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駆除人 作者:花黒子

~火の国の商人と立ち合う駆除業者~

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216話


 残ったシマントの駆除は翌日もその翌日も、3日間続けてもまだ終わらなかった。
「一度、大繁殖してしまうと、全滅させるのに時間がかかりますね」
 そう言った俺の話を聞いているのか、いないのか、紙問屋の主人は額の汗を拭いながら、この辺りの名物だという大ナマズの煮物を勧めてきた。
「最近、大漁でしてね。よろしかったらどうぞ」
「それで、報酬の件なんですが……」
 女王アリを倒し、1万匹以上はシマントを駆除。冒険者ギルドも商人ギルドも初めの頃は働きアリと兵隊アリ、羽アリなどで報酬を変えると言っていたのに、到底払えないということがわかり、一律銀貨3枚ということになった。それでもかなり安く見積もった額なのだが、金貨でも3000枚以上。そして、まだ作業は続いていることを考えると、紙問屋は俺たちに報酬を払うと破産してしまうらしい。
そもそも今回のシマントの大発生は国がどうにかするべき問題だと話し合いで決まり、なにか国からの勲章や土地などで払えないか打診を始めているとのこと。
「あいにく、勲章や土地に興味がないもので、お金以外なら魔法書や薬学書などを希望します」
「……か、かしこまりました」
「あ、それから、冒険者たちが時々、岩山の方に入ってきているみたいなんですが……」
 シマントのあまりの量に商人ギルドお抱えの冒険者を派遣してくれたみたいだが、すぐに反応は消えてしまった。たぶん、シマントの兵隊アリに殺されたか、逃げたかのどちらかだ。もしかしたら、俺たちに報酬を払えなくなって、どうにか借金のある冒険者に頼んで安く上げようとしたのかも知れない。
「女王アリがいなくなったとはいえ、羽アリが女王アリになる可能性もありますし、兵隊アリの強さは変わりません。危ないので、あまり近寄らせないようにお願いします」
「おっしゃる通りにいたします」
 すっかり紙問屋の主人はこちらの言いなりになってしまった。仕事をちゃんとすれば信用をしてもらえるが、仕事をさせておいて金を払えないと信用を失うことを知っているからだろう。

