条件付きでな」
「条件?」
確認するかのようにシャーリーは父の言葉を口にする。
「そうだ」
「条件とは、一体なにを付けるおつもりですか?」
大臣の一人が王に伺いを立てた。
「帝国領をこちら側の自由裁量で頂くというものだ」
「そ、そんな事をジェリー皇女殿下におっしゃるつもりですか……!」
国王の言葉に慌てたのは外務を所管する外務大臣であった。
当然と言えば当然の反応であるが。
「クルト、そんなに慌てるな。これは遠回しに断っておられるのだ」
と、内務大臣は言う。
「そうだ。帝国と我が国は平和条約を締結しているとはいえ、これまで何度も衝突を繰り返してきた仲だ。自分の領土をくれてやる。なんて気は起こせまい」
「しかし、それでは国境線で衝突が起こるのでは」
「それの対処の為に、私は帝国との国境に兵を送りたいと思っている」
この言葉を聞いて軍服姿の老人が一歩前へ出た。
「どれほど派兵する御積りでしょうか」
「そうだな、今から動かせる部隊は?」
「最近の情勢を鑑みて、厳戒態勢を敷いています故、第三軍団をすぐにでも動かせます」
「首都の防衛は?」
と、内政大臣が質問する。
「その点は安心してもかまわんだろう、私の師団が就く事になっている」
と、マリアが内政大臣の問いに答えた。
この答えに大臣らは安堵のため息を漏らす。
何せ王国の聖人率いる殲滅師団の異名を持つ者達が守ってくれるというのだから。
「帝国はおそらく最短のルートで主軍を移動させるだろうが、我が国と隣接する四つの地域全てから進軍するはずだ」
「そうですね。撹乱の意味も込めてそうするでしょうな」
軍服姿の老人は国王の考えに同調する。
「帝国の数は侮れんですな」
と、外務大臣は言葉を零す。
「人口でこうも差があると、こういった事で頭を悩ます」
と、今度は財務大臣が愚痴る。
「しかし国境をカバーできるだけの人員も物資も我が国は十二分に蓄えてあります」
と、愚痴なんか行っている場合ですか! と、遠回しにシャーリーは言う。
そして大臣一同は「そうですな」とシャーリーに応える。
「では、将軍。頼んだぞ」
「御意に」
かくして夜は明けた。
―謁見の間―
「返答を聞かせて貰おうか」
ジェリーはそう言って国王を見る。
「許可はしても構わぬ、条件付きでな」
「……条件とは?」
ジェリーは眉間にしわを寄せ、自分の予想とは異なる国王の言葉に疑問を感じていた。
「帝国領を我が国の自由裁量で頂戴したい」
「バカな事言ってんなよ」
ジェリーは明らかに態度を変え、殺気を周囲にばら撒きながら剣の柄を握る。
その光景を見ていた大臣は怒気を込めながら睨み、カイトら騎士は慌てた様子でジェリーを止めようとしているが、空しく一蹴りされた。
「いい度胸だな」
と、マリアが玉座の後ろから愛剣を握って姿を見せた。
若干、いや。大いに怒りの炎を燃やしながら。
「おや、おや。王国の聖人がご登場か~ 楽しめそうだね~」
最早戦闘狂の言葉だ。
まさに一触即発の状況だったが、謁見の間の扉が突然開いた。
「ね、姉様」
一番驚いたのはジェリーだった。
恐怖の対象が眼前に突然現れたのだから・
「やりすぎよ、ジェリー」
そう冷たい声色でアンは言う。
ジュエリーは肩を狭めて「ごめんなさい」と弱弱しい声で姉に謝る。
「妹が失礼を」
そう謝罪を述べて一礼する。
「構わんよ。用件はすでに伝えた。お引き取り願おうか」
「はい」
アンはジェリーを一睨みして場を去った。
―馬車内―
「それで、国王の返事は?」
「許可はするって、条件付きで」
「条件?」
「帝国領を王国の自由裁量で貰う。って」
ジェリーの言葉にアンは身を震わせた。
「まさかあの子の言う通りになるなんてね、これが才能というものかしら」
と、一人妹の恐ろしさを実感していた。
「という事は―――」
―王国・軍演習場―
今、首都付近に在中している軍全てをここに集め国王は壇上に立っていた。
「―――こうして我らは実に三十五年ぶりの戦を経験しようとしている。だが、諸君! 先人らも民の為にその命を駆けて戦ったのだ! 我らも今この時を生きる民の為、後に続く子らの為に剣を取ろうぞ! ―――」
『ウォォォォォォ!』
「「―――戦争の始まりだ」」
―予告―
第50話 開戦
帝国と王国はぶつかる。
その原因である教国が動くとき、世界はさらに加速する。
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