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駆除人 作者:花黒子

~土の勇者と戯れる駆除業者~

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82/250

82話

翌朝日の出とともに、起きだした。
シンシアは逃げ出さず、俺が起きた時のために井戸で顔を洗うための布を用意してくれていた。
顔を洗って、飯も食べずにマーガレット宅へと向かう。
町の出口の方に向かわない俺に、シンシアは文句を言わずについてきた。

門を開けると、ばぁやがちょうど外を掃いているところだった。
「おはようございます」
と、声をかける。
「おはようございます。早いのね、ナオキさんは」
「ええ、竜たち起きてますか?」
「裏庭でまだ寝ています。良かったら朝のお茶でもいかが?」
「嬉しいのですが、できれば急ぎたくて」
 ノームフィールドでの治療がうまく言ってないことを聞いたので、できるだけ早くシンシアを連れて行きたい。
「わかりました。朝食とお弁当詰めてくるわ。裏庭に回って」
 ばぁやは、屋敷の中に入っていった。
「ありがとうございます」
 そう言って、俺は裏に回る。
「竜って?」
 シンシアが俺に聞く。
「竜だよ」
 俺が答えても、シンシアは疑った顔をした。
 竜が出れば、普通は町中大騒ぎになるのかもしれない。
「まぁ、見ればわかる」
 そう言って、屋敷の裏手に回った。

 大きな鼾をかいて眠っている竜たちに、シンシアは目を丸くして驚いて固まってしまった。
 レッドドラゴンも黒竜さんも、屋敷の半分くらいの大きさだ。
「大丈夫だよ、取って食うわけじゃない」
 俺は竜に近づきながら、シンシアに言った。
 シンシアは恐る恐る俺の後ろをついてきた。
「おはよう、レッドドラゴン」
「……ブゥオオオオ、スピー」
 起きないようなので、鼻の頭をデコピンする。
「いてっ!おおっナオキ。おはよう」
 レッドドラゴンは鼻の頭を押さえながら、起きた。
「黒竜さんも起きてください」
 俺はそう言って、黒竜さんのまぶたを持ち上げた。
「おう、おはよう!朝か。随分寝心地の良い芝生であった。むわぁ…ぐぁああああああっ!!!!」
 特大のあくびが周囲一帯に鳴り響いた。
 俺もシンシアも手で耳を塞いだ。
「よく寝た」
「クリーナップかけますか?」
「ああ、頼む」

 俺が竜二人にクリーナップをかけてあげていると、マーガレットさんがテラスに出てきて、竜たちと挨拶を交わした。
「昨夜は久しぶりの良い宴でした。またいらしてくださいね」
 すぐに発つと聞いて、マーガレットさんが俺と竜たちに言ってくれる。
 ばぁやが大樽に入れたお弁当と、朝食を三つ用意してくれて、転がして持ってきてくれた。
「持てるかしらね?」
とばぁやは心配しているようだが、アイテム袋に入れてしまえばいい。
「シンシア、マーガレットさんと、ばぁやさんだ。ご挨拶して」
「昨夜、ナオキ様に奴隷から解放していただきましたシンシアと申します。土の勇者の村ノームフィールド出身の元奴隷でございます」
「これはこれは、どうも、朝早くから大変ね」
などと、女性たちがやり取りをしている隙に、大樽をアイテム袋に突っ込んだ。
「あれ?大樽は?」
「あ、持ちました。大丈夫です。さあ、行きますよ」
 ばぁやが大樽を探しているうちに、とっとと出発してしまおう。
 マーガレットさんは気づいていたのか、アイテム袋をじっと見ていた。

「おおっ!もう行くのか?我輩、まだ朝食を食べてないが…」
 黒竜さんが俺に言う。
「大丈夫です。黒竜さんの朝食は俺が持ちました。その前にちょっとひとっ飛びしてください」
「朝食を持ったのなら、心配ない。さぁ、行くぞ」
 バサッと翼を広げた黒竜さんの大きさは、屋敷とほぼ同じくらいの長さがあった。
 こんなに大きかったかなぁ。見る場所によって印象は変わるものだ。
「さあ、乗るが良い。娘さんは我輩に、ナオキ殿はレッドドラゴンに」
 年長者の特権を生かして、黒竜さんがシンシアを乗せるようだ。
 レッドドラゴンは一瞬、そんなぁ、と言う顔をしたが、さぁ乗れ!というように俺を背中に乗せてくれた。
「それではお嬢様方、しばしのお別れだ。また良き宴をしよう!さらばだ」
 黒竜さんはマーガレットたちに言って、飛び立った。
 レッドドラゴンも飛び上がったが、昨夜のお酒が抜けてないのか、なんとも頼りない。
「飲み過ぎたのか?」
「ああ、すまん。飛んでいるうちに酒は抜ける」
 俺はフラフラと揺れる背に乗って、屋敷のテラスから手を降っているマーガレットさんとばぁやに手を振り返した。
 上から見るフロウラのキレイな町並みを、すぐに通り過ぎ森の上を飛ぶ。

 早くも黒竜さんに距離を離されつつあるので、俺はアイテム袋から、木の板を取り出し、風魔法の魔法陣を描く。
「レッドドラゴン、もうちょっとスピードを出そう。黒竜さんに追いつかないと。レッドドラゴンは飛ぶことに集中してくれ」
「なんだ?何をやる気だ?」
 俺は後方に向けて板を抱え、魔力を流した。
 突風が板から飛び出す。
 信じられない推進力で、一気にシンシアと喋っている黒竜さんを追い抜く。
「ワハハハハ、なんだこれは?」
「とにかく北東に向かってくれ」
「わかった、ワハハハ」
 レッドドラゴンは黒竜さんに先行して飛んだ。

