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駆除人 作者:花黒子

~風とエルフを暴く駆除業者~

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237話


 翌朝、全員しっかりと宿の朝飯を食べ、町の門から出て森へと向かい、空飛ぶ箒で廃村へ飛んだ。
 昨夜、アイルは深夜までずっと旅であったことを母親に話していたため、眠そうだ。ただ、宿の飯は人一倍食べていたので、大丈夫だろう。
 廃村の近くには廃鉱があり、昔は鉄鉱石を採掘していたのだとか。鉄鉱石は採り尽くしてしまい、今では魔物の巣になっているようだ。新人の冒険者が向かう訓練施設として使っているのだとアイルが教えてくれた。
「春先は魔物の繁殖期だから、まだ新人の冒険者たちもいないはずだよ」
 ベルサが言った。
「二人ともこの辺のことには詳しいんだな」
「地元だからだよ」
 アイルがそう言って肩をすくめた。
「それで、軍の精鋭たちとはどうやって戦うんだ?」
「どうもこうもないよ。廃村の中央通りで待機して正面突破。できるでしょ?」
「いや、作戦とかないのか? 麻痺薬とか眠り薬の罠仕掛けるとか」
「もったいないよ。なんだったら、セスとメルモだけでも対応できるはず」
 相変わらず、アイルは新人たちに無茶ぶりをしていた。
「そんな油断してて大丈夫なんですか?」
 セスがアイルに聞いた。
「世界を旅してきた自分たちを信じろ! 父さんには自分が井の中の蛙であることを自覚してもらわないといけない。レベルが50にも満たない者たちと我々との違いを見せつけてやればいいだけだ」
 睡眠不足のせいかアイルのテンションは高い。
「こうアイルは言ってるけど、油断は禁物だ。全員フル装備で、相手の戦力を削っていこう」
 俺が全員に声をかけた。
全員、ツナギ着用の上、マスクや燻煙式の罠の準備を始めた。
 いつも通り、魔物を駆除するのと変わらない。相手が軍人や冒険者になっただけだ。
 この麻痺薬や眠り薬って人に使っても大丈夫なのかなと疑問を持ち始めた頃、ベルサが俺とアイルを見て、
「これってアイルの親父さんから金庫の鍵を奪えばいいだけの話だよね?」
と、聞いてきた。
「まぁ……そうだね」
「だったら、全員上空にいてさ。アイルの親父さんが見えたら、ナオキが空気抜いてアイルの親父さんを気絶させれば勝ちじゃない?」
「「「「……」」」」
 ベルサの意見に誰もなにも言えなかった。
「終了でーす」
 メルモが終了を宣言。
「お疲れ様でした!」
 セスがツナギを脱ぎながら言った。
「いや、待て待て! 相手を完膚なきまでにだなぁ!」
 アイルが皆に抗議するように言ったが、誰も聞かない。
「僕ら昼飯作ってまーす」
「私は廃鉱に行って、魔物の繁殖の様子を見てくる」
 セスとメルモは廃村の前の草原で昼飯を作り始め、ベルサは廃鉱へと向かった。
 俺もセスたちと一緒に草原で待機することに。
「反論の余地がないよ。金にならないことをやる必要もないしね。アイルの親父さんたちが来たら呼んで」
「そんなぁ……はぁ」
 アイルは一人寂しそうに廃村へと向かった。

 今日の昼飯はじっくりコトコト煮込んだポトフ風のスープだった。
 俺はバレイモの皮むきやソーセージを切ったりして手伝いながら、アイルの親父さんたちが来るのを待った。
『来た!』
 アイルから連絡が来たのは、昼寝しようかと草原に寝っ転がっていた時だった。
「はいはい。今行きまーす」
 そう言って、俺は空飛ぶ箒に乗って上空へと飛んだ。

