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駆除人 作者:花黒子

~火の国の商人と立ち合う駆除業者~

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196話



「もうすぐ収穫時期なのにアルマーリオに食べられて敵わんよ」
 テカテカに焼けた肌の農家のおじさんがくたびれたように言った。
「じゃあ、全部駆除でいいんですね?」
「ああ、もちろんだ。それでアルマーリオの一匹を駆除するのに、いくらくらいかかるものなんだ?」
 収穫前の農家は金銭的にキツいのかもしれない。王都にいる若者を収穫時期にだけ雇っているらしく、家の裏手で収穫したチョクロを入れておく籠を修理する若者の姿が見えた。
「大丈夫です。足りなければチョクロの現物支給でもいいですよ」
「本当か! 助かるよ! 南部でもたくさん穫れるようになって、値が下がってるんだ。来年はウリでもやるかなぁ……」
 農家のおじさんは「戦争で景気が悪いよ」と愚痴を言っていた。

 ベタベタ罠を畑の周囲に仕掛け、うちの社員たちが散らばって畑からアルマーリオを追い出していく。
『このアルマーリオの群れ、やっぱり使役されていませんか?』
 メルモが通信袋で連絡してきた。
「ってことは嫌がらせかなんかだろう。駆除でいいんじゃないか?」
『は~い』
 畑のアルマーリオたちは全てベタベタ罠で捕まえ、一箇所に集め、首の骨を折っていく。なるべく無駄にはしたくないと、アイルは全て解体して皮を剥ぎ、肉を切り分けていた。血もソーセージに使えるかもしれないと、メルモが喜々として空の水袋に血を集めていた。
作業がだいたい終わりに近づいてきた頃、馬車に乗った商人が農家を訪ねてきていた。
 商人と一緒に町の方から、アルマーリオの群れがやってきているのが探知スキルで見えた。ベタベタ罠はそのままにしておいたので、またアルマーリオの群れは罠にハマって鳴き声を上げている。
「アルマーリオが群れを作るような社会性を持つなんて聞いたことがないよ」
 ベルサが言った。
「だとすれば、やっぱり使役されているのかな? 怪しいのは馬車の商人か、籠を修理している若者か」
 俺たちは農家と話している商人と家の裏手の方を見た。
「ま、いろいろあるんだろうな。報酬分の仕事はしよう」
『ナオキ! ちょっとこっち来てくれるか』
 畑の周囲を回って、捕り残しがないか見に行ったボウから連絡が来た。笑いもなく、声が固い。
「今行く」
 俺は探知スキルの範囲を広げ、ボウがいる場所の周辺を探った。
 農家の母屋の裏には森があり、その森に魔物の反応がある。

「魔物がいるようだな」
 森をじっと見ているボウの隣まで行って言った。
「うん、たぶん魔族だ。種族が違うのに一緒にいるから」
「魔族か。話しかけたか?」
「いや……」
「おい、ボウ。南半球から戻ってきたっていうのに、相変わらずの人見知りか? 無視されても気にすんなよ。俺たちがいる」
「フハハ。わかったよ」
 ボウはゆっくりと森のなかに入っていき、魔族たちと話をしに行った。

