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駆除人 作者:花黒子

~火の国の商人と立ち合う駆除業者~

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221話


 翌日、3人のゴーゴン族の娘たちを連れて、スーフ様を受け取りに奴隷商に向かう。
 仮予約をしていたし、砂漠のギルド長も話を通してくれていたようで、すぐに奴隷商が対応してくれた。
「いやぁ、うちの看板商品だったんですがね。お客さんはお目が高い。ついでにと言ってはなんですが、他の奴隷も見ていきませんか?」
 揉み手で奴隷商が近寄ってくる。
「いや、結構です」
 俺はなかなか奴隷に慣れないようだ。以前、何度か奴隷を持ったことはあるが、主人らしいことはなにもしてやれなかったように思う。結局、皆、解放している。
 そんなことより、ゴーゴン族の姉者が好戦的だったので、スーフ様も気性が荒いかもしれない。襲われたらどうしよう。昨夜、火の勇者と精霊のあんなイチャイチャを見せられてしまったので、身体を許してしまいそうだ。
「社長、大丈夫ですか?」
 セスが心配してくれる。
「大丈夫じゃねぇよ……はぁ~あ、なにごともうまくいかねぇなぁ」
 『火祭り』の様子を見ていると、それぞれが火の精霊に感謝しており、神様が言っていた火の精霊がサボっている証拠なんか、そもそもない気がしてくる。戦争を止めるって言ったって、どうすればいいのやら。一介の清掃・駆除業者の仕事じゃない。
「だ、大丈夫か?」
 ゴーゴン族の姉者も俺を見てくる。ちゃんとスーフ様を解放してくれるんだろうな、という疑いの目だ。
「大丈夫だよ。それより、本当にスーフ様を解放したら、誰にも見つからないように魔族領に行くんだよ」
「わかっている!」
「なら、いいけど」
 しばらく待っているとようやくスーフ様が連れてこられた。スーフ様は相変わらず、背中に羽根の生えた人の姿をしており、目も虚ろ。
全裸だといろんなところが目に入ってしまうので、とっとと手続きをとってしまう。証明書の羊皮紙に名前を書いて拇印を押せば、奴隷を所有できるらしい。
スーフ様の手枷と足かせが外され、用意していたローブを着せようとしたところ、突然、俺の胸に飛び込んできた。
そんなに怖かったのかと思って、背中を擦ってやると、首を噛まれた。
「イテー!」
 すぐに力任せに頭を引き離したので、そんなに傷は深くないと思うが、すごくびっくりした。
 スーフ様は身体を獅子に変え、こちらを睨みつけている。前の世界で、ピラミッドの横にあるのは巨大だったので、勝手に元の姿になれば巨大化するのかと思ったけど、そうじゃないらしい。
 連れてきた奴隷商は腰を抜かして、失禁。ゴーゴン族の娘たちは「スーフ様!」と叫ぶ。俺は慌てず首から血が出ていないことを確認し、アイテム袋からポンプを取り出した。
 グルルルル。
 と、獣の唸り声を出しているスーフ様の顔に眠り薬を噴射。
 スーフ様はコテンと倒れ、眠ってしまった。
「よし、宿に帰ろう」
 俺はスーフ様の身体にローブを着せてやり、肩に担いだ。

 宿で待っていたアイルとベルサは、俺が噛まれたと聞いて笑い転げた。ゴーゴン族の娘たちはベッドに寝ているスーフ様を見ながら、バツが悪そうにしている。
 俺は鏡を見ながら、スーフ様の歯型がついた首に回復薬の塗り薬を塗っていた。
「痛む?」
 アイルが半笑いで聞いてきた。
「どうせ鼻の下伸ばしてたんだろ? 目に浮かぶよ」
 ベルサは涙を流して笑っている。バカにしやがって。まぁ、いいや、話のネタができたと思おう。
「メルモー、なんか飯、用意してあげて」
「はーい」
 ゴーゴン族の娘たちはスーフ様が起きるまで、ベッドの側を動きそうにないので飯を用意してあげる。
「それで、ドヴァンは隅っこでなにやってんだよ」
 ドヴァンが部屋の隅で、正座をして床を見つめたまま黙っている。
「セス、なにがあった?」
「火の勇者と一緒に傭兵たちも『火祭り』に来たじゃないですか。その中に知り合いがいて、かるくボコボコにされたらしいです」
「すみません! コムロカンパニーの名前を出してしまいました!」
 ドヴァンが悔しそうに言った。
「『捕虜がいるような会社なんてすぐ潰れる』って言われたそうで、喧嘩になって返り討ちにされたって話です」
 セスが報告してきた。
「ハッハッハ! それで反省してるってわけか」
「会社に泥を塗るような真似を! すみません!」
「謝ることはないさ。喧嘩売られて、買ったら負けたって話だろ。勝てない喧嘩は買わないことだ。1つ勉強になったな。セス、回復薬、渡してやれよ」
「はい」
 セスがドヴァンに回復薬を渡した。
「社長たちは悔しくないんですか!?」
 ドヴァンが声を張り上げて聞いてきた。
「ないね。それで評判が下がって報酬がもらえなくなるなら、ぶっ飛ばしに行くけど」
 俺の言葉に、社員たちは笑っている。
「でも……バカにされて、黙ってるなんて……」
 ドヴァンは納得いかないようだ。
「俺たちの仕事は、よくバカにされる。いちいち気にしていたらやってられないよ。いいか? バカにしてきたやつには仕事で見せて返せ」
「わかりました……え? 社長、俺もコムロカンパニーに入っていいんですか?」
 あ、しまった。
「仮入社な」
「やったー!」
 また変なの増えちゃったな。
「入ったか。じゃ、最低限、魔物を駆除できるくらいにはならないとな」
 アイルが肩と首を回しながら立ち上がった。
「ちょっとドヴァン連れて、砂漠に行ってくる」
 アイルはドヴァンを連れて、部屋を出ていった。鬼教官現るみたいになってるが大丈夫か。
「砂漠は結構キツかった思い出があります」
「あ~、あれは地獄でした」
 セスとメルモが懐かしそうに天井を見上げ、涙を浮かべている。そんなに辛かったのか。
「ああ、そうだ。ナオキ、吸魔草が足りなくなってきてるんだ」
 ベルサが唐突に言った。
「せっかく砂漠に来てるんだから、取りに行くか?」
「うん」
 正直、スーフ様が起きてきたら気まずいので、俺も出来れば外に出たかった。
 セスとメルモを残し、俺とベルサも砂漠へと向かう。『火祭り』は続いており、バーベキューしている店も多いので、砂漠で肉を獲ってくるのも悪くない。

