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駆除人 作者:花黒子

~火の国の商人と立ち合う駆除業者~

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225話


 牢の中で、ドヴァンの父親のスナイダーさんは眠っていた。
 スナイダーさんだけではない。牢屋にいた衛兵も眠っている。
「仕事をしない衛兵たちですね」
 メルモが腕にポイズンスパイダーを這わせながら言った。目の前には、ゆっくりと睡魔に負けていくマスクを付けた衛兵。俺はちょんと押して衛兵を椅子に座らせてあげる。
「あの、コムロ社長、あの白い煙って眠り薬ですか?」
 先ほどまで牢屋の建物はなぜか白い煙に覆われていた。
「いやぁ、俺にはよくわからないな。魚の魔物でも焼いてただけじゃないか」
 ドヴァンの質問に俺がすっとぼける。
「いや、あのぅ。ベルサさんが牢屋の窓から、中に向かって缶を投げていたと思うんですけど……」
「あ、そう? 見てなかったな。まぁ、いいじゃない。それより、『面会に来たけど衛兵に止められなかったから、父親に会えた』って言い訳ができる。さ、この気付薬で親父さんを起こしな」
 俺は気付薬をドヴァンに渡した。
「牢の扉が空いているんですが……?」
 ドヴァンが牢の扉を開けてこちらに聞いてきた。
「ちょっと刃毀れしてたから、ちょっと研いだだけだ。扉壊れてるか? 開いたり閉めたりできるのを扉っていうんだぞ」
 しれっと隣のアイルが言った。
 ドヴァンは大きくため息をついて牢の扉を開け、中に入っていった。
「やっぱりどこも似たような作りしてるんだなぁ」
 ベルサは牢の入り口に種を撒き、成長剤を使って蔓を成長させながら言った。
「なんか昔を思い出すと腹減りません?」
 セスは鍋に肉と野菜を詰め、準備万端で待っていた。
「ちょっと待てよ。今親子の感動の再開のシーンだから」
 俺は牢の中のドヴァン親子を指差した。

「親父! 親父!」
「ドヴァンか! お前、こんなところでなにやってんだ?」
 スナイダーさんが起きて、周囲を見回した。隣の牢で捕まっている者たちは眠っている。
「親父こそ、なにやってんだ? 闇の薬屋でもやっていたのか?」
「なんだ? その闇の薬屋ってのは」
「じゃ、親父が興奮剤を地震の時にフェンリルたちの前でぶちまけたってのは? いったい俺がいない4年の間になにがあった?」
 ドヴァンがこの状況を説明したくないからか、前のめりでスナイダーさんに質問をぶつけていく。
「むぅ……ちょっとお前落ち着けよ。俺はグレートプレーンズとの戦争で捕虜になったって聞いたお前が突然、現れて驚いてるところだってのに……そう質問攻めにするな」
 スナイダーさんは太い腕を使って、ちゃんと座り直しながら言った。
「それで、あいつらはなんだ?」
 スナイダーさんが俺たちを見ながらドヴァンに聞いた。
「会社の人たちだよ。今世話になってる。昨日、瓦礫に埋もれてた人たちを全員助けちゃった人たちだよ」
「ここにいていいのか? 王に見つかると面倒だぞ」
 やっぱり面倒なことになるようだ。
「たぶん、大丈夫だ。あの人たち飛んで逃げられるから」
 ドヴァンが簡単な対処法を教えてくれた。
「飛んで? ……何者なんだよ」
「清掃・駆除業者。今はそんなことはどうでもいい。傭兵の英雄と呼ばれてた親父がなんでこんなことになったのか、話してくれよ。死ぬ前に」
 先ほど、起きていた頃の衛兵が「明後日、地震の時に罪を犯した者を絞首刑に」という張り紙を作っていた。見世物にすることで犯罪の抑止力にしようとしていたのかもしれない。
「死ぬ前に、か。俺が死ぬ前にお前に言っておくことがあるとすれば『アリスフェイに喧嘩を売るんじゃない』ってことくらいだ」
「アリスフェイでなにかあったのか?」
「3年くらい前になるか。お前がもうアリスフェイの魔法学院に通っている頃だ。俺たちは火の国から大量に『速射の杖』っていう武器を渡されて、地峡中の魔物を狩っていた。四方から包囲して一斉射撃で殲滅する。こんな戦い方があるのかと俺たちは新型の武器を手に、レベルがどんどん上っていく自分たちに酔っていた。レベルが上がるっていうのは脳に影響するのか、止められなくなっていってたんだ」
