挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
駆除人 作者:花黒子

~火の国の商人と立ち合う駆除業者~

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

215/250

215話


 シマントの巣には入り口が幾つもあり、埋めたところですぐに働きアリが壊してしまうだろう。
「閉じ込め作戦は無理だな」
 アイルが断言。
「音はどうだ? 岩だから反響するんじゃないか?」
 混乱の鈴で、すべてのシマントを混乱させる。
「町の近くだと、住民に被害が出るかもしれないよ」
 ベルサが止めた。
「だとしたら、遅効性の毒が一番なんだけどな。カミーラの毒はもう使ってしまったし……水攻めもリタがいないしなぁ……」
「水攻めがダメなら、火攻めはどうですか?」
 セスが案を出してきた。
「爆発でもさせるのか?」
 世界遺産級の景色だが、爆発させてもいいものか。
「いや、燻煙式の罠のデカい物を作ればいいかと」
「ああ、確かに……」
「この森なら、毒草も豊富そうですし、麻痺薬を中心に一山ずつ駆除していけば……ダメですかね?」
「いや、堅実だな」
 セスらしい作戦だ。
「どうやって、仕掛けるかだな。岩をも砕く顎を持ってるとなると……」
「働きアリに持っていってもらえばいいんじゃないか」
 ベルサが提案した。
「食料に似せて団子にして、中に『加熱の石』を入れておけば、食っている最中に燃えだすだろう」
「よし、それでいこう!」
 ベルサの案も採用する。
「ちょっと待ってください、その食料に洞窟スライムの粘液混ぜておいたら、顎が固まっちゃいますよね」
 メルモがさらに案を出し始めた。
「どうせ『加熱の石』を使うなら、餌に混ぜて、シマントの腹の中から燃やしてしまえばいいしね」
 アイルからも案が出る。
「いざとなれば、餌で集めて、ナオキが魔力の壁で覆って圧縮してしまえば済む話だ」
 ベルサがまだ案を出してくる。
「そもそも、私が一体、テイムしてしまえば洞窟の奥深くにどんな毒でも……」
 メルモが顎に手を当てて言った。
「止まらないな、お前ら!」
 発想が全員、駆除業者だ。頼もしくなっちゃったなぁ。
「要は女王アリを殺してしまえば、あとは殲滅していくだけだから、実力行使でもなんでもいけるよな。あ、いた!」
 目の前をシマントが歩いていたので、とりあえず、魔力の壁で頭を覆って空気を抜いた。
「アリ系の魔物は胸部に気門があるから、頭覆っても意味ないよ」
 ベルサが教えてくれた。
「あ、そうなの! あ……!」
 俺は驚いた拍子に、シマントの頭を捻転させて殺してしまった。
 トンボの魔物のときも思ったが、昆虫系の魔物の身体って、どうしてもつなぎ目が脆いよな。
「社長、殺しちゃったら、私がテイムできないじゃないですか」
「すまんすまん。次はちゃんと捕まえる」
 数は多いので探知スキルを使えば、いくらでも捕まえられる。
 次に捕まえたシマントをメルモがテイムして、その場でいろいろと実験。睡眠薬、麻痺薬、ツーネックフラワーの幻覚剤、ゲンワクスズランの音など全て効果があった。また、洞窟スライムの粘液を食べさせると、何度か咀嚼したあと顎が開きっぱなしのまま固まる。さらに、『加熱の石』を口の中に放り込むと、腹部までいって内臓を焼き、固い皮膚を突き破って地面に落ちた。腹部にあった蟻酸が流れ落ち、『加熱の石』に触れて炎上。シマントは、そのまま丸焦げになった。
「悲惨の一言だな」
 燃え残った実験魔物のシマントはちゃんと地面に埋めて手を合わせる。もちろん魔石は回収した。
「じゃあ、シマントの女王アリを見つけて、『加熱の石』を食べさせよう。まずは森で毒草の採取から」
「「「「了解」」」」
 毒はなるべく現地調達がいい。世界樹産の毒草にも限界がある。来年の南半球が春になったら採りにいこう。
 巣の周辺じゃなくても、森の中でシマントの働きアリや兵隊アリに遭遇することがあった。うちの社員たちは遭遇した次の瞬間には頭部を捻転させて頭部と胸部を切り離している。それがもっとも楽な討伐方法らしい。ベルサなんかは、木の棒をシマントの口に突っ込んで、ルーレットでも回すかのようにグルンと回して倒していた。
 森では麻痺薬用のキノコ、睡眠薬の毒草、簡単な幻覚剤になる草などを見つけた。世界樹の植物と比べると、効果が薄いものが多い。
「やっぱり、北半球の森ではこれくらいが限界かなぁ」
「離れてみるとわかるけど、世界樹って本当に異常な植生だったんだね」
 アイルとベルサが世界樹を思い出していた。
 買いだめしていた小麦粉と水、麻痺薬のキノコを刻んだ物、睡眠薬の毒草を混ぜ、中に『加熱の石』を入れ、サッカーボールサイズの毒団子を作った。あとはメルモがシマントの働きアリをテイムして、毒団子を女王アリのもとへと運ばせるだけ。
 そう、思っていたのだが……。
 いざ、テイムしたシマントに毒団子を運ばせてみると、女王アリは岩山の中ではなく地中深くにいるようで、テイムしていたシマントが地下に潜りしばらくすると死に、周囲のシマントが状態異常になった。
「どういうことだと思う?」
 俺しか探知スキルを持っている者はいないので、説明して聞いてみた。
「勝手に『加熱の石』が起動したってことですかね」
 セスが予想を言った。皆も同意見のようだ。
「だとしたら、つまり……?」
「つまり、魔力を誰かが使った。もしくは魔素が多いってことだろうね」
 ベルサが顎に手を当てて、俺を見た。
「また、魔素溜まりか……魔族領と同じ大陸でそんなに遠くない場所ではあるな」
 もし、魔族領にあった地底湖と似た魔素溜まりなら、分布としてありえるのか。地中深くにあり、地表の植生も世界樹ほど変わったものではない。
「魔道具や魔法陣が使えないっていうのはちょっと痛いな」
 魔法陣など描いた瞬間に起動してしまう。
「やっぱり時間をかけて地道に行きますか」
「そうだな。シマントの女王アリが地中にいることがわかっただけでも収獲と思おう。ひとまずシマントの討伐部位と魔石を回収して、冒険者ギルドでお金に換えよう。誰か、シマントの討伐部行がどこかわかるか?」
「両顎のはずだよ」
 ベルサが知っていた。
 長期戦になりそうなので、町に腰を据えて、じっくり駆除をしていくことに。
夕方まで、周囲にいたシマントを適当に乱獲し、両顎と魔石を回収して回る。まるで数が減っているようには見えないため、不毛さを感じて辛い。
「駆除業者として、負けた気分だ」
 火の勇者を早く駆除しないといけないのだが、さすがに駆除業者としてこの状況は見過ごせない。

