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駆除人 作者:花黒子

~火の国の商人と立ち合う駆除業者~

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209話


「なにやってんすか?」
 俺が声をかけると、カウボーイ中年と宿の女主人は飛び上がって驚いていた。
「お前ら、本当にこの城で魔物たちと住んでるのか?」
「だから魔物じゃなくて魔族ね。住んでるよ。普通に」
 音が聞こえるんじゃないかと思うほど、ギョッとしていた。
「なにしに来たんですか?」
 まさか、一緒に住みたいとか言わないよな。
「昨日、本部から連絡役が来て、正式にマジックパウンド村から撤退することが決まった。アフィーネたちにも伝えてくれ。明後日、火の国への馬車が出るからそれが最後のチャンスだと」
 本部ってなんのだろう。商人ギルドのかな。あの村マジックパウンドっていうのか。
「わかりました。伝えておきます……。あの村から誰もいなくなるってことですか?」
「商人たちはな。冒険者たちはわからんが、採石場の横穴も崩れ始めた。物好きでもない限りいないだろうな。新しい魔石の採石場がずっと北の方で見つかったから、ここはお払い箱さ」
「アタシらはその町に稼ぎに行くんだよ。アフィーネたちも今ならまだ、謝ったら許してやるよって言っといとくれ」
「ハハハ、それは言わないけど」
「え!?」
「……え!?」
 女主人が全然空気を読めてないみたいなので、「話が終わったんなら、早く帰れよ」という雰囲気を全面に押し出してみる。ちょうどタイミングよく、5メートルほどの大蛇の魔族が「果物、採ってきたよ~」と見せに来てくれたお陰で、カウボーイ中年と女主人は逃げ出すように走り去った。
「ナイスタイミングだったよ。セス、塩でも撒いとけ」
 大蛇の魔族にお礼を言って、果物が入ったバスケットを受け取った。人化の魔法を持ってなくても器用に身体を使って、果物を集めてくれる。
 ほとんどが魔力回復シロップに使われるが、メルモが「ドライフルーツにできるかもしれない」と挑戦している。ドライフルーツにしたところで味はそんなに変わらないんじゃないかと思うが、物は試しだ。

 城に入って、グリフォンたちにナメクジ駆除を報告し、アフィーネたちの部屋に行く。奥の子供部屋はすっかり子どもたちと人族の部屋になっている。
「ただいまー」
「「「おかえりなさーい」」」
美人たちが出迎えてくれる。どうしよう、やっぱりずっとここに住み続けようかな。
「さっき、カウボーイ中年……じゃなかった。村のおっさんとおばさんが城の前まで来てたよ。村から撤退するってさ。北の方でまた商売するみたい」
「これから冬になるっていうのに、北に行くなんてバカじゃないの?」
「絶対こっちのほうがいいよ」
 子どもを抱っこしながら、アフィーネとボブカットのおネエさんが言った。このおネエさんに限らず、村から逃げ出してきた女性陣は「仕事を辞めたから髪型も自由にしたい」と言って、この前メルモに切ってもらっていた。
「子どもたちもいるし、仕事のやりがいはここのほうがあるから戻る気はないよ」
 他のおネエさんたちも同じような気持ちだという。食事は質素なものしか出していないはずだけど、こう言ってくれるのは素直に嬉しい。初めこそ、距離があった魔族と人族だが、うちの社員とボウがバカ話ばっかりしている影響か、城の中ではあまり気にしなくなってきている。
「あ、社長。もしかしたら、こっちに逃げ出してくる娘がまだいるかもしれないわ」
 アフィーネからは社長と呼ばれている。皆がそう呼ぶからだろう。
「どんな娘さんなの?」
「私たちが逃げ出すのを反対していた娘なんだけどね。料理番の娘だから、メルモちゃんやセスくんと話があうと思うのよ」
「そうか。それはいいなぁ。明後日、火の国への馬車が出る最後のチャンスらしいから、今晩からアイルに頼んで、また光の剣を出しておいてもらうか」
 一応、村に戻る選択肢も伝えておいた。明後日までなら、彼女たちは今まで通りの生活に戻れる。
「大丈夫よ、社長。私たちに気を遣わなくて。子どもがいる、この城のほうがキレイで居心地がいいのよ。戻る気なんてないわ」
「本当そうよね。あたし、ここに来てから咳しなくなったもん」
「確かに、お風呂はいつもキレイだし、どこも掃除が行き届いててバグローチすら見たことないなんて……魔族だからかしら?」
「これでも、俺たち清掃・駆除業者だよ。森のなかに城があるから虫の魔物は出る時は出るんだけど、あの村よりはキレイにしてるね」
「そうだったわね。ここにいると忘れちゃう」
 アフィーネはもう城を自分の家のように思っているようだ。
「なら、いいか」
「社長、そんなことより、おしめがちょっと足りないのよ」
「布かぁ、布は魔族の服とかに使って今ないんだよなぁ。でも、要望をまとめて書いておいてくれる?」
「私たちが字を書けると思う?」
 火の国では識字率が低いのか。商人の国なら、数字やちょっとした文字なら書けると思ったんだけどな。
「じゃあ、セス。ここにいるお母さんたちから足りないものを聞いておいて」
「わかりました」
 セスに仕事を振っておいた。
「お母さん! いい響き!」
「そうよね。私たちがこの魔族の子どもたちのお母さんなのよね!」
 実際、腹を痛めて子どもを産んだ人たちなのだから、お母さんのはずなのに、今までそう呼ばれてなかったのか。
「物が少ないから、あんまり期待しすぎないようにね」
「はいはい」
 俺はセスを残し、部屋を出た。