 スナイダーさんは語り始めた。
話が長くなりそうだったので、俺たちはその場に座って聞くことに。
「俺たちは魔物たちを東へ東へと追い込んでいった。地峡を渡ればアリスフェイ王国。あそこにはアグニスタ家という優秀な軍人の一族がいる」
 スナイダーさんの言葉を聞き、急にアイルが食べていた野菜を噴き出しそうになっていた。あ、もう俺たちは鍋いただいちゃってます。
「アイルの本名はアイル・アグニスタだ」
 小声でベルサが教えてくれた。
「そのアグニスタが魔物たちを止め、俺たちと挟み撃ちになるだろうと俺たちは考えていた。だから、俺たちはアリスフェイ侵攻をしたいわけじゃなく魔物を追いかけていたら、アリスフェイと戦争になってしまっただけなんだ。まぁ、それも一番はじめの時は植物学者にしてやられたんだけどな」
 今度はベルサが鼻から水菜のような野菜を噴き出していた。ベルサの親父は植物学者だったかな。
「アリスフェイの王都の西に魔物の侵入を防ぐように、麻痺薬になる花の花畑を作っていてな。追い込んだ魔物の群れは俺たちの予想に反して、アグニスタの将軍が率いる軍とは衝突せず、北へと逸れた。逃げる魔物の勢いは凄まじく、森にいた魔物全てを引き連れてアリスフェイの北にある山脈にぶつかった。そこで魔物たちの勢いが止まればよかったんだが、その後、山伝いに荒野を東へと向かい、山にいた魔物たちまで勢いに吸収されていった。すでに俺たちがどうこうできるような小さな魔物の群れではなくなり、このまま追うかどうか、迷った」
 スナイダーさんは額に浮かぶ汗を気にせずに続けた。
「傭兵の仲間たちは帰る奴が多かったよ。だけど、俺と数人の傭兵仲間は自分たちの起こした魔物の群れの大移動の結末を知ってちゃんと責任を取るつもりだった。数日迷った挙句、2チームに分かれ、俺たちは東へと向かうことになった。そこで地獄を見た……」
 スナイダーさんの汗が滝のように流れ始めた。
「俺たちは始め山だと思ったんだ。でも夜明けとともに姿を表したのは、魔物の死体だった。それも尋常ではない数。そもそもそこは谷になっていて、その谷を埋め尽くし、さらに盛り上がるほどの魔物の死体の山。すぐに俺たちは流行病を疑って、持っていた魔石を全て使い、死体の山を焼き尽くしていった。全て焼くのに、8日かかった。この世の地獄だ。あれほど嫌な匂いを嗅いだことも、あれほど感情を殺したこともない」
 スナイダーさんの身体が小刻みに震えている。よほど恐ろしい光景だったようだ。
「とにかく水が欲しかった。起きている間中吐き気が止まらない。でも、流行病なら、近くの町の水も汚染されているだろう。せめて、廃屋に酒でも残っていないかと、人里に行ってみたんだ。そしたら、なにがいたと思う?」
「なにがいたんだ?」
 ドヴァンは前のめりになってスナイダーさんに聞いた。
「墓守さ。筋骨隆々の俺たち傭兵と同じくらい腕っ節が強そうな爺さんがいた。別に何ごともなく町の住人たちも暮らしているようだった。近くであんな魔物の大量死があったっていうのにだ! 俺は墓守の爺さんに言ったよ。地峡の魔物を追いかけた時からのことを全て話した。そしたら、その墓守の爺さんが『そりゃ私の主人の仕業です』と笑ったんだ。よく話を聞いてみると、その爺さんは元奴隷で、元主人が毒を使う奴だったらしい。魔物にだけ効く毒なんて俺は存在自体も知らなかったよ。しかもあれだけの効果がある毒薬を扱うなんて人間じゃねぇ。その元主人ってのは町の中でも1000匹ネズミの魔物を倒したそうだ」
 ブフッ。今度は俺の鼻から、鍋のつゆが噴き出した。確かにすごい勢いでレベルが上っていったけど、あの毒はカミーラから買ったものだ。
一応、町の場所を聞いてみる。
「え? その町がなんて場所かって? 確かクーベニアって言ったかな」
 スナイダーさんはこちらをちらりと見て答えてくれた。
「いいか? アリスフェイにはヤバい奴がいる。手は出すな。俺たちは帰ってきたら、戦争になっちまってたけどな。俺はアレを見ちまったからな、もう戦えない。大型魔獣だろうが、珍獣だろうが関係なくあんな魔物の殺し方をする奴に叶うはずがねぇ。俺は戦うことを辞めて、フェンリルの世話をすることにしたよ」
「それで、なんで捕まるんだよ」
「それはな……あの興奮剤を仕入れたのは俺だからだ」
「なんのために? また、戦争に向かうためか?」

 ボフンッ!