 冒険者ギルドで、討伐部位と魔石を換金し、紙問屋の主人に報告しに行った。
 切り立った一山一山がシマントの巣であること、しかも地中でその巣がつながっている可能性があり、女王アリがいる場所は魔素濃度が高いことなどを説明すると、「信じられない!」と紙問屋の主人は青ざめていた。
「私はここが火の国になる前から、この町で紙問屋をやっていますが、そんなことになっているとはまったく気づきもしませんでした。では、何人か送り出した冒険者は皆……」
「逃げ出したか、死んだか……」
 紙問屋の主人は目を閉じて唇を噛み締めた。
「今後の予定ですが、町の近くの岩山から徐々に駆除していくつもりです。まずは、女王アリを見つけて駆除を目指します。状況によって街道の封鎖などが発生するかもしれませんが大丈夫ですかね?」
「……街道なら、期間を決めればそれは可能です。この町は船での交易のほうが盛んですから」
「では、数日間はこの町に滞在して、シマントの駆除をしていきますので、他の冒険者や旅人が岩山の方に来ないよう注意をお願いできますか?」
「わかりました。冒険者ギルド、商人ギルドには通達しておきます」
 紙問屋の主人が商人ギルドの偉い人でよかった。話がスムーズに進む。
「なにかあれば連絡します」
 報告終了。
 宿は紙問屋の主人が用意してくれたところを使わせてもらった。思いがけない高待遇。金がないので甘えることに。俺たちがシマントを駆除していることは伝わっているらしく、大部屋を貸し切りにしてくれた。
「働きアリと兵隊アリで対処法を変えますか?」
 夕飯を宿の食堂で食べ、落ち着いた頃にセスが聞いてきた。
「いや、大丈夫じゃないか?」
 今日、駆除した中には働きアリも兵隊アリもいたのだが、身体が倍近く違うくらいで、俺としてはあまり差異は見られなかった。腹部に毒である蟻酸を作る器官を持っているようなので、それは回収するよう言った。噴霧すると防腐剤や抗菌剤になったり、ダニ系の魔物の殺虫剤になるかもしれない。
「目や口に入るとヤバいので、注意して回収するようにな」
「駆除方法はどうする? 今日みたいに一体一体やっていくのか?」
 アイルが聞いてきた。
「いや、ある程度は毒餌も使おう。それからベタベタ罠のシートを作りたい。布製の大きなベタベタ罠だ。それを敷いて、真ん中に餌を仕掛けて獲る。バグローチの駆除と似たようなものだ」
 布は明日、メルモが買ってきてくれるという。
「巣の中は魔力の壁を張って、燻煙式の罠を仕掛けていこう。まずは地中の奥まで行って女王アリの確認と周辺の状況確認だな。明日は女王アリさえ駆除できれば、上出来だ。あとは臨機応変に、試したいことがあればどんどん試していっていいから。よろしく」
「「「「了解」」」」
 作戦会議は終了。
各々が準備をして、そのまま就寝した。

