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駆除人 作者:花黒子

~火の国の商人と立ち合う駆除業者~

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203話


 魔族の城に来て数日後。城で魔族たちが着ている服の洗濯大会を開催することに。徐々に城の中がキレイになっていくのだが、魔族が放つ体臭がキツいのだ。
 風魔法と水魔法の魔法陣が描かれた洗濯樽を5つ用意して、自分たちの汚れた服からどんどん洗濯を始める。服を洗濯をしないと、悪臭だけでなく虫がよってきたりカビが生えたりして病気になることもある、と説明したのだが、なかなか理解はしてくれなかった。

「服がない魔族の方、もしくは服の替えがない方はこちらにお並びくださーい! 私が採寸します!」
 メルモが城のホールで声を張り上げた。並んだのは女性の魔族ばかり。
「服なんかアタシらにはいらないよ!」と言っている魔族もいるらしく、ボウが困っていた。
「言葉を知り、恥も知れば、惚れた男以外に見せたくない部分も出てくるさ。大丈夫。人も魔族も流行は女性が作るから」
 最初に通訳をしてくれたアラクネの服を仕立てると、一気に長蛇の列ができた。魔族は新品の布の服など着たことがないらしく、アラクネが「こんなに自分にピッタリ合う服を着たことない!」と魔族の言葉で叫んだことがきっかけになった。
 いくらメルモの裁縫スキルがカンストしていても、100人以上いる魔族に服全てを作るのを1人でやらせるわけにはいかない。地味に裁縫スキル2の俺も手伝い、アイルたちも指示されるままに作業を手伝った。
 新しい服を着たことで、洗濯をする意味も理解してくれたのか、洗濯樽もフル稼働。城の外や屋上に張った洗濯紐には洗濯した服が風に吹かれて靡いた。
 無論、風呂も作る。井戸の近くにして、排水は畑の用水路に流すことに。
「フハ、やっぱり風呂を作ることになるんだなぁ」
「この会社で風呂を作らなかった拠点ってないんじゃないですかね」
 ボウとセスが笑った。
「ナオキが風呂好きなせいで、私たちまで風呂がないとしっくりこない身体になってるんだよ」
 ベルサが文句を言った。言われてみれば、たしかにベルサと出会った時は、かなり酷い生活をしていたように思う。今では、自ら湯船に使う穴を掘っている。
「風呂に入ると、張り詰めていた緊張感とかがリセットされて、悩み事も湯気と一緒に飛んでいくような気がするし、なんか……いいんだよ」
 拙い俺の説明に、皆笑っていたが、風呂を作ることを反対するものはいない。俺たちが緊張しても魔族の生活が急に向上するわけでもなく、リラックスした雰囲気で魔族と関わったほうが伝わることも多いような気がする。
 小一時間ほどで、いつもの風呂が出来上がった。
「ほら、風呂が出来上がると、なんとなく落ち着くだろ」
「なんとなく、か。フハッ!」
「いつか泡が出るタイプのお風呂にも行きたいなぁ……」
「フハ、泡が出る? 石鹸で泡を作ればいいんじゃないか?」
「いや、そういうんじゃなくて、もっと素敵な場所だ」
 俺はいつか行けると信じている石鹸の王国に思いを馳せながら、湯船にお湯を溜めた。
風呂は意外にも獣系の魔族たちに人気で、トラの魔族やミノタウロス、ハーピーなどが気持ちよさそうに風呂に入っていた。


