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駆除人 作者:花黒子

~風とエルフを暴く駆除業者~

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238話


 クーベニアの町外れの墓地には小屋が隣接している。
 その小屋にバルザックは一人暮らし。
 俺はバルザックとクーベニアで別れてからの話を語って聞かせた。
 その間、社員たちはクーベニアの町で仕事をしつつ情報収集をしにいっている。
 アイルが冒険者ギルドに挨拶に行ったことでギルド職員のアイリーンがバルザックの小屋までやってきた。
「ナオキさん! 帰ってきてるなら、冒険者ギルドに寄ってくださいよ!」
 アイリーンは小屋のドアを開け、ものすごい勢いで入ってきた。
「ああ、悪い。寄るつもりだったんだけどな。あ、そうだ。アイリーン、あとで冒険者カードを偽造してくれない? レベルがちょっとおかしなことになっててさ。普通に冒険者ギルドで仕事を請け辛いんだ」
 俺はアイリーンに冒険者カードを渡して説明した。
 アイリーンは俺のレベルを見て、金魚みたいにパクパク口を動かして頭をテーブルに打ちつけていた。
「ガハハハ! レベル程度で驚いていてはナオキさんの旅の話は聞いていられませんよ」
 バルザックは笑いながら、アイリーンの分のお茶を用意していた。