 女王アリを討伐し、魔素溜まりの亀裂を封鎖してから4日目。
 例の獣人の青年が追いついてきた。
「やっと見つけた……」
 そういって獣人の青年は岩山に向かおうとする俺たちの前に立ちはだかった。
「あれ? アイルが教育したんじゃなかったの?」
「いや、レベルが低すぎて話にならなかったから、レベルを上げるよう言っただけ」
 そうか、友だちにはなれなかったのか。
「そんで? なんか用? 俺たち今から仕事に行かないといけないんだ。疲れているようだし、町で休んでたら?」
「頼む、お願いします! どうか、俺を強くしてください!」
 獣人の青年は土下座して、頼んできた。
「俺たち、そういう趣味はないよ。仕事してるだけだから、土下座されても別にどうすることもできないよ。とりあえず冒険者ギルド行って、依頼受けてさ。ランク上げてみたら?」
「社長、冒険者のランクなんてどうでもいいって言ってたじゃないですか?」
 セスが昔俺が説教をしたことを根に持っていたようだ。
「うちの会社ではどうでもいいって言ったんだよ」
「なら、俺を社員にしてください!」
 再び獣人の青年が地面に頭をつけて言った。
「今、募集してないんだよなぁ。なんか特殊技能とか持ってる?」
 一応、考えてみるだけ考えてやるか。
「投擲スキルなら……」
「ん~……不採用! おつかれ!」
 俺たちは青年の横を通り過ぎて、森に入る。セスだけ残って、なぜか青年の肩を叩いて立たせていた。
「いいか。この会社にいるとなんども死にかけるような目にあうぞ。それでも入りたいか?」
 セスが青年に聞いていた。
「入りたい! 俺はどうしても強くなりたいんだ!」
「なら、どんなことでもいい。自分がアピールできることなら、なんでも叫んでみろ。仮入社できるかもしれない。ただし、期待はするなよ。あの人たちに追いつくのは無理でも近くにならいけるかもしれないってだけだからな」
「なんでも……? 名前はドヴァン! 傭兵の国出身、幼い頃から呪い子と呼ばれ、危機的な状況になるとウェアウルフになります! 頭の耳は友人を助けるためにウェアウルフになって以降、消えなくなりました! 戦争前はアリスフェイ王国の魔法学院で薬学を専攻! ベルベ先生という植物学界の怪物に教えを受けました! 薬草、毒草のことならなんでも聞いてください!」
 正式な薬師か……。ただなぁ、俺も薬学のスキルならカンストしているし、特に必要なわけじゃないんだけど。
「青年、ベルベって言ったか?」
 急にベルサが振り返って、ドヴァンに聞いた。
「は、はい! ベルベ、せ、先生の助手をし、してました」
 ドヴァンは突然質問され、戸惑いながら答えた。
「嘘つけ。あの守銭奴が助手なんか雇うわけないだろ? 教え子か?」
 ベルサとベルベ、似てるな。知り合いかな。
「そうです!」
「それは残念だったな。なにも教えてくれなかったろ? 親族として詫びるよ」
「ベルサ、もしかして、そのベルベ先生って……?」
「うちのバカな父親だ。王都で王のサポートをしていると言ってたが、魔法学院で教師をやっていたとはね」
 世界は広いけど、世間って狭いね。70億人いた前の世界でも知り合いを6人辿れば、全世界の人と知り合いになれると言われていたはずだ。この世界でも似たようなもんかな。
「先生は城でも仕事をされていました。だから俺たちはダンジョンに行かされてましたけど」
 ドヴァンがそう言うと、ベルサは溜息を吐いた。
「そう。植物の手入れなんかを手伝わされたりしなかった?」
「しました……」
「アイツは元貴族だからな。人を使うのが上手いんだ」
 父親をアイツ呼ばわりだ。最初にベルサに会った時、父親が金も送ってこないと嘆いていたので、未だ恨みを持っているのかもしれない。
「アリスフェイの魔法学院っていくつもあんの?」
 俺は横にいたアイルに聞いた。
「いや、王都に1つあるだけだと思うよ」
「そうか。ドヴァンって言ったか。その魔法学院にセーラってゲッコー族いなかった?」
「セーラは一緒にパーティを組んでダンジョンに潜る仲でしたが……知り合いですか?」
 妙に縁があるなぁ。神のイタズラか? 後で問いただしてみよう。
「セーラは俺の元奴隷だったんだよ。この前、話してから連絡してないな……」
 通信袋で呼びかけてみたが、反応なし。忙しいのだろう。
「もしかして、ナオキさんですか?」
「そうだよ。ナオキ・コムロ。清掃・駆除業者、コムロカンパニーの社長です。ドヴァン、君とは妙に縁があるようだね。とはいえ、そう簡単にこの会社に入社はできないよ。死んでも責任取れないしね。セス、面倒を見るなら1人でやれよ」
「わかりました!」
 セスが返事をした。そろそろ後輩がほしいのかもしれないな。ボウとリタは年齢的にも後輩という感じではなかった。
 ドヴァンに関しては、ここでシマントを倒させて、少しレベル上げてやれば実家に帰るだろう。出身は傭兵の国って言ってたな。火の国と同盟を結んでいる国だ。行くことがあれば、案内してもらおう。
 そんなことを考えつつ、俺たちは森を進んだ。岩山まで来ると、散らばってシマント駆除に向かう。
4日目にして、ようやくシマントの数が減ってきたのか、見つけにくい。岩山に空いた洞窟の中を走り回り、1匹1匹倒していった。
昼飯時に一旦全員集まると、やはり皆、シマントを見つけにくくなっているという。
「あんまり、毒餌にも食いつかなくなってきましたね」
 セスが言った。ドヴァンはすでに疲労困憊といった様子で「どれだけ討伐するんですか?」とセスに聞いていた。
「減ってきて、毒にも慣れたってことかな」
「森の魔物も様子がおかしい気がするんですよね。今日、トリの魔物の鳴き声って誰か聞きました?」
 メルモが全員に聞いた。
「そういや、聞いてないな。そもそもいつも鳴いてたか?」
「たぶん聞いていたと思うんですけど、今日は静かだなって思って……」
 トリの魔物の鳴き声など意識していなかったが、岩山がいくつもあるような広い森なのに、やけに静かだ。なにか起こしてはいけない魔物でも起こしてしまったか。
「シマントを駆除して、森の生態系が変わったのか? もしかしたら、巨大な魔物が来る前兆かもしれない。なにか異変があればすぐに知らせてくれ」
「「「「了解」」」」
「りょ、了解」
 ドヴァンも返事をしていた。
「ドヴァン、ウェアウルフに変身すると鼻が利くようになるとかないのか?」
「全部の感覚が鋭くはなりますが、どれだけ身体能力が上ってもセスさんの強さには及ばないと思います」
 セスはドヴァンに現実を見せつけたようだ。

