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駆除人 作者:花黒子

~火の国の商人と立ち合う駆除業者~

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199話


 黒い飛空船は徐々に花畑に近づき、周囲の木の高さすれすれまで高度を下げると、突然飛行船の甲板に兵が現れ、『速射の杖』で森の木々に火魔法が放たれた。
「いきなり撃ってきたぞ!」
 アイルが驚いていた。
「大丈夫だよ。ラウタロさんたちも『水壁の杖』を準備しているさ。それより、向こうの攻撃が周囲の森のシャドウィックにちゃんと当たってるのが気になる。探知スキルかな」
 俺は探知スキルで、シャドウィックの赤い光が消えていくのを見ながら言った。サーチライトのような魔石灯があるとはいえ、夜の森で遠距離攻撃を正確に位置を知る技術は、探知スキルくらいしか、思いつかない。
「飛空船の兵たちは、ラウタロさんたちを味方の兵だと勘違いして、シャドウィックを倒してるのか?」
 ベルサが聞いてきた。
「どうだろうな。とりあえず、敵だろうと味方だろうと邪魔な魔物を駆除してるだけかもしれないよ。あ、降りてきた」
 飛空船の甲板からロープを垂らし、次々と火の国の兵たちが地面に降りてきた。兵隊の動きが洗練されていて、無駄がない。花畑に十字に並んでいる魔石灯の明かりによって、よく見えた。
 19人の兵が地面に降り、『速射の杖』を向けながら、円形になって周囲を警戒している。その円の中心にドラム缶のように大きな袋がいくつも飛空船から落とされた。食料物資かな。
 最後に20メートルくらいの高さをゆっくり移動している飛空船から、ピョーンとロープも使わず、赤髪の男が飛び降りてきた。
 男は難なく着地して、赤いマントを翻した。サーチライトのような魔石灯で照らされた顔は童顔で愛嬌のある顔をしているが、年齢は30を越えているだろう。反転してゆっくりと去っていく飛空船を手を振って見送っている。
「どうもー、こんばんはー!」
 赤髪の男が振り向いて、ラウタロたちグレートプレーンズの兵たちに向かって挨拶をした。100名ほどのグレートプレーンズの兵が取り囲んでいるなか、なんとも気の抜けた挨拶だが、声がよく通る。緊張感に包まれた場所で、この赤髪の男だけ自由に見えた。
「失礼! 先ほどの空からの攻撃は邪魔な魔物を排除したまでだ。火の国の兵、もしくは傭兵は……?」
 と大声で言いながら、赤髪の男は辺りを見回した。
「いないか……」
「お前らの仲間を拘束している! この場での戦いは無益だ!」
 花畑の端にいるラウタロが叫んだ。
「我々も出来れば戦闘はしたくない。こちらの死傷者数は?」
「傷者は抵抗した者が何人かいるが、死者はゼロだ」
 ラウタロが応えた瞬間、火の国の兵たちが赤髪の男を一瞬見た。
「そちらの死傷者数は?」
「いない」
 ラウタロは花畑の中心に向かって歩き始めた。
「え、今なんて言ったんだ?」
「こちらの死傷者数はゼロだ。誰も怪我していないし、死者もいない。理解できたか?」
 花畑の真ん中でラウタロが止まり、赤髪の男と対峙した。作動させていないが『水壁の杖』をしっかり握っている。
「つまり無傷で、我らの同胞を拘束し、捕虜にしていると?」
「そうだ」
 物資を囲んでいる火の国の兵たちが動揺しているのか、チラチラとラウタロの方を見ていた。
「ん~……まいったね。『速射の杖』の対抗手段があるということかい?」
「それは言えねぇな」
 ラウタロの言葉に、火の国の兵たちはすぐに『速射の杖』を地面に捨て、得物を替えた。見切りが早く『速射の杖』に頼らずとも、周囲にいるグレートプレーンズの兵たちと渡り合えると思っているらしい。先ほど、周囲の森のシャドウィックを倒していたので、どのくらいの戦力が周りを囲んでいるかくらいは知っているはずだが、よほど自分たちの強さに自信があるようだ。
「先ほども言ったが、この場での戦闘は互いにとって無益だ。我々に攻撃を仕掛けた時点で、砦にいるお前らの仲間は全員死ぬことになるだろう。停戦に向けての話し合いがしたい」
 ラウタロが言った。攻撃を受けたら、誰かが笛でも吹いて砦に知らせるのかな。
「わかった。だが、そちらの準備はできているのか? いつまで停戦するつもりなのか、どこまで領土を主張するのか、中央の指示なしで動いていいのかい?」
 赤髪の男はほほ笑みを浮かべたまま、ラウタロに言った。
「暫定だ。とりあえず、今は全軍この森から撤退しろ。後日、火の国に使いを出す」
「もし僕がここで拒否すれば?」
「おい! 誰か砦に合図しろ!」
 ラウタロが森に向かって叫んだ。
「ちょっと待て待て待て! 悪かった! すぐに撤退する」
 赤髪の男が慌てて言うと、火の国の兵たちが赤髪の男を睨んだ。
「おい、スパイク。聞いてねぇぞ」
 火の国の兵の一人が赤髪の男に向けて言った。
「他に同胞を救う手立てがない。ここは堪えてくれ」
「計画はどうする?」
「迂回すれば問題ない。それより、ここでその話をするな」
 一瞬、赤髪の男の顔が曇り、火の国の兵たちに『速射の杖』を拾うよう言った。
「敵地につき、武装解除はしないぞ」
 赤髪の男がラウタロに向き直った。
「ああ、構わねぇよ」
「あと、この袋には食料と生活物資が入っているんだ。捕虜たちに届けてくれるか? 傭兵の国との契約でね。どんなことがあろうとも1日1食は食わせてやってくれ。じゃないと、見張りの人間だろうが仲間だろうが、煮て焼いて食ってしまうから」
 傭兵ってそんなにワイルドなのか。
「それから、僕たちは徒歩で森を出るから少し時間がほしい」
「夜明けまで待ってやる」
 北の森は結構デカい。
「皆、急ぐぞ」
「くそっ」
 赤髪の男と火の国の兵たちは北に向かって走り出し、すぐに夜の森へと消えた。