 廃村の東側には軍の精鋭たちと冒険者たちが集まっている。
 俺は探知スキルでしっかりと人数を確認したあと、上空にて始まりの合図を待つことに。
 アイルとアイルの親父さんがなにか大声で会話をしたあと、銅鑼の音が鳴った。
 軍の精鋭たちや冒険者たちが廃墟や物陰に隠れながら、アイルに向かっていくのが見える。
「開始ですか~?」
 俺はアイルに通信袋で連絡を取り、聞いた。
『開始です。お願いします』
 アイルの声はすっかりしょげている。
 仕方がない。初めに会った時からこうすることもできた。アイルの母親の手前、皆自重していただけなのだ。
 アイルの親父さんは廃村の東の丘で、軍師と思われる人とともに軍の精鋭や冒険者たちの動きを目で追っていた。
 その背後に俺は降り立ち、「おつかれっす」と言いながら、アイルの親父さんと軍師っぽい人を魔力の壁で覆い空気を抜いた。二人が気絶するのに7秒ほど。回復薬と気付け薬を準備して待つ。5秒で倒れたので、すぐに魔力の壁を解除。
 気絶したアイルの親父さんの内ポケットから金庫の鍵を取り出して、二人に気付け薬を嗅がせた。一応、診断スキルで二人を診たが、軍師っぽい人の胃が荒れていること以外は特に異常はなかった。
「はっ! なにが起こった」
 アイルの親父さんが飛び起きた。
「鍵もらっていきます。あ、それからそちらの方に休暇をあげたほうがいいっすよ。胃が荒れてます。では」
 そう言い残して、俺はその場から立ち去った。空飛ぶ箒をわざわざ見せることもないだろう。
 後ろからアイルの親父さんの「追いかけろ!」という声が聞こえてくるが、誰も俺を追いかけて来る様子はない。
「終わったよ」
 通信袋でアイルに連絡を取った。
『開始から数十秒しか経ってないじゃないか。はぁ……了解。ちょっと遊んでから戻る』
「はい~先に草原で昼飯食ってるよ。あんまり遅くならないようにね」
『ん~もうっ! 八つ当たりしてやる!』
 アイルが廃村で暴れ始めた音が通信袋から聞こえてきた。

 草原でセスたちと昼飯を食べていると、ベルサが戻ってきた。
「どうだった?」
「予定通り。そっちは?」
 俺がベルサに聞いた。
「スゴかったよ。生命力に満ち溢れてたよ」
 ベルサは事細かにヘビの魔物の絡み合う濃厚な交尾やゴブリンのカップルの激しい交尾について語りだした。
「生きるって大変だね」
 長い交尾の話を聞いたあと俺が感想を言うと、「そんだけ!?」とベルサが不満そうに声を上げた。
「あ、大変そうだったアイルさんが帰ってきました!」
 セスが指差す方を見ると、疲れきったアイルがとぼとぼと歩いてきた。傷はなさそうなので、精神的に疲れたのだろう。
「どうだった?」
「全員投げ飛ばした」
 俺の質問にアイルが答えた。全員投げ飛ばしたって嘉納治五郎かなにかかな。
「よし、王都に戻って頼んでいた服を受け取ったら、一旦クーベニアに向かおう。どうせ、一日じゃエルフの里までは行けないだろうからね」
「「「「了解」」」」
 昼飯とお茶を済ませ、王都へと戻る。
 王都の仕立て屋は仕事が早く、俺とセスのスーツと革靴は出来上がっていた。代金は全てアイルの実家持ちだそうだ。申し訳ない。
「いいんだよ。貴族は経済を回すことを考えないといけないんだから」
 ベルサが説明してくれたが、申し訳ない気持ちに変わりはない。俺が貧乏性なだけなのだろうか。
「よし、早いところクーベニアに向かおう!」
 アイルは荷物が戻ってきたので、一刻も早く王都から出たいようだ。
「あ、でも鍛冶屋さんに頼んだ剣をまだ受け取ってませんよ」
 セスが思い出して言った。
「どうせ模造品だろ? 普通に売っている物のほうが使えるよ。そんなことより早く! 親父が戻ってきたら、またなにか理由をつけて再戦をしようとしてくるから」
 あまりにアイルが真剣に言うので、俺たちはとりあえず王都から離れることに。

