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駆除人 作者:花黒子

~火の国の商人と立ち合う駆除業者~

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201話


 再び、俺たちは魔境の森の道を南へと向かった。南半球では、なにもない砂漠を移動することのほうが多かったので、周囲に木があるというだけでも心強い気がした。探知スキルも展開しているので、魔物がくればすぐにわかる。
「ボウ、そっちの茂みに魔物が近づいているから、魔族かどうか確認してくれるか?」
「フハ、わかった」
 ボウは大声で魔族の言葉を叫びながら、茂みに近づいた。

 そして、ボウは攫われた。

「おーい! ボウ、なにやってんだよ」
 通信袋で連絡を取りながら、小走りで追いかけた。リタは疲れたような顔をして魔石灯のランプを持って走っている。
『うーん、なんか話しかけたら誤解されて。フハ』
 魔族たちはボウを担いで蛇行するように森の中を駆けていく。
『とりあえず、このまま、この魔族たちの住処を確認するー。フハ』
「了解。探知スキルで見えてるからついていくよ」
 しばらくついていったが、魔族たちは俺たちの位置がわかるようで、どうにか振り切ろうと速度を変えて走ったりしていて、なかなか住処までは案内してくれない。
『フハ、たぶん。臭いだと思う』
 ボウから連絡が来た。魔族たちは俺たちの臭いによって位置を把握しているらしい。
「わかった。全員、魔力の壁を展開して魔石灯の明かりを消してくれ。自分たちの位置は……魔力の紐でも結んでおくか?」
「いや、大丈夫だ。もう目が慣れた」
 アイルが俺に先行して、魔族たちを追った。後ろから来る社員たちも、問題がないようだ。南半球でいつのまにか、天然の暗視スキルを身に着けてしまったのかもしれない。
 臭いがしなくなったからか、魔族たちは森の中をまっすぐ進み始めた。
10キロメートルほど進んだだろうか。
森のなかに突然、廃城が現れた。
 石造りの立派な城で、幅はところどころ木々に覆われて定かではないが、80メートルはあると思う。高さは5階建てのビルくらいはありそうだ。壁には魔物の壁画が彫られている、苔や蔦に覆われたり、崩れたりしている。
 ボウは崩れた壁から中に連れて行かれた。俺たちはボウから連絡があるまで、外で待機。じっくりと壁画を見て回る。月明かりに照らされてた壁画は文字のようでもあり、テレビで見たマヤの遺跡を思い出した。

