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駆除人 作者:花黒子

~火の国の商人と立ち合う駆除業者~

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233話


 選挙戦の朝は砂漠のオアシスで迎えた。
空は雲一つない快晴。
『火祭り』が地震によってちゃんと終われなかったので、選挙と新年のお祝いに大きな木製の人形を燃やそうということになったらしい。それが火の精霊のためにもなるのだとか。本当かどうか知らないが、現在、火の精霊は楼閣の船底のたうち回っている頃だろう。周りの各国で『砂漠の大輪デザートダリア』の避難訓練をやって散々、人々を恐怖のどん底に落としたのだから。悪魔になるのも近いか。
 火の勇者は火の精霊の姿を見て、不安そうにしているかと思ったら、ケロッとして、にこやかに集まった商人たちに手を振ったりしている。
「さすがカリスマ。どういう心臓してんだよ」
 火の勇者の近くには通信機を持った記者の姿があった。それまで記者という職業自体珍しかったのだが、通信機の登場で、一気に人気商売になったらしい。選挙の様子は火の国全土に放送され、周辺各国に盗聴されている。
「神様、聞こえますか?」
 俺は通信袋を握りしめて声をかけた。
「コムロ氏の上にいるよ」
「え!?」
 宿の窓から上を見上げると、神様の足があった。
「神様いるなら言ってくださいよ」
「ここにいるよ」
 なに山テルマかな。
「ふざけたこと考えてないで、ちゃんと策は練ってきたんだろうね?」
「俺の心の声を見透かせるなら、知っているでしょうに」
「コムロ氏、当たって砕けろはダメだって!」
「しょうがないじゃないですか。俺は、一介の清掃・駆除業者ですよ。政治家の秘書でもないし、弁論家でもない。そんなやつに勇者駆除の依頼を頼むほうがおかしい」
「そうは言ってもね。コムロ氏がちょうど枠に嵌ったんだからしょうがない」
 人の人生を宝くじの当選番号みたいに決めるなよ。
「邪神も火の精霊が悪魔になるって言うんで、どこかに潜んでいるはずだよ。強すぎるまま悪魔になっちゃうと、あとでこっちが大変だからちゃんと弱らせてね」
「がんばりまーす」
 ヤケクソ感が出てきた。正直自信なんてない。ただ、あの野郎だけは、人を人とも思わないあの勇者だけは許さねぇ、という気で臨む。

 大歓声のなか迎えられた火の勇者は、両手を挙げ、観衆である商人たちに笑いかけた。
「お集まりの皆様ようこそ! 今日この日を迎えられたことは火の精霊様にとっても、この国にとっても、大変喜ばしいことだ。昨年はつらいことがいくつもあったが、今年は、今年こそはこの国の商人たちにとって飛躍の年にしたい。それができるのは火の精霊の加護をもっとも多く受けた俺以外にいるはずがない! さぁ、この日のために作った! 見てくれ新型、飛行船だぁ!」
 火の勇者が両手を振り下ろした方向から、
ゴゥウウウン、ゴゥウウウン。
という音が聞こえ、砂丘から飛行船が登場した。
前の飛行船より小ぶりだが、機能性を感じさせるアーモンドのようなフォルムが特徴的。スピードも前のより遥かに速いらしい。アーリムが言っていた。
飛行船が半壊し修復途中の楼閣の前に降下すると、集まった大群衆から拍手と歓声が沸き起こった。今日イチの盛り上がり。俺たちにプレッシャーをかけているつもりか。すげーかかってるぜぃ! まだ候補者演説の前だというのに、はしゃいでやがる。
「静粛に! 静粛に! 続いての候補者をお呼びします! レイクショア商人ギルドのギルド長・サムエル!」
 選挙委員である砂漠のギルド長がサムエルさんを壇上に呼んだ。
