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駆除人 作者:花黒子

~旅する駆除業者~

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25話

「良かったのですか?あんなにお金を渡して」
 ギルドに戻る途中、テルが聞いてきた。
「大丈夫だろ。悪い人じゃなさそうだったし」
「ナオキ様はああいうのがタイプなんですね」
 テルが悔しそうに、空を見ていた。
 テルは金貨20枚で売られたので、今日あったばかりのベルサに金貨50枚も出したのが、気に入らないのかもしれない。
「俺は、価値のある人にしか金は払わないよ。今ならテルに金貨100枚払ったって惜しくないね」
 そう言うと、テルはそっぽを向いてしまった。
 機嫌を悪くさせてしまったか、と思ったが、足取りは軽かったので意外に喜んでいるのかもしれない。


 ギルドで俺は掲示板の依頼書を見ている。
 ベルサに有り金を渡してしまったので、今日の宿代を稼がなくてはいけない。
 Fランク冒険者の依頼はあまり報酬が高くなく、テルに「早くランクを上げてください」と言われてしまった。
 ちょうど良く造船所の清掃とマスマスカル(ネズミの魔物)駆除の仕事があったので、それに決めた。

 造船所に行くと、耳に心地良い金槌の音が聞こえてきた。
 造船所はレンガ造りの巨大な倉庫のような建物で、海に面した場所にある。
 扉が少しだけ開いており、休憩中の工員が建物の外で煙草を吸って駄弁っていた。
「冒険者ギルドから来たものですが、清掃と駆除に来ました」
「おお、入ってくれ。おい!冒険者の人が来たぞ!!誰か所長呼んでくれ!」
 工員の1人が造船所の中に向かって叫んだ。
 茶色の作業着を着た工員達は、俺のツナギ姿を見て「いい服だな」と感心していた。

 造船所の中では、大きな帆船が作られていた。
 帆船の周りに丸太の足場が組まれ、天井からクレーンが吊るされている。
 天井に近い壁に窓があり、陽の光が造船所全体に差し込んでいる。
 俺とテルが入り口で待っていると、ひげを生やした日焼けした中年の男がこちらにやってきた。
「所長のボロックだ」
「冒険者のナオキです。こっちは助手のテルです」
 ボロックが差し出してきた手を握りシェイクハンドしてから、テルを紹介した。
 ボロックはテルをしばらく呆然として見ていた。
「なにか?」
 テルがボロックに聞くと、「あ、いや。なんでもない」と頭を掻いて、事務所に案内してくれた。
 造船所の端に事務所があり、棚やテーブルに工具や設計図等が雑然と置かれていた。
「とりあえず、事務所の掃除とマスマスカルの駆除を頼む」
 そう言って、造船所の見取り図を見せてくれた。
「駆除は別棟もあるから、そっちの方を先にやってくれるか?」
「了解です」
「何か質問は?」
「食事をする時はどこで?」
 テルが聞いた。
「ほとんど街の料理屋に行く。一応別棟に食堂と台所もあるが、今は誰も使っていない」
「別棟は何に使ってるんですか?」
 俺がボロックに尋ねた。
「若い工員の寮になっているんだが、マスマスカルが出てから調子悪くなるやつも出てきて、あんたらを呼んだんだ」
「そうですか。じゃ、早速作業に取り掛かります」
「何かあれば、工員の誰かに聞いてくれ」
「はい」
 ボロックが事務所から出て行って、テルと軽く打ち合わせをする。
 とりあえず、俺が別棟の掃除と駆除を行い、テルは事務所を片付けてもらうことにした。
 昼飯を食べていなかったので先に食べようかと思ったが、別棟の食堂と台所が片付いてからにしようということになった。
 1時間ほど経ったら、テルを迎えに行くことにして、俺は別棟に向かった。
 別棟は造船所と同じくらいの大きさで、3階建てのアパートのような作りになっていた。
探知スキルで別棟に相当な量のマスマスカルがいることがわかる。
食堂と台所は本当に使われていないらしく、ホコリが積もっていた。
 クリーナップで一瞬にして、ホコリを払い、部屋の隅に罠を仕掛ける。
 台所も使われなくなった汚れた鍋やフライパンが積まれ、食器のほとんどが欠けていた。大きめの桶を洗い、食器や鍋を入れる。
 桶の中に魔法陣を描き、熱い豪雨を降らせれば、自動食器洗い機になった。
 クリーナップでは取れなかった汚れも、これで綺麗になっていった。
 台所にはマスマスカルやバグローチが入ってこないように魔物が嫌がる匂いを散布した。
 ロビーや階段にクリーナップをかけ、罠を仕掛けていたら、すぐに1時間が経ち、テルを迎えに行く。