 城の屋上でガーゴイルと会話をして、こちらの言葉と魔族の言葉を教えあった後、アイルがやってきた。
「それで、どうするんだ?」
「どうするって、なにが?」
「穴の向こうにある人間の村だよ。調べるんだろ? メルモたちが勝手に見に行ってるよ」
 うちの社員たちには、すでに城から街道を北に行ったところにある穴が、かつて沼であったことや魔素溜まりだったことなどを話してあり、そこを火の国の人間たちが掘って魔石を回収していたことも伝えてある。それを受けて、メルモやセスは自発的に村へ様子を見にいっているようだ。
先ほど通信袋でメルモとセスから連絡がきて、『村には女性が多いです』『数少ない男は木を切っているようです』との報告が来た。
 大丈夫か、あいつら。なにを見ればいいのかわかってるのかな。
「人間の村も気になるけど、まずは魔族だよ。畑作って魔物狩って、自給自足していくのはいいとして、このまま冬を越せるか?」
 グレートプレーンズではチョクロを収穫していた。もう一ヶ月と少しで秋が終わろうとしている。
 子どももいる。火を扱える魔物はいるけど、その魔物の魔力量にも限りはある。薪は必要だろう。
「必要なのは食料と燃料。いくら俺たちが生活を向上させても、最低限生きていけるだけのものがないと、死ぬ。実際、冬には大勢死んで、生き残れなかった種族もいるみたいなんだ」
「薪は、これだけ森が広がってるんだから、いくらでも手に入るだろう?」
 アイルの言うとおり、城の周囲には森が広がっている。ただ、木を倒せる大型の魔族は冬になると冬眠するか、極力動かないようにしていないと空腹すぎて仲間を食べてしまう恐れがあるらしい。
 アイルに説明すると、
「負の連鎖だね。道具がなかったのか!? 斧くらい宝物庫にありそうだけどなぁ。今さら言っても遅いか。よく魔族だけでここまで生き延びていたもんだ」
 と、呆れていた。
宝物庫とは、城の地下にある歴代の魔王たちが集めた秘宝を収めた部屋のことだ。魔族たちは、罠があったり魔王の呪いがかかるという理由で近づかないようにしていたらしいが、ボウが「フハ、バカバカしい」と開放していた。ただ、金目の物や珍品は、すでに自称・魔王たちが持ち出した後だったようで、宝箱の形をした魔物の死体や、弦が切れた弓、錆びついた剣など使い物にならない物ばかりだった。
「魔族だけでは冬の間にまた死体が増えることになる。交易が必要だ。一番近い人間の集落は北の村だけど、火の国の人間たちだからなぁ。領土を奪った奴らと交易はし難い」
「じゃあ、どうする?」
「ボウがここから逃げるために使った逃げ道があるだろ? そこを使ってグレートプレーンズと交易しようと思って。なんたってリタはグレートプレーンズの王族だしね」
「使えるものは使え、か?」
「そういうこと! 洗濯と風呂は少しでも交渉がうまくいくようにね」
「でも、交易しようにも、魔族側はなにを差し出すんだ?」
「魔石は火の国に持っていかれてるしね。グレートプレーンズになくて、こちらにあるもの……」
「木材? 木の実? あとは魔族特有の労働力とか?」
 グレートプレーンズの大平原にはそもそも太い木がない。木の実もないから需要はありそうだ。労働力としては、空を飛べるハーピーが郵便配達できるようになったりすると便利だし、ラーミアは水の上を進めるそうだから、南部が冠水した時にも役立てる気はする。
「そんなところだろうなぁ。あとは魔族が人間たちに誘拐されて奴隷になってしまったり、魔物と間違えられて攻撃されるなんてことも考えられるだろ? そういう危険に対する備えと、サッサさんには法整備を急いで貰う必要がある。少なくとも服は絶対に必要だと思う。それだけで、魔物と魔族が違うことがわかるはずだからね」
「うん。ただなぁ、今は火の国との戦争があるからね」
「停戦してるといいんだけど……」
 社長と副社長の話し合いで、概ねコムロカンパニーからのプランが決まり、その日の夜に社員たちを集合。自分たちの方向性を伝えた。
「なにか異論は?」
「いいんじゃないか。清掃・駆除業者っぽくはないけどね」
 ベルサが言った。確かに、俺たちの仕事っぽくはないか。
「もちろん基本的には魔族たちがやることだよ。俺たちは、木の切り方、加工の仕方、どうやって仕事を取ってくるのか、交渉の時の注意なんかを教えるだけさ。ただ、なにも教えずに冬が来て、魔族が全員死んでゾンビにでもなったら、俺たちが駆除しないといけなくなるだろ? 面倒だよ。金にならないし、回復薬の在庫が切れるし、海まで結構、距離あるんだろ?」
 俺の言葉にボウが頷いていた。以前、ゾンビを駆除した時は、海に沈めた。
「ん~……その前に手をうっておいたほうが楽ってことか」
「ボウの故郷だしな。魔族が冬を越せる環境を整えるまでが、仕事の一環だよ」
「フハ、助かる」
 ボウは角が生えた頭を掻いた。
「あ、でも一番初めに交渉に行く時、リタには動いてもらったほうがいいと思う。グレートプレーンズで動きやすくなると思うし」
「私はあんまり自分では実感がないんですけどね。お祖母ちゃんが、前の女王って言われても、それまで花を売っていただけだし……」
 ボウが横目でリタを見ながら、何かを訴えていた。
「そういう目で見ないでください! やりますよ! 私はボウさんに甘いなぁ……」
「フハ、じゃ、オレ、皆に計画を話してくる!」
 ボウは小走りで城のホールに向かった。
 夜のホールで、魔石灯を掲げながら、ボウはゆっくりと魔族たちに話しかけた。
 俺たちも陰から、こっそり聞いていた。
吹き抜けのホールで、上の階からボウの言葉に反論が飛んでいる。ただ、ボウもそれに応えていた。俺は『冬』という魔族の言葉だけわかった。

