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駆除人 作者:花黒子

~風とエルフを暴く駆除業者~

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234話


「これか。ベルサの親父さんが作ったっていう花畑は」
 目の前には黄色い花の花畑が広がっていた。春の暖かな風が黄色い花を揺らしている。
 俺たちは火の国で商人たちに挨拶周りをした後、そのまま傭兵の国に行き、地峡を渡った。
 セーラとドヴァンもアリスフェイに向かっている最中とのことだが、俺たちは空飛ぶ箒で飛んでいたので姿を見ていない。
 傭兵の国からアリスフェイ王国への道は戦争の間に失われ、草原が広がっているだけ。その草原に南北に続く花畑がある。ここから先がアリスフェイ王国らしい。
 なにも知らずに花畑に踏み込めば、黄色い花の花粉により麻痺状態となるとベルサが説明していた。
「摘んでおく?」
 ベルサが聞いてきた。
「いや、必要ないだろう。在庫は足りてるんだよな?」
「ええ、麻痺薬も吸魔草も砂漠で補充できましたから」
 俺の質問にセスが答えた。
 特に税関や門なども見当たらなかったので、そのまま空を飛んでアリスフェイ王国に密入国。花畑から森へと変わり、トリの魔物やクマの魔物の姿も見え始めた。
 しばらく東に向かって飛んで行くと、石造りの砦が見えてきた。
 アリスフェイ王国と傭兵の国は、まだ国交を断絶しているので砦には寄らず、砦から伸びる道を辿って村の近くの森に降り立った。森から道に出て村に入った。
 村に入った途端に村人たちからは不審がられた。
「冒険者か? いや町の娘? いや、ん? なんだその服?」
 村の子供が、アイル、メルモ、俺の順に指差して聞いてきた。
「いや会社員だよ、坊や。村から東の道を行けば王都に辿りつけるかい?」
 俺が聞くと、会社員がなんだかわからなかったようで、母親に聞きに行っていた。
「食料とか補充するものとかがなければ素通りするけど?」
 俺はセスに聞いた。
「チョクロばかりだったので小麦粉があればほしいくらいです。なければ、別に王都で手に入ると思いますよ」
 確かに、西の大陸ではだいたいチョクロの粉が混ざった黄色いパンばかり食べていた気がする。久しぶりに白いパンも食べたい。
 村人に余っている小麦粉を安く売ってもらい、王都への道を聞いた。
「東の道を行けば王都まで行けますかね?
「あんまり遠くまで行ったことがないからわからないけど、東の道を行ってウエストフェイって町に出ればわかると思うよ」
 優しい村人のおじさんが教えてくれた。会社員と言ってもわかってはくれなかったが、冒険者のパーティだと言うと信用してくれた。肩書はいくつか持っておいたほうがいいようだ。
「火の国と傭兵の国と戦争してたみたいだけど大丈夫でした?」
 戦争による被害がなかったのか聞いてみた。
「ああ、アリスフェイ王国は大丈夫大丈夫。立派な植物学者さんもいるし、アグニスタ家の騎士さんたちもいるからね」
 ベルサの父親とアイルの実家は随分と重用されているようだ。ベルサもアイルもうんざりしたような顔で遠くを見ている。

 村を出て東の道からウエストフェイに向け、徒歩で向かった。
 わざわざ徒歩になったのはベルサとアイルがゆっくり故郷を見て回りたいと言ったからだが、たぶん親や家族がいる王都に行くのを少しでも遅らせたいと思っているらしい。
「いや、生きてるうちに親とか家族には会ったほうがいいと思うぞ。俺なんか、死んで違う世界に来てるから会えもしないし、親孝行もできないんだから」
「それは、ナオキが良好な親子関係を築いていたからだよ」
「貴族ってのは面倒なんだよ」
 ベルサとアイルがボヤいた。
「でも、2人とももう大人なんだしさ。ちゃんと仕事もしてお金も稼いでいるわけでしょ。あ、給料は自分たちで勝手に持っていってね」
「大丈夫、もう貰ってる」
「私たちが忘れるわけないでしょ」
 二人とも抜け目がない。火の国でちゃんとシマント駆除の仕事や災害救助の報酬を受け取ってから来たので、問題はないはずだ。
「じゃあ、いいんじゃないの? 自分の人生歩んでるわけで、親が自分の人生を決めるわけじゃないでしょ?」
「それを全世界の貴族に言ってあげてくれよ」
「本当そうだよ。私が何人の許嫁をぶっ飛ばしたか」
 そう言ってベルサとアイルは溜息を吐いていた。

