挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ボイスメモ 作者:ふしの
5/6

新規録音 5

 先ず初めに、あの紳士の名誉の為に云って置くと、こないだ殺された男は屑だった。個人的には殺されて当然だと思う。胸糞が悪くなるので詳しい事は述べないで置く。次に、自分がこうして声を吹き込むのも、これきりだろう。袋小路と云うやつで、まあ、順を追って話そうか。婆様の所へ行って件の話をして見ると、暫く神妙な顔をしてこっちを見詰めていたけれど、やがて古びた写真を六枚程出して見せて来た。皆子供の写ったものだったが、その内の二枚に見過ごせないものがあった。一枚はもるのお宅の息子さんで、もう一枚は、吃驚したよ。子供の頃の自分の写真だった。他人の空似どころじゃない、同じ写真が実家にある筈だからね。勿論この婆様は自分の祖母ではないよ。何の事やらさっぱりで、目を白黒させていると、不意に壁を引掻く様な音がした。例の部屋に接する壁からだったからね、ほとんど同じタイミングで、部屋の照明が、何と云ったら良いかな、消えた訳じゃないが、薄っすら暗くなった。物凄い気配がしたから婆様を見ると笑っていた。笑うのは良いが、人の目や口があんなに伸びる所を見た事がない。何か喋り出したけれど、ごろごろと云った音がするばかりで解らない。やがて口から血みたいなのが筋を引いたので、おやと思った途端に何かどろどろした黒いものが目や口からいきなり溢れ出した。それでもうそこに居られなくなって、外へ飛び出したんだ。そのままコンビニかどこかへ逃げれば良いものを、自分の部屋へ引返して来てしまってね。参ったよ。また外へ出ようかと思ってドアスコープを覗くと、案の定ドアの前に婆様が起っている。顔中の穴からどろどろの黒いのを垂らしながら笑っている。ベランダからずらかろうと思って振り返ると、掃出窓に外から何かへばりついている。磨り硝子だからはっきりと形が解った訳ではなかったが、確かに目が合った。それはごたごたに並んだ歯を剥き出して「ひひひ」と大声で笑った。角部屋だからね、明かり取りがある。開けるのはこわいから、突き破って出ようと考えた。そうしてリビングへ行って、助走をつけるつもりで壁に寄ったのが不味かった。いきなり後ろから組みつかれて、身動きが取れなくなったんだ。見ると壁から沢山の手が生えていた。万事休す。そう思うと却って気持ちが落ち着いて来てね、腕の自由は利いたから、こうして携帯を取り出して喋っている次第さ。本当の所は解らないが、恐らくこの後、自分は最初の晩に見たあのぎゅうぎゅう詰めの中に紛れてしまうんだろうね。ババアともるもグルで、下の人達は、どうなんだろう。解らない。今気がついたんだけれど、自分を羽交い締めにしている手のひとつに、知っている様なものがある。この指輪。変だね。どうして彼の手がこんな所にあるんだろうか。いや、もう考えるのは止そう。何度も引越す切っかけはあったし、時間もあった。それでも居座り続けた自分が悪いんだろう。いや、こんな事今更考えても仕方ない。この録音がどこかに残ってくれれば良いんだけれど。いや、ちょっと待て。やっぱりどう考えても、こんな追込み漁みたいな事やってるこいつらが悪いよね。何でも自分の所為にしたがるのが昔からの悪い癖、(ここで音声は途切れている。)
2014
http://ncode.syosetu.com/N2890CF/

2015
http://ncode.syosetu.com/N6313CU/
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