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駆除人 作者:花黒子

~駆除業者の日常~

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6話

 衛兵に教えてもらった通りに行くと、確かに墓地の近くに蔦が絡みついた屋敷があった。
 門には鍵がかかっていたが、押せば簡単に開いてしまった。
「ごめんくださーい…」
 足音を忍ばせて、門から入ると、ガーデニングしていたであろう庭には花が咲き乱れ、雑草が伸び放題で、ほとんど人の手が入っていないように見えた。
 ただ、屋敷のドアまで続く道には丈の低い雑草が生えており、最近まで使われていた形跡がある。
 庭の一角にはハーブ系や薬草系の植物が生えており、あまりにも群生し、屋敷の窓の近くまで伸びていた。
 窓から屋敷を覗くと、中は台所で、屋根と壁が崩れ、陽の光がダイレクトに差し込んでいる。
 せっかくなので、薬草やハーブを失敬し、台所で適当な薬を作ってみることにした。
 この家の家主だった人間が何を作ろうとしていたのか気になったのだ。

 傾くドアを開け、台所に入る。
 中はハーブが壁や木の床から生えていた。
 ところどころ床が抜けているので気をつけなくてはいけない。
 釜の前の床が石造りだったので、そこに魔法陣を描くことにする。
 生活魔法で飲料水を出し、魔法石の粉と混ぜあわせ、魔法陣を描いていく。
幾何学模様の円陣を組み合わせ、その辺にあった枝を円の真ん中に置くと、一瞬にして枝が消え、魔法陣が熱くなっていくのがわかった。
即席IHである。
クリーナップできれいにした鍋にハーブや薬草を入れ、煮込む。
材料的に毒や麻痺の予防に使えそうだったが、それ以上は望めそうにない。
家主はいったい何から身を守っていたのか。

その時、屋敷の上の方で羽虫が飛ぶような音がした。
俺はそこでようやく、探知スキルを使い、この屋敷の全貌を知ることになった。
全3階建てのこの屋敷の2階から3階にかけて、完全に蜂の巣になっていることがわかった。
しかも特大の蜂で、一匹が中型犬ほどもある。
3階の奥の部屋には、牛ほどの女王蜂が鎮座している。
さらに、この屋敷には地下室があり、3人の人間か亜人種がいることがわかった。

すぐに魔法陣を消し、鍋を放置した。
外には特大のスズメバチが飛び回り始めている。
あの蜂がどのくらいの強さなのか、どんな毒を持っているのかわからないが、地下室にいる人達は生きているのだから、対抗策を知っているかもしれない。
台所から、玄関を突っ切り、食堂の前の廊下を進み、階段脇から地下室に進む。
その間、蜂の羽音と上の階からの警戒を怠らず、音を出来るだけ立てずに走っていく。
地下室のドアを開けると、ほぼ真っ暗だったのでライトを点ける。
足元を照らしながら、階段を降り、ドアを開ける。
鍵がかかっていたようだが、簡単に開いてしまった。
地下室には鉄格子の牢があり、中に2人の獣人がいた。
一人は爬虫類系で、首筋に鱗がある若い女の獣人で、もう片方は年老いた犬の獣人だ。
2人はこちらを窺っている。
牢の前には人間の男が筵を敷いて寝ていた。
「やっと…交代の時間か…」
 憔悴しきったような痩せた男が、ムクリと起き上がった。
「お前!誰だ?」
 俺を見た男が、ナイフを取り出し俺につきつける。
「あ、いや、あのー。上の蜂の魔物の対処法が知りたいだけなんですけど…」
「お前、どうやって鍵を開けた?何なんだお前は!?」
「なんだって言われると、害虫駆除の者なんですけど…」
「はぁ!?何言ってやがる!!」
男は錯乱状態のように、ナイフを振り回して威圧してくる。
 ただ、痩せている上に弱っているのか、動きが緩慢というかヨレヨレで、迫力はない。
「うぉおおおらぁあああ!」
男がナイフで腕を切りつけてきたが、皮膚も通らずにナイフを持った手を離してしまった。
カランと地面にナイフが落ちたのを、じっと見つめていた男がこちらを見て、わなわな震えたかと思ったら、脇をすり抜けて逃げ出していった。
叫びながら、階段を登っていった先で蜂の魔物と遭遇したようで、一瞬叫び声を上げたと思ったら、探知スキルの青い点が消えた。

とりあえず、蜂に見つかるとヤバいので入口のドアに魔法陣を描き、外からの侵入者に風の暴風を浴びせるように罠を張っておいた。
実際にその後、何度か罠が発動した。魔法陣が青白く光り、風の音がドアの向こう側の赤い点が吹き飛んでいく様子が探知スキルによって見えた。

鉄格子の中で怯えている2人を落ち着かせ、鉄格子のドアを開けた。
蝶番がはめ込み式だったため、持ち上げれば難なく開いたのだ。
これはレベルが上って腕力の数値が高くなったおかげかもしれない。

2人に話を聞くと、2人は奴隷でこの場所は隠れて人身売買をするための場所だということがわかった。
しばらく食事を与えられていなかったため、2人ともうまく力が入らないらしい。
生活魔法で飲料水を出し、2人に与え、蜂の魔物について聞いた。
あの蜂はベスパホネットという名の魔物でお尻の針で刺されると全身に毒が回り、麻痺するのだという。
麻痺させた獲物を屈強な顎で噛み砕くというのだから恐ろしい。
対抗策はないか聞いたが、知らないらしい。
牢の前にいた男も雇われだったらしく、奴隷商はまた別にいるが、ここ最近は姿を見せていないのだとか。
「見放されたのだと思う」
年老いた犬の獣人が言った。
「誰もこんな老いた獣人や呪われた獣人は欲しがりませんから」
そう言って、手の平の皺を見つめながら背を丸めていた。
「呪われたっていうのは?」
「私はゲッコー族の生き残りです…」
 ゲッコー族というのはヤモリの獣人だそうで、壁や天井に張り付くことが出来るらしく、長年、国同士の争いでは諜報活動をすることに適していたのだという。
 ただし、裏切りもしやすく、疑われた挙句に一族が全員奴隷落ちしたらしい。
「私は鑑定スキルを持っていたため、奴隷でも優遇されていたのですが、真実を見るということは必ずしも良い方に働かず…」
 彼女の主人の敵から、殺されかけ徐々に石化していく魔法をかけられたのだと、固まってしまった肩や腕を見せてくれた。
 確か、石化は鍼治療で治るはずなので、それを教えてやると涙を流して喜んでいたが、治療費がないと黙ってしまった。
 まぁ、石化の方はカミーラにでも聞いて、鍼治療をするとして、とりあえず、外に出ることにする。
 唯一の入り口にはベスパホネットが群がっているので、穴を掘って別の場所から出よう、と言うと、2人は「何言ってるんだこの人!?」の顔でこちらを見ていた。
 この地下室の真上は台所で、先ほど俺が予防薬を作っていた場所だ。
 予防薬はベスパホネットにも効いたのか、そこに近づく魔物はいなかった。
 魔法陣で土の台を作り、天井に魔法陣を描いて穴を開けると、なんなく台所に出ることができた。
 鍋の中の予防薬をお互いにかけ合い、こっそり屋敷の敷地外へと出ることができた。

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