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駆除人 作者:花黒子

~風とエルフを暴く駆除業者~

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244話


 マルケスさんは「とりあえず、茶葉摘んじゃうから!」と作業を再開。俺たちも手伝おうとしたが、茶摘みには技術がいるらしくまったく役には立っていなかった。
「じゃ、とりあえず乾燥させてだなぁ。あれ? 彼らは?」
 マルケスさんがセスとメルモを見ながら聞いてきた。
「あ、うちの従業員です。アイルやベルサも作業部屋にいますよ」
「従業員ってことは会社でも作ったのかい?」
「そうです。清掃・駆除業者を作ったんですよ。俺が社長で、アイルが副社長をやってくれてます。ベルサは会計なんです」
「ハハハ、変な会社作ったなぁ。僕が外にいた頃はそんな職業なかったよ」
「今でも、うちの会社だけだと思います。マルケスさん、俺たちグレートプレーンズに行ったんですよ」
「ええっ!? 本当かい? そうか……じゃ、まぁ、とりあえず上の作業部屋で酒でも飲もうか?」
「はい!」
 マルケスさんが何百年も生きているからか、自然と敬語になってしまう。

 作業部屋でアイルとベルサが「こんにちは」とマルケスさんに挨拶すると、マルケスさんは、
「お、いい女になったなぁ。2人とも」
 と、笑っていた。
「なんにも変わりませんよ」
「私はちょっと太ったかな」
 アイルが肩をすくめ、ベルサが自分のお腹を擦りながら言った。確かに、マリナポートを出発した頃、ベルサはガリガリだった気がする。
「いやぁ、2人とも落ち着いたレディになったよ。自分の好きなものを追求する心を忘れずに大人になるのは困難だからね。よほどいい社長に巡り合ったかな?」
 マルケスさんは俺へのお世辞も忘れない。出来る人だな。
「世話が焼ける社長ですから、こっちが大人にならないと……」
「無茶ばっかり言うんですよ。少し説教してください」
 アイルとベルサはマルケスさんに告げ口した。
「ハハハ、関係性は変わらずか……しばらくいるんだろ?」
「ええ、毒と薬を補充したくて。もちろんこちらも肉や清掃・駆除をしますよ」
俺の言葉を聞き、マルケスさんは本棚から本を取り出し、裏に隠していた酒の壺を取り出した。
「これは3年もの。ナオキくんたちがここを出てから作ったんだ」
 マルケスさんは嬉しそうに全員分の陶器のコップを用意してくれた。
「社長、僕らでツマミを作っちゃいますよ」
「それともガッツリしたもののほうがいいですか?」
 セスとメルモがコンロ代わりに加熱の魔法陣を描いた板を取り出しながら聞いた。
「お、君らは料理ができるのか? いい若者たちを雇ったな」
「嫌いな食べ物はありますか?」
 セスがマルケスさんに聞くと、「ない。毒でも食えるよ」と笑っていた。