ギョェエエエエエッ!!!

城の屋上から、叫び声がした。ガーゴイルの警報のようなものだろう。
一瞬にしてホールに緊張が走る。
俺は探知スキルを展開し、城の周囲を探った。城の前の街道を人間が1人、こちらに向かってくるのが見えた。
うちの社員たちはここにいるので、外部の人間で間違いなさそうだ。
「人間が1人、この城に向かってきている」
 俺の言葉をボウが訳すと、魔族たちは慌てて隠れたり、城の地下へと逃げ出したりし始めた。人間への恐怖心が強いらしい。俺たちも人間なんだけどな。

 俺たちは門から外に出て、向かってくる人間を待ち構えた。でも、魔王もいないこの城に誰がなんの用があって来るんだろう。
 ペタッペタッペタ、ペタペタ。
 と、走る足音が聞こえてきたので、アイルが街道の上に光の玉を放った。
 照らし出されたのは、薄汚れた服を着た裸足の女性。腕には毛布に包まれた赤子を抱えている。
「はぁはぁ……」
 息は荒く、目を瞬かせている。突然の光のせいで俺たちがどこにいるのかわからないようだ。
「すみません……すみません……」
 今にも泣き出しそうな顔をした女性が急に謝り始めた。
「どうか……私を食べて頂いて構いませんから……どうか、この子を、この子だけは生かしておいてもらえないでしょうか」
 なにを言っているのだろう。助けてほしいのかな。
 とりあえず、うちの会社で一番優しそうな同性であるリタが、女性に近づいた。
「あ、あなたは人ですか? 魔物ですか? どちらでも構いません、どうか……どうか……」
「事情を話してもらえますか?」
 リタが女性に聞いた。
 女性はなんども唾を飲み込んで話し始めた。
「……私は近くの村の娼婦です。この子の父親が誰なのかはわかりません。でも! ……魔物に抱かれたことはありません」
 女性は毛布から、赤子の顔をリタに見せた。その赤子の頭には生えかけの2本の角が生えていた。
「村で……生まれた魔物の子どもは、魔物への生贄として森に返さないといけない決まりです。でも、どうしても、森に置き去りにはできなくて……。ずっと隠してたんですけど、この子が夜泣きをして見つかってしまって……。どうか、この子を魔物の仲間として育ててはいただけませんでしょうか。立って歩けるまででも構いません。私の命と引き換えに……どうか……」
 女性は顔をしかめ、涙を流して訴えてきた。
「それは、あなたの子ですか?」
 リタが女性に聞いた。
「……そうです。でも、魔物に生まれてしまって……」
「人間か、魔物かは重要ではありません。あなたがお腹を痛めて産んだ子なら、あなたが育てたらいい」
 リタは女性の肩を抱き、
「ここはあなたの死に場所じゃない。ここで生きて、その子を育てなさい」
 と、言った。
 グレートプレーンズ王家の血筋だろうか。この時のリタの声には、誰にも有無を言わせない響きがあった。
「……はい。うぅわぁぁあああ……」
 女性が大声で泣き、リタは女性を抱き寄せた。

「魔素か……」
 俺の隣りにいたベルサがつぶやいた。
ポツンポツン。
と、雨が街道の石畳を濡らした。
俺たちは示し合わせたように、女性と赤ん坊が雨に当たらないよう魔力の壁で覆い、城に招き入れた。
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