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駆除人 作者:花黒子

~火の国の商人と立ち合う駆除業者~

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228話


 スノウフィールドの町に行くと、歓待を受けた。
 俺たちが町に入り町人たちが拍手をし始めると、火の勇者・スパイクマンもスノウフィールドの商人ギルドギルド長・ネイサンも拍手をしてくれた。
 俺に抱きついてくるおばちゃんまでいる。どうやら俺が瓦礫の中から助けた人の親族らしい。
「困ったときはお互い様です。いつか俺も困ったことになります。そん時は助けられそうだったら、助けてください」
 それだけ言って、ネイサンとスパイクマンに挨拶し、宿を取ることに。宿といっても、今は復興している最中なので、商人ギルドの2階にある一部屋を貸してもらう。ベッドは人数分ないので、床に魔物の毛皮を敷いて、雑魚寝になる。
「大変な人気じゃな」
 ウーシュー師範が俺たちを褒めた。
 とはいえ、火の国の包囲網を作ろうとしているので気持ちとしては複雑。いずれ石を投げられそうだ。
「さて、どうやって魔素溜まりの調査をします?」
「ふむ、儂らは魔力溜まりと呼んでいるが、お主たちは魔素溜まりと呼んでいるのだな」
 そもそも魔素とは俺が前の世界の知識である元素からきている。実際のところ、魔素溜まりだろうが、魔力溜まりだろうが、どちらでもいいのだが、空気や酸素を絡めて『魔体術』の門徒たちに説明した。
「ほう。それはなんというホラ話じゃ」
「いえ、ウーシュー師範。私も霧のように魔力が見える時があるのです」
 ウーピーが反応してくれた。
「魔素と考えたほうが、シンメモリーや小さな微魔物なんかの説明はつきやすいよ」
 ベルサが言った。
「ふむ、実証された知識と申すか?」
「よければ、論文も書いたから読む?」
後にウーシュー師範はベルサの論文を読んで「魔物学者どのはすごいな」と驚いていた。
「とにかく、調査としては、あの奥にある魔素・魔力が溜まった場所と周辺の魔石、それから住民たちへの健康被害がないかどうかです。魔力探知による周辺の植物や家畜の調査と、聞き込みもやっていきましょう。準備するものは?」
「できれば、魔法を使わずに穴を掘りたい。魔力溜まりにある魔力が魔法の影響で爆発するとも限らん。金属も鉱石に当たると火花が散るから危険かもしれん」
 まるで魔素がガスのような扱いだ。
「木のスコップや石のツルハシが必要ですか?」
「そうじゃな」
「拳じゃダメなのか? そっちのほうが早いよ」
 アイルが聞いた。道具を使わない気らしい。
「お嬢さんや、それはお主の手が壊れるのではないか? 嫁入り前の……」
「んっ……!」
 ウーシュー師範が話し終わる前に、アイルは加熱の石に使う拳大の石を取り出し、握って砕いていた。
「私の手なら問題ない。これくらいできなきゃうちの会社では務まらないから、皆できるよ。他に必要なものは?」
 粉々になった石と手のひらを見せて言った。それでウーシュー師範は黙ってしまった。
「休息と食事ですね。できれば、それぞれペアかチームを組んで、仕事を回していったほうがいいかもしれません。採石場に入った次の日は住民たちへの聞き込みに回るとか。それは紙とペンもあったほうがいいです。あとは魔石灯かなにか、魔力の強さ、魔素の濃さを計れる魔道具があると便利かと」
 ウーピーが提案してきた。
「わかった。すぐに用意する」
 地震でいろんな建物が崩壊しているとはいえ、燃えていなければ商品は残っているはずだ。聞き込みをする対象が妊婦だったりすることもあるので、できるだけ男女でペアを作る。10人5組、ウーシュー師範は人手の足りないところを手伝ってもらう。俺はウーピーとペアになった。
 採石場の魔素溜まりの調査、周辺の植物や家畜の生態調査、住民たちへの聞き込み、足りない物の補充と料理兼復興支援、休息と仕事を5つ分け、一日交代で回していくことに。6日目は全員の休日。俺たちは南の漁村まで行って、海の害獣たちを駆除しにいく。
 調査の計画が立ったので、ネイサンにも報告しにいくと、
「おおっ! 頼みます。コムロくんなら対応策もさくっと作ってしまうんじゃないかな?」