ウエストフェイは石造りの建物が立ち並ぶ、ヨーロッパのような町並みで、冒険者ギルドもあれば商人ギルドもあった。もちろん、商人ギルドはファイヤーワーカーズではない派閥だ。
宿に泊まり、名産のホワイトシチューを食べる頃にはベルサとアイルは少し腹をくくっていた。
「ウエストフェイまで来てしまったら、もう私たちでも道がわかる。ここら辺は子供の頃散々アイルを連れ回してたところだからね」
「急がなくても明日にはついてしまうなぁ」
「会社のツナギを着て帰ればいいんじゃないですか?」
 メルモが2人に提案していた。
「そりゃ、いいね! 仕事着で帰れば、ひと目で自分の意思が伝わる。顔を見せに帰っただけで、すぐに仕事に向かうってね」
「そうしよ! どうせコムロカンパニーを辞めるわけじゃないんだし、ツナギを着て帰れば、結婚とかうるさく言われることもないだろうしね!」
 2人ともそう言っているが、どうなることやら。
「2人にはついていかないけど、俺たちも王都で仕事は探してるから何かあったら連絡してくれ」
「社長は元奴隷の娘と会わなくていいんですか? セーラでしたっけ?」
 セスに聞かれた。
「ああ、砂漠でちらっと話したし、どうせ今魔法学院に行っても本人は地峡を渡っている最中だろうからいないよ」
 いつか会うことにはなるだろうが、今ではない。
「どうでもいいけど、このパンうまいな」
 黄色いパンも美味しいけど、小麦粉が多いパンは匂いが違う。パンだけで3回もおかわりしてしまった。パンに塗るバターもウシの魔物やヤギの魔物の乳から作った物など種類が多い。イチジクのような果実など甘い果物も豊富だ。
 いろいろな場所を旅してきたが、その中でもアリスフェイの飯は自分に合っている気がした。
「アリスフェイって、いい国だったんだな」
 今更ながら、こちらの世界の故郷の味を堪能した。

 翌早朝、ベルサとアイルに起こされた。
「なんだよ? こんな朝から」
 俺はあくびしながら2人に文句を言った。
「これを着ると仕事したくなってくるからさ」
「実家に帰るのも仕事だと思えば、なにも怖くはない」
 ベルサとアイルはツナギ姿で準備万端といった様子だ。
「朝飯くらい食わせてくれよ」
「王都に着いてからね」
 アイルは俺の荷物を勝手にアイテム袋に入れていった。
 セスとメルモも眠い目をこすりながらツナギに着替えている。
「午前中に親との対面は終わらせて、午後にはクーベニアに向かおう」
 ベルサが今日の予定を決めていた。
「せっかくなんだからゆっくりすればいいじゃないか。まったく面倒な奴らだなぁ」
 俺はそう言いながらもツナギを着た。全然、頭は働いていない。こういう時にコーヒーがあればいいんだけど、
 宿の主人に「こんな朝早くにどこへ?」と聞かれた。
「里帰りです」
 俺たちはそう言って宿を出た。

ウエストフェイの町を東に向かう。
早朝ということもあり、街道の人通りは少なく馬車もいない。霧が出る中、俺たちは走った。ちゃんとした石畳の道は走りやすかったのだが、早い段階で道を外れ森や丘を越える。冬眠から覚めたクマの魔物なんかもいただが、全て無視。移動中、魔物に邪魔されるような社員はいない。俺たちはただベルサとアイルについていくだけ。
1時間後には王都の影が見えてきた。