「ナオキ! 腹減ってるんだって、食べ物ないか?」
 森の中からボウの声がする。
 先ほど解体していたアルマーリオの肉があるので声がする方に持っていくと、ガリガリに痩せこけたコボルトと呼ばれる頭が犬で身体が人という魔物と、手が鳥の羽になっているハーピー、それに真っ黒いヒョウのような魔物がいた。いや、魔物じゃなくて魔族か。
 俺の姿を見るなり、かなり怯えていて、ボウが魔族の言葉で「大丈夫だ」などとなだめているようだ。
 肉を受け取るなり、魔族の3人は歓喜の声を上げ、俺に何度も頭を下げてきた。
 ボウも俺を見て笑っていたが、突然、血相を変えて俺の背後を指さし、
「ナオキ! 後ろ!」
 と、叫んだ。
 振り返ると、農家を訪ねてきた商人が杖のようなものをこちらに向けている。なにするのかと思っていたら、そのまま杖の先から超高速の火の玉を放ってきた。発射する時にバン! と爆発音がなった。
 俺は思わず払うように、魔力の壁で火の玉を包んで、中から空気を抜いた。空気がなければ、火は燃えないから、なにも残らないはずだと思ったのだが、小さな魔石が魔力の壁の中に残った。
「ん? なんだこの魔石」
「え? な、なんだ!? 何をした、魔物め!」
 俺も疑問に思ったが、攻撃を無効にされると思ってなかった商人はもっと疑問に思ったようで、もう一度攻撃しようと、魔石を取り出して杖の先に嵌めこんでいた。
 どうやら、あの商人が持っている杖は魔石を弾丸にして火の玉を放つ魔道具の武器のようだ。ボウに魔族の言葉で何かを言われた魔族の3人は森の奥へと逃げ出した。「逃げろ」とでも言ったのだろう。
 再び、商人が逃げ出した魔族へ向けて杖を向けたところで、ボウの魔力でできた腕が商人の顎を正確に打った。
 商人の後ろには、いつの間にかうちの社員たちが控えていて、アイルが気絶する商人の手から武器である杖を取り上げ、ベルサが地面に種と成長剤を撒くと、蔓が伸びて商人をぐるぐる巻きにしてしまった。
「やっぱり、その商人さんがアルマーリオたちを使役していたみたいですね。商人さんが気絶した途端、ほら、混乱して逃げ出そうとしてますもん」
 メルモが手に持ったアルマーリオを見せてきた。アルマーリオはバタバタと脚を動かして丸まった。姿や仕草は可愛いが、害獣だ。
「使役されていたとはいえ、害獣なので容赦はしませんよ」
 メルモは両手でアルマーリオを潰して骨を折っていた。

 さて、どうしたものか。
 とりあえず、農家のおじさんにはぐるぐる巻きになった商人を見せて、「アルマーリオをけしかけていたのはこいつです」と言っておいた。
「ええっ! そうなの!? いつもと違う商人が来たからおかしいと思ったんだ~」
 おかしいと思ったら追い返せよ、と思ったが、何も言わなかった。籠を修理していた若者がひとっ走りして町から衛兵を呼んできてくれるという。
「この武器はどうなんだ?」
 アイルが商人が使っていた杖を見て、俺に渡してきた。
「火の玉になった魔石が結構、速く飛んできたよ。この金属の嵌め込み台に魔石を嵌めるんだなぁ……杖の先に描かれてるのは火魔法の魔法陣だね。魔石の魔力を一気に使ってちょっとした爆発を起こして、そのまま魔石を飛ばすんだろう。ただ、この魔法陣じゃ射程が長いと途中で魔石が砕けると思うんだけど」
「火の玉が高速で飛べばいいんじゃないか?」
 ベルサが言った。
 確かに、空中にある魔石が砕けても火の玉は、慣性の法則で飛んでいくだろう。その分、敵に当たる射程が伸びるのか。
 とはいえ、効率が悪いように思う。普通に魔法陣を描いて、いくらでも火の玉が出る杖を作ったほうがいい。俺が前に作った光の玉が出る杖のほうが射程が長い気がするし。よくわからない武器だ。
「魔力を使わないで済むから、自分の魔力の節約になるんじゃないですか?」
 セスが言った。
「そんなぁ、南半球でもないのに?」
「いやいや、レベルが低い者にとっては魔力消費は重要ですよ」
 リタまで杖を褒めだした。
「そうかなぁ……腑に落ちないけど」
 とはいえ、魔石を使った武器で火の玉が出るのだから、今、グレートプレーンズと戦争をしている火の国のものではないかと疑ってしまう。