「まだなんとも言えませんよ。それを含めての調査ですから……地震の原因なんじゃないかって前の『魔体術』の師匠は言ってたみたいですけどね」
「そんなホラ話みたいな調査結果にならないことを祈るよ」
 やはり、地震の原因というとあからさまにホラ話と決めつけてくる。
「それより、この通信シールって結構魔力を使うけど、すごい便利だね。魔道具屋がすごい褒めていたよ」
「そうですか。ありがとうございます」
「できれば商品化したいと……」
 やっぱり、きたか。
「すでに試作品を作ったみたいなんだけど見てくれるかい?」
 なんだその魔道具屋、仕事が早いな。
 ネイサンは俺に古い蓄音機のようなものを見せてきた。ラッパ状になっている部分で声を増幅させるようだ。台の中に魔石が入っていて、そこから魔法陣に魔力を供給できる仕組みになっている。ただ、台の木製部分に彫られた魔法陣ではそもそも声が飛ばせない。製作者は魔法陣学のスキルを持っていないのか。
「いいんじゃないですか。ただ、これだと使えないと思いますけど」
「やはり、か……コムロくんは魔法陣学も取得しているのかい?」
「ん? ん~まぁ……」
 答え難いな。火の国の商人は利用価値で人を判断するという言葉が頭のなかで回っている。
「どのくらい!? どれだけ勉強すれば、魔法陣がわかるようになりますか!?」
 突然、部屋に赤髪の中年女性が入ってきて俺に聞いてきた。身体はずんぐりとしている。
「あなたはドワーフ族ですか?」
 中年女性はこくんと頷いた。北半球では少ない種族のはずだ。
「これはあなたが作った?」
 蓄音機型の通信機を指して聞いた。
「そうです。私が作りました。長寿のエルフでも魔法陣学を極めた者は史上1人か2人と言われているなか、どうやって人族のあなたが魔法陣学を!? スキルレベルはいくつですか?」
 それは前の世界での知識とレベル上げだとは言えない。
 ただ、そういうつぶらな眼で見られると、メリッサを思い出して、カッコつけたくなってくるな。
「古今東西あらゆる書物を読み、常識にとらわれず、曇りなき眼で見定める。調査の上、実験と仮説を繰り返し、実証していく。他にやり方があるか?」
 ここで、とびきりのドヤ顔。
「っ……」
 ドワーフの彼女はドヤ顔に面食らいすぎて声が出ていないようだ。メリッサなら、「カッコつけてないで教えな!」と腹を殴ってくるところだが、違ったようだ。
「ハハ、すみません、からかいすぎました。知り合いに似ていたもので」
「ネイサン様、たった今より私はこの方の従者になることを決心いたしました! つきましてはネイサン様の従者を辞任したくお願い申し上げます! 先生!」
 ドワーフの彼女は俺に飛びかかってきて、腕にしがみつくようにぎゅーっと握られる。この辺はどのドワーフも同じなのか。
「アーリム。コムロくんが困っているから離れなさい。君は残念ながら、まだ僕の従者兼魔道具屋だ。自分の工房で控えていなさい」
「んんんんん~~」
 ドワーフの彼女は心底悔しそうな顔で歯を食いしばり、部屋を出ていった。
「すまないね」
「いえ、魔法陣もわからずここまで作り上げるのはすごいですよ」
 俺は通信シールの魔法陣を、紙に描いてネイサンに見せた。チャンネルは1個なので、いくつ作っても全員に声が届く。相互ラジオのようなものだ。商品の宣伝にはぴったりだし、災害があっても全員に伝わる。もし俺たちが盗聴しようと思えば、簡単に盗聴できる。
「どうぞ、これを彼女に渡してあげてください」
「わかった。これさえあれば各地方の商人ギルドとも連携が取りやすくなる。報酬は上乗せしておくよ。春には必ず」
「お願いします」
 俺がネイサンの部屋を出ると、アーリムと呼ばれたドワーフの中年女性が待っていた。
「先生。お名前だけでも教えてください!」
「ナオキ・コムロだ。アーリムさん」
「いつか、必ず教えを請いに伺います」
「うん、俺もいつかあなたに会わせたい人がいる。その日が早く来るといいな」
 いつか北半球と南半球の境にある壁がなくなれば、メリッサとアーリムも会えるだろう。
 俺は握手だけして、商人ギルドを出た。
 商人ギルドの前にはウーピーが待っている。今日は俺とウーピーが採石場に入って調査。
「すまん、ちょっと話が長引いた」
「いえ、行きましょう」

