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駆除人 作者:花黒子

~風とエルフを暴く駆除業者~

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240話



 エルフの薬屋に帰ろうとした時に、ベルサから連絡が入った。
『吸魔剤が足りなくなったから、町から少し離れた丘の牧場に来てくれる?』
「了解」
 行ってみると、前にベッドのマットを頼んでいたゴートシップの牧場だった。
 牧場の人たちは皆、俺たちと同じようなツナギ姿をしている。そういや俺のツナギの型紙を作っていたからな。
「こんちは~!」
 俺が手を上げて挨拶すると、覚えてくれた人もいたようで「おおっ! 久しぶりだな!」と驚いていた。
 ベルサの場所を聞くと、丘の向こうにいるという。
 言われた方に行ってみると、ゴートシップが2頭死んでいるのが見えた。
「吸魔剤なんて何に使うんだ?」
 ゴートシップの死体を検死しているベルサに聞いた。
「ちょうどこの辺りは丘と丘の間に挟まれてるでしょ? 大雨が降ると川になるそうでね。その川に乗って魔石の粉が流れてくるみたい」
 つまりここの川跡の草を食べたゴートシップが、魔石の粉を吸い込む可能性があるということだ。
「魔石の粉をたくさん吸い込んだゴートシップが仲間を襲うらしい。ほら、通常の魔石よりもこんなに魔石が大きくなってる。身体に似合わぬ力は、身を滅ぼすってね。それに、これじゃあ内臓を圧迫していずれ死ぬ。変な咳をしているゴートシップもいるようだから吸魔剤を吸わせようと思ってさ」
「ノームフィールドと似た状況だな」
 土の勇者が住んでいた村では人がグールになっていたが、ここではゴートシップが暴走しているようだ。
「あの谷が源流かもしれないよ。ほら、ナオキが駆除した魔物たちが死んでたって谷。今、牧場の人とメルモに調べに行ってもらってる」
「こんなところにも影響してるか、申し訳ないな」
 知らなかったとは言え、自分の尻拭いをする時ほど情けないこともない。スナイダーさんや傭兵たちは『速射の杖』で焼いた魔物の魔石を使い尽くしたわけではなかったようだ。谷には回復薬と一緒に吸魔剤も散布しておくんだったな。
「今、メルモと牧場の人で確認してもらってるところ。私たちは吸魔剤でゴートシップの治療をしておこう。ここら辺にも吸魔剤を散布してもいいかもね」
「了解」
 俺はベルサの指示を受けて、丘の間にある川跡に吸魔剤を散布。その後、ゴートシップに吸魔剤を吸わせた。
「急に魔石が小さくなると割れて、死んじゃったりするから気をつけてね」
「ああ、そうか。人と違って魔物は魔石がないと死ぬのか。じゃあ、診断スキルを使いながらの方がいいかもね」
 そう言って俺が触ろうとすると、ゴートシップが暴れてしまう。近づこうとしても逃げる。いつからこんなに嫌われるようになったのか。
「そのツナギには魔物除けの薬がたっぷりと染み込んでいるからね。仕方ないよ」
 ベルサの言うとおり、この世界に来た当初は青かったツナギも仄かに緑色に変色している気がする。クリーナップや洗濯では落ちない汚れがあるのだろう。
 メルモの帰りを待ってから作業することに。
「あ、社長、来てたんですか。羊飼いさん、あの谷の魔石はこの人が張本人ですよ! 文句があれば社長に言うといいです」
 やっぱり俺のせいらしい。
「ああ! あんたか! 何年か前に、このツナギを教えてくれた人だよな!?」
 羊飼いの兄さんは俺を覚えてくれたらしい。
「どうやってあんなことを……?」
「エルフの薬師に騙されましてね」
 できるだけ人のせいにしよう。
 とりあえず、状況とゴートシップの診断を牧場の人たちに説明し、無償で治療と谷及び川跡の吸魔剤散布。ベルサとメルモも同じ会社の社員として協力してくれた。
「吸魔剤も牧場への迷惑料もただじゃないよ。社長の給料から引いておくしかないけど、どうする?」
 うちの会計が非情なことを言ってくる。
「仕方ないか。そもそも俺の給料ってあるのか?」
「もちろんあるよ。ただ一番後回しになってるってだけで」
「そうか。あるならいい」
 会計についてはベルサに丸投げしているのだ。
娼館に行く金やデート代くらい自分で作ろう。
 とりあえずメルモが一時的に使役して連れてきた凶暴になったゴートシップに吸魔剤を少しづつ吸わせていった。
 牧場への迷惑料として、牧場の古い母屋を改造して作った寝具店でマットや枕などを買い、回復薬などの粗品を差し出して、どうにか謝罪。回復薬一本の値段を言ったら、すぐに許してくれた。
「買った品物はどこに運ぶ?」
 牧場の青年が聞いてきた。
 寝具は丸めてアイテム袋に入れようと思っていたが、普通は家まで運んでくれるのか。
「『エルフの薬屋』ってわかりますかね?」
「ああ、あそこずっと開店してなかったけど、あんたが住んでるのか?」
「今だけですけどね」
「もしかして薬屋が再開するのか? だったら俺を雇ってくれ!」
 ヒツジの角が生えた獣人の青年は俺に懇願してきた。
「僕からもお願いします」
 後ろからもう一人、ヒツジの角が生えた獣人の青年が俺に話しかけてきた。
「兄はこの前まで冒険者だったのですが、本の読み過ぎで目が悪くなってしまい、実家に帰ってきたところなんです。とはいえ、牧場は次男の僕が継いでますし、家族の中で肩身の狭い思いをしていて、見てられないというか……」
 獣人の弟が簡単に自身の兄の現状を説明した。
「魔法を勉強したかったんだけど、生まれ持っての才能がないことに気づいて。このザマさ」
 自嘲気味に獣人の兄は言った。
「ああ、いや、薬屋はやらないですよ。古道具屋です。一応、オーナーは墓守のバルザックということになるのかな? そんな危ないやつじゃなければ雇ってくれると思いますよ」
「あのバルザック爺さんが古道具屋? わ、わかった! ありがとう!」
 ヒツジの獣人の兄は嬉しそうに寝具をリヤカーに乗せていた。
 早くも古道具屋の従業員が見つかってしまったかもしれない。