 突然、牢屋の入り口を塞いでいた蔦が爆散した。
 黒い毛皮を着た髭面の大男が、『速射の杖』を持って牢屋に入ってきた。
「そりゃあ、ドヴァン、お前のためだ」
 それまでの話を聞いていたのか、大男がドヴァンに向かって言った。
「わが友よ。お前の死刑が明後日に決まったよ」
 その後、大男はスナイダーさんに言った。
「わが王よ」
 スナイダーさんがつぶやいた。
「え!? 王! そりゃマズい。逃げるぞ!」
「いや、ちょっと鍋が熱くて持てないですよ!」
「食ってるところだから、ちょっと待ってもらえよ!」
「メルモー、麻痺薬!」
「はーい!」
 慌てる俺たちに『速射の杖』を向けた王だったが、メルモがけしかけたポイズンスパイダーの毒で、麻痺状態に。王の後ろからも部下たちが来ているようだったが、ベルサが入り口にもう一度成長剤を撒くと、すぐに入り口が蔦で覆われ塞がった。
「な、なにをした?」
 麻痺状態になりながら王が必死で言葉を発した。
「人の飯の邪魔をしたのは、そちらさんだよ。誰だか知らないけど」
「親子の再会のいいところなんだ。乱入するなんて野暮ってもんだよ」
 アイルとベルサが王に向かって言う。2人が物怖じしないのは元貴族だからか。
「親父、俺のために興奮剤を仕入れたってどういうことだ?」
 ドヴァンがスナイダーさんに聞いた。王が麻痺しているとはいえ、毒だってずっと効いているわけではない。聞けることは聞いておかないと。
「はぁ……もう死ぬから、いいか。お前の呪いはコントロールできる。あの興奮剤さえあればな。魔法学院に送ろうと思ったんだよ。そしたら、お前が戦争に志願してて、送れそびれちまっただけさ」
 ウェアウルフになるという呪いのことだろう。
「じゃあ、なんで地震があった時にフェンリルの檻の前で興奮剤を撒き散らすような真似を?」
「あれは俺じゃねぇ。国のせいだろ。なぁ、わが王・ジェラルド」
 スナイダーさんは麻痺して倒れている王に言った。
「うぅ……うぅ……」
 全身麻痺中の王はどうにか喋ろうとして、言葉になっていない。
「俺たちは重大な間違いをいくつかしている。地峡中の魔物を追い出したせいで作物には虫の魔物が大発生し、作物の生産量が激減。アリスフェイに喧嘩を売ったことで重大な取引相手との国交断絶。なにより、火の国という守銭奴たちの国との同盟。全てが間違いだ。食料危機に陥り、火の国に頼らざるをえない状況になっているなか、2ヶ月後には西のエディバラへの侵攻に傭兵たちを向かわせなければならない」
 2ヶ月後に戦争を仕掛ける気か。火の勇者は、本を仕入れるって言ってなかったかな。
「傭兵に払う報酬の価格を教えてやれよ。ジェラルド」
「いぃ……いぃ……」
 未だ王の麻痺は解けない。
「銀貨2枚だ。ドヴァン、俺たち傭兵の命は銀貨2枚。一泊宿に泊まれば飛ぶような値段しかない。しかも、食料がないためにそれを断れないでいる。2ヶ月後の俺たちを想像してみてくれ。ガリガリに痩せた俺たちが、魔法国・エディバラに勝てると思うか?」
 そう聞かれ、ドヴァンは顔を横に振った。
「砂漠を越えて辿りつけるかどうかすらあやしいだろ。この国の傭兵たちは2ヶ月後に死ぬか難民になる。俺は明後日死ぬが、この国は2ヶ月後に死ぬ。遅いか早いかの違いだ。騎獣部隊は正しい。どうにか、金を得るために自分たちの倉庫にある薬も毒薬も火の国の商人たちに売って金を作っているんだ。国が潰れた時のために渡りをつけてるのさ。地震で、それもパーになっちまったけどな。地震もフェンリルの脱走も、この国が陥っている状況に比べりゃ小さいもんだ。それでも俺が責任をとって、束の間、町の傭兵たちを納得させなきゃならねぇ」