アリスフェイ王国王都・アリスポート。
高い石造りの壁に囲まれた城下町の外には、早朝にも関わらず、多くの行商人や冒険者たちで賑わっていた。獣人にエルフ、ダークエルフ、小人族、人種も多様だ。皆、門が開くのを待っている。
「大きいですね」
 メルモが壁を見ながら言った。
 霧が晴れてきて、門から伸びる街道に列ができ始めた。
「別に門から入らなくてもいいんだけどね」
 アイルは列に並ぶのが嫌なのかもしれない。
「光魔法で姿を隠せるアイルはいいけど、俺たちは門から入るよ。これだけ大きな城下町だから、仕事もありそうだしね」
 俺としては、どうせ暇なので昼までは仕事をしていたい。
「でも、門から入るときに身分証か冒険者カードを確認されるよ」
 ベルサが教えてくれた。レベルを見られるのか。高レベルの冒険者は国から何か依頼されたりするんだっけ。面倒だな。
 うちの社員たちは全員がレベル100を超え、俺やアイル、ベルサに至っては200とか300とか馬鹿みたいな数になっている。
「私たち保護対象になっちゃうんじゃないですか?」
 メルモが不安そうに言った。
保護されたら、貴族のペットとか探すことになるんだろうか。それとも外交官の護衛とか。もしくは王族の世話か。なんにせよ清掃・駆除業者の仕事じゃないな。
「皆さん、冒険者カードの裏は隠しておくようにお願いします」
 セスが注意した。
自分たちの未来は自分たちで決めよう。こっちはただでさえ、神々の依頼で辟易してるんだから。
 洞窟スライムの粘液と紙くずで冒険者カードの裏面を汚して偽造しておいた。とりあえず、レベルの欄だけは隠しておけばいいだろう。
「これなら、別に門から入っても平気だな」
「こういうとき、盗賊ギルドとかに加入してると便利なんだけど」
 アイルとベルサが言った。
「アリスポートには盗賊ギルドなんてあるのか?」
 俺がベルサに聞いた。
「いや、知らないけど。発展している町なら、それだけ裏もあると思って。住んでた時はわからなかったけど、外から見ると違って見えるもんだね」
 確かに、フロウラの町でも秘密のバーがあった。グレートプレーンズでは星読の民が隠れて歌を歌っていた。光もあれば影もあるのか。

 プゥワァアアア~!
 ラッパの音が鳴り門が開いた。
俺たちは社員全員で中に入る。列が混んでいたためか、門兵は冒険者カードをちら見しただけで俺たちを通してくれた。
門から入るとすぐに広場があり、朝市が立っていた。門の外で並んでいた行商人たちが仕入れてきた品物を売り場にいる商人に渡している。果物、野菜、魔物の肉、それぞれの場所で商人たちが声を張り上げて客を呼ぶ。
俺たちはその中をまっすぐ進み、冒険者たちの後を追った。町並みは西洋的な石造りの建物が多く、どの建物も三階建てくらい。こちらの世界ではわりと見慣れたものだった。
メインストリートの人通りは激しく、門に向かって馬車が渋滞している。入る人たちもいれば、出て行く人たちも多い。都市はそうやって呼吸するように動いているのかもしれない。
しばらく進むと再び広場があり、そこでアイルとベルサと分かれた。俺たちは冒険者たちについて行き、冒険者ギルドに向かう。
 アリスポートの冒険者ギルドは今まで見た冒険者ギルドの建物の中で最も大きく、体育館が2つくらい入りそうなほどだった。中にいる冒険者の数も多い。駆け出しの革の鎧を着て緊張している冒険者から身体に無数の傷を持つ強そうな戦士までいる。
 掲示板を見れば、引越の手伝いや薬草採取、失くした指輪の探索、ゴブリンやワイルドベアの討伐のほか、レッドドラゴンの討伐まである。
「よし、レッドドラゴンでも討伐するか? 飯奢るって言えば来るんじゃないか?」
「社長、依頼を受けるのに僕たちのランクが足りません」
 ちゃんとセスがツッコんでくれた。
「そうだったな」
 俺はFランクから上げてないし、セスとメルモもDランクまでしか取っていない。
「あ、地下道のマスマスカル討伐依頼、ありましたよ! 依頼書がすっかり日に焼けちゃってますけど」
 メルモが暇つぶしにはよさそうな依頼を見つけた。
「じゃ、それで行こう。1匹につき5ノット、銅貨5枚か。クーベニアでもそうだったな」
カウンターに持っていくとギルド職員から、
「それは常設依頼なので討伐部位さえ持ってきていただくだけでいいですよ」
 と言われた。
 冒険者カードを見せなくてもいい依頼らしい。よかった。
 掲示板に依頼書を返しに行くと、盗賊風の男に絡まれた。
「よう、悪いことは言わねぇ。その依頼はやめておいたほうがいいぜ」
 髭面で顔に切り傷があり、服は黒ずくめ。ナイフをちらつかせている。
「わかりやすい人に絡まれたなぁ。もしかして盗賊ギルドの人ですか? 地下道に隠れ家があるとか?」
「な、なぜそれを……!」
「あぁ、そのリアクションはダメだよ。バラしてるようなもんだ」
「くそっ、ハメや、アガッ!」
 盗賊がナイフを取り出したので、メルモが脇腹に一発入れて気絶させていた。
「どうします?」
 セスが気絶した盗賊を近くの椅子に座らせながら聞いてきた。
「どうもこうも仕事の邪魔だよな。聞いてみるのが早いよ」
 再び、カウンターに行って聞いてみることに。
「盗賊ギルドって、町の必要悪だったりします? 壊滅させたら困るようなこととかあったりしますかね?」
「いや……それはないんじゃないですか。見つけたら衛兵に突き出していただければと」
「了解でーす」
 俺たちは、地下道の入口を聞いてから冒険者ギルドを出た。