 食後は森の中を回り、シマント以外の魔物についても調べ始めた。魔物たちもなにかに警戒しているのか、落ち着きがない様子だった。シカの魔物のフォレストディアは草を食みながら、なんども首を回し、身体を揺らしている。先ほどまで鳴いてなかったトリの魔物がけたたましく鳴き、再び沈黙していた。
「魔素の濃度が変化して、身体がついていかないのかな?」
『女王アリがいたのは地中深くだよ。そんなに影響あるかなぁ』
 岩山でシマントを駆除しているベルサと通信袋で連絡を取り合いながら、駆除兼調査を進めた。
 結局は夕方まで、なにも現れることなく作業は終了。羽アリのシマントもほぼ駆除したので、明日にでも一通り回ってシマントを見つけられなければ駆除作業も終えていいのかもしれない。
 それは、罠を片付け町に帰ろうとした時に起こった。
「変な雲ですね」
 夕焼け空にかかる雲を見ながらメルモが言った次の瞬間、森の木々がミシミシと音を立て、トリの魔物が一斉に飛び立ち、魔物たちがいろんな方向に走り始めた。
地面からゴゴゴゴゴという低い音が鳴り始め、地面が大きく揺れた。
「地揺れだ!」
 アイルが叫ぶ。俺たちは空飛ぶ箒で空へと避難した。
シマントの巣があった岩山はガラガラと音を立てて崩壊。森では地割れが起こっている。