「トントン拍子にいくなぁ……」
 俺たちはアイルが見つけたという肉屋清掃の仕事に向かった。
 アイル曰く、どうやらその肉屋は以前俺が清掃したことがあって、帰ってきたのならぜひ清掃を頼むということらしい。
「覚えてないの?」
 ベルサに聞かれた。
「日常会話もままならない時期にした仕事はあんまり覚えてないけど、行けば思い出すはず」
 依頼先の肉屋に行くと、「ああ、魔物の血や脂をくれた肉屋さんだ」と思い出した。
あれ? でもここを清掃したかな?
「いやいや店じゃなくて家の草むしりをしてくれて、失くしていた結婚指輪を見つけてくれてねぇ……」
 肉屋の大将が俺を覚えてくれたようだ。
「ああ、そうですか」
「お得意さんを忘れるなんて、すみませんね。うちの社長が……」
 アイルが横から謝って取り繕ってくれた。
 俺も笑顔で肉屋の中を掃除。魔物の解体現場なので血だらけかと思ったら、そんなに汚れていなかった。汚れる場所が決まっているようなので、重点的にクリーナップをかけ、タワシでしっかりこびりついた汚れを取っていった。あとは、マスマスカルやバグローチが来ないように、入り口やちょっとした隙間などに魔物除けの薬を散布しておく。
 お得意さんなので、ベタベタ罠のサービスをして依頼終了。報酬とは別に、「フィールドボアのいいところ」という肉の部位を頂いた。
「しばらくいるのかい?」
 清掃終わりに肉屋の大将が聞いてきた。
「いえ、もう2、3日したら南へ向かおうかと。依頼が溜まっていまして」
 俺は頭を掻きながら言った。
「依頼があるのはいいことだよ。仕事ばかりしすぎて大事な物を失わないようにね。なかなか駆除・清掃屋なんていないからがんばって! 応援してるよ」
「ありがとうございます」
 知らない間に俺は応援されていたようだ。
ありがたいことだ。
「時々こういうことがあるから、辞められないんだろうな」
 俺たちは肉屋を出て、冒険者ギルドの宿で部屋を取った。貰った肉を食堂の厨房で調理させてもらうことに。調理担当はなにも仕事をしていないセスにやらせた。
 俺はバルザックとともに銭湯に行き、背中を流し流されながら、旅の話をした。
「あ、そういえば、今日獣人の青年が古道具屋をやりたいと言ってきたんですが、何か知っていますか?」
 大きな湯船に浸かりながら、バルザックが聞いてきた。
「ああ、牧場のお兄ちゃんだよ。元冒険者らしい。魔法使いになりたかったらしいけど諦めたみたい。牧場は弟が継いじゃってて居場所がないって言ってたから紹介しておいた」
「やはりナオキさんでしたか。何から何まで」
「いやぁ、大工さんの方はどうだった?」
「ええ、大工の棟梁の奥さんも元奴隷だそうで、価格の方もよくしてくれましたよ」
「そうか。よかったなぁ。冒険者ギルドも似たようなことを考えてたみたいでな……」
 俺は冒険者ギルドで聞いた話をバルザックに伝えた。
「そうですかぁ……。いやぁ、思いつきで始めようとしていた古道具屋が冒険者の再雇用になるとは。わかりました。私の方でもそういう心づもりでやっていきます」
 古道具屋の計画はどんどん進んでいく。バルザックならうまくやるはずだ。

