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駆除人 作者:花黒子

~火の国の商人と立ち合う駆除業者~

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202話


 翌早朝から、城周辺の木々をアイルが切り倒し、畑を作り始めた。
 一太刀で10本ほど切り倒されたのを見て魔族たちはアイルに近づかなくなってしまったが、気にせず枝払いをして乾燥させていく。セスやメルモが切り株を引っこ抜いて、土をふるいにかけて整地していった。
「やっぱり、井戸あったよ」
 ベルサが報告してきた。
 大きな城だから兵糧攻めなどのことを考えて井戸くらいあるんじゃないかと思っていたが、結構大きな井戸があったようだ。今もたまに使うそうだが、草木に埋もれてカビなどで汚れており、よほど水が足りなくなった時しか使わなかったという。
今までの生活水は、森の小川で汲んできたり、雨が降った時に水瓶に溜めていたらしい。
俺とベルサで井戸の掃除。ボウは引き続き城の崩れたところを補修。畑はリタの指揮で、アイル、セス、メルモたちが作業を進めている。
リタはアラクネに通訳を頼み、森で採れる野菜や果物などを聞き、魔族たちに種を採ってきて貰おうとしたが、魔族たちはそれぞれ好みが違うようで、炭水化物以外は苦手という魔族たちもいた。
「苦手とか言ってられないので、食べられるものはなんでも食べないと力が湧いてきません!」
 リタが苦言を呈したところ、ゴブリンの少年はマンドラゴラという大声を発する魔物を採ってきてしまい、危うくその場にいた魔族たちの鼓膜が破れかけたと言っていた。
「ひとまず、バレイモと栄養素を考えてスピリリナを作ることにします」
 リタは頭を抱えながら、南半球のドワーフたちと同じようなものを作ることにしたようだ。スピリリナのために畑とは別の場所を切り開き、穴を掘って水を溜め、池を作る作業も始まった。
時々、森でフィールドボアというイノシシの魔物が現れると魔族たちが言っていたので、見つけたら家畜にして繁殖させることに。
アラクネ伝いにコミュニケーションを取るなかで、徐々に俺たちが何をしたいのか理解してくれる魔族たちも増え、作業に参加する者も現れ始めた。今までは食べ物を探しに森をさまよったり、人間が住む集落まで遠出して盗んでくるしかなかったらしい。そんなんでよく魔王領は成り立っていたなぁ、と心配になった。前は食料を採ってくる専門の魔族がいたが、人間たちに連れて行かれてしまったのだとか。
ボウが土で簡単な竈を作った時は、魔族全員が驚いていた。俺が加熱の魔法陣を描いた時は誰も驚かなかったのに。なぜ驚いたのかアラクネに聞いたら、俺の魔法陣は誰にでもできることではなく特殊な人間だからと思っていたが、ボウはその場にある普通の土で、しかも誰でもできる方法で竈を作ったため画期的だったらしい。
食べ物を焼いたり、熱することができるというのは魔族でも重要なことらしく、城の周辺には、意味もなく竈がいくつも出来上がっていた。何かを調理したいわけではなく、自分たちで竈を作ることに意味があったようだ。

炊き出しは朝晩の2回だけだが、ちゃんとルールを守れば飯にありつけることがわかると、魔族たちはちゃんと列を作っていた。横入りするような者がいれば、自分たちで解決している。ボウが先代の魔王の血を引いていることが影響しているとアラクネが教えてくれた。屋上で石像と化していたガーゴイルという魔族がボウを覚えていたようで、屋根を直している姿を見て泣き出し、動き出したのだという。
「ジジイの代から、ずっと城を見守っていてくれた魔族だ。あえて良かったよ。フハ」
 ボウは照れくさそうに頭を掻いていた。
 ただ、そのままボウが魔族たちから頼られ始めてしまった。身体の大きい魔族たちから、「炊き出しだけでは足りない」という声が寄せられたのだ。エネルギー消費量が激しいのだから当たり前だが、ここで食料を与えてしまってはこの魔族たちのためにならない。
「フハ、狩りはしないのか?」
 ボウが大きな一つ目の魔族に聞くと、
「森にハ、火の魔法ヲ放ってくル人間が潜んでいテ、縄張りヲ奪われタから、長い間、狩りハしていナイ」
 と、アラクネが通訳してくれた。
「フハ、でも食わないと元気でないだろう。夜に行ってみるか? ナオキも助っ人で頼むよ。それまでにオレが狩りに行く魔族を選んでおくから」
「了解。行く時に声をかけてくれ」
 俺は自分たちが寝泊まりしているテントに向かった。城は魔族たちのスペースだし、外のほうが気が楽なので、俺たちは城の近くにテントを張っている。掃除や炊き出し、補修作業がない時は、出来るだけ魔族の邪魔をしないというのが、いつの間にか社の方針となっていた。せいぜい、見張りのために屋上に行くくらい。
 俺が夜に大きな魔族たちと狩りに行くというとアイルが悔しそうにしていた。
「嫌われてるからなぁ、私は」
「アイルさんは嫌われてるというより、恐れられてるんじゃないですか?」
 アイルの言葉にセスがツッコミを入れていた。
「クールビューティは誤解されやすいんだなぁ」
 アイルから、まさかの発言が飛び出た。
「今、信じられない嘘を聞いた」
「耳を疑う発言ですね」
「笑わせたいのか、笑われたいのか、どっちだ?」
 俺もメルモもベルサもリアクションに困った。
「え!? 私ってクールビューティじゃないのか?」
「こ、こいつ、天然か!?」
「どうしましょう、ムカつきが止まりません!」
「拳の握り方ってこうだったよね? ちゃんと身体に教えてやろう」
 真面目な顔で言うアイルに、俺たちの堪忍袋は早々にキレてしまい、大説教が始まった。最終的に、セスが作ったクールビューティの定義とアイルの行動を列挙し、対比させた表を見せつけ、ぐうの音も出ないようにしてやった。
魔族たちは、その様子を城から見ていたらしく、翌日からアイルへの態度を急変させることになる。