サムエルさんはまっすぐに壇上に向かった。家族も一緒、俺とアフィーネと、産着で隠れているがその息子も一緒。誰からも拍手や歓声はない。静かだった。観衆からは「なんで出てきたんだよ」「火の勇者以外に立候補者なんていたの?」という視線をビシビシ感じる。それでも俺たちはまっすぐ前を向き、サムエルさんのあとに続いた。
「レイクショアで紙問屋を営んでいるサムエルだ。商人ギルドのギルド長で、ここにいる子どもたちの父親で、彼女の夫でもある」
 サムエルさんは自分たちの家族を紹介しながら言った。
「今日はどうしても伝えたいことがあって来た。どうか火の国にいる商人たちに聞いてほしい」
「このまま、候補者演説に移るか?」
 頭にターバンを巻いた砂漠のギルド長がサムエルに聞いた。
どちらが先でも勝つのは火の勇者だと思っているのか、聴衆たちから「さっさとやれー」「日が暮れるぞ!」とヤジが飛ぶ。最後に笑っているのはどちらか、決着をつける時だ。
「私が先でもよろしいですか?」
「ああ、もちろん。どうぞ」
 サムエルさんが聞き、火の勇者が返す。
「お集まりの皆さん、どうもサムエルです。昨年、私が住んでいるレイクショアという湖畔の町の近くでシマントというアリの魔物が大発生しました。ここにいるコムロさんが営むコムロカンパニーという会社がそれを駆除していなければ、火の国全土に広がっていたでしょう。その節はありがとうございます。そして、シマントの駆除が終わったと思った途端、大地震が起こりました。先代のレイクショアのギルド長はこの時亡くなったのです」
 サムエルさんはうまく話せていないのか、苦しそうな表情をした。
 がんばれ! がんばれ!
「この時町を助けてくれたのもコムロカンパニーさんです。ありがとう」
 お礼はいいから続けて。
「先代が亡くなり、私がレイクショアのギルド長になって、大きく人生が変わりました。町では地震で倒壊した家の建築資材が足りず、私はどうにか調達するため、ここ砂漠のオアシスで開催された『火祭り』に初めて参加しました。そこで、いろいろな人と出会い、素晴らしいギルド長と出会い、私は変わりました。一地方の町のことを考えるのではなく、国として全体を見るという視点を教わったのもこの時です。それまで遠かった外国が急に近くなり、その関係にも興味がわきました。ただの紙問屋だった私が傭兵の国やグレートプレーンズとの関係を考えたり、同じく地震の被害を受けたスノウフィールドのことも心配するようになっていました。大きな変化です。もしかしたら、通信機が広まった今の火の国でそういう人も多いかもしれません。でも、変わらないものもあります。家族です。困った時、神でもなく精霊でもなく、やはり家族なのです。どんなに落ち込んでいても家族だけは助けてくれる。私たちの商人ギルド、ファイヤーワーカーズも家族です。地震で苦しんでいる時、旅費を受け取らずに『火祭り』まで行けたのは、ファイヤーワーカーズのおかげです。皆さんこれをお持ちですか?」
 徐々に乗ってきたサムエルさんが懐から『火族』と書かれた紙を取り出して、見せた。
「困っている人がいたとして助けてくれるのは、神様でもなく精霊様でもなく、私たち家族です。商売には燃える火のように、強火のときもあれば弱火のときもある。『火の国の商売人は、皆家族だ。頼り頼られながら生きる』、それを信じて私は商売をしてきました。ですが、ここ最近の一家の長は話を聞いてくれません。スノウフィールドの採石場で魔石を採掘している業者の話を聞かず、突然、傭兵の国とそれまでの縁を切ってしまったり、本を貸してくれたエディバラに戦争を仕掛けようとしたり、まるで私たちの話など無視しているかのようです。皆様には家族として今一度、考えていただきたい。本当に火の勇者様がこの国のリーダーでいいのか。家族の長でいいのか。皆様には再考していただきたい。私の話はここまでです」