 1人になったので、地下の宝物庫に向かう。
 集まってきちゃった魔族を宝物庫に住まわせようという計画もあったが、数が多いので彼らは今のところ城周辺に簡易的な小屋を作って住んでもらっている。
 かつて歴代の魔王たちが集めたという宝物はなにも残っておらず、現在は掃除をして食料庫と化している。メルモが作った保存食が入った樽や壺などが並んでおり、奥には簡易的な冷蔵庫がある。氷魔法の魔法陣を床に描いただけだ。俺がいなくなったら使えなくなってしまうが、冬の間に近くに氷室を作る計画も立てているので最悪今年だけでも保てばいいのだ。
 山でナメクジを駆除するついでに獲ってきたコンドルの魔物の肉を、冷蔵庫に積み上げていく。解体はセスがやった。少しづつではあるが、食料を蓄えていかないと冬を越せない。足りない時は、グレートプレーンズで農家の皆さんに頭を下げて回るしかないか。
 畑はできているのに、冬までに育つ野菜がバレイモくらいしかない。カボチャに似たカラバッサは春に種を蒔いて秋に収穫する野菜なのだそうだ。冬至にカボチャを食べるので冬の野菜かと思ったが違った。とりあえず、食べられそうな植物は全て採取し、クモの女王に見せている。俺が毒味をすることがなくなったのはとてもよいことだ。鑑定スキルって素晴らしい。毒がなければ、だいたいスープの中に入れて食べてしまっている。
 壁にかかっているセスが作った在庫表に「コンドルの魔物の肉8」と書いて宝物庫を出た。
 その後、クモの魔族たちと一緒に夕飯まで魔力回復シロップ作り。薬学レベル10の腕前を見せつけると「スゴ~イ」とか美人のアラクネさんたちが言ってくれるので、気分がいい。我ながら、単純な脳みそで良かったと思う。