夜も更け、ボウが身体の大きな魔族たちを引き連れて城から出てきた。ガーゴイルとアラクネ、大きな一つ目の魔族の3人だ。大きな一つ目の魔族はサイクロプスというらしい。
「アラクネが罠を張って、皆で追い立ててやれば、すぐに魔物は捕まえられるよ。フハ」
 ボウの言葉とは裏腹に、探知スキルで見ていると、俺たちが近づくだけで周辺の魔物たちは逃げ出してしまい、罠どころではなかった。
 身体が大きいため近づく時の音も大きく、臭いも強いので1キロメートル先からでも判別できてしまうという。
「お前ら、狩りをする気はあるのか?」
 魔族の3人は腹を押さえて頷いていた。腹は減っているらしい。
「ちなみに、どんなスキルを持ってるんだ?」
「言語能力ト、幻覚魔法のスキル。デモ、魔物まデ魔法が届かナイ」
「隠密スキル。デモ、使うト動けナイ」
「肉体強化スキル。オレ、チカラはアル。デモ、魔物に攻撃ガ当たったことナイ」
 俺の質問に、アラクネ、ガーゴイル、サイクロプスの順に答えた。
「ボウ、もっと誰かいなかったのか?」
「フハ、他の魔族は人間を怖がってダメだ」
「そうは言ってもなぁ……」
 魔族の3人は、森の暗闇の中で葉がこすれる音がするだけでも「人間が現れたんじゃないか」と怯えている。身体は大きいのに気は小さい。
「人間が現れても大丈夫だ。俺だって人間だし。それより、この森にはどんな魔物がいるんだ?」
「フィールドボア、フォレストディア、あとフィネーク」
 イノシシの魔物と、シカの魔物だな。あと、フィネークってのは確か前にアイルが依頼を受けていた大蛇の魔物だったか。
「落とし穴掘って、眠り薬でも仕掛けるか。毒草についてはわかるか?」
「気持ちヨクなる草は知ってル」
 それダメなやつじゃないか?
「それ、カエデみたいな葉っぱで乾燥させて煙を吸うやつか?」
「ソウ! そレ!」
 やっぱダメなやつじゃねぇか!
「それ二度と吸うなよ! 眠り薬と麻痺薬に使う植物くらいは知っておいたほうがいい。教えてやるから、ちゃんと覚えろよ」
「こんナ、暗いのニ見つけられル?」
「フハ、問題ない。ほら、これとこれだ」
 すでにボウは見つけていて、魔石灯の明かりに毒草を照らしていた。
「どういう場所に生えるのか、どういう匂いがするのか、手触りなんかを覚えておけば、そんなに見えなくてもだいたいわかるようになる。フハ、簡単さ」
 世界樹で散々、使った毒草だ。魔石灯の僅かな明かりでも見逃すことはない。
 今夜は毒草の講習で終わりかもしれないと思った矢先、土ではない固い地面を踏んだ。
 明かりを当てると、石畳の道が草や苔に埋もれていた。
「これは?」
「フハ、魔王城への街道跡だ。もう使う魔族もいないか」
 月の位置から考えると、街道は南北に伸びているようだ。
「南に行けば魔王城か。魔族たちが住む城だな。北はどこまで伸びてるんだ?」
「フハ、確か、沼があったはずだけど……」
「今はナイ。人間が沼ヲなくシタ」
 アラクネが言った。
「沼ってなくせるのか?」
 何か嫌な予感がして、俺は3人の魔族に毒草を教えつつ、街道跡を北に向かうことに。