揺れが収まり、全員の無事を確認。ドヴァンはセスに引き上げられていた。
「社長! 町が……」
 メルモが叫んだ。空から見ると、町の方向から煙が立っているのが見える。
「急ぐぞ! 人命第一! 全員、通信シール装備の上、回復薬を受け取れ! 飛びながら渡す!」
 非常事態につき、空飛ぶ箒で町へ向かう。向かいながら、回復薬を5本ずつ全員に配った。
町について被害状況を確認。建物は倒壊し、そこら中に埋もれた人たちがいる。夕飯の準備をしていたのか、火事になっている建物もあった。
子どもは泣き叫び、大人は呆然としている。
「被害が大きい湖岸側の建物の瓦礫を撤去し、各自、人命の救助だ! 俺はとりあえず火を消す」
「「「「了解」」」」
 社員たちが湖岸へと向かった。
 俺は火事になっている建物まで飛び、魔力の壁で建物ごと覆って、空気を抜く。酸素がなくなり、炎が消えた。5秒で魔力の壁を消し、建物の中から親子を助けた。二人とも酸欠で気絶していたが、命に別状はない。頬を張って起こし、野次馬として見ていた人たちに預け、次の現場に向かった。
 社員の中で探知スキルを持っているのは俺だけなので、生存者の居場所も俺しかわからない。湖岸へと急ぎ、指示を出す。
「セスとメルモはそのまま瓦礫を撤去してくれ! 下に気絶した人が埋まっているから! ベルサ! アイルの方を手伝ってあげてくれ、その建物にいる人はもう光が見えない!」
 残酷ではあるが、今は一刻を争う。探知スキルの光が消えている方々はあとにして、まずは生存者を探さなければ。
大きな地震のあとには必ず余震がある。実際、先ほどと同じくらいの地震が3回起こった。
俺たちは瓦礫の中から生存者だけを探し出し、避難所に届けることに。ただ、すぐに避難所ができるわけではない。
「ご主人! すぐに冒険者ギルドと商人ギルドの建物を開放して、避難所にしてください! ギルドの加入店の中で丈夫なお店でも構いません! とりあえずこの人お願いします!」
 紙問屋の主人に瓦礫から救い出した漁師風の男を頼んだ。積み重なっていた紙の束が崩れ落ちていたが、紙問屋の従業員たちは皆、無事なようだ。
「わっわわかりました!」
町の冒険者ギルド及び商人ギルドが所有している建物は全て開放され、避難民の受け入れを始めさせた。その間にも余震が続いている。
 とにかく町中を回り、瓦礫の中から生存者を探し続けた。もちろん、町の人たちも協力して瓦礫を撤去しながら、生存者を探している。
日が沈み肉眼では見えにくくなってきたので、アイルが光の剣を町の上にぶち上げていた。この時ほど、本当に探知スキルを持っていてよかったと思ったことはない。生存者の位置がひと目でわかるのだから。
火事があれば消し、瓦礫の下に生存者が埋まっていれば助け、ひどい傷を負っている人には回復薬をかけてあげた。
「目が……目が飛び出た!」
 中年男性が目を押さえながらこちらに来た。
「大丈夫! 目が飛び出たくらいじゃ死なないから。それより、なにかが突き刺さっている人たちに、青い服着た俺たちが行くまで抜かないよう言って回ってください! 抜いちゃうと出血多量で死ぬので、そのままでいるように! 歩ける人は冒険者ギルドか商人ギルドに向かってください」
 周囲にいる人たちにも声をかけ、生存者とけが人を探し続けた。

 真夜中過ぎまで、瓦礫から生存者を掘り出し、冒険者ギルドと商人ギルドを回って、けが人の治療にあたった。冒険者ギルドと商人ギルドの前の道は人でごった返していたものの、うちの社員たちが重症患者と軽症患者に分けていたので、回復薬での治療はスムーズに進む。ノームフィールドでの経験が役に立ったようだ。
 回復薬は瓶に入った液体状のものも塗り薬も湯水の如く使っていく。ここで出し惜しみをして、けが人に死なれてもこちらの寝覚めが悪い。冒険者の僧侶たちにも魔力回復シロップを配り、けが人の治療してもらっていたのだが、すぐに魔力切れを起こし早々にギブアップしていた。
 重症患者全員の治療が終わったのは明け方近く。
「休憩できるやつは飯食っちまえ!」
『『『『了解』』』』
 通信シールで連絡を取りながら、けが人に対応していった。軽症患者でもバイキンや雑菌が傷口に入ると面倒なので、集まってもらって一気にクリーナップをかける。汚れや汗もキレイになるので、一石二鳥だ。
余震が怖いからか、皆、道の真ん中で寝ている。
冒険者ギルドの外にあるベンチで俺が一息ついてサンドイッチを食べていると、紙問屋の主人がやってきた。袖を捲り上げ、髪は乱れ、汗塗れだ。
「あんたたちはいったい何者なんだ?」
 口調も荒い。
「清掃・駆除業者ですよ。ただちょっとサバイバルに関しては長けているってだけです。あ、国に言って割増料金くださいね。手持ちの回復薬もだいぶ使ったので」
「ああ、そうだな。直接言ったほうが早いかもしれないな……食事の邪魔をして済まなかった。大ナマズの料理はたくさんあるから、足りなかったら言ってくれ」
 そう言って、紙問屋の主人は自分の店の方に歩いていった。
「大ナマズの料理か。地下の大ナマズが暴れたか……」
 俺はサンドイッチを口に詰め込んだ。

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