 テルはすでに事務所の片付けの大半を終え、箒で中を掃いていた。
 俺が事務所にクリーナップをかけ、2人で遅めの昼飯を摂ることにする。
 別棟の台所でテルが、アイテム袋に残っていた野菜でスープを作り、旅の間アイルが狩っていたフィールドボアの肉を焼いた。
 匂いに釣られたのかボロックがやってきて、綺麗になった台所と食堂に驚いていた。
 テルが作った料理を物欲しそうに見ていたので、「食べますか?」と聞くと
「いいのか!ちょっと待ってくれ、パンを買ってくるから」
と、すっ飛んでいった。
 テルが、あまり欠けていない食器に料理を盛り付けていると、ボロックが大きな固いパンを3つも買ってきた。

「うまい!こんな美味しい料理は食べたことがない!」
 ボロックはテルの料理を絶賛していた。
 テルは照れているのか、黙々と食べていた。

 食事を終え、食器の片付けをテルに任せ、別棟の上の階から清掃し、罠を仕掛けていく。
 体調不良の工員の部屋はノックして入り、クリーナップの後、ベッドに横になっている工員に回復薬を少しふりかけておいた。
 3階の部屋がひと通り終わったところで、テルがこちらを手伝いに来た。
 2階は誰も居なかったので、全ての部屋のドアを開け、一気にクリーナップをかける。
 廊下の両側に部屋があるので、俺とテルは片方ずつ担当し、罠を仕掛けていった。
 1階には食堂や台所の他に、風呂もあり、そこも使われていなかったので、ついでに掃除する。
 探知スキルを使うと、風呂の下にマスマスカルの巣があったので念入りに掃除し、ヒビ割れた壁の隙間にノズルをツッコんで、殺鼠剤(殺鼠団子を水で溶かしたもの)を噴射した。
 食堂に行くとすでに何匹か罠にかかっていたので、生かしたまま尻尾を切って袋に詰めた。
 そういや、ベルサの研究でマスマスカルとか使うのかもしれないなと思い、袋の中にクリーナップをかけておいた。

「今日はこの辺で帰ります。明日、仕掛けた罠を回収して、生き残ったのを駆除していきますので…」
 俺は造船所の事務所でボロックにそう言うと、ボロックは寂しそうな顔をした。
「そうか…でも、明日来るんだもんな!な!ならいいか!」
 テルの料理が忘れられないのか、テルの方をしきりにチラ見している。
 テルはテルで顔を赤くしている。
まさか、中年の恋か?
「もし良かったら、テルは夕食を作ってあげれば?体調不良の工員さんが起きてきたら、なんか食べるものがあったほうがいいでしょ」
「しかし、ナオキ様の夕食が…」
「おおっ!それは助かる!!」
 ボロックが満面の笑みで言った。
「俺はさっき食べたからな。それにちょっとベルサの家に寄って行きたいんだ」
「そ…そうですか」
 俺は一応、護身用に旅で使っていた杖をテルに渡す。
 杖には少し魔力を流せば、電気ショックを放てるようになっているのでスタンガン代わりになるだろう。
ボロックが襲うことはないと思うが、用心に越したことはない。
「終わったら宿に先に帰ってて」
 アイテム袋には生物を入れられないので、マスマスカルが入った袋は肩にかけて持っている。
「わかりました」
 テルに見送られ、俺は造船所を出た。
 空は茜色に染まっていた。