 ん~ナイスファイト! ナイスファイト! 誠実ではあった。
「続いて、火の勇者・スパイクマン!」
 砂漠のギルド長が言うと、火の勇者は壇上をゆっくりと歩きながら話し始めた。
「確かに、昨年火の国で起こった大地震の時に真っ先に駆けつけたのは、そこにいるコムロカンパニーの面々だ」
 火の勇者は俺を指差していった。
「探知スキルを持っている社長が、次々と救助していく姿を何人も目撃している。火の精霊の加護をもっとも受けている火の勇者として、恥ずかしい思いはある。だが、国土を広げ、商人たちから重い税も取り上げずに、もっともこの国のことを考えてきたのは、この俺だ。ぽっと出のギルド長なんかとは歴が違うし、通りすがりの旅の業者なんかがこの国のことをわかるはずもない。俺はいつでも、この国でできる最善手を打ってきた。スノウフィールドの採石業者たちには無理をさせたな、ただそれが最善だったんだ。君たちが頑張ってくれたお陰で、大きな見返りを約束することができるよ! 傭兵の国との同盟を破棄したのはもう戦争をする必要がないからだ。一撃でいい。たった一撃で大陸中がわかるだろう。もっとも偉大な火がなんなのか。『砂漠の大輪デザートダリア』はたった一撃で、最小限の犠牲で戦争をも終わらせることができるんだ。もっとも効率よく魔法国・エディバラを攻略し、西の海への販路を広げる。俺が、この後すぐに新型の飛行船に乗ってエディバラに向かう。そして、その後にある莫大な利益を君たち火の国の商人たちにもたらすことができると約束しよう!」
 火の勇者が両手を広げると、聴衆たちから歓声と拍手が起こった。
「これができるのはこの国で唯一人、火の精霊の加護をもっとも受けた男、火の勇者であるスパイクマン、そう俺だ!」
 会場のボルテージは一気に上がり、拍手喝采。「スパイクマン」の大合唱だ。
「火の国の商人たちは家族だ! 家族の商売への情熱という火に水をぶっかけて絶やすようなことは止めろ! 今がまさに強火中の強火! 外炎火炎業火炎上! ここで引けば火の勢いが消えるぞ! 俺に任せろ!」
 勝負あった。カリスマとはこういうものだ。どんなに誠実に語っても、盛り上げたもの勝ちだ。隣で聞いていたアフィーネも目をつぶって渋い顔をしている。だけど、火の勇者という席からは外れてもらう。
「よう! 勝ったと思っているところ悪いけど、せっかく俺も壇上に上ったんだ。応援演説くらいさせろ! いいでしょ?」
 俺は砂漠のギルド長に言った。
「ああ、応援演説の話は聞いている。それにコムロカンパニーに話を聞かないと『火祭り』が終われない気がするしな」
 砂漠のギルド長は大きな木製の人形を見上げた。
「どうも! コムロカンパニー社長のコムロだー!」
 思いっきり初めにカマしてやろうと思ったが、空気は全部、火の勇者に持っていかれてる。
「盛り上がっているところ悪いけど、その燃え盛っている火ってやつについて皆に質問がある。なぁ、火ってなんだ? 誰でもいい、火がなんなのか説明できる奴いないか?」
「火は火だろ!」
 観客の1人が叫んだ。
「火は火って当たり前だろ。説明をしてくれよ。俺はよくわかんねぇから」
 笑いながら言うと、観客たちも笑ってくれた。
「じゃあ、火について、火の精霊様がなんて言ってたか教えてやろうか? っていうか、火の精霊様にあったことある人ー!?」
 俺は手を上げて、もしあったことがある人がいたら、手を上げるよう促した。火の勇者、ただ1人だけが手を上げた。
「そりゃ、火の勇者はな。で、火の勇者さんは火がなんなのか聞いたことは?」
「いや、ないな」