 俺たちはその後、24日かけてスノウフィールド周辺を調査した。
 結果、採石場の最奥の部屋の壁の向こうにある、魔素溜まりの地下深くにはとんでもない量の魔石が埋蔵されていることがわかった。
 地下に潜れば潜るほど、魔石が増えていき、魔石灯を当てると壁一面が光り輝いた。しかし、それに伴い『魔体術』の門徒たちは魔力過多に陥り、俺たちが魔力の壁で覆って、身体に吸魔剤をふりかけなくてはいけなくなった。
「ありがとうございます! ナオキさんの近くにいればもう大丈夫です。調査を続けましょう」
 と、ウーピーは言ったが、かなりつらそうではある。
 ただ、ウーピーたちが無理したおかげで、地下深く、固い地盤の下に龍脈と思しき魔素の流れが存在することがわかった。ただ、そこまで行くと俺たちも魔力過多に陥るほど、魔素が濃い。正直、どんなに埋蔵量があっても採掘には向かないだろう。
 周辺の植物は、ツーネックフラワーの亜種や赤い葉のアロエなどが突如群生し始めるというわけのわからない異変が起こっていた。また、家畜のゴートシップが急に走り出して崖から飛び降り、それにつられて他のゴートシップも次々と崖から飛び降りる事故や、真夜中にフィールドボアが共食いを始めるなどの事故が多発していることがわかった。
町の人たちも魔力過多による不眠症の患者が増加し、吸魔剤が飛ぶように売れる。
水はなるべく井戸水を使わないよう言い、近くの森の小川に流れているものや、雪を溶かして沸騰させたものを使うよう勧めた。本当言うと違う地方から運んでくるのが一番なんだけど、水は重い上に腐ると飲めなくなるので、砂漠でもない限り水商人はいないそうだ。
「まさか、師匠が本当のことを書いているとはな」
 ウーシュー師範は自分の師匠が書いたという本を読みながら、しんみりと言った。
「今までの常識は通用せんな」
 急に老け込んでしまったウーシュー師範は金貨の勘定も弟子任せにして、ベルサの論文なんかを熱心に読んでいた。

『コムロ社長、今日、魔族領からチョクロが届きました』
 調査の間にドヴァンから連絡があった。傭兵の国ではグレートプレーンズからの支援物資が届き始めたようだ。航路海域の危険な魔物はほぼ駆除したので、船に同行したセイレーン族もサハギン族も護衛をしたがほとんど危険な目に遭わなかったという。ただ、冬の海は寒いようで、水中で着れる防寒具の開発が急務だとか。
 火の国を包囲する連合の極秘会議は、エディバラ側が火の国を信用しいるため、延期になっているという。他の国と違って、エディバラは魔法国なので、攻撃なんかされないだろうと高をくくっているらしい。サッサさんが愚痴を言っている横でラウタロが激高していた。とりあえず、3カ国だけで来週辺りに会議を開くという。
地震からひと月経っている。冬も本格的にやってきて、寒さが厳しい。