「あれ?どうした?忘れ物か?」
 ベルサの家に行くと、寝ぐせをつけた家主が出てきた。
「ごめんごめん、寝てたか。いやぁ、マスマスカルを研究に使うかと思って持ってきたんだ」
 そう言うと、マスマスカルが10匹ほど入った袋を見せた。
「おおっ!それは助かる!」
「とりあえず、クリーナップで汚れは落としているけど、どうする?」
「何でもできるんだなぁ、ナオキは。こっちだ、小さいケージがあるんだ」
 ベルサは俺を中に招き、植物を育てている部屋に通した。
 部屋の隅に小さい檻があり、そこに入れてくれとのこと。
「討伐部位の尻尾は切ってしまっているからな」
 檻にマスマスカルを入れながら、言った。
「ああ、問題ない。しかし、よくこんなにマスマスカルを生け捕りに出来たな」
「それが仕事だよ」
「駆除というから、殺すのかと思っていたが」
「ほとんど死ぬんだけどね、ほらこれ」
 俺は粘着板をベルサに見せた。
「なんだこれ~!!」
 ベルサはベトベトする板を触って、驚いている。
「小さい魔物なら、これで捕獲できるんだよ。部屋の隅に仕掛けておけば、次の日には3匹くらい貼り付いているんだ」
「これはいいな!」
「他に研究で使いたい物があったら言ってくれ。できるだけ揃えるから」
「‥‥‥‥待て待て!揃えると言ってもすでに金は貰っているし、これ以上手助けされては悪い気しかしないぞ!」
 ベルサが両手を振って動揺している。
「いやいや、いいんだよ。魔物の生態がわかれば、俺にもプラスになるんだから」
「そんな…そんなことってあるのか?あとで、私を娼館に売ったりしないか?」
 ベルサが涙目で聞いてくる。
「しないしない。本当に単なる好奇心と、いろんな魔物を駆除するときに役立つから先行投資してるだけだよ」
「ナオキは天の使いか?それとも悪魔の仲間か?」
「いやぁ、俺はただの冒険者だよ」
 ベルサは腕を組んで、考えて
「なら、このマスマスカルを使って、魔石の発生について調べたいんだ。それで粉々になった魔石でいいから用意できるか?」
「魔石の粉かぁ。確かあったなぁ」
 そう言ってアイテム袋を漁り、魔石の粉とそれを溶かした水のビンを何本か机に出した。
「ちょっと待て!その袋にはなにが入っているんだ?」
 ベルサがアイテム袋の中身を覗きながら言った。
 アイテム袋は俺とアイルしか使えないので、ベルサにはただの魔法陣が描いてある空の袋にしか見えないはずだ。
「ああ、これはちょっと特殊な袋でね。俺のひみつ道具だ」
「いくらでも、入るのか?」
 目を丸くしたベルサが宝石でも見るかのようにアイテム袋を見て、言った。
「まぁ、そうだな。あんまり人に知られると大変なことになりかねないので、秘密にしておいてくれ。ちなみに俺と、もう一人しか使えないんだけどね」
「そ……そうか」
 ベルサは落ち込んだように肩を落とした。
「どうした?」
「いや、私がその袋に入れば、探検隊の船にも乗れるんじゃないかと思ったんだ……」
「ああ、そういう使い方もあるのかぁ」
「できるのか!?」
「いや、アイテム袋に生物は無理だよ。でも、そうか。そうすれば船は小さくても済むのか。当面はそうするかなぁ…」
 俺は小さなボートを改造することを考えた。
「船?」
 遠くを見ながら、考えている俺にベルサが聞いてきた。
「うん、まぁ出来たら言うよ。とりあえず、魔石の粉と粉を溶かした水ね」
「ああ、この研究が成功すれば、魔石を人工的に作れるかもしれない」
「そりゃスゴいな。楽しみにしてるよ」
 そう言って、俺は部屋を出た。
「寝てるとこ悪かったね。それじゃ」
「ああ、また明日」
 手を振ってベルサの家を後にして、宿に帰った。

 ギルドに寄って換金して宿に帰ると、すでに宿泊費が支払われていた。
 部屋に行くとアイルが大の字で寝ていた。
「おかえりなさい。優勝したらしいですよ」
 テルもすでに帰っていたらしい。
「食事になさいますか?」
 ツナギを脱いで、Tシャツ短パンの姿になった俺にテルが聞いてきた。
「うん。造船所の方はどうだった?」
「所長さんが大声で褒めるから、食堂に工員さんが集まってしまって所長さんが買い出しに行ってました。これはそれの残りです」
 テルは魚介類がふんだんに入ったパスタ風のものを出してくれた。
「ベルサさんはどうでした?」
「うん、まぁ、喜んでたと思う。それで、船なんだけどさ、小さいのでいいから欲しいんだ。明日、ボロックさんにいくらくらいするか値段を聞いてみよう」
「わかりました」
 俺は船の中に、亜空間の部屋を作れば、船が小さくても航海ができると考えていた。
 魔法陣を使えば、スピードも出るだろう。
 部屋の大きさは何人部屋にしたらいいのだろうか。
 アイルは優勝したので、違う船に乗ることになるから、必要ない。
「そうか、アイルともお別れか」
「どうしたんですか?」
 急に独り言を言った俺の顔を覗き込むように、テルが聞いてきた。
「いや、アイルは優勝したから船に乗ってどこかに旅立つんだなあと思って」
「寂しいですか?」
「どうだろ。まだいなくなってないから実感がわかないなぁ。まぁ、旅は一期一会だよ」
「イチゴイチエですか?」
「出会いを大事に、ってことだよ」
 テルは頷きながら、俺の食べ終わった食器を片付けてくれた。
 俺は、『リッサの魔物手帳』を読み始める。
 アイルの寝息とともに夜が更けていった。
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