 火の勇者が答えた。
「だろうな。火っていうのは日常に溶け込んじまって、なんなのか疑問すらわかないのが普通だ。ちなみに、俺は火の精霊様に一度だけ会ったことがある。羨ましいか?」
 聴衆に聞いておどけてみる。
「羨ましくねぇよ!」
「ほんとはちょっとうらやましいぞ!」
 ノリのいい聴衆から返しもきた。
「とんでもない美人だ。髪は黒髪、肌は血管が透き通るほど白く、少女のあどけない可愛さと、妖艶な熟女のエロさを兼ね備えている。そりゃ火の勇者が惚れ込むわけだ。あの姿を見て惚れない男はいない」
 聴衆から溜息に似た吐息が漏れる。
「そんな火の精霊様に俺は仕事してんの? って聞いてみたんだ。そしたら、なんて答えたと思う?」
 一瞬間を置いた。
「『寒い夜に旅人を焚き火で暖め、泣いて帰ってくる子のため母が料理を作る時、それを温めるのは私の役目。畑に木々や害虫が増えれば焼き払い肥料にし、病に伏せる者あれば湯を温めて治してやる。暗闇に迷い人がいれば、道を照らす。全て私の仕事だわ。なにか不備でもあったかしら?』ってね。それはそれは鈴の音を聞いているような心地よい声で答えてくださった。でも、本当にそうか? なぁ、あんた、火を見て落ち着いたことはあるか?」
 一番前にいた青年の商人に聞いてみた。
「ああ、あるよ。ずっと見てると落ち着く」
「砂漠のギルド長は?」
「無論、ある。行商人なら宿が取れなければ、必ず夜に焚き火をするからな」
「でも、それってさ。落ち着いている時に見てるからじゃないの? さっきみたいに『うぉおおお!!』って盛り上がってる時に見たら、大炎上しているように見えない?」 
 俺は指先からマッチで点ける程度の火を火魔法で出した。
「この火がただの種火に見えるか、内なる闘志に見えるかは人それぞれだろ? この大きな木製の人形が燃えているところを想像した人はいる? ずっとこの人形は燃えるのを待っててくれたんだから、そりゃいるよな?」
 再び自分で手を上げ、聴衆に手を上げさせてみた。
「それってどんなふうに見えた寂しい感じ? それとも盛り上がっている感じ?」
「なんか祭りが終わって悲しい感じ……」
「これで商売が繁盛するぞーって感じかな」
 聴衆の何人かが答えてくれた。
「やっぱり人それぞれだろ? つまり火っていうのは人の心次第で、どういうふうに見えるのか変わるってことだ。水が人の姿を映す鏡なら、火は人の心を映す鏡なんじゃないかって俺は思ったんだよ。ちなみに俺が前にいたところでは火は、ただの燃焼という現象にそう名付けただけ。それ以上でもそれ以下でもないって言われていた。雨が降るのと変わらない。寒い日に水が凍るのとなにも変わらない。火はただの火。崇める必要もなければ、恐れる必要もない。ただの現象だから、さっき答えてくれた人は正解だったんだよな」
「そうなの!?」
 さっき答えてくれた人がそう叫んだことで、ちょっと笑いが起きた。
「さて、じゃ、火の精霊様が言ったことを思い出してみよう。寒い夜に旅人を焚き火で暖めているっていうけど、旅人は焚き火を見て自分の心を見ているだけじゃないか? 火は現象だから勝手に体が温まってるだけでさ。泣いて帰ってくる子のために母が料理を作る時、それを温めるのは火って言うけど、母のぬくもりとかのほうが泣く子には効果がありそうだ。畑に木々や害虫が増えれば焼き払い肥料にするといいっていうのは人の営みの中で培った人の知恵だ。病に伏せったら湯が効くことを教えてくれたのは先人たちだろう。暗闇で迷って火を点けて、助けに来てくれる奴のことを俺たちは友人と呼んでいるんじゃないか。いつでも火に思いを込めるのは人だろ? 君らはファイヤーワーカーズだから、なんでも火に例えるけど、それは本当に正しいことなのか? 火は火でしかなく、火の名を借りて、火の勇者が火の国の商人たちを誑かしているだけかもしれないよ」