「あの赤髪の男が火の勇者ですか?」
 俺は探知スキルの範囲から、火の国の兵たちが消えたのを確認してラウタロのもとに駆け寄った。
「だろうな。スパイクと呼ばれていたが、本名はスパイクマンというはずだ。社長、そのデカい袋を調べてくれるか?」
「罠ですかね?」
「たぶんな」
 ガッツリ罠だった。
食料が入っているのは二袋だけで、袋を開けただけで眠り薬が噴出する罠も仕掛けられていた。他の袋には魔石や麻痺薬などが詰め込まれ、さらに魔石が大量に入った袋の中には、線が一本足りない火魔法の魔法陣が描かれた紙も複数入っていた。誰かが線を一本足すだけで大爆発を起こしていたかもしれない。俺たちは袋を魔力の壁で包み、アイルとボウの魔力操作により慎重に袋を開けていったので被害はなかったが、そのまま捕虜たちに渡っていたらと思うと恐ろしい。
「いや、さすがに火の国の奴らもバレることは想定しているだろう。ただ、社長たちがいなければ、処理にもっと時間がかかっていたはずだ」
 一旦撤退して、飛空船で砦に攻めてこようとしていたのかもしれない。
「全員、空に警戒しつつ、急いで砦に帰るぞ!」
「「「「「了解」」」」」
 ラウタロの号令で俺たちは砦に帰った。