 突風の板は「ずるい」という黒竜さんの抗議により、黒竜さんにも渡した。
 飛んでいる間にレッドドラゴンに、勇者の農園を焼いてくれるよう頼む。
「嫌な仕事を押し付けて申し訳ない」
「なんの、竜種は恐れられて当然だ。勇者たちの出現で、畏怖の対象で無くなりつつある。勇者の農園を焼くなど、願ってもないこと」
「まぁ、俺が通信袋で合図するから、そしたら農園に来て暴れてくれ」
「うむ、わかった」
 1時間ほど飛ぶと、砂漠の東にある山を越えた。
アデル湖の側にある猫族の村では漁に出ていた船が戻ってくる時分らしい。
 湖を越え、荒れ地まで辿り着くと、風が強くなった。
「ぬおっ!厳しいな」
 砂が舞い、目も開けづらい。
 ここからはおぶっていくか。
「レッドドラゴン、ここからは降りて地上を行く」
「そうか。わかった」
 レッドドラゴンに降ろしてもらい、朝食と弁当の大樽をアイテム袋から取り出す。
 黒竜さんもシンシアを地上に降ろす。
「悪いけど、山かどこかに隠れておいてもらえますか。勇者の村はこの先なんだ」
 風が強い中、地図を広げて、黒竜さんとレッドドラゴンに位置を説明する。
「了解した」

 竜二人は、空高くに飛び上がり一度旋回すると、湖の方に飛んでいった。
「ここから走る。背中に乗ってくれ」
「はい」
 この時、なぜか俺はラッキースケベのことなど頭に無く、後悔した。
 ひたすらに走った。
 魔物に遭遇することもなく走ることが出来たのは、竜の匂いがついていたからかもしれない。
 走り続けていると、防風林の森が見え、一気に加速した。
 森の中の道は走りやすく、朝だったためか、歩いている行商人もいなかった。
 村が見えてきた時、砂埃が舞っているのが見えた。
 防風林はあるものの、農園が丘になっているため、砂が飛んでくるのだ。
 農園の砂の中には魔石が含まれているので、シンシアに布で口をふさぐよう言って、俺も顔を洗う布を顔に巻いた。
 村に近づくと砂埃に混じって赤い煙が見えた。
火事ではない。あの色は燻煙式の吸魔剤か。

『すまん!ナオキ!ロメオ牧師がグールに!』
 ベルサの声が通信袋から響いた。
 背中にいるシンシアの腕に力が入る。
 俺は探知スキルを広範囲に展開し、状況を探る。
「了解!今どこだ?」
『ガルシアさんの家の倉庫だ。最も危険なのはガルシアさんの家族だって言って、説得してたんだけど。倉庫に子どもと奥さんがいると聞いた、ロメオ牧師が急に苦しみだして、倉庫に吸魔剤を投げ込んだ』
「アイルはそこにいないのか?」
『いるよ!今、回復薬を出しているところだ!ロメオ牧師はガルシアさんが追ってった!』
 アイルの怒気を含んだ声がする。
『あ~くそっ!なんで気づかなかったんだ!』
「反省は後だ!必ず、子どもたちと奥さんを救え!俺もすぐ近くまで来ている。よし、捉えた!」
 ようやく探知スキルで、グールになったロメオ牧師とガルシアさんらしき光を見つけた。
「シンシア、しっかり掴まってろ!」
 全速力で光を追いかける。
 なりふり構わず、建物を飛び越え、最短距離を進む。
 探知スキルで見るとグールと化したロメオ牧師は赤く、ガルシアさんは青く光っている。
 徐々にロメオ牧師にガルシアさんが追いつき、村はずれで追いつめられる。
 間に合え!間に合え!間に合え!
 探知スキルの赤い光と青い光が交差する時、ようやく現場に着いた。

「ぐふっ!」

 ガルシアさんのサーベルは深々と、ロメオ牧師の胸に突き刺さっていた。
 一瞬固まった俺の背中から、シンシアが離れるのがわかった。

「ロメオーーー……!!!」

 キーーーーーーーーン

 シンシアの叫びが、急に聞こえなくなり、その代わりに耳鳴りがした。
 時間のスピードがゆっくりになった気がして、自分の動きが誰かに阻害されているかのように、思ったように動かなかった。
 それでも、俺はグールとなったロメオ牧師に近づいた。
 グール化してから、吸魔剤の治療をして治るかどうかはわからないが、とにかくこの時の俺は、ロメオ牧師を死なせたくなかったし、ガルシアさんにこれ以上誰も殺してほしくなかった。
 だから、あんなことをしたんだと思う。

 俺はロメオ牧師の身体から、サーベルを抜き、傷口に手を突っ込んで、中にある割れた魔石を掴んで捨て、アイテム袋から回復薬を取り出して、ロメオ牧師にかけた。
 後遺症?
今はそんなことよりも、命が拾えるかどうかだ。
傷口は塞がり、眉間のシワもなくなり、青かった血色が、少し回復して白くなった気がする。
俺は、アイテム袋から、最高品質の回復薬を取り出し、ロメオ牧師にかけ続けた。

 シンシアが顔に巻いた布を外して、ロメオ牧師に駆け寄る。
 ロメオ牧師は少しだけ微笑んで、視線を俺に向け、
「ノ…ト……」
と、口を動かした。
「ノト?ノートか!?わかった!ノートを見れば良いんだな。見る、見るよ!」
 ロメオ牧師は微笑んだまま、シンシアに視線を移し、首の力を失い、空を見上げた。
 まばゆい太陽の光を見つめるロメオ牧師の瞳には、すでに生気がなかった。

風が強い日だった。
グール病治療の第一人者は、荒れ地の村の村はずれで逝った。


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