「俺は火の国の商人たちを誑かしてなんかいない!」
 火の勇者が叫んだ。
俺はまっすぐに火の勇者を見た。
「そうか、なら火の名を借りずに事実だけを追っていこう。今日は美人を連れてきたんだ。アフィーネさん、こちらに」
 アフィーネが俺の側まで来た。
「この方はかつて火の国が魔石を採掘していた村、マジックパウンドで専門職に従事されていた方だ」
「見ての通り、元娼婦よ」
 アフィーネは自分の過去に嘘をつかない。そりゃ、ちょっとカッコよすぎるんじゃないか。
「アフィーネさんは魔石を採掘していた穴のすぐ近くに住んでいて、村の井戸の水を飲んでいましたね?」
「そうね」
「あなたが産んだお子さんを見せてあげてくれますか?」
 アフィーネは自分が産んだゴブリンのように額に角が生えた赤ん坊を聴衆に見せた。
「ひぇっ!」
「魔物だ!」
「ゴブリンだ!」
「そんな誰だかわからないようなやつとやるから、呪われたんだ!」
 俺は最後に言った聴衆を指差した。
「そうか? あんたの息子、あんたより隣りにいる奴に似てるんじゃないか?」
 俺がそう言うと、そいつの周囲で笑いが起きた。
「別に角生えているからって誰も取って食いやしねぇよ。アフィーネさんはすげぇ人だ。たとえ魔族を産んだとしても我が子を愛してしまうのが母親だと言って、この人は単身、魔族の国に行ってこの子を育てている。アフィーネさんだけじゃない。マジックパウンドで娼婦をやっていた人たちのなかにはこういう魔族を産んだ人たちが大勢いる。そして、その産んだ子のほとんどが森に捨てられた。その中で母と子として暮らしているアフィーネさんたちは本当の強さを知っている人たちだと思う。母と子の力、ファイヤーワーカーズがいう家族の力ってやつだよ。どうもありがとう」
 アフィーネさんは「もう、いいの?」と言って下がった。
「彼女は自分を魔石の採掘場の被害者だとは言わなかったけど、君たちはどう思う? いや、少なくとも捨てられて亡くなった子もいただろう。子を産み、受け入れられずに泣いて立ち去った母親は被害者じゃないだろうか? もちろん魔石採掘の被害者は彼女たちだけじゃない。横穴を掘っていて生き埋めになる者たちは何人もいる。恨みが募って、魔物へと変わるものも多い。それはマジックパウンドだけじゃなく、スノウフィールドでもそうだった。それで何人が死んだ? 彼らは確実に被害者だろ? その彼らが掘った魔石で『速射の杖』を作り出し、戦争をしてまた人を殺す。その犠牲者、一人一人に家族がいるんだぞ」
「待て! 詭弁を弄するな! 魔石採掘で得た魔石はなにも武器にだけ使っていたわけではない。魔石灯やヒートボックスなどの魔道具にも使っている!」
 火の勇者がツッコんできた。
「それもおかしいんだ。他の国を見てくれ。どこも魔石の採掘なんてしていないのに、暮らしていけているだろ? つまり多くの冒険者を受け入れれば、魔物を退治した時に出る魔石で魔道具は賄えるということだ。ヒートボックスは暖炉と薪があればいいし、魔石灯もほら、楼閣みたいに提灯にすればいいだろ? 俺は採りすぎていると思うし、その採りすぎた分は武器に流れていってると思うけどね」
 俺は再び聴衆の方を向いて話し始めた。
「さて、魔石の採掘で何人も死んだわけだけど、地震でも何人も死んだね。実はもしかしたら、魔石の採掘場所である魔素溜まりではよく地震が起きるかもしれないんだ」
「嘘をつけ! 推論の域を出ないと調査書にはあったぞ」
 火の勇者がまたも口を挟んできた。しかも俺たちの調査書を読んでいるらしい。