 アイリーンをなだめながら語り続けて、いつの間にか窓の外は真っ暗になっている。
「その古代の文明っていうのは治水に関する知識をどうやって得たんでしょうか?」
 バルザックがグレートプレーンズの古代文明について聞いてきた。
「どうなんだろうな。ジャングルにいた星詠みの民っていうのがいて、平原の民と交流していたらしいけどね。今はそのレミさんっていう人が遺跡を発掘しているところ」
「はぁ、壮大ですなぁ」
 バルザックは感心していた。
「やっぱり、一日では語り尽くせないもんだなぁ」
「おや、もうこんな時間ですか? ハハ、アイリーンさんは眠ってしまったようです」
 アイリーンはテーブルに突っ伏して、狐耳をピクピクと動かしながら、夢を見ているようだ。俺が道路公団の説明をしていた時には、寝そうになっていたからな。朝から働いてるのだから眠くて当たり前か。しばらくこのままにしておこう。
「若い女子が、男しかいないこんな小屋で寝てていいのかよ」
 俺はちょっと心配になった。
「それだけクーベニアが平和だってことですよ」
 バルザックは空になったコップを片付けながら言った。
「なによりだな。アイリーンはまだ結婚してないのか?」
「結婚したとは聞いてませんね。たまに墓地の様子を見に来てくれるんですよ。なんだかんだ老人の一人暮らしですからね。気にかけてくれるだけありがたいです。いい人がいればいいんですけどね。ナオキさんはどうですか?」
「アイリーンと結婚かぁ? アイリーンがよければ、それもいいなぁ。神様の依頼が終わったら、いろいろ考えなくちゃ……ま、それまで生きてればの話だ」
「それだけレベルが高くても死にそうになるもんなんですね」
 バルザックは俺が精霊に殺されかけた話を何度も「本当に?」と疑っていた。
「んごっ! はっ! 聞いてますよ! ナオキさんの話は面白いです!」
 アイリーンが突然起きて言い訳を始めた。
「アイリーン、もう夜中だぜ。今日はバルザックに泊めさせてもらおう」
「え!? もうそんな時間なんですか? あちゃー、明日ランク上げの試験が早朝から入ってて朝早いんですよ」
「それアイリーンがいないとダメなのか?」
 俺がアイリーンに聞いた。
「冒険者の方々も起きてませんから、私が正しく試験が行われたのか見ないといけなくて……はぁ、行きたくない。でも、今夜は帰ります。バルザックさん、魔石灯借りていいですか?」
「アイリーンさん、本当に帰る気かね?」
 バルザックが心配そうにアイリーンを見た。
「今のクーベニアは一人でも多くのランクの高い冒険者がほしいんですよ」
 アイリーンは立ち上がって言った。近くの森に現れる強い魔物はだいたいバルザックが倒してしまうらしい。それで依頼が少なくなってランクの高い冒険者もあまり寄り付かなくなっているとか。ただ、バルザックも無茶できない年齢になってきているので、後進を育てているところなのだそうだ。
「俺が送ってくよ。さすがにいくら平和とはいえ、こんな夜に若い娘を一人で出歩かせるわけにはいかないからな。バルザックも寝てていい。今夜は町の宿に泊まるよ。明日また来る」
「ナオキさんは相変わらず優しいですね。そこは変わってなくてよかったです」
「冒険者ギルドの職員に優しくしておくと、なにかと助けてくれるからな。冒険者カードの偽造よろしく」
 俺は自分の冒険者カードをアイリーンに渡して、ドアを開けた。
 街灯もない墓地は真っ暗で、月明かりがなければ本当になにも見えない。俺には探知スキルがあるので、問題はないが。
 春になったというのに、冷たい風が吹いていた。
 空を飛ぶには少し寒いな。魔力の壁で包んじゃえばいいか。
「アイリーン、高所恐怖症? 高いところが怖いとかある?」
 俺はアイリーンに聞いてみた。
「高いところはダメです。どうしてです?」
「いや、空飛んでいこうと思っただけ。ゆっくり歩いていくか」
 アイリーンは「なに言ってんだ?」という目で俺を見てきたが、わざわざ空飛ぶ箒を見せて自慢してもしょうがない。
 二人並んでクーベニアの町に向かった。
「最近、どう?」
 俺は話を替えた。
「最近ですか? ナオキさんとは三年くらい会ってませんからね。最近と言われても……普通ですよ。ようやく春になったので旬の山菜が美味しいです。冒険者さんは減っても、クーベニアのギルド長がうまく中央とやり取りしてくれていて予算はたっぷりあるし、もしかしたら新しい教官が来るかもしれません。ああっ、その準備をしなくちゃなぁ……。ナオキさんからすればなにも面白くない日常ですよ」
「いや、そんなことない。むしろ、そういう何気ない日常のために仕事してるようなもんだ」
 そう適当に返すと、アイリーンは魔石灯で俺を照らしてきた。嘘だと思ってるようだ。何か言い訳しておかないとな。
「例えば、衛兵はわかりやすく町の平和を守っているだろ? 鍛冶屋は鍋を作って町の人たちの料理のために頑張っている。薬屋は町の人の健康のため、肉屋や居酒屋は町の人の体力のため、皆誰かのために働いている。そうやって社会は成り立っていて、誰かの何気ない日常が守られているだろ? 俺も神様の依頼とか言ってるけど、仕事をすることによって、誰かの何気ない日常がほんの少しでもよくなればなぁ、と思ってるよ」
「そ、そうですよね! 皆、誰かのために仕事してるんですもんね」
 アイリーンは羨望の眼差しで見てきた。
 やべー、ちょろい。
「嘘だよ。本当は娼館に通うために働いている。アイリーン、俺は君が心配だぞ。あんまりつまらないおじさんのくだらない話に騙されるな」
「ええっ! 嘘なんですか!?」
 アイリーンは目を見開いて、「もうっ」と俺の肩を叩いてきた。
「働く理由なんて、必要な時にあればいいんだからさ。俺は南半球でサバイバルした時に思ったんだ。ふざけてないとやってられないって。ずっと気を抜かずに生きてると人間関係もわるくなる。結果なんかすぐ出ないんだから、怠けながら時々立ち止まって周り見たほうがいいぞ」
「そうですか。私、肩に力入ってますかね? 上司によく言われるんですよね」
「いや、もっと骨が突き出るくらい肩に力入れたほうがいいよ。そんな撫で肩じゃ立派な大人になれないぞ! 真面目にやれよ」
「どっちなんですか!? 怠けろって言ったり真面目にやれって言ったり」
 アイリーンは俺の肩を小突いてきた。
「どっちも本当で、どっちも嘘だよ」
「なにを言ってるんですか?」
「世迷い言?」
「聞かれても!」
 そんな風にアイリーンをからかいながら町に入ると、懐かしい町並みが見えてきた。