 街道を東へと向かい、クーベニアを目指す。
 一応、調査もしておきたいので、徒歩である。
 途中立ち寄った村や町で果樹園や養蜂家を探し、フラワーアピスの様子を尋ねて回った。特にアリスフェイ王国では今のところ異常は起こっていないようだ。例年通り、近くの果物の花に飛んでいっているという。採蜜の時期なようで、とても香りのよいハチミツを売ってくれた。
 アイルの親父さんの部下らしき者が俺たちを追ってきていたが、アイル以外は姿を見られていないのでスルーしておいた。アイルは光魔法で姿を消せるので問題はない。
 街道を進んでいると、盗賊に絡まれたり魔物に襲われたりしたのだが、セスとメルモが笑いながら対処していた。
 途中の町の商人ギルドでは「街道に2匹の鬼が現れる」と噂されていた。笑いながら盗賊や魔物を撲殺し、笑いながら去っていくという。
「私たちは撲殺なんてもったいないことしてませんよ」
「そうですよ。盗賊はちゃんと捕まえないと報奨金出ませんからね。それに魔物だって肉の味が落ちないように頸動脈をちゃんと狙っています!」
 メルモとセスが俺に抗議してきた。
「そういうことでもないんじゃないか。まぁ、俺に言われてもどうすることもできないけどな」
 3日後、街道から外れ、北の山脈近くの荒れ地を進んだ。
 スナイダーさんたち傭兵団が大量の魔物を焼いたという谷も見た。草に覆われていたが、陰気な雰囲気で骨だけのゾンビ系の魔物も現れた。魔物は回復薬で倒し、谷全体にも回復薬を散布しておいた。知らなかったとはいえ自分がやったことで魔物が発生して誰かに迷惑かけているかもしれないと思うとやりきれないので、谷周辺には徹底的に回復薬を散布。ちょうど谷を越えた東の森には薬草がたくさんあったので、回復薬がなくなるということもなかった。

「東の森を越えたらクーベニアかな。行こう」
 俺たちは森の中に入っていった。
 空を飛んでも良かったのだが、まだゾンビ系の魔物がいるかもしれないので、探知スキルを展開しながら歩いて行く。
 すぐに前方に魔物の群れが見えた。
「前方100メートルに30匹くらい人型の魔物が見える!」
「たぶんゴブリンだね」
 俺の報告にベルサが返した。
「あれ? ゴブリンの群れの先から人が来てるなぁ……」
 探知スキルで見ると赤いゴブリンの中に青い点が近づいていくのが見える。
 近づいていくと「アチョー」という奇声とともに時代劇のセリフのような声が聞こえてきた。
「一つ人の生き血をすすり 二つ不埒なイチモツぶら下げ、三つ醜い浮世の魔物を、斬って斬って斬り刻む! この妖刀コムロ・デ・ギャルソンの前に屈するがいい! 必殺、波返し!!」
 その筋肉ムキムキの老人は、鉄の剣でゴブリンたちの首を刎ね飛ばしていった。変な名前の剣にしたなぁ。
「ガハハハ! 1匹たりとも逃しはせん!」
 最後の1匹までしっかりとトドメを刺していた。
 俺が買ってあげた頭巾をかぶった老人は、鉄の剣についた血を払って腰の鞘に収めた。
「お見事!」
 俺は拍手をしながら、老人の前に現れた。
「ぐあっ! ナオキ様! いつからそこに!?」
 筋肉ムキムキの老人ことバルザックが俺を見て驚いていた。
「ずっといたよ。やっぱりバルザックだったか。筋肉ムキムキになっちゃって見違えたよ」
「お恥ずかしいところをお見せしました」
 獣人のバルザックは頭巾を取って犬耳を晒して頭を掻いた。
「いくつになっても中二の心を忘れないものなんだと思って感心していたところだよ」
「中二?」
「いや、なんでもない。さあ、魔石と討伐部位を忘れるな」
「もちろんです!」
「皆も手伝ってやってくれ」
 俺は後ろにいた社員たちに声をかけた。
「おおっ! お仲間ですかな? おや、彼女は確か……」
「クーベニアの冒険者ギルドで教官をやっていたアイルだ。久しぶりだな」
 アイルがバルザックに挨拶をした。
「皆、うちの社員だ」
 俺が紹介すると皆それぞれ自己紹介をしていた。
「バルザックはセーラと同じ、俺がこの世界に来て初めての奴隷なんだ」
「ナオキ様に人生を変えられた初めの被害者の一人です。ハハハ」
「おいおい!」
 俺がツッコんだが、社員たちは大きく頷いていた。
「ナオキ様、王都には行きましたか? セーラには?」
「セーラには火の国でちょっと関わった。会ってはいない。まだ魔法学院を卒業してないからな」
「そうですか。いけず、ですな」
「いや、セーラの方が強くなろうとして会わなかったんだ。まぁ、いずれ会うことになるさ。俺は信じて待つだけだ」
「待っている方がこんなに動かれたら、追いかける方はいくつ人生があっても足りませんよ」
 バルザックの言葉に「そりゃ違いない」とアイルたちは納得していた。
「どんな旅を?」
 バルザックはゴブリンの討伐部位である耳を切り落としながら聞いてきた。
「長くなるぞ」
「なら、うちでお茶でも飲みながら話しましょう」
「そうしよう」
 俺たちはバルザックに案内されて、クーベニアの墓地へと向かった。

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