「俺たちはこの大陸で3つの魔素溜まりを発見し、3つとも大なり小なり地震が発生していることがわかったんだ。『魔体術』という武道の師匠も似たようなことを書いているんだけど、それでも魔石採掘は続けるのかどうか、火の勇者に任せていたら、どうせ採掘すると言うに決まっているが、俺はぜひとも今、俺の言葉を聞いている商人全員に問いたい」
 俺は聴衆を見回し、なるべく目を合わせにいった。一人一人に語りかけるように。
「それから最後に、これは未来のことだからなんとも言えないけど、本当に『砂漠の大輪デザートダリア』を使えば、戦争が終わると思っているのか? 広範囲殲滅の兵器を使いさえすれば戦争が終わると本気で思っているのか?」
「ああ、我々の魔道具の技術を見せつけさえすれば、戦争にすらならないと思っているね。そしてそれが俺たちの結論だ」
 我々じゃなくてアーリムのだろ、という言葉は飲み込んだ。
「傭兵の王からの言葉だ。『そんなんで戦争がなくなるかよ。商人の国だってのに、人の業がまるでわかってねぇようだな』。俺もこの意見には賛成だ。なぁ、火の勇者さんよ。必ず火の国に復讐するって業を背負った奴らの火によってあんたの親友は殺されたんじゃないのか? ネイサンは業の火によって殺されたのに、まだわからねぇのか? ああ、火を使っちまったな。まぁとにかく、俺が言いたいのは魔石採掘と戦争で、誰かの家族が死んでるってことだ。それを続ける限りずっとな。それを最小限の犠牲だと!? だったら、これを飲んでみてくれよ!」
 俺はそう言って、魔族領にある地底湖の水をコップに入れて火の勇者に差し出した。
「これは、アフィーネさんがマジックパウンドでずっと飲んでた水だ。スノウフィールドでも俺たちが調査しなければずっと飲んでいた水さ。あんたがスノウフィールドの採掘業者にさせていた最善の無理の1つがこの水だろ? さぁ、飲んでくれ! あんたも採掘業者たちと同じファイヤーワーカーズの家族だろ?」
「……」
 火の勇者は俺が差し出したコップを受け取らず、黙ったまま下を向いた。
「『無理をさせた、ただそれが最善だった』だぁ!? ふざけんじゃねぇよ。何人死んだかもわかってないくせに最小限なんて言葉を使うんじゃねぇ! このコップの水も飲めないあんたに、家族の最善と最小限のなにを知ってるっていうんだ!? 改めて火の国の商人たちに問う! この火の精霊が甘やかした勇者の火についていくのか、それとも家族についていくのか! 自分が最も辛い状況に追い込まれ、心が冷え切った時、火の国の商人たちはどちらに温められたいのか、ただの火か、それとも家族のぬくもりか!? それを投票してくれ。俺からは以上だ」
 俺はアフィーネと一緒に壇上から降りて、宿へと向かった。
「ちょっと喋りすぎたかな?」
「そうね、喋りすぎね」
 俺もそう思う。というか勇者を駆除できたかどうかがわからん。
 ただ、集まった商人たちは議論を続け、通信機の向こうにいる商人たちも誰かれ構わず話し始めて収拾がついていない。どうなることやら。

「神様、どこにいます?」
 俺は宿に帰って通信袋で神様を呼び出した。
『ああ、楼閣にいるよ。邪神も一緒だ。面白いもんが見られるよ』
 俺は空を飛び上空から一気に急降下して、楼閣の崩れたところから中に入った。
 船底の扉を開けると、神様と邪神が魔法陣の中にいる火の精霊を見て笑っている。
 魔法陣の中にいる火の精霊は、一回りどころか拳大のサイズに小さくなってしまっていた。しかも人の姿ではなく、炎の中に目と口がある感じ。ちっ、完膚き無きまでとはいかなかったか。
「なんだこりゃ。なんでこうなった? フハハハ」
 邪神が笑いながら神様に聞いた。
「さあ? コムロ氏が火を崇拝も恐怖もするなって言って、ただの火になったからこうなったんじゃない? コムロ氏はどうしてこうなったと思う?」