『おーい。説明したから、もう大丈夫だよー、フハ』
 俺たちは魔石灯を持って、崩れた壁から中に入った。
 中には魔族たちが数百人いて、ゴブリンっぽいのから、手が鳥の羽になっているハーピーのような者、炎を吐き出すトカゲ、大きな一つ目の鬼っぽい者など種族も様々。
魔族たちが集まっている場所は、2階と3階の床が抜け、さらに屋根も壊れているため、月明かりが差し込んで、円形の劇場のようになっている。吹きさらしなので、中にも草や苔、水たまりなどが出来ていた。
皆一様に鋭い目でこちらを見てきた。頬がこけ痩せている者が多い。
「フハ、こっちに来てくれ。紹介する」
 と、ボウは言うのだが、目の前の水たまりにはスライムと思しき魔族が潜んでいる。
「あー、潜むのは勝手だし、不意打ちを狙うのも勝手だけど、攻撃されたら叩きのめすけどいいかな? 俺たちは別に敵対するために来たわけじゃない」
「フハ、ちょっと待ってくれ。訳すから」
 ボウは俺の言葉を魔族の言葉に訳して、全員に聞こえるように言った。だが、なかなか伝わっていないようで、2階や3階からヤジのような声が飛んでいた。ボウは溜息をついて、魔力操作による魔力の大きな手を振り上げ、雄叫びを上げた。力を示さなければ、ついてこないのは人間も魔族も同じのようだ。
 水たまり状態だったスライムは変形し、人間の形になり道を譲ってくれた。
 ただ、不信感がなくなったわけではなく、俺たちに視線が集中しているのを感じる。
「受け入れてくれたわけではなさそうだね」
「火の国から人間たちが攻めてきて、自称魔王たちが逃げ出したらしい。強い魔族は人間に連れていかれたって。心に余裕がないみたいだ。フハ」
 ボウは今まで見たなかで一番、悲しそうに笑った。
 周りの魔族たちを見ると、目を逸らす者たちが多い。目があう者は、何かを諦めたような表情で、生気が感じられない。
「とにかく、飯だな。セス、メルモ、炊き出しの用意してくれ。あんまり食ってない魔族もいるみたいだから、なるべくスープとか消化しやすいものがいいだろう」
「「了解です」」
 その場に、加熱の魔法陣を描いて大きな鍋で調理が始まった。
 ボウを先頭に他の社員たちで、城の中を回り、掃除をしていくことに。苔も生えているくらいだからカビも多く、致死性の病原菌が蔓延したら、ここにいる魔族は全滅だ。軽い風邪はすでに流行ってしまっているらしく、咳をしている者もいる。
 人の言葉を片言で話せるアラクネと呼ばれる下半身が蜘蛛で、上半身が女性の魔族がついてきた。
「なゼ? 見テまわル?」
 魔族には掃除をするという習慣がないらしく、病原菌という説明もピンときていないようだ。むしろ、火の国のスパイが、魔族たちを根絶やしにするために調査しに来たのではないかと俺たちを疑っているという。
 ボウが違うことを説明していたが、
「我々ハ、魔王たちニ騙さレ、人間に国ヲ奪わレた」
 と、アラクネは俺たちを睨んでいた。こちらも、そう簡単に「救ってやる」と言えるほど、魔族を知らないし、生活が向上させれば信頼されるとも思っていない。
 ボウはなにも言わず、雨漏りをしている屋根を直し始めた。とにかく、まずは普通の生活を取り戻し、死なせないこと。ちゃんと生きていないと話も、正常な判断もできない。
俺たちは屋根に板を打ち付けて、上から洞窟スライムの粘液で作った建材を塗った。月明かりが差し込まなくなったので魔石灯のランプを天井から吊るす。オレンジ色の淡い光が、城の内部を照らした。魔族たちはじっと魔石灯の明かりを見つめている。
「久しブリに魔石灯の明かリが城に灯っタ」
「壊れた魔石灯があれば、集めておいてくれ。直せるかもしれない」
 アラクネにそう言って、俺たちは壊れた壁の補修作業に向かった。
 補修作業も南半球での生活があったおかげで、かなり早くできた。ボウがなにを欲しているのかわかるので、建築スキルがなくても先回りして準備しておける。

 隙間や穴がなくなったことで、セスたちが作っているスープの匂いが城中に立ち込めた。魔物たちは我先にと大鍋に向かったようだが、セスとメルモにカウンターパンチを食らっていた。
「全員に行き渡るように作っているから、心配しないでください」
「ちゃんと列を作って取りに来てください。横入りしたり、ズルして2回来るような魔族は殴ります。えーとそれから、風邪っぽい魔族の方は回復薬をちょっと入れるので言ってください。回復薬ってゴースト系の方以外は大丈夫ですよね?」
 メルモがボウに聞いていた。
「フハ、大丈夫。オレの右腕の傷もナオキの回復薬で塞いだから」
 ボウが魔力操作の腕を消して、傷口を見せていた。魔族たちはそれを見てギョッとしていた。
 ちなみにゴースト系の魔族で風邪を引いている者はいなかった。そもそもカビなどの集合体なので、風邪菌が付着してもその部分を捨ててしまうらしい。ただ、魔素の濃度によって具合が悪くなることがあるという。ベルサがアラクネを通訳として引きずり回し、熱心に聞き取り調査をしていた。
「魔族は素晴らしいな! 魔物の気持ちを知れるなんて、こんなチャンスない! もっとボウに聞いておけばよかった」
 うちの魔物学者はどこに行ってもブレない。