 スナイダーさんはそこまでまくし立てるように吐き出すと、大きなため息をついてこちらに向かってきた。
「飯食わせてくれ。最後に腹いっぱい食いたい」
 と、俺の隣にどかっと腰を下ろした。
「どうぞ、食ってください。鍋は皆で食べたほうがいい。ドヴァンも来いよ」
 そう言って、俺はスナイダーさんとドヴァンに木の器を渡した。
 2人は怒りをにじませながら、鍋の中の肉と野菜を黙々と食べている。
「食いながらでいいんで、聞いていいですか? 地峡にあるなら、なんで海を使わないんですか?」
「っんぐ。そりゃ簡単だ。魔物がうようよしてて、どうにもならねぇ。『速射の杖』だって、海の中に潜られりゃ、火の玉は効かないしな」
「網は?」
「網はもっとダメだ。爪か歯で破られて意味がない。だいたい、海に出たところで、どこと貿易ができるっていうんだ。俺たちの航海術で行けるのなんて、せいぜい、火の国の領地とアリスフェイの領地しかない。あとは未開の森が広がるばかり。いくら考えても八方塞がりなんだ。しかし、美味いなこれ!」
 スナイダーさんはおかわりをしていた。
「あの火の国にいて火の勇者の周りにいる傭兵たちはどうするんです?」
「あいつらは俺たち、アリスフェイ侵攻部隊の残り滓みたいなもんだ。人に取り入るのが上手いだけの低レベルな奴らさ。どうせ、火の国で骨を埋める気だろう」
「あとは、本当にこの国で売れるものってないですか?」
「ない。この国はすっからかんだ」
「情報でも、技術でも、地図でもなんでもいいですよ。傭兵なら世界中から雇われたりしてるんじゃないですか?」
 スナイダーさんは肉を噛みながら考えて、飲み込んだ。
「傭兵ギルドはあっても、あんまり機能してないからな。地図は、まぁ、ある。いろいろ派遣されてるからな。あとアサシン部隊がいるから、毒は素材があればどうにか」
「……宝石!」
 麻痺していた王がようやく痺れが取れてきたのか、叫ぶように言った。
「宝石?」
「ああ、魔力も込められないような透明の石が採れるんだ。一応、宝石とは言ってるが、売れる見込みはないぜ」
 スナイダーさんが説明した。
「鍛冶はどうです?」
「鍛冶職人も多いが、それも素材があればの話だ」
 総合して考えると行ける気がするんだけどなぁ。
「やっぱり死んでる場合じゃないですよ。スナイダーさん、王も国潰してる場合じゃないです」
「お前ら、ただじゃ……おかねぇからな」
 王が痺れながら、どうにか言葉を発した。
「ええ、ただ仕事をする気はないですよ。ちょっと『魔体術』の門徒たちには協力してもらいます。俺たちへの報酬はそれくらいでいいかな。あとは何件か連絡するところがあるなぁ」
 カミーラには確実に「なんてもんを売ってやがる」と苦情を言っておかないといけない。
 あとはボウとサッサさんとだな。条件が揃えばいいけど……。
「ああ、ナオキがこうなっちゃったらお終いだ」
「お前ら、この先寝れると思うなよ」
 アイルとベルサが、スナイダーさんと王に向かって笑いながら言った。

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