 翌朝もすごい霧が立ち込める中、シマントの巣に向かう。
 全員、マスク、耳栓、通信シールを装備して、現場に到着すると、すぐに作業を開始。セスとメルモは岩山周辺で毒餌を調理しながら、匂いでシマントをおびき寄せていくという。俺たち3人は魔力の壁を展開しつつ、巣の中に燻煙式の罠を仕掛けていくことに。まず入り口に眠り薬の罠を仕掛け、風魔法を描いた板で煙を巣の中に送り込み、シマントたちを眠らせる。
 巣の通路にいる兵隊アリや働きアリは眠ったまま、俺たちに頭部を切り離された。両顎と魔石、蟻酸を回収し、どんどん奥に進む。煙が届いていない場所まで来ると、再び罠を仕掛け、奥へと煙を送り込み、シマントたちを眠らせた。その作業を繰り返しだ。
「単純作業は疲れるな」
アイルが言った。
進んでいるものの、同じ作業を繰り返していると精神的に辛くなってきてしまうのも仕方がない。俺も腰の筋肉を伸ばしたりしながら作業を進めている。ベルサだけは普段から魔物の研究をしているので、苦にならないようだ。
巣の異変に気づいた兵隊アリがやってきては眠っていくので、作業にも終わりが見えない。
「とりあえず、仕留めて魔石の回収だけして、進んでしまおうか。探知スキルでも、まだ女王アリの姿を確認できてないから」
「「了解」」
巣は、奥に行けば行くほど魔素濃度が高くなり、魔力の壁を展開するのが楽になったが、通路は広くなり、シマントも大きくなった。皮膚も若干硬くなった気がする。
通路も複雑で、なんども迷ったが、ようやく最奥が探知スキルで見えてきた。最奥には、広い部屋があり、そこに女王アリがいるようだ。
体育館ほどの大きさの部屋に、部屋の半分ほどの大きさの女王アリが鎮座していた。長い腹部には無数の卵がすけて見えている。女王の周辺に蒸気のようなものが見えているが、あれが魔素だとすると異常な魔力量である。
「さすがに大きすぎるね……」
 ベルサがつぶやいた。女王アリの魔物は大きいと言っても、ここまでの大きさのものは聞いたことがないという。
女王アリの周囲には何匹もの世話係の働きアリが、卵を持って通路を行き来している。ベルサが通路に南半球産の吸魔草を2つ投げると、通路に吸魔草がボンッボンッと急激に育ち通路が塞がった。
2人に耳栓をしていることを確認させ、混乱の鈴を鳴らす。部屋中に鈴の音が鳴り響き、女王アリの世話をしていた働きアリたちが、女王に噛み付いた。
大きすぎて身動きが取れない女王アリは噛まれるがまま、体中から粘液を出して、絶命。残った働きアリたちも共食いを始め、最後に残った働きアリをアイルが斬って終了。一応、女王アリの身体も、アイルがバラバラに解体していた。
周囲には魔素と思われる湯気が立ち込めている。女王アリの身体を退けてみると、地底湖の魔素溜まりと同じように、地面に亀裂が入っていた。そこからシューッと音を立てて、魔素が噴き上がっている。すぐにベルサが吸魔草で亀裂を埋め、俺が何枚ものベタベタ罠を使い、穴を塞いでいった。洞窟スライムの粘液で、少しの隙間もなくしっかりと固定して、最後に時間魔法の魔法陣を描き、時を止めて完全に亀裂を埋めた。
「シマントの大発生はこの魔素溜まりが原因だろうな」
「あと数週間、私たちが来るのが遅れていたら、周辺の町にもっと被害が出ていたんじゃないか?」
「とりあえず、これで増えることはなくなったよね」
 俺たちは通路の吸魔剤を採り、行きと同じように眠り薬の燻煙式の罠を使いながら、外まで出る。すっかり日が落ち、セスとメルモが心配そうに待っていてくれた。状況は伝えていたのだが、帰ってくるまで心配だったようだ。
「おつかれ。あとは残ったシマントの駆除だな」
「「「「了解」」」」

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