『ナオキ様は私たちをお忘れですか?』
 砂漠のオアシスにいるスーフから連絡が来た。
 自分に奴隷がいることを完全に忘れていた俺は「すまん」と謝るしかなかった。
「いや、ちょっといろいろと忙しくて、砂漠のオアシスに帰る暇がなかったんだ」
 実際、地震以降、休日はなかった。なにかしらやらなければならない仕事がある。
『そうですか、それはさぞかし稼いでらっしゃるでしょうね』
 嫌味のようにスーフが言う。
「悪いな。生活費くらい送るよ」
『いえ、結構です! 私たちは砂漠の馬屋からオアシスまでの案内と荷運びでお金は稼いでいますから』
 お、自分たちで稼ぎ始めたのか。
「じゃ、奴隷から解放しよう。あれ? なんか手続きっているんだっけ?」
『ナオキ様! 私は奴隷から解放されたくて仕事を始めたのではありません!』
「ん? じゃ、なんだ? 早いところ魔族領に行きたいのか? 勝手に行っていいぞ」
『はぁ~。いいですか? 私はここで待つと言ったんです。言ったからには、ナオキ様が帰ってくるまで待ちます』
「そんな忠犬みたいなことしなくてもいいぞ。どうせ主人が砂漠にいないんだから、自由にやっていいよ」
『私は十分自由です! 奴隷なのに!』
 なんだか話す度に怒らせてしまっているようだ。
「わかった。近々、時間を作って帰るよ」
『はい、部屋をきれいにして待っております』
 なんか愛人みたいだな。奴隷って愛人だったか。
 ま、いいや。サムエルさんにも会っておきたいし、ついでに砂漠にも寄ろう。
 すでにアーリムが作った通信機は発売され、各地方の商人ギルドにあるそうだ。初めに買ったのは、レイクショアの商人ギルド。今では、どの時間帯にどこの商人ギルドが情報を発信するのか、時間割すら出来上がっている。その情報を元に人気の品も日々変わっていくので商人たちも必死だ。また、その日の天気や、火の勇者がエディバラから本を借りること、レイクショアとスノウフィールドの復興が進んでいることなども発信されている。なんかラジオみたいでいいよなぁ。
『ナオキ様! 聞いていますか?』
「悪い、聞いてない。なんだっけ?」
 前の世界のラジオ番組に思いを馳せていたら、スーフの話を聞いていなかった。
『だから、昔の知人が来て「砂漠の火花」を置いていったんです』
「え? なにそれ?」
『あ~私がお腹に巻いていたものです』
 ゴーゴン族の姉者の声がした。スーフの隣りにいるのだろう。
「あー爆弾か。え!? 爆弾を置いていったってどういうこと? 無事なの?」
『爆発はしてません。昔の知人って、そのつまり……』
「あーテロリストか。魔族解放戦線だったっけ?」
『そうです。これで砂漠の楼閣を壊せって。もちろん断りましたけど、「いずれやらなくてはならない時が来る」と言って置いていきました』
「ふーん。まぁ、誰もいないところで爆破すれば? 楼閣は止めなよ」
 火の精霊に喧嘩なんか売っても勝てるわけないからな。
『わかりました』
「でも、なにかやろうとしてるのかな?」
『おそらく、どこかでなにかが……』
「わかった。ギルド長には言っておくよ。じゃ、近々突然行くと思うから、ゴーゴン族の娘たちには髪のヘビを洗っておくように言っておいてね」
『コムロー!』
 ゴーゴン族の姉者の叫び声を聞いて通信袋を切った。

 俺はネイサンに「テロリストの動きが活発になってきたようだから気をつけて」と注意した。あとで、通信機で火の国全土に知らせるそうだ。
 とりあえず、採石場の調査が終了したので、『魔体術』の門徒たちを傭兵の国に送っていく。これから対処法を考えることになるが、正直、採掘は止めて採石場は埋め、町から離れるのが一番だと思う。
「武器としての魔石、調理のための魔石、暖を取るための魔石、夜の明かりのための魔石、遠くの者に情報を伝えるのも飛行船を浮かばせるのも、全部魔石じゃあ、やめられないか」
 俺は冬の夜に白い溜息を吐いた。

 この日初めて俺たちは、火の国と傭兵の国の国境を正式に越えた。

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