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駆除人 作者:花黒子

~火の国の商人と立ち合う駆除業者~

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223話


 夜になって暗くなれば、スノウフィールドの町が見えないかなと思ったが、町のいたるところで火事があったのですぐにわかった。冬場の地震は火事が怖い。
 レイクショアと同じようにアイルが町の上に大きな光の剣をぶち上げ、そのまま町に着地。救出活動をしている町の人たちを手伝いに向かった。俺は町全体を探知スキルで見ながら、状態異常になっている人から救出していくことに。ベルサは町の中心で風呂を作り始め、セスとメルモが俺の指示でどんどん瓦礫を撤去しはじめた。ドヴァンは負傷者が集まっている場所に回復薬を届けに行くようだ。
 混乱する町の人たちを落ち着かせるため、どんどん火事の火を消していく。燃えている家屋を魔力の壁で覆って、空気を抜くだけだ。
地震から丸一日経っているので出火から時間も経っていると思ったのだが、火災が起こっている家屋に探知スキルで人の反応があった。二次災害か。家が無事だと思ったら、コンロやストーブが倒れていて火事になるまで時間がかかることもある。魔道具が進んでいる火の国ならなおさらある話だろう。
俺は迷わず頭に水をかぶって飛び込む。ツナギには耐火の魔法陣が描かれているので、顔だけ守れれば大丈夫だろう。探知スキルで無事、母子を発見し救出。2人とも気絶していたので目覚ましの薬を嗅がせ起こした。救出したので、火事は消しておく。
 一連の流れを町の人たちが見ていたので、俺たちが敵ではなく助けに来た奴らだとわかってくれていたらありがたい。
『社長、5名救出しました! 次、お願いします!』
 セスから連絡が入る。
「了解。そっちに向かう」
『風呂できたよー』
 ベルサからも連絡が来る。
「了解。回復薬一本入れて、負傷者入れちゃって」
『わかった』
 2時間かけて、町を回り救出できたのは63名。あとは残念ながら、手遅れだった。風呂に入れて復活した人もいれば、ダメだった人もいる。亡くなった方は冒険者ギルドに集められていた。商人ギルドでは炊き出しなどが始まっていたので、祭りで余っていた肉料理を半分ほど置いていった。
「あんたら、採石場の方にも行ってくれないかい? トンネルが崩壊して、父ちゃんが閉じ込められてるんだ。どうか、頼むよ」
 頬を煤で汚れた女性が、声をかけてきた。
「場所がわからないんだ。地図で教えてくれるか?」
「こっち」
 俺は商人ギルドの中に連れて行かれ、地図で採石場が町の東にあることを教えてもらった。
「手の空いてる奴らがいたら、俺と町の東にある採石場に向かおう」
 通信袋で呼びかけると、ドヴァン以外、全員が返事をした。
 皆、余震で倒壊するかもしれない建物を予め壊し、住民たちの逃走経路を確保するため、道から瓦礫を撤去していたようだ。
 道すがら、全員と合流。採石場は平地をすり鉢状に掘り、各所で横穴を掘っていくという魔族領にあった穴とほぼ同じ構造だった。
 横穴は全て崩れて塞がっている。探知スキルを展開し、人が閉じ込められている横穴を確認。ツルハシを振るって塞がった穴を掘り懸命に仲間を助けようとしている採掘業者の姿も見える。
「手伝いますよ」