 銭湯から出て、バルザックを連れて冒険者ギルドの食堂でうちの社員たちとともに酒盛り。
フィールドボアの肉は脂身が少なくめちゃくちゃ柔らかかった。
俺はすぐに酔っ払ってしまって、早々に部屋で就寝。翌日はアイリーンとのデートが待っているので深酒するわけにはいかない。

翌朝、起きると食堂で全員が寝ていた。セスは知らない獣人の娘と手を繋いで寝ていたので、単純にいい娘を見つけただけなのかもしれない。
 どうするつもりなのか。
それは俺もかな。

 冒険者ギルドの前で待っていると、早朝なのに外行き用のワンピースを着たアイリーンが現れた。化粧も濃い気がする。
「すごいやる気を感じるな!」
「そういうこと言わないでください! レディのたしなみです」
「そうですか。俺も髭くらい剃っておけばよかったかな」
「それはそれでいいです」
 甘やかしてくれるアイリーンに連れられ広場へ向かい、屋台で朝飯を買ってベンチで食べる。卵のサンドイッチと温かいお茶だ。
 こちらの鳥の魔物の卵は濃厚なのでとても美味しい朝飯だった。
「さすがアイリーン。美味しい朝食を知ってるね」
「ナオキさんと違って、ずっとこの町に住んでますからね。で、どうでしたか? 世界は」
「まず、この世界は丸い。半球状じゃなかったよ……」
 俺はアイリーンにこの世界で見てきたものを話して聞かせた。この世界に来たばかりの頃はアイリーンにこの世界について教えてもらったが、今度は旅をしてきた俺が自分の目で見た世界を教える番だ。
「じゃあ、その魔族っていうのは普通に私たちと話せるし、戦う必要もないってことですか?」
「そういうことだ。西の大陸には魔族の国が出来上がっているしな」
「はぁ~、世界は広いですね」
 アイリーンは俺の話すことに一々驚いていた。やはりバルザックの家で俺が話していた時ほとんど眠っていたようだ。
 ぷらぷらと散歩しながら歩きながらウィンドウショッピング。お金は昨日受けた肉屋の依頼の報酬と、なぜか枕元に置かれていた財布袋。財布袋の中に「無駄遣いするなよ」と書き置きがあったので、俺が恥をかかないようアイルかベルサが貸してくれたのだろう。面目ない。
 シンプルな髪留めのピンを買って、アイリーンにプレゼントすることに。花柄のもっと高い髪飾りもあったが「ずっと使えるように、これがいいです」とのこと。
 町の観光スポットもすぐに見て回ってしまい、教会で神様の像を見たりする。クーベニアでは教会と冒険者ギルドの仲が悪いので、アイリーンは日頃来ることはないらしい。
 春の朝日が差し込んで、教会の中がほんのり暖かい。教会のシスターが出してくれたハーブティーと、牧師の祈りの言葉が子守唄になったのかアイリーンはあっさり俺の肩に頭を乗せて寝た。
 俺も似ても似つかない神様の石像をぼーっと見ていると、その像が話しかけてきた。
「コムロ氏、何やってんの?」
「何ってデートですよ。っていうか、今牧師さんのありがたい話を聞いているんですから、神様は話しかけないでくださいよ」
「大丈夫だよ。僕の話のほうがありがたいから。権力的に」
 そうかもしれないけど、迷惑だ。
「あのさ、これからコムロ氏はエルフの里に行くんだよね?」
「そうですけど。神様やっぱりここで話しかけないでくださいよ。めっちゃ牧師さんに見られてますから」
「いいのいいの。どうせ皆仲良くねっていう内容だから。それよりさ、エルフの里にいる風の勇者にコムロ氏のことバレてるみたいなんだよねぇ。これってマズくない?」