 夕飯は、屋上にてうちの社員だけで食べることに。頭の上にはアイルが打ち上げた大きな光の剣が浮かんでいる。
「じゃ、人間たちがいなくなったら、あの村を掃除して使えますよね?」
 情報を共有したところ、リタが提案してきた。
 マスマスカルとバグローチを駆除して、掃除をすれば、まるまる建物などは使えてしまう。城に入り切らない魔族たちもいるので、ちょうどいいタイミングでいなくなってくれるな。無駄な争いをしなくて済んだ。ボウが村の崩れた建物を修繕すれば、そこにも住めるようになるだろう。
「魔族の村ができるなぁ」
「いずれ建物と魔族が増えれば、城下町になる」
「いよいよ国造りが始まりますね」
 アイルとベルサ、セスは未来を見ているようだ。今まで言わなかったが、「国造り」という言葉も出てきた。ボウも否定はしない。
「国造りはどうかわかりませんけど、土作りはうまくいってます。樹木系の魔族の皆さんは指示をすればよく働いてくれます」
 リタが畑の方を見ながら言った。
「そういえば、スピナッチという野菜が見つかったんですよ! ヘビの魔族さんたちに果物ばかりじゃなくて、地面に生えている草も採ってきてくれるよう頼んでたんです」
 メルモが報告してきた。スピナッチはほうれん草と小松菜に近い野菜で、すでに俺たちはスープの具材として食べていたようだ。秋に種を蒔く野菜だそうで、まだ間に合うとか。
「国造りに土作りか……フハ」
 ボウが何か言いたそうに、頭を掻いている。
「ボウ、どうした? いつにも増して口数が少ないようだけど、なんか報告することでもあるのか?」
「炭焼き窯に問題でも?」
 俺とセスが聞いた。
「いや、炭焼き窯は順調。もうすぐできると思う。フハ……そうじゃなくて」
 急に真面目な顔をしてリタを見た。リタはボウを見て、頷いている。
 ボウが突然、立ち上がった。
「えー、この度、リタが妊娠しました。……フハ」
「「「「「え~~~~~っ!!!!」」」」」
 突然の発表に、5人は叫んでしまった。
「おめでとう!」
「なんだよ、ちゃっかり子作りしてるんじゃないか!」
「そりゃ、めでたいな!」
「おめでとうございます!」
「本当!? 本当ですか! すごーい!」
 こんなにめでたいことがあるとは。
「アイル、今日は酒飲んでいいよな?」
「メルモ、南半球で作ってた密造酒は、まだあったよね?」
「あります! アイルさんのアイテム袋に」
 隠れて、そんなものを作っていたのか。
「土作りと窯作りの合間に子どもまで作っているとは……2人ともやるな」
 ベルサが言った。
「ずっと報告しようと思ってたんだけど、なかなかタイミングがなくて。フハ」
「何ヶ月ですか?」
「たぶん4ヶ月です」
 なんだ、南半球でやることやってらぁ。
「春には生まれるんですね」
 メルモがリタのお腹を触って、診察スキルで元気に育っていることを確かめた。
「じゃあ、結婚式しないとな」
「フハ、結婚式ってそんなことをやってる場合じゃ……?」
「そんなことですか!?」
 ボウがリタの怒りを買っている。
「結婚式はやっておいたほうがいいよ。リタの親族だって来るんだしさ」
「あ……そっか。フハ」
 ようやくボウも結婚式について理解したようだ。
 リタが俺を睨んできた。
「いや、そういうことじゃなくて、ちゃんと親御さんに花嫁姿を見てもらったほうがいいってことよ」
 もちろん、食料や野菜の種を祝いの品として貰うつもりだけど。そのためにも、来賓の送迎と、今後の交易路についてアイルの地図を見ながら考えなくてはいけない。
 あれ? どうして皆俺の方を見ているのかな。もしかして心の声が顔に出てしまっているのだろうか。
「あ、ガーゴイルが古い地図を見つけてきたんだ。フハ」
 ボウが古い地図を取り出した。正確に描かれていてアイルの地図とは大違い。
「きっと道があるはずだ。水の勇者だって魔王領までやってきたんだから」
 古い地図には森の中の街道と今はなくなってしまった道が描かれている。馬車が通れるほどの道なら、問題はない。俺とボウは膝を突き合わせて、グレートプレーンズまでのルートを確認した。
「花嫁衣装は私が作りますから、安心してください!」
「僕も料理を作ります!
「私はブーケでも作る。大丈夫、こいつらが変なだけなんだよ」
 気づけば、リタが俺たちを睨み、社員たちがフォローしてくれている。
 ボウが「ごめん」と謝ったときには、リタは階段を下りていっていた。
「ああ、すまん」
「いや……」
 俺もボウも動かない。
「ボウは追いかけろよ。夫なんだから」
「フハ、そうか。リタぁ、すまん!」
 ボウはリタを追いかけて階段を下りていった。
「いやはや、マリッジブルーにならなければいいけど……」
「ナオキが言うな!」
「社長、酷いですよ」
 社員たちからツッコまれた。
「確かに酷い。ただ、冬は越せる可能性が高くなった、だろ?」
「「「「……」」」」
 全員、横目で俺を見てきた。「まるでこいつ、わかってないな」という目だ。
「戦争は停戦できたのかな。できてるといいね」
「「「「……」」」」
「どちらにせよ、レミさんとベン爺さん夫婦は呼ばなくてはいけないね。ラウタロさんとチオーネたちも来れるといいんだけど。あ、ボリさんて呼んだら来るのかな? さすがに遠いか……」
「「「「……」」」」
 久しぶりに4人の冷たい目を見た気がする。酔っ払って記憶をなくした時以来か。
「謝ってきまーす!」
 俺も階段を下りて、リタに謝りに行った。

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