「あんたら誰だ? どっから現れた?」
 ツルハシを持った採掘業者が驚いて俺たちを見た。
「中央の商人ギルドから派遣されてきました。穴を開ければいいんですよね?」
「そ、そうだけど……」
 採掘業者が戸惑っているが、ちゃんと説明している暇が惜しい。
「社長、このまま穴を掘ると天井が崩れてきませんか?」
 セスが指摘したとおり、穴の上の地層には亀裂が入っている。このまま掘り進めると、崩れる可能性も高い。余震もまだ続いているようなので、そもそもこの場所にいることも本当は危険だ。
 とりあえず、穴を開けるにしても閉じ込められた採掘業者たちが入口付近に固まっていて邪魔だ。どうにか小さい穴でも開けて連絡をとらないと。
「ベルサ。蔦」
「はいはい」
 ベルサは横穴の入り口に種を埋め、成長剤を垂らした。みるみるうちに蔦が伸び、横穴を塞いでいる岩の隙間にのびていった。伸びた蔦は栄養がなくなり、やがて枯れる。
「メルモ、適当に小さい魔物をテイムしてくれるか? 手紙を穴の向こうに渡したい」
「わかりました」
 メルモが小さい魔物を探しに行った。
「穴の向こうにも魔石灯くらいはありますよね?」
 ツルハシを持ったまま呆然としている採掘業者に聞くと、頷いていた。
 俺は紙に『入り口から離れろ』と書いて筒状に丸めた。
「テイムしてきました~」
 メルモがポイズンスパイダーというドクグモの魔物をテイムして戻ってきた。
 そのポイズンスパイダーの背中に丸めた手紙を洞窟スライムの粘液で貼り付けて、ベルサが蔦で開けた穴に送り出す。
「穴の向こうにいる採掘業者さんに渡すのよー、気をつけるのよー」
 メルモは我が子を応援しながら、ポイズンスパイダーを送り出した。
 探知スキルで見ていると、ほどなく穴の向こうの採掘業者たちが動き出した。十分に入り口から離れたところで、俺はアイルに指示を出す。
「俺が穴の上の地層を押さえておくから、穴を開けちゃってくれ」
「押さえとくったって、どうやって?」
 俺は手から魔力の壁を最大限に広げ、横穴の上の地層を中に入れて押さえた。これで崩れてきたら、地層ごと後ろに放り投げよう。
「やっちゃってくれ」
「わかった」
 アイルは剣でふっと息を吐くと、一突きで、穴を塞いでいた岩や土を粉砕。大人がひとり通れるほどの穴を作ってしまった。穴の上の地層は俺の魔力の壁で押さえているため、崩れはしない。
「おーい! 出てきていいよー!」
 入り口から離れていた採掘業者たちが、次々と穴から這い出てきた。
「助かった。すまない、ありがとう」
「ケガはありませんか?」
 俺が出てきた採掘業者たちに聞く。
「擦り傷切り傷くらいだ」
「じゃ、スノウフィールドに戻ってください。町の中心に風呂も用意してるので、入ると傷の治りが早いかもしれません。いらなくなったら噴水にでもしていただけたら」
「は? あ、ああ、わかった」
 戸惑っている採掘業者を放っておいて、魔力の壁を解除すると押さえていた地層が崩れて穴が塞がった。
「よし、次は傭兵の国だな。ドヴァンは?」
「商人ギルドで、けが人の手当をしてます」
 セスが答えた。
「じゃ、迎えに行って、そのまま傭兵の国に向かう」
「「「「了解」」」」
 俺たちが空飛ぶ箒でスノウフィールドの町に向かうのを、採掘業者たちは唖然として見ていた。非常時に思考が停止して動けないと、指示を出すほうはそれだけ仕事が増える。ネイサンが苦労している理由がわかった気がした。