 あまり人通りは少ないものの居酒屋は賑わっている。アイリーンを送ったら、飲みに行こうかな。
「ああ! 社長がデートしてるぅ~!」
 居酒屋から夜風に当たるため出てきたメルモに見つかった。
「あんまりハメ外しすぎるなよ」
「へ~い! アイルさ~ん、社長がデートしてます~!」
「なぁにぃ~!」
 アイルが居酒屋から出てきそうなので、とっとと居酒屋を通り過ぎる。別に、ただアイリーンを送っているだけなので、見られても困るようなことでもないのだが、見つかるとなにかと面倒だ。
「な、え、だれ?」
 俺はアイリーンの背中を押して、早足で急いでいると、違う居酒屋から出てきた酔っ払った冒険者に絡まれた。
「俺たちのアイリーン嬢の肩に手をかけてやがる!」
「てめぇ! 誰だ!?」
「知り合い? 黙らせてもいい?」
 俺がアイリーンに聞くと頷いたので、裏拳で軽く道の脇に寄せておいた。相手は足がおぼつかないくらい酔っ払っていたので起きた時には記憶にないだろう。
 そのままアイリーンを家まで送っていくと、「クーベニアにいる間にデートしてください」と誘われた。断る理由もないので笑顔で了承したが、ポケットの中には酒代くらいしかない。
「俺、会社作ってから給料ってもらったことあったかなぁ?」
 とりあえず、会社に隠れて回復薬でも密造しよう。回復薬はバルザックのために作る予定なので、ついでに作ればいい。
「さて、どこで作るかだな……あてはあるなぁ」
 居酒屋で安いワインを一本買い込み、俺はエルフの薬屋に向かった。

 現在、カミーラ店長が里帰りしているため、エルフの薬屋は休業している。ドアはしっかり鍵がかけられ、さらに板で塞がれていた。板には「店主里帰りにつき、休業中」と書かれている。
「休業なんて書いて大丈夫かよ。治安がいいな、この町は」
 カミーラがいなくても店を荒らされたりしていないのは、カミーラがバルザックや隣近所とちゃんと関わっていたからだろう。
「ま、開けるんですけどね」
 板を外して、植木鉢の土の中に突っ込んでいた鍵を掘り出し、クリーナップ。カミーラの性格と隠せる場所を探せば、だいたいどこに鍵があるのかくらいはわかる。
 中に入れば、さらにカミーラの性格が見て取れる。薬草や回復薬は一切棚に置かれていない。椅子と重いカウンターくらいしかなく、金目のものは見当たらない。
 俺はアイテム袋から魔石灯を取り出し、店の奥の住まいの方に向かった。
 テーブルの上に封筒が置かれいた。宛名には「ナオキへ」と書かれている。
「あら、モテ期到来か?」
 封筒の中を開けると、誰かの冒険者カードと手紙が入っていた。
 冒険者カードの裏を見るとヨハンという名前が書かれ、レベルは159と記載されている。レベルだけで言えば、セスやメルモよりは高いんじゃないか。
「誰だ、これは? 俺と同じようにカミーラに騙されてエルフの秘薬を持たされた奴かな?」
 手紙には
『ナオキへ
 生きてた? 帰ってくると期待してたんだけど、ちょっとこっちの事情で私の方が待てなくなった。
もし自分のレベルについてどうしても知りたければ、同封した冒険者カードの持ち主を探して。
私のことは大丈夫。店は好きにしていいよ。たぶん、クーベニアには帰れない。
町の皆には謝っておいてもらえると助かる。それじゃ。エルフのカミーラより』
と、書かれていた。
「うわぁ~、大丈夫じゃない女の手紙だなぁ。なんにせよ、わけはわからん。エルフの里で直接聞くか……」
 俺は手紙と誰だか知らない奴の冒険者カードをアイテム袋にしまい、カミーラの部屋を覗いた。
 荒らされてるということもなく、きれいに整頓されている。鍋や薬研などはそのままだ。
 探知スキルを使うと、床下に小さな貯蔵庫があるのが見えた。カミーラの隠し財産があるかもしれない。
 カーペットを捲り、貯蔵庫を開けると3畳ほどの空間があり、棚には壺が並んでいた。壺の中身はクーベニアの近くの森で採れる薬草や毒草。どれも保存状態はよく、カビは生えていない。
 せっかくなので、薬草はカミーラが置いていったものを使わせてもらうことにした。
 俺は一人ワインを飲みながら、鍋をかき混ぜ回復薬作り。
 故郷の夜は、安いワインとともに更けていった。

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