大鍋の中のスープが残り僅かになった頃、小さなゴブリンが騒ぎ始めた。
 どうやら「城を直してくれて、飯も用意してくれるなんておかしい。自分たちをどこかに売る気ではないか」と叫んでいるようだ。そして、「自分は必ず復讐する」とも言っていると、ボウが訳してくれた。復讐という目標によって生きていけるなら、今は、それでもいいと思う。少し飯を食べて気力が出てきた証拠だ。
「俺たちを信用する必要はない。ただ、俺たちはボウを信用して、ここまで来た。ここにいる魔族が、いなくなった魔王に復讐するのか、人間たちに復讐するのか知らないが、明日の飯もままならなくて、いつ病気になるかもわからないような場所に住んでいるのは見過ごせない。死んだら終わりだ。復讐は生きているうちに果たしておけよ」
 俺の言葉をボウが訳して、ゴブリンの少年に伝えてくれた。

「ダメですよ! あなたは2度目じゃないですか、殴りますよ!」
 メルモと誰かが大鍋の前で言い争っている声が聞こえてきた。見れば、通訳をしてくれたアラクネが自分の大きな皿を持って差し出している。ベルサの通訳の報酬としてスープを要求しているのかと思ったが、違うらしい。
「子どモたちにも、栄養を与えナイといけナイ。お願イ」
 アラクネは多産の種族なのかもしれない。不思議なことに、周囲にいた魔族たちはアラクネを見て、あまりいい顔をしていなかった。子宝という考え方がないのかな。
「せっかくだから見せてもらおう」
 というベルサの一言で、アラクネに子どもたちを見せてもらうことに。
 カビだらけの絨毯が敷かれた廊下を進んだ突き当りにその部屋はあった。蝶番が錆びているのか、開けるとギーっと嫌な音が鳴った。
「アラクネの子どもじゃないのか?」
 ベルサにとっては学術研究の一種だったが、そこにいたのは顔がウシのミノタウロスの子どもや下半身がヘビのラミア、下半身がヤギのサテュロスなど、半分が人間の姿をした子どもたちが計8人、藁の上で眠っていた。
「この子たちはどうしてここに?」
 城の端っこの部屋に隔離されているようだった。
「置き去りニされていたカラ」
「食べ物がなくて、育てられなくなったってこと?」
 アラクネは首を横に振った。
「森ニ、人間が置いテ、去っていった。皆、食べテしまえと言ったケド、私モ半分人間だカラ」
 魔物たちがいい顔をしなかった理由はわかったが、なぜ人間が魔族の子どもを置き去りにしたのか。いや、スキルがなければ魔物の子か。
「理由はわからナイ」
 それだけ言うと、アラクネは唇をかみしめて、必死で涙を我慢していた。人よりも情が深いのかもな。
「1人1食です。子どもも大人も変わりません。皿を人数分用意してください。足りなければ、また作ります」
 メルモがアラクネに声をかけた。
「城の周りに畑がなかったようですが、作物は育てているのですか? 農業スキルをお持ちの方は?」
 リタがアラクネに聞いた。
「いまセン」
 アラクネは首を横に振って答えた。
「フハ、大丈夫。この人間たちはサバイバルのプロだ。ここは森がある分、マシな方さ」
 ボウが魔力の手でアラクネの背中を擦った。
「アナタ方は何者ナノ?」
「清掃・駆除業者さ。掃除して増えすぎた魔物を駆除して、人の生活環境を整える。この城は仕事のしがいがありそうだよ」
 探知スキルで見れば、城の中にはマスマスカルもバグローチもヤスデの魔物もうじゃうじゃいる。
「駆除していいんだろ?」
 一応、スキルを持っている魔族かもしれないので確認をとっておいた。
「もちろん、いいよ。フハ」
 俺たちの仕事が始まった。
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