 砦で夜明けまで警戒していたが、飛空船は来なかった。
 俺たちは砦の兵たちとともに塔の上から森を監視を続けた。
西の山脈から日が昇ったとき、ラウタロとチオーネが話し合う声が聞こえ、ハトの魔物を東に向けて放っているのが見えた。
「まずいな……」
 ラウタロが塔に上ってきてつぶやいた。
「問題ですか?」
「ああ、夜が明けても飛空船がここに来てないということは、違う前線に向かった可能性がある。空に警戒するよう全軍に伝わってはいるが、『水壁の杖』はこの砦以外用意されていないから、対応は限られてくる」
 『速射の杖』に対応できているこの砦には見切りをつけて、他の部隊を狙ったのか。
「今さら他の前線に飛空船を向かわせて、火の国には何の得があるんです? 単純な侵攻継続ですか? 火の国からすれば、この砦にいる捕虜が危険にさらされるのでは?」
「そりゃ、火の国側にこちらの捕虜がいれば、停戦協定の交渉のときに条件が変わってくるからだろう。唯一『速射の杖』に対応できる俺たちは、捕虜がいるこの砦に釘付けにされていたしな」
「それで夜明けにハトの魔物を放っていたというわけですか。夜の間に俺たちに教えてくれればよかったのに」
「そうだな。だが、旅の清掃・駆除業者にばかり頼っていられねぇよ。いつまでもグレートプレーンズにいられるというわけにはいかないんだろ? 『血の雨作戦』と『水壁の杖』だけでも後方支援は十分さ。それともうちの国の傭兵として火の国の奴らを殺してくれるか?」
「それはちょっと難しいですね」
 さすがに、どんな英雄と言われようとも、大量殺人をして旨い酒を飲めないんじゃないかと思う。そもそも、それは清掃・駆除業者の仕事じゃない。
「だろうな。社長たちは魔物を駆除できても、人殺しはしねぇ方がいいだろう。できねぇって言ってるわけじゃないぞ。畑が違うって話だ」
「そうですね」
 俺たちができる支援はここまでかな。停戦までのレールはちゃんと引けただろうか。

 仮眠して、昼飯を食べている最中にフィーホースに乗ったグレートプレーンズ兵が砦にやってきた。東の前線近くで、輜重部隊の馬車が飛空船に襲われたらしい。地図を見せてもらうと、ボウの故郷である魔王領の近くでもあるらしい。かなり距離があるが、飛空船なら森も谷も関係なく移動できる。
「コムロ社長、『水壁の杖』に描かれている魔法陣は写させてもらっても構いませんか?」
 アプが聞いてきた。
「どうぞ、好きに使ってください。あ、清書しようか」
 俺は羊皮紙に、『水壁の杖』に描いている魔法陣を清書してアプに渡した。工作スキルがあれば、杖に彫れるだろう。
「この後はどうするの?」
 魔法陣の清書を取りに来たアプに聞いた。
「停戦協定の交渉が始まるまでは前線の維持です。僕が補給部隊を編成して各地の砦を回ることになるかと思います。『水壁の杖』があって良かったですよ。助かりました」
「そうか。そろそろ俺たちの支援も終わりかなぁ、と思うんだけど、どうかな? 大丈夫か?」
「そうですか。セスとメルモの料理を楽しめないのは寂しいですが、お忙しいんですか?」
「ボウの故郷が気になるんだ。火の国が侵攻してるのはグレートプレーンズだけじゃないんだろう?」
「そうですね。同盟を結ばなかった国は、だいたい攻撃されています」
 そもそも火の国が魔王領というものを認識しているかわからない。魔物と魔族の違いがわからなければ、魔族を見た瞬間に『速射の杖』をぶっ放しているだろう。
 俺はチョクロ畑にいたガリガリの魔族たちを思い出していた。

 セスは砦で最後の夕飯を作り、メルモは兵たちの破れた服を縫い、アイルは歩兵部隊に稽古をつけ、ベルサは諜報部隊に毒草のレクチャーをしていた。リタとボウは塔の上でイチャイチャ……ではなく、森を監視していた。

「行くのか?」
 話をするためにラウタロのもとに行くと、なにも言っていないうちに聞かれた。
「ええ、ちょっとボウの故郷が心配で」
「わかった。気をつけろよ」
「交渉はうまくいきますかね?」
「火の国ってのは商人の発言力が強い国だ。交渉が決裂すれば、毟りあいのような戦争が続くだろう。グレートプレーンズと戦争をしても利益がないことをわからせれば、交渉はうまくいくはずだ。まぁ、地方の騎馬隊の隊長が言ってることだけどな」
 ラウタロは笑った。
「チオーネ、デートは戦争が終わった後にしよう」
 隣で聞いていたチオーネに言った。
「コムロ社長! 今、それを言わないでください。それと私用の通信袋を作ってください」
 チオーネは俺の耳元で顔を真赤にして言った。
 通信袋は何度も作っているので、そんなに時間はかからない。

 俺たちコムロカンパニーは夜になってから、砦を後にした。

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