 地下道の入口は町の東端にあった。
 マスク着用で中に入り、麻痺薬と睡眠薬が入った団子の罠とベタベタ罠を仕掛けながら、奥へと向かう。途中、人がいる部屋があったので燻煙式の眠り薬を仕掛けて、地下道をくまなく回っていった。だいたいいつも通りだ。
 罠を仕掛け終わったら、一旦外に出て朝飯にする。町の東地区にも広場があり、屋台がいくつも出ていた。そこでフィールドボアの串焼きと野菜炒め、それから白いパンを買って食べた。
「やっぱりうまいなぁ」
 朝飯を食べ終えて、地下道に戻ると300匹ほどマスマスカルが状態異常になっていた。全て殺して討伐部位の尻尾を切り取る。部屋にいた人たちは、たぶん盗賊ギルドなので全員、身ぐるみを剥いでから縛り上げて衛兵に報せることに。
「なんかデカいのがいるな」
 探知スキルを展開しながら地下道を進んでいると、やけに大きな魔物が地下道から逃げようとしていた。
追いかけてみると大きなワニの魔物だった。メルモがすぐにメイスで頭をかち割って特に問題もなく処理。クリーナップをかけてワニ皮と魔石を採取し、肉と骨は不味そうなので細切れにして燃やしてしまった。
「盗賊ギルドの番犬代わりだったんですかね? このワニの魔物は」
「どうだろうな。とりあえず、衛兵が来やすくなったかな」
 地下道から出ると、昼間にも関わらず町の北側の空に大きな光の剣が打ち上がっていた。
「あれはアイルさんですね」
「相変わらずですね」
 セスとメルモがつぶやいた。
「やってるなぁ」
 家族との再会は、あまりうまくいかなかったようだ。
『ナオキ、聞こえるか?』
 通信袋でベルサから連絡が入った。
「ベルサか、どうした? そっちもなんかあったのか?」
『ちょっと魔法学院に来てくれ。師匠から私宛に依頼が来てるんだ。結構大変そうでね』
「わかった。冒険者ギルドで討伐部位の換金をしてから向かう。親父さんとは会えたのか?」
『ん? ああ、そんなやつのことは知らない』
なかなか貴族の家族関係は難しいのかもしれない。
「俺たちもファイヤーワーカーズに入ってたら、ちょっとは違ったのかな」
 俺がそうつぶやいた時、北の空にもう一本、大きな光の剣が打ち上がった。町の人たちから「おおっ!」と驚きの声があがった。
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