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駆除人 作者:花黒子

~土の勇者と戯れる駆除業者~

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85話


 空は清々しいほどに青く、澄み切っていた。
 荒れ地の風を全身で感じながら、俺は立ち上がった。

 通信袋でアイルを呼び、折れた腕をまっすぐに伸ばし、回復薬をかける。
 腕を伸ばす際に激痛が走ったが、なんとか耐えた。
 何より自分が作った回復薬によって、ものの数秒で骨折が治ってしまったことに改めて驚いた。そういえば、あまり自分で使ったことはなかった。
 アイルに身体を持ち上げてもらい、足を地面から引っこ抜く。
 引っこ抜く際、アイルの馬鹿力によって、五メートルほど後方にふっとんだが、なんとか耐えた。
 俺は軽く、アイルにお礼を言って、防風林の森へと駆け込んだ。
 走りながら、ツナギのジッパーを下ろす。
このツナギという作業着には、唯一の弱点がある。
脱ぎづらいのだ。
俺は走りながら、ツナギを脱ぐという荒業に出た。
焦り、後悔、愚鈍、不器用、など精神的な攻撃を受けたが、なんとか耐えた。
結果的に、インナーに着ていたTシャツやハーフパンツなども脱げてしまったが、そんなことはどうでもいい。
勢いがつきすぎて、防風林の森を抜け、荒れ地まで来てしまったが、それもどうでもいい。
俺は最大級の解放感の中、耐えてきた全てのものを解放した。

「風が気持ち良いな」
 勝者の言葉である。
 俺は耐え切ってみせたのだ。
 文字通り、男裸一貫、荒野に立つ。

 後処理を済ませ、全身にクリーナップをかける。
クリーナップがあれば、お尻を拭かなくてもいいことに気がついたのは僥倖である。
胸を張って、防風林の森へと入っていく。
森の中に落ちている衣類を拾って、クリーナップをかけ、着ていった。

焼けた農園に戻ると、アイルがガルシアさんを背負って待っていた。

「どうだ?」
「大したことなかったよ」
 俺は勝者の余裕を見せた。
「両腕折られておいて、何言ってんの?」
「あ、そっちか。アイル、精霊は強いぞ。防御結界の魔法陣を簡単に破壊してくるんだ」
「そ、そうか」
「正直、死んだと思ったね」
「私も死んだと思ったけど、途中で出てきた、あの黒い影はいったいなんだ?」
 黒い影?ああ、邪神か。
 そういえば、神が人によって見え方が違うと言っていたが、邪神もそうなのか。
「あれも依頼主だ。今回は助けられたなぁ。竜たちは?」
「向こうで畑を焼いている」
 アイルが指差した方を見ると、すっかり丘がなくなり、遠くで竜たちが炎のブレスで農園を焼いていた。
「回復薬、渡しておいたほうがいいんじゃないか?」
 竜たちも精霊と戦ってくれていた。
「そうだな」
「あ、あとこれ」
 アイルは手に持っていた水晶のような物を俺に見せた。
 水晶のような物は立方体で、淡い黄色の光を放っている。
「なにこれ?」
「いや、あの化物…精霊がいた場所に落ちていたんだ。なんかヤバそうだったから、拾っておいた」
「確かにヤバそうだ」
 俺はアイルから受け取ると、アイテム袋の奥深くに仕舞った。

 アイルはそのままガルシアさんを村へと運んでいった。
 俺は竜たちに回復薬を届ける。
「おう、もうほとんど焼いたぞ」
 レッドドラゴンが、近づいてきた俺に竜人語で言った。
「ありがとうございます!すみませんね、飯食べてる時に呼び出しちゃって」
「ああ、気にすることはない。我輩たちは恩に報いただけだ。しかし、あのゴーレムはいったいなんだ?」
竜たちは見てはいたが、よくはわかっていなかったらしい。
とにかく俺が襲われているので、助けてくれたのだという。
 俺は黒竜さんとレッドドラゴンに、精霊が怒ってゴーレムになったことと悪魔化したこと、邪神が助けてくれたことを説明した。
「よく生き残ったものだ」
 黒竜さんは俺に向かって言った。
「運が良かっただけですよ」
「我々も太刀打ち出来ない精霊と戦って生き残るのだから、運だけではあるまい」
「準備はしましたが、予定通りにはならなくて。精霊には完敗です」
「それが神からの依頼なのだろう」
「そうなんですよ!全くこんなめんどくさいことを。あとで文句言ってやろう」
「お主は依頼を達成したのだ。胸を張っていい。生き残った者が勝者だ。死ねば勝敗など関係ないからな」
「そういうもんですかね。あ、怪我あったら見せてください。治しますから」
 俺は竜たちの傷に回復薬をかけて治した。
 竜たちは「もうちょっと焼いたら、飯を食べに一回山に戻る」と言って、再び残った綿畑を焼き始めた。
「後で、人化して村に来てください。事後処理でまた手を借りるかもしれないので」
「わかった」
「すみません。迷惑かけます」
「気にするな」
 竜たちは尻尾で軽く俺の背中を叩いて、作業に戻った。


 村に戻るとグール病の症状の軽かった行商人たちが荷物をまとめて走り回っていた。
 単純に竜から逃げようとしているのか。それとも農園が焼かれて、ここには用はないということだろうか。
 荷物を減らすためか、村人に靴や服を売りつけている者までいる。
商魂たくましいことだ。

 村の真ん中を通る川の水が徐々に少なくなってきた。
 セスが上流で仕事をしているようだ。
 村人はそれを呆然として見ていた。

 ただ、ほとんどの村人と行商人は教会に集まっているようだ。
 勇者であるガルシアさんが教会に運び込まれたからだ。
 すでに勇者の称号はないガルシアさんだが、それを知っているのはうちの社員くらいだろう。

 それにしても朝飯食べてないから腹減ってきたなぁ。
「おつかれさん」
 俺は教会から出てきたアイルに言った。
「ああ、ガルシアさんはシスターたちに任せてきた。直に目を覚ますだろう」
「ベルサは?中にいなかった?」
「いなかったよ」
「そうか。腹減らない?俺、朝飯食べてないんだよね」
「ああ、それは私たちもだ」
「じゃあ、一旦飯にしよう」
 俺は通信袋でベルサを呼び出す。
「ベルサ、今どこ?」
『ん?ああ、今、ロメオ牧師の部屋。水の魔力が込められた魔石があったほうがダウジングしやすいかと思って』
 そんな魔石があるのか。
 それにしても、うちの社員は仕事が早い。
「一旦、飯にしないか?朝飯食い損ねてるんだ」
『OK』
 通信袋を切り、セスを呼び出す。
「どうだ?セス」
『あ、社長。岩で水路の方を塞いだんですけど、細かい石とかがないと完全には止められそうにないですね』
「わかった。とりあえず、飯にするから宿に戻ってこいよ」
『OKっす!』
 通信袋を切り、今度はメルモを呼び出す。
「メルモ、今どこ?」
『社長!今、ガルシアさんの家の倉庫です。グスッグスッ』
 泣いているのか。
「何泣いてんだ?」
『シンシアさんて娘さんと、ガルシアさんの奥さんが感動の対面をしていて、グスッ』
 シンシアはそっちにいたか。
「宿で飯にしよう。シンシアには……後で持ってくか。メルモだけでも戻ってこいよ。親子だけにしておいたほうがいいかもしれない」
『わかりました』
 メルモの声が震えていた。
 シンシアはどうするかなぁ。
「ま、本人に決めさせればいいか?」
「ん?」
 俺の独り言に副社長が反応した。


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