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ボイスメモ 作者:ふしの
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新規録音 4

 こうなると残る住人はひとりだから、いっそ押しかけてでもご挨拶を済ませてしまおうと云ったつもりになっていた。そうそう、そう云えばこないだ、不動産屋に訊いて来たよ。個人情報のコンプラ周りがすこぶる杜撰で助かった。お隣さんはあれ以来訪ねていないが、やっぱり時々壁を引掻いているから、元気でやっているんだろうと思う。で、肝心の持主なんだが、これが二軒隣の婆様の名義でね、そうすると婆様はあの棟の二部屋を借りている事になる。二十年も前から。何だかよく解らない。今度行って訊いて見ようと思うけれども、今はそれどころではないので計画は延び延びになっている。何があったかと云うと、さっき云った残りの住人だね、彼が殺された。それで警察やらマスコミやらがひっきりなしでてんやわんやだよ。中年の男で、年中引き篭もりをやっていたらしい。問題は殺した側で、これが同じ棟の人間だった。尚且つ殺された男の隣の部屋に住んでいた者、つまりあの晩コインランドリーで出会った紳士だった訳だ。月並だけれどね、そんな事する様な人には見えなかったと答えるしかなかった。聞く所によると、殺された方はどうやら脛に傷持つ様な人間で、逮捕歴もあるらしい。随分物騒な人と同じ屋根の下で暮らしていたものだと思うが、あの紳士がシリアルキラーでなければ、もしかすると何かの因縁があったのかも知れない。この辺りは警察やマスコミ様方がいずれ解き明かしてくれるだろうから、気長に待つ事にする。そう云えば、この騒ぎの折にもるのお宅のご夫婦と初めて話をした。やっぱり落ち着いた頃合いにここを出て行く事にしていると云う。そうした方が良いと思うので特に何も云う事はないが、これで新しい人が入って来る筈もなく、階下はがらんどうになってしまうんだろうね。お子さんも居たからもるは元気か訊いて見た所、近頃はいつも笑っていると云う。その割には午間の大笑いがあまり聞こえて来なくなっているので、もしかするとあれは癇癪か何かだったのかも知れない。しかし、殺してしまうぐらいなら、一度相談に来てくれても良かったのにと思っているよ。短い付き合いだけれど、こっちは勝手に向こうの事を友人だと思い出していたからね。彼のお宅で一盞傾けた晩の事をよく覚えている。仏壇の遺影に向いた眼差しを、あの優しい目をした人が誰かを殺すと云うのが、自分にはどうしても信じられないんだ。
2014
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