 そりゃ何人も勇者をクビにしてるんだからそろそろ目をつけられててもおかしくはない。
「別にバレてたところでしょうがないんじゃないですか?」
「おおっ頼もしいね。まぁあそこの大森林は邪神も目をつけてるから気をつけてね。じゃ、よろしく~」
 おいおい、ちょっと待て。なんかさらっと大変なことを口にしなかったか?
「ちょっと神様! 神様!」
「いかが致しましたか? 迷える子羊よ!」
 牧師さんが俺の様子を見て割り込んできた。
「ああ、いや突然神様の声が聞こえてきた気がしたものですから」
「本当ですか? 私など何十年も神に祈りを捧げているというのに、神の声を聞いたことはありませんが、もしかして何かいかがわしい葉っぱを吸ったりしていませんか?」
「大丈夫です。神の声は聞かないほうがいいと思いますし、変な葉っぱも薬もやっていません」
「ど、どうかしたんですか?」
 寝ていたアイリーンも起きたので、俺はそそくさと教会から立ち去る。どこに行っても、あまり教会にいい思い出はない。
 そのまま昼食を食べ、アイリーンの仕事の愚痴を聞く。現在、8人の冒険者から言い寄られているとのこと。すごいモテモテだ。ただ、本人は迷惑なのだとか。
「私のために頑張ってるって皆言うんですけど、どいつもこいつも依頼を受けてる件数が少なくて、仕事しろよって感じなんですよねぇ。やっぱり男は優しさより甲斐性っていうか……」
 冒険者ギルドの職員は男に厳しいようだ。
「今日はすっかり付き合わせてしまって、すみません」
 町を見渡せる高台で、アイリーンが言った。
「いや、デートに誘ったのは俺の方だよ。楽しかった、ありがとう」
「あれ? いつの間にかあんなに夕日がきれい」
 アイリーンが指した西の空は茜色に輝いていた。
「ここには二人きり。どうします? ナオキさん思い切って私にプロポーズしてみます?」
 突然の先制パンチ。
「しません」
「やっぱり、世界を見てきたナオキさんには田舎のギルド職員じゃあダメですよね」
 急な落ち込み。
「いや、そういうことじゃなくて。今は誰とも結婚する気はないって話だよ。アイリーンは美人だし、仕事の段取りもできるから料理もうまそうだ。性格はいいし完璧! どんな男だってそりゃ惚れるよ。ただ今の俺には片付けないといけない旅があって、それにアイリーンは連れていけないってだけ」
「その旅が終わるのを待ってちゃダメですか?」
「ん~、やめておいたほうがいいんじゃないか。旅が終わったときには死んでるかもしれないし、どうなるかわからない。もしかしたらアイリーンの前にすごいかっこいい男が現れるかもしれない。そんなときに俺を気にしてチャンスを逃さないでほしい! 男なんてプラプラしてるんだから、これと決めた男はガシッと掴んで離すな」
 そういうとアイリーンがガシッと抱きついてきた。
「一緒に行かせて!」
 そう言われて俺はアイリーンを抱きしめようとして、躊躇した。
「あはっ、ごめんなさい。ダメですよね。エヘヘ、嘘で~す」
 アイリーンはおどけて俺から離れ、夕日を見つめた。
 俺が抱きしめなかったのが答えになったようだ。
「夕日がきれいだね」
 俺には、そんなどうしようもないセリフしか思い浮かばなかった。
「本当に……」

 その後、お互い妙な距離感を保ったまま、俺はアイリーンを送っていった。
今日という日を必ず後悔するだろう。

2日後、俺たちはクーベニアを発った。


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