「重傷者と軽傷者に分かれて治療を受けてください! え? 目が飛び出たくらいで死なないので軽傷の列に並んで!」
 商人ギルドではドヴァンが声を張り上げて列を作っていた。
「ドヴァン、そろそろ行くぞ!」
「了解です!」
 ドヴァンは振り返って、回復薬を渡した商人ギルドの職員に「お願いします!」と頭を下げていた。
「まだ、ここにいるか?」
「いえ、ここで俺ができることは終わりです」
「ん。よし、行くぞ」
 俺たちは商人ギルドを出ると、空飛ぶ箒で上空への飛んだ。
「えーっと、ここから東だったな。ドヴァン、町の位置がわかるか?」
 まだ夜は明けておらず、下を見れば真っ暗。ほぼなにも見えない。
「もう少し低く飛んでいただければ、山の位置でどうにかわかるかもしれません」
 ドヴァンの言葉で、セスは高度を下げて飛んだ。

森の上を飛んでいると、すぐに関所のようなものが見えた。石造りの塔が2つあったが、地震の被害はないようだ。探知スキルで見ても、状態異常になっている者はいなかったので塔の脇を通り抜けた。
 そのまま、方向を変えずに飛んで行くと、真っ暗な中に火の明かりがちらほら見えてくる。アイルが光の剣を放ち、周囲を照らすと、目の前に大きな町が現れた。石造りの建物が並んでいたようだが、ほとんどが崩壊。道には薄っすらと雪が積もっているのが見えた。
グゥオオオオオッ!
町のどこかで魔物が咆哮をあげた。
グゥオオオオッ!
オウーン!
グゥオオオオっ!
町の四方八方から魔物の声があがる。
「フェンリルが檻から出てる! オオカミの魔物です。騎獣部隊はなにをしてるんだ……?」
 ドヴァンが魔物の咆哮を聞いて周囲を見下ろした。
 アイルは次々と光の剣を放ち、町全体を照らし出す。地震によって崩れた建物が多く、探知スキルで見ると瓦礫に埋もれた生存者もかなりの数がいるようだが、フェンリルと呼ばれたオオカミの魔物が何頭も道を駆け回っており、なかなか救助できていないようだ。町の中心地にある建物の前には松明を持つ人の集団がいるが、周囲を警戒するばかりで生存者を探す気配もフェンリルたちを捕まえる気配もない。大丈夫か、この町は。
「騎獣部隊っていうくらいだから、あのフェンリルって魔物をテイムしていたんじゃないのか?」
「いや、そうだったはずなんですが……」
 ドヴァンは悔しそうに、中心地にある建物を見た。探知スキルで見るとその建物に人々が集まっているらしい。
「まぁ、いいや。とりあえず、あのフェンリルは置いといて、瓦礫に埋もれた人たちを助けよう。フェンリルが邪魔するようなら眠らせればいいから」
「いや、先にフェンリルをどうにかしたほうがいいんじゃないですか?」
 ドヴァンが提案してきた。
「そうか? じゃ、アイル、魔物の骨に眠り薬塗って、その辺に適当に置いといて」
「了解」
 アイルが砂漠で狩った魔物の骨に眠り薬を塗って、町中に仕掛けると、効果はてきめん。フェンリルの鳴き声がしなくなり、代わりにいびきが聞こえてきた。
「よし、ちょっと時間食った。急ぐぞ! ベルサは風呂づくりな」
「はいはい」
 スノウフィールドと同じように瓦礫の中に埋もれている人を助けていく。傭兵の国の人たちは寒さに強いのか、あまり低体温症になっている人は見かけない。ほとんどの生存者が、回復薬をかけるだけで動けるようになっていた。服がいいのかな。助けた人のほとんどが魔物の革を使った服を着ている。
 また、町には地下道があるようで地下に人が集まって、動いていない。状態異常の人もいるから、できるだけ急ごう。どこかに地下道に入れる入り口があると思うのだが。
「お主ら何者じゃ!?」
 突然、声をかけられ、振り返ると、小柄な老人が瓦礫の上に立っていた。武闘家のような服を着ており、寒そうだ。ただ、老人が立っている瓦礫の下に生存者がいる。
「すみません。ちょっとそこに人が埋まっているので、退けてください」
「な、なに!? す、すまん!」
 老人は素直に退けてくれた。
 俺は瓦礫を退けながら、埋もれている人を掘り出した。掘り出した生存者は外傷が少ないものの魔力切れを起こしている。魔法でどうにか瓦礫を取り払おうとしたのかもしれない。
「ウーシュー師範!」
「ドヴァン! お主、ここでなにをしておる?」
 どうやら老人はドヴァンの知り合いらしい。丸投げしておこう。
 俺は掘り出した生存者を抱えて、町の中心地に飛んだ。