 砂漠。
 前の世界では一度も行ったこともない場所だったが、こちらの世界に来てからはお馴染みの風景だ。
「砂漠なら吸魔草があるのか?」
「あるんじゃない? 南半球でさえあったんだから」
 走りにくい地面を進みながら、吸魔草を探していると、麻痺薬になるサボテンが群生していた。駆除に使えそうな素材は全て採取するつもりなので、どんどん採っていく。サボテンに隠れてサソリの魔物やトカゲの魔物がいた。いずれもサイズが小さいのでスルー。周囲を探すと吸魔草も地面にへばりつくように群生した。
「やっぱりあった」
 ベルサが安心したように言った。
「南半球のものと違って見つけやすいな」
「その分、吸収率は南半球のもののほうが高いけどね」
 1割残して全て採取。目的は達成したので、とっとと帰ることに。
 途中、空を飛ぶデザートイーグルとデザートサラマンダーを見つけたので、両方捕まえた。いずれも3メートルほどあるしアイルもいないので、解体は業者にやってもらおう。祭り会場の端まで引きずって持っていくと、人が集まってきてしまった。
「獲れたてです! 解体できて焼いてくれるお店を探してます! 10人ほどの晩飯を用意してくれたら、あとは自分たちで食べるなり、売るなり好きにしてください。どなたかいませんか?」
 俺が声を張り上げると、すぐに店の人たちが集まった。肉商人たちからすれば持ってきた肉はだいたい熟成肉や干し肉などで、それはそれで美味しいのだが、どうしたって何日も祭りで食べているうちに飽きる。準備や前夜祭からいる人たちは新鮮な肉を求めていたらしい。ただ、皆食べたいし、売れるので誰がやるのか揉めだした。
「だったら、部位に分けて焼こうぜ! 解体はうちで引き受けるよ」
 髭面の大柄な商人が手を上げた。
 勝手に商人たちをまとめてくれる人が現れるのも、商売のタイミングを逃したくないという商人の国ならではだろう。俺たちは泊まっている宿を言って、後で持ってきてくれることに。皆、商人なので驚くほど話がスムーズだ。