「んあっ! な、なんてことしやがる! 俺はお前を助けようとしただけだってのに!」
 起きた商人が縛られている自分を見て叫んだ。
「あ、起きた? 今、町から衛兵が来るからちょっと待ってて」
「おい! この蔓、解けよ!」
「解いたら、また顎殴って気絶させなきゃならないんですけど、ナチュラルパンチドランカーなんですか?」
「な、な、なんでそうなるんだ?」
「いや、アルマーリオを畑に放ったのはあなたでしょ?」
「なにを根拠にそんなデタラメを! うわっ、な、なんだ……」
 証拠として生かしておいたアルマーリオの一匹が、起きた商人に気づき、近づいていって顔をなめまわしている。
「くそっ! 『速射の杖』なんか使うんじゃなかった……」
 あの杖は『速射の杖』というらしい。
「その杖は火の国のものか?」
 まだ衛兵が来ないので、暇つぶしに聞いてみる。
「そうだよ!」
 商人は投げやりに答えた。
「あんたも火の国の人間なのか?」
「はっ! 俺に言わせりゃ、商人ギルドに加入している商人は皆、火の国の人間だ。火の国には商人ギルドの本部があって、その恩恵を受けてるんだからな」
「へ~そうだったのか。だからこの国の商人ギルドが閉まってるんだな」
「お前ら、なにも知らないのか?」
「最近までちょっと行方知れずになっていたもんでね。そうかぁ、火の国に商人ギルドがねぇ。俺たちも商人ギルドに加入してるから、あんたの中では火の国の商人ってことになるのかぁ」
「お前ら、商人なのか?」
「まぁ、そうだね。清掃・駆除業者だよ」
「だったら仲間だろ? 解いてくれよ!」
「そりゃ無理だ」
「なんだよ! くそっ! ああ、もうっ! あっち行ってろ!」
 商人は顔にまとわりつくアルマーリオに命令した。
 まだ衛兵は来ない。
「ところで、火の国はなんで戦争なんか始めたんだ?」
「そんなもん侵略戦争に決まってんだろ? 火の勇者様は『約束の場所』がどうとか言ってたけどな」
 こちらの世界のシオニズムみたいなもんかな。
「で、なんであんたはこんな場所で畑襲ってんだ?」
「作戦を教えるバカがどこにいるんだよ」
 そりゃそうか。
「でも、兵站削ろうと思って北部の畑襲うにしても、随分長期的な戦争を想定してるんだな。火の国ってのは」
「俺たちの戦争はな。軍・官・民全員の戦争だ。どんな方法を使っても戦争に勝つんだよ!」
 カマかけたら、当たったみたいだ。なんでも教えてくれる商人のおじさんだ。
「それで、火の国の娼館はどこがオススメなんですか?」
 声のトーンを落として、聞いてみた。
「火の国の娼婦は美人だぞぉ~」
 商人のおじさんはうっとりした表情で言った。本当に美人なんだろう。
 その後、詳しい娼館の名前などを聞いているうちに、衛兵がやってきて、商人のおじさんは縛られたまま馬車に詰め込まれた。
「覚えてろ~、俺だけだと思うなよ~」
 商人のおじさんは捨て台詞を吐いて、しょっぴかれていった。
「最後まで忠告してくれるなんて、優しいなあのおじさん」

 その後、農家で収穫を手伝い、報酬を現物支給で貰った。南半球でも収穫をしていたので、作業は早く終わった。
「収穫がこんなに早く終わるとは思わなかったよ。それに、アルマーリオの件もありがとう」
 お礼を言われて、町の宿に帰る。

「で、どうするんだ? あの商人のおっさん、自分以外にもいるって言ってたぞ」
 晩飯の時に、アイルが言った。
 グレートプレーンズの北部の畑を襲っている商人風の工作員はまだいるということだ。そして、それは戦争が終わらないかぎり続くだろう。
北部にいるアルマーリオを全て駆除することになるのかな。南半球と違って、周辺の住民への影響もある。アルマーリオに噛まれて感染症なんか引き起こされたら大変だ。
「いやぁ、面倒だなぁ……しかも、これ持ってきちゃったしなぁ……」
 俺は『速射の杖』と呼ばれる魔道具を見ながら呟いた。
「このままだと、グレートプレーンズはゆっくり負けていくんでしょうか?」
 リタが言った。リタにとっては故郷だ。戦争で負けたら、故郷の一部を奪われることになるだろう。
 全員が俺を見る。2年も一緒に南半球にいたから全員の言いたいことはわかる。レベルも上がって、そう簡単に死にはしないだろう。『速射の杖』の攻撃など、魔力の壁で全員対処できる。
「商人ギルドの加入業者としてはサッサさんを信じて戦争が終わるのを待つしかない。ただ、駆除業者としては、戦争を長引かせたくはないよな。社長として、お前たちを死なせる訳にはいかないから戦場には行かせない。火の国の兵と直接戦うことは厳禁だ。ただ、後方で俺たちにできるサポートがあるかもしれない。行ってみるか?」
「「「「了解」」」」
「ただ、向こうには火の勇者がいるようだ。まぁ、勇者くらいならなんとかなるかもしれないが、火の精霊が出てきたら、逃げるぞ」
「「「「はい」」」」
「悪いな、ボウ。個人的にはこのまま食料を持って魔王領に入った方がいいとは思っている」
「フハ、不安を残したまま行けないさ。リタの国でもあるんだし」
 魔族の友人はそう言って、チョクロの粉で作ったパンを齧った。

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