 ベルサが風呂の中にどんどん生存者を入れている。俺も生存者を風呂の中に入れ、ついでに風呂の水に魔力回復シロップを混ぜておいた。
「お前ら、こんな時に道のど真ん中に風呂作っていいと思ってんのか!?」
 松明を持っている傭兵と思しき男が声をかけてきた。
「いいと思ってるからやってんだよ」
 疲れてきて、口も悪くなってきた。だいたい、人を救ってるのを黙って見ているような奴に礼儀なんていらないだろう。
「あ、そうだ。地下道の入口を教えてくれ。何人か埋まっちゃってるから」
「え? え? ちょっと」
 まるで俺の話を理解していないらしい。
「ほら、動け! 地図だよ。地図! 大丈夫、フェンリルは眠らせたから今がチャンスだぞ!」
「ぅわかった!」
 ようやく理解したのか傭兵っぽい男は、アリスフェイの冒険者ギルドのような建物に入っていった。
「コムロ社長! フェンリルが眠ったのでウーシュー師範とお弟子さんたちも人命救助を手伝ってくれるそうです!」
 ドヴァンとウーシュー師範が走って近づいてきた。
「そうか!」
 俺たちも勝手に手伝っている側なんだけどな。
「儂らは魔力探知というスキルを持っておるから、魔力切れなどを起こしていなければ人の探索は得意なのじゃ」
 人や魔物の魔力を探知するスキルかな。探知スキルじゃダメだったのか。どうでもいいが、自己紹介なんかしている場合ではない。
「そうですか。よろしくお願いします! ところで、あそこで瓦礫を退けているのはお弟子さんですか?」
 俺は、瓦礫を一生懸命掘っている青年たちを指差した。青年たちウーシュー師範と似たような服を着ている。
「そうじゃ。うちの門下生じゃ」
「そうですか。あそこ掘ってもヒートボックスしか出てこないと思うので、向こうの瓦礫掘ってもらえますか? それからこれ回復薬なので、危なそうな人がいたら使ってください。よろしくお願いします」
 俺はウーシュー師範に回復薬を渡した。
「う、お、おう。心得た!」
 ウーシュー師範は門下生たちを呼び寄せ、俺が指示した場所の瓦礫を掘りに行ってくれた。
「ドヴァン、あそこに人が集まってるから回復薬を持ってけ。それから生存者の受け入れをしてもらえるよう頼んでみてれ」
「わ、わかりました!」
 俺は先ほど松明を持っていた傭兵っぽい男が入っていった建物にドヴァンを向かわせた。
『社長! 回復薬切れました!』
 メルモから通信シールで連絡が来た。
「わかった。すぐに行く」
 俺は通信シールから魔力を切った。
「ベルサ! あそこの半壊した建物と、その奥の建物に3人生存者がいるから助けておいてくれ」
「わかった」
「それから、さっき地下道の入口を聞いておいたから、誰かが教えに来たら通信シールで連絡して」
「OK」
 ベルサは俺が言った建物に走り、俺はメルモたちがいる町の反対側へと飛んだ。
 夜明けまでの救助活動で、計211名の生存者を見つけた。地下道で身動きが取れなくなっていた人たちは傭兵たちが力を合わせて瓦礫を取り除き、助けていた。それくらいはしてもらわないと困る。
 地震発生から一日半。こちらの世界は1日25時間なので、37.5時間の出来事だった。
「駆除業者のやる仕事じゃないな」
 人の生死が絡むとやはり精神的にくるものがある。助けられなかった人たちも多い。
 半日しか動いてないが、疲労感は1週間以上働いた時以上だ。
「疲れた。『火祭り』は終わったかな」
 朝日を浴びながら、俺は大きく深呼吸をした。傭兵の町の空気は、フェンリルが近くで眠っていたので獣臭かった。

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