 街道跡は苔と背の低い草が伸び放題で、さらにその上を木の枝や蔓が覆っていた。
「今夜は毒草を覚えるだけでいいや」
 と言うと、3人の魔族は急に元気になり、俺とボウの前を歩きだした。腹減ってたんじゃなかったのかと思ったが、動けているうちは大丈夫だろう。それよりも、それまでがあまりにもいいとこなしだったので、どうにか取り返したいらしく、街道跡に伸びている枝をバキバキ折って簡単に整備してくれた。出来ることを少しずつやらせていけばいいか。
「それにしても、長い間この街道は使われてなかったみたいだなぁ……」
「フハ、オレがいた頃はキレイだったけどね」
 3人の魔族が道を整備する後ろで俺とボウがだらだら歩きながら話し始めた。
「ボウが魔王領からいなくなったのっていつなの?」
「5、6年前じゃないかな。魔王直属の部下だった魔族のうちタートルヘイズの爺さんが死んで、他の7人が自分で魔王を名乗り始めたんだ。フハ」
「ああ、そんなこと言ってたなぁ。たぶん、そのうちの1人は俺たちが別の大陸で駆除したかも。すまん」
「自ら魔王領を出ていったんだから、知ったこっちゃないさ。7人に反抗してオレは追放されたけどね。フハハ」
 過ぎ去ったことを笑えるところが、ボウの強みだ。
「ボウは魔王の血を引いてるんだから魔王になる気はなかったのか?」
「ないよ~。オレは家直したり建てたりしていたほうが性に合ってたし。フハハ。それに、これもジジイの遺言でね。『魔王はオレの代で終わりだ。誰も悪魔と関わるな』ってね。たぶん、悪魔と契約して得られるチカラより、支払う対価のほうが大きかったんだと思う。フハ。それから誰も悪魔の犠牲になってないんだからジジイのお陰だよ」
 ボウは胸を張って言った。案外、先代の魔王を誇りに思っているようだ。
「ボウ様が帰ってキテ、あの世でお父上モ、喜んデおられるのデハ?」
 アラクネが振り返って言った。
「死んだ魔族は喜ばないだろう。オレのやることに文句しか言わないジジイだったしな。フハ」
「ん!? ちょっと待て。ボウ。先代の魔王って300年前に死んだんじゃなかった?」
「そうだよ。部下の誰かに嵌められて、ボロボロの状態のまま、水の勇者と一騎打ちして死んだんだ。勇者には『他の魔族には手を出すな』って言ってたらしい。我が父ながらアッパレな最期だったと思うよ。フハハ」
「だとしたら、お前、年いくつなんだよ」
「300歳とちょっとかな。フハ、どうしたその顔? フハハ、面白いぞ」
 リタは20代だから、なんという年の差カップル! 2年間も一緒に暮らしていたというのに、まだ衝撃的な事実が出てくるもんなんだなぁ。
「人生のだいぶ先輩だな」
「よせよ、今さら。フハ。あ?」
 いつの間にか、3人の魔族が枝を折る音がしなくなった。

 魔石灯で前を照らすと森と石畳は消え、真っ暗な空間が広がっていた。
 直径100メートル以上はあるクレーターのような大きな丸い穴があいていて、対岸にはちらほらと魔石灯の淡い光が見える。誰かが住んでいるようだ。
「ここが沼だった場所か?」
「そうデス」
 確かに沼が消えて、穴になっている。
「フハ、そうか。そうだったんだ……」
 ボウは穴を眺めながら、1人納得したようにつぶやいた。
「ボウ、何がどうだったんだ?」
「ここが人間たちの魔石の採石場さ。300年前に、うちのジジイが死んだ場所でもある。それでちょっとした魔素溜まりになってたのかもしれない。オレたちも世界樹の燃える泉で魔石を採りまくったろ? フハ」
 俺は、泉の水を飲んでシカの魔物が燃えたのを思い出した。
 確かに、あの泉は世界樹の幹の近くにあったはずだ。つまり悪魔の死体の近く。悪魔ほどではないにしろ、魔王の魔力量が多かったのなら、死んで魔素溜まりくらい出来たのかもしれない。とすれば、沼に魔石が多く埋まっていて、採石場になっていたのもうなずける。
「……それにしてもよくここまで掘ったもんだ。フハ」
「確かに、こんな大きな沼を1つ消すってのは大事業だよな。その分、実入りも良かったんだろう」
「『速射の杖』や飛空船に使われてるのかな」
「そうか。全部火の国に持ってかれたのか……」
 俺たちは、しばらく呆然と真っ暗な巨大な穴を眺めていた。

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