 セスとメルモがツマミを作る中、俺たちは宴会に突入。アイルもベルサも本や地図をそっちのけで、乾杯した。
「それで……グレートプレーンズに行ってどうした?」
「水の精霊を駆除しました。ちゃんと消滅させましたよ」
 マルケスさんは俺の顔を見て、目を見開き、ふっと笑った。
「本当に駆除したのか? 精霊だよ? 本当に?」
 信じられないようだ。
「あの精霊だけは駆除しなくちゃいけなかったからなぁ」
 アイルが酒を舐めながら言った。
「もうナオキも私たちもボコボコですよ。土の精霊は悪魔になって、火の精霊は小さくなったけど、水の精霊だけはナオキがしっかり消してました」
 ベルサがそう言って笑った。
「どうやって? いやちょっと待て。精霊たちを駆除してまわってるのか?」
「えーっと、駆除してるのは勇者の方で……結果的に精霊と戦ったりしてるというか……」
 どう説明したものか。
「とりあえず、この島を出てからのことを全部教えてもらえるかい?」
「わかりました。この島を出て、水竜の恋バナを無視しながら東に進んでいくと、ゾンビがいる島に着いたんですよ……」
 俺は酒をちびちび飲みながら、バルザックやテルに話したようにマルケスさんに旅の話を聞かせた。だんだんうまくなっているが、わけがわからないことが多いようで、アイテム袋から吸魔剤や水草などの実物を見せながら語り続けた。
やはりグレートプレーンズでの出来事は、何度も質問された。答えられる範囲でしか答えられないが、なるべく俺も説明する。ボリさんやリタの話を聞いている時のマルケスさんの目には涙が溜まっているように見えた。
 水の精霊を首にしたと話した時にはマルケスさんは目を閉じて、「すまん、ちょっと便所」と言って作業部屋を出ていき、しばらく帰ってこなかった。
「マルケスさんは、ようやく解放されたのかもしれないね」
 ベルサが俺に言った。
 マルケスさんは今まで300年間、水の精霊から逃げていたのかもしれない。グレートプレーンズから離れ、こんな島にダンジョンを作って引きこもっているのだから。そういった意味ではボリさんも変わらない。
「不老不死のダンジョンマスターにも脆い部分があるんですね」
 メルモが酒を飲みながら言った。
「そりゃあるだろ。人間なんだから」
 小一時間、俺はこのダンジョンについてセスとメルモに説明した。俺たちが滞在していた時とは変わっている部分もあるだろうが、砂漠や冷蔵庫と呼ばれる雪原地帯、茶畑などは変わっていないようだった。
「また、アイルちゃんは修行するのかい? 砂漠の魔物が増えてきちゃってるから適当に狩ってきてくれると助かるんだ」
 マルケスさんはなにごともなかったように帰ってきたが、顔を洗ったようでさっぱりしている。その証拠に額近くの髪が濡れていた。男の涙は見せもんじゃない。
「了解、ちょっとひよっこ共を連れて行ってくるよ。ほら、セス、メルモ、行くよ」
 アイルがセスとメルモを呼んだ。
「僕たちはいつまでひよっこなんだろう」
「アイルさんを超えたらじゃない?」
「死ぬまで無理ってことか……」
 セスとメルモはぶつぶつ小声で話しながら、アイルについて行った。
「さて、と。私も成長剤に使うキノコを採ってくるよ。マルケスさん、その辺の採っていい?」
「ああ、好きなだけ持ってっていいよ。茶畑の下にもう一個栽培場を作ったんだ」
「ありがとう!」
 ベルサは作業部屋を出て、ジメジメしたキノコの栽培場へと向かった。
アイルもベルサも空気を読んだのだろう。
「やっぱり2人ともいい女になったなぁ……」
 マルケスさんはしみじみと言った。
「そうですかね。あんまり変わらないですよ。少し空気が読めるようになったくらいです」
「社長の影響かな」
「俺は反面教師にしかならないですよ」
 俺がそう言うと、マルケスさんは「ハハハ……」と笑って首を横に振った。
「もう少し飲むかい?」
 マルケスさんはそう言ってコップに酒を注いでくれた。俺もお返しにマルケスさんのコップに酒を注ぐ。
「改めて、ありがとう。いや、本当に……」
 マルケスさんは自分のコップを俺のコップに当てて頭を下げてきた。
「俺たちはなにもしてませんよ。ただ依頼をこなしただけです」
「それでもだ。お礼を言いたい。水の元勇者としてありがとう」
「いえいえ、とんでもない。こちらこそ、マルケスさんに会えたことは幸運でした。いろんな場面で助かったので」
 マルケスさんに会えてなかったら、わけのわからないスキルばかりとっていたかもしれないし、ボウとも仲間になれていなかったかもしれない。
「不思議だな。僕はこのダンジョンでどんな場所も作れるっていうのに、ずっと自分の居場所がこの世界にはないと思ってたんだ。魔王を倒すために異世界から呼び出されたのに、その使命を果たせず、忘れ去られた元勇者。生きている価値もないけど、スキルのせいで死ぬことさえもできない隠遁者。それが僕だった」
 マルケスさんはそこで、ぐいっとコップを呷った。
「なのに、水の精霊が消えたと聞いた瞬間、肩の荷がすーっと下りた。僕もこの世界にいていいんじゃないかとさえ思えた。もちろん水の精霊を消したのはナオキくんたちで、僕じゃない。ただ話を聞いただけなのに、世界が違って見えるよ」
 マルケスさんは目を閉じて酒をゆっくりと味わうように飲んだ。
「マルケスさん、すみません。一つ依頼を達成できませんでした。水の精霊は消したのですが、エルフのソニアさんは未だ見つけられていません」
 俺は頭を下げた。
「いやぁ、大丈夫だよ。いつか……」
「探しに行きませんか? 一緒に」
 俺はマルケスさんの言葉を遮るように聞いた。
「ずっと自分でソニアさんを探したかったんじゃないんですか? もう、2人の間を遮るような水の精霊もいませんし、使命もないはずです。なにより、マルケスさんの居場所は彼女の隣なんじゃないですか?」
「……そうか、僕の居場所は彼女の隣、か。ハハハ、場所は関係ないんだなぁ。誰と一緒にいるかなんだ。居場所っていうくらいだから場所かと思ってたよ。違うんだね。300年かかってようやく理解したよ」
「俺たちはこれから、東のヴァージニア大陸に行ってエルフの里に向かいます。よろしければ、ソニアさんの捜索のお手伝いをさせていただけませんか? 清掃・駆除業者なので、人探しが本業ではありませんが、機動力はあるほうなんですよ」
 これは俺のわがままかもしれない。前の世界では恩を返せぬまま死んだので、できればこちらの世界では生きているうちに恩を返したい。
「それじゃあ、頼んでみようかな……ハハハ、あ、いや、今は酔いが回ってるから無計画に話しているんだ。明日、また改めて返事するよ。それより、水の精霊を消したあとはどうしたんだい?」
 マルケスさんは頭を掻いて聞いてきた。
俺はマルケスさんのコップに酒を注ぎ足し、南半球での出来事を話し始める。酔いも回り、饒舌になっていく俺とは裏腹に、マルケスさんのまぶたは下がっていった。
「そうか……島の外に出るのは何年ぶりだろう」
 マルケスさんは、そうつぶやいて眠ってしまった。南半球の話はあまりにも現実感がなく夢物語のようだったのかもしれない。