「俺が前にいた世界では、精霊も悪魔も実際にはいませんでしたから、空想の産物だったんです。俺にとって、この世界の精霊とか悪魔って、水とか火が擬人化してる姿に見えるんですよ。人の気分によって精霊にも悪魔にもなるんだったら、人々が想像している精霊の擬人化も解けるんじゃないかって思ってやってみたんです。とはいえCとO2からCO2に変化したとか言っても伝わるわけないし、聴衆がどう聞いているのか伝わるように探りながら、こんな感じかなぁって」
 結果オーライだったかな。
「おっ、彼氏が来たぞ」
 邪神が扉を見つめた。
 扉が開き、火の勇者が入ってきて、俺たちがいることに怯え始めた。
「まぁ、彼女を見てやんなさいよ」
 神様がそう言って、火の勇者が魔法陣の中の火の精霊を見て愕然としていた。
「フフフ、もう俺たちはいいだろう。二人の世界にしてやろう」
 邪神がそう言うと、神様と邪神はふっと消え、俺も扉から出ていく。
 扉を出る時に振り返ると、火の勇者は虚空を見つめたまま、床に尻もちをついていた。
 選挙の投票の結果を集計するのに、2、3日かかるらしい。不正などなければいいが。

 翌日、火の勇者は小さくなってしまった火の精霊を連れて、飛行船で北へと消えた。
 目撃者も多数いて、提灯にいる何者かと話しながら、飛行船に乗り込んだという。
「えーっと、こうなっちゃうと、選挙結果とかどうでもよくなっちゃったんですけど、俺たちは勇者駆除の依頼達成でいいですかね?」
 俺は神様に連絡を取った。当初の予定通りになってしまったが、火の国から勇者を追い出したわけだから駆除には違いないはずだ。
『ああ、いいよ~。なんかこちらも不思議なものを見せてもらって、得した気分だよ』
「で、報酬についてなんですけど、結構貯まってると思うんですよね」
『あ~、ね!』
「今度まとめていくつかもらいますから、よろしくおねがいしますね」
『あ~はいはい』
 社員たちにも聞いておかねば。

「今回は本当にありがとうございました!」
 俺はサッサさんに連絡した。
『ああ、いやいや、こちらこそだよ。南半球から帰ってきても、相変わらずのコムロカンパニーだよね』
「そうですかね。とりあえず、あんまり俺は知らないんですけど、エディバラの方々にもお礼をお伝え下さい」
『むしろ、お礼をされる側だと思うんだけど、わかった』
「では、また」
 大人なのに通信袋で済ませてしまうのはどうかと思ったが、ちょっと俺も疲れたので勘弁してもらおう。
 ボウと傭兵の王は、火の勇者がいなくなった翌日にお忍びで砂漠のオアシスまで来ていた。随分、仲良くなっているらしい。ボウはリタが妊娠中だから早めに帰ったほうがいいと思うけどな。
 とはいえ、うちの社員たちと一緒に全員で飲んだ。
 選挙結果は、3人が3分の1ずつくらい取ってしまい、すでに火の勇者もいないので、サムエルさんと俺の決選投票になるという。
「いやいや、俺はそもそも立候補してないんですけど!」
 サムエルさんが火の国のトップということになった。
 俺たち全員でサムエルさん一家に会いに行くと、家族全員から抱きつかれた。
「まさか、こんな大役、本当になれるとは思いもしませんでした」
「演説は練習したほうがいいかもしれませんね」
 誠実さだけじゃやっていけない場面も多々あると思うので。

「よーし、じゃあ、点けるぞ~!」
 選挙が終わって3日めの夜、砂漠のギルド長が大きな木製の人形に火を点けた。
 燃え盛る人形を見ながら祭りの終わりを感じた。

「さて、アリスフェイに帰りますか」


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