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ボイスメモ 作者:ふしの
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新規録音 3

 梅雨に入って、ここの所雨が降り続いてばかりいる。外に出て見ると、夜中でも紫陽花の色が点々と咲いてそれはきれいだった。洗濯物も随分溜まったし、コインランドリーが近くにあるのは知っていたけれど、行った事はなかったからね、纏めて片づけてしまおうと思い立った。お客は居らず、洗濯物のぐるぐると回るのをひとりでぼんやり眺めていると、不意に男が入って来た。何となく見覚えのある紳士だねと思っていると、向こうもこっちを見ているものだから、今晩はと声をかけた。すると裏野の方ですかと云うから、こないだ越して来たんですと返した。話して見ると紳士も同じ棟の人で、会社勤めを永い事続けているが、奥さんに先立たれ、お子さんも居ないので持ち家を手放し、ひとりで静かに暮らしていると云う。いつもベランダで煙草を吸っているでしょうと云われて何だか照れくさくなった。初めてまともな人に出会ったと云うと、もるの所のご家族には申し訳が立たないが、こっちに来てから立て続けに変な事ばかり起こっていたから、正直かなり気が滅入っていた。ほっとした気持ちを否定は出来ない。どうやら彼は先に放り込んで置いた洗濯物の具合を見に来たらしく、もう乾燥まで済んでいたから、それらを取り込むとそれじゃお先にと云って出て行った。ひとかどの立派な企業人の佇まいで、独り身の悲壮の様なものは感じられなかった。こんなにスマートにコインランドリーを使う人間を初めて見たよ。尊敬の眼差しを以ってお見送りしようと、自分も出入り口まで行って外を見ると、もう随分向こうを歩いている。外灯の薄明かりに、雨の粒と紳士の差した傘の色が浮かんでいる。しかし傘の下の人影が二人分に見えるので、もしかするとアモーレを待たせていたのかも知れない。やっぱり出来る男は違うね。それから何度かお宅へお邪魔した事もあったが、女気と云うものがまるでないので不思議な気持ちがした。いつだったか、とうとうアモーレについて話を切り出したんだけれどね、あの日の晩に見た影の事と、折角だし紹介してくれませんかって。すると紳士は少しばかり愛想を作って、恐らく妻でしょうと応えて薬指に光るものを触った。それがどうした意味か、ちょっと解らなかったけれど、紳士の見る先を追いかけると仏壇があり、奥さんだろうと思われる人の遺影が飾ってあった。勿論、きれいな人だったよ。
2014
http://ncode.syosetu.com/N2890CF/

2015
http://ncode.syosetu.com/N6313CU/
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