 宿に帰るとスーフ様が起きて、スープを飲んでいた。
「おう、起きたか。よかった」
「私のご主人様ですね?」
 スーフ様は消え入りそうな声で聞いてきた。奴隷商にいた頃はあまり食事に手をつけていなかったらしく、この宿に来てゴーゴン族に会って安心したのか、ようやくスープに手をつけ始めたらしい。ゴーゴン族の姉者が教えてくれた。
「もう少しだけ、休ませてもらえますか? お願いします」
 ゴーゴン族の姉者が頭を下げて頼んできた。
「ああ、『火祭り』が終わるまではここにいるつもりだから問題ないよ。それまでしっかり体力を回復させておいて。そうだ、今のうちに奴隷印を消しておくか」
「いえ、この奴隷印は消さないでください」
 スーフ様が俺を見た。
「私は自らの欲に目がくらんで、奴隷になりました。戒めとして残しておきたいのです」
「それはいいけど。そうすると……ずっと俺の奴隷ってことになるけど」
「はい、構いません。ご主人様、お名前を窺ってもよろしいですか?」
「ナオキ・コムロだ。清掃・駆除業者をやっている」
「スーフと申します。スフィンクス族という種族です。スーフとお呼びください」
 スーフはわざわざベッドから這い出て、床の上で頭を下げた。身体が獅子なので土下座するような格好になってしまっている。
「いや、それで、俺は奴隷を持つ気はないんだ。どうしても奴隷のままがいいなら、魔族領に行って、ボウってやつがいるから主人になるように頼んでみてくれ」
 全部ボウに丸投げ。
「いえ、私のご主人様はあなた1人です。しっかり味も覚えましたから」
 一瞬、何を言っているのかわからなかったが、俺の首を噛み付いたことを言っているのだろう。
「そうか。なら、まずちゃんと飯を食べて体力を回復させてくれ。話はそれからだ」
 今はどうしても俺の奴隷という立場が欲しいらしい。体力が回復すればできることも変わってくるはずで、やりたいことも見えてくるはずだ。どうするかはそれから考えてもいい。
コンコン。
突然、ドアをノックする音。
「コムロくん、いるかい?」
「はーい」
 俺を『コムロくん』なんて呼ぶ人なんていたかな、と思ってドアを開けるとネイサンだった。
「とりあえず、金貨1000枚は用意できたんだ。はい、これね」
 ネイサンは小さなダンボールほどの大きさの木箱を俺に渡してきた。俺はそのままベルサに渡して確認を取ってもらう。
「早かったですね。ありがとうございます」
 俺としては『火祭り』が終わる頃に持ってくるかと思っていたが、用意でき次第持っていけとスパイクマンに言われたのかもしれない。時は金なり、か。
「いや、これくらいはね。どうにでも都合がつくんだ。それより、さっきそこで聞いたよ。砂漠で魔物狩ってきたんだって?」
「薬の材料採りに行ったついでです」
「まぁ、シマントを1万匹も駆除する君らならない話じゃないか、と納得したけど、傭兵から目をつけられないように気をつけてよ」
「なんで、俺たちが傭兵に目をつけられるんですか?」
「彼らは、護衛として雇われているから、仕事でもない限り魔物を狩らないのは普通なんだけどさ。君らが砂漠で魔物を狩ってきちゃったら、商人たちから傭兵はなにも狩ってこないんだなって侮られるだろ? そしたら、傭兵たちは君たちにこれ以上魔物を狩らせないよう何かしてくるかもしれない」
「え~、そんなことまで気を使わないといけないんですか? めんどくせー」
「それぞれの立場があるからね。なにかあれば商人ギルドに言ってよ」
「わかりました。ありがとうございます。あ、あとでサムエルさんに晩飯を持って行きますから、言っておいてもらえます?」
 サムエルは相変わらず楼閣で、他のギルド長たちと流通などについて話し合いをしている。
「わかった。それじゃ」
 ネイサンは去ろうとしかけて、振り返った。
「そうそう。奴隷商が言ってたけど、コムロくんが買った奴隷、人に化けてた魔物だったんだって? テロリストが狙ってる奴かもしれないからそれも注意しておいてね」
「ああ、大丈夫です。この前、テロリストをぶっ飛ばしましたから」
「ハハハ、コムロくんの場合、それが本当に聞こえちゃうから怖いよ。それじゃ」
 本当なんだけどね。
「ありがとうございますー」
 俺はネイサンが宿を出るまで見送った。
 部屋の中では、ゴーゴン族の娘たちとスーフが縮こまって、ベッドに座っている。
「早めに拠点を変えたほうがいいかもな。そのためにも、早いとこ動けるようになるように。動けない奴隷なんて、荷物でしかないからね」
「はい……ご主人様」
 スーフが頷いて、スープを飲んだ。

 俺は採ってきたサボテンで麻痺薬を作る。せっかくだから祭りを楽しめばいいのだが、仕事は片付けてしまいたい。ゴーゴン族の娘たちもスーフも麻痺薬ができる過程を黙ってじっと見ていたので、気にならなかった。
集中していたためか、気づけば夕方。祭りが盛り上がっているのか、外が騒がしい。
「ただいまー」
 アイルたちが帰ってきた。アイルは俺を見て「ああ、また部屋で何かやってたな」と言いながら、「クリーナップをかけろ」と言わんばかりに髪から砂を落とした。
「ここで砂を落とすなよ。外でやれ、外で」
「……ただいま、帰りました」
 ドヴァンは部屋に入るなり、そう言って倒れた。どんな修業をしていたんだよ。
 セスとメルモは心得ているらしく、「ああ、こうなるよな」と言って、回復薬をドヴァンにぶっかけてベッドに寝かせた。
「外でさ、狩った魔物の解体してたら、『あんたら、コムロカンパニーか?』って聞かれたから、『そうだ』って答えたんだ。そしたら『焼いてやるから部位を分けてくれ』って言うから、肉を渡しておいたよ。晩飯はいい肉が出ると思う」
「お前らもかよ」
「え?」
「俺らも、昼に狩った魔物を渡したんだよ」
「それでかぁ。『コムロカンパニーの肉は新鮮だ』って皆、喜んでた」
「マズいなぁ。傭兵に目をつけられたかもしれない」
「そうなのか? ま、いいよ。ドヴァンの対人戦の訓練にはもってこいだ」
「そういうことじゃないんだけど……」
 その夜の晩飯は肉料理のオンパレードだった。
 ほとんど、アイテム袋行きだったけどね。

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