 眠ったマルケスさんに魔物の毛皮をかけて一人で飲みながら、マルケスさんの記録を読んでいると、アイルたちが帰ってきた。
「解体しなくても討伐部位が落ちてくるなんて不思議ですね!」
「次から次へと湧いて出てきて、面白いです!」
 セスとメルモは興奮していたが、アイルは少し物足りなさそうに、「動きが予想しやすい」と寂しそうに言っていた。
「大収穫!」
 ベルサはリュックにパンパンに詰めたキノコを見せて、すぐに成長剤作りに取り掛かっていた。
 俺は社員全員にマルケスさんが一緒にエルフの里に行くかもしれないことを告げた。
「そもそも死なないんだから心配はしてないけど、このダンジョンの運用がどうなるかだね」
「ガイストテイラーたちがどこまで出来るかにかかってるね」
 アイルとベルサからは異論はないようだ。むしろダンジョンが心配なようだ。
「実際、マルケスさんって強いんですか?」
「レベルってどのくらいなんでしょうね?」
 セスとメルモはマルケスさんの強さが気になるようだ。

 翌日、マルケスさんから正式に「旅に同行させてほしい」とお願いされた。
 ダンジョンは2週間ほどガイストテイラーたちに運用をレクチャーすれば、任せてもいいらしい。ダンジョンコアさえあれば、ダンジョンマスターが外に出ても問題はないのだとか。強さに関しては、防御特化型で、俺たちの攻撃にも難なく耐えていた。体の周囲から空気を抜いた時はさすがに気絶していたが、数日、息をしなくても死なないらしい。不老不死って怖い。アイルたちは笑っていたが、セスたちはドン引きしていた。うまく馴染めるといいんだけど。
「ナオキくん、それでね。せっかくだから、この野菜を売るルートも確保したいんだ」
 マルケスさんはガイストテイラーたちが作っていたサツマイモっぽい野菜を見せてきた。
「これ、なんですか?」
「キャッサバと言うんだけど、知ってるかい?」
「いえ、イモ科ですか?」
「うん。まぁ、毒も入ってるんだけど、簡単に育つし、なかなか栄養があるんだ。ほら、ソニア探しが目的なんだけど、せっかくだから他の島や港で人と交流したいんだよね」
 例え、ソニアさんが見つからなくとも『ただでは帰らん』という気概を感じる。
 実際、今回俺たちとの旅で見つけられなくても、俺たち以外の誰かと交流を続けネットワークを広げていくうちにソニアさんが見つかる可能性だってある。前の世界のシルクロード然り、誰かと交わるときに、物があるというのは強い。戦略として正解だ。さすが長いこと生きているだけはある。
「キャッサバ以外にもいろいろ考えてはいるんだけどね。僕は死なないから、長期戦でいけばきっと見つかると思って」
「なるほど、わかりました」
「コムロカンパニーさん、ソニアが見つかるまでの間、しばらく厄介になります。よろしくお願いします」
 マルケスさんが仲間に加わった。
臨時社員というか、ダンジョンから出向してきた野菜商人という位置付けになるのだろうか。

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