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駆除人 作者:花黒子

~火の国の商人と立ち合う駆除業者~

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194話


 朝早くラウタロに起こされて、挨拶もそこそこに俺たちは一路、グレートプレーンズ王国の王都ラパ・スクレへと向かう。
 人通りが少ない早朝なら、街道沿いを飛んでも騒ぎにはならないだろうと考えてのことだった。セスが船の形をした魔力の壁を広げて、全員輸送。その中でアイルとベルサは未だ寝ている。
「社長、本物の船を取りに行かないとですね」
「そうだな。いつまでも魔力の壁に頼っている場合じゃないしなぁ」
 のんきに話をしている俺たちに、ラウタロは「どうなってるんだ、これは!?」と何度も聞いてきた。なかなか現実を受け入れられないようだ。

 午前中のうちに王都に到着し、ラウタロを滞りなく兵舎に届けると、俺たちは城へを向かった。
「コムロカンパニー? そんな奴らは知らん! 帰れ!」
城の門兵は槍を横にして、「通さん!」とばかりに俺たちを追い返した。
サッサさんも、すでに一国の王だ。当たり前だが、そう簡単に会ってくれるはずもない。
夜になったら、塔の窓を蹴破ってでも乗り込むか。こんなことならアリアナさんに一筆書いてもらうんだったな。
「夜まで自由時間ですか?」
 セスが聞いてきた。セスとメルモはなけなしの金で、ちょっとでも食料や日用品を買い出しに行きたいらしい。
「ああ、わかった。ベルサ、セスたちにあるだけ渡しておいて」
「はいはい」
「じゃ、私たちは仕事でも探してくるか。門が開いたら連絡して」
 アイルとベルサは町へと営業しに行った。リタとボウはモジモジしながら、デートに行った。
 俺だけ、城の前に残った。門兵は憮然とした表情で俺を睨んでいる。気まずい。俺もアイルたちと一緒に営業にでも行けばよかったのだが、タイミングを逃した。
 後頭部を掻いて周りを見回すと、城の前だというのに石畳は汚れゴミも散乱している。以前はサッサさんが掃除をしていたのに、誰も引き継がなかったようだ。
 サッサさんがいつも箒を置いていた建物と建物の間に行ってみると、ゴミが溜まっていて、箒の柄だけ飛び出していた。
 俺は箒を引っこ抜き、城の前を掃除することに。戦争時だからといって、城の前をキレイにするななんて法はないだろう。むしろ、外国の外交官や特使が休戦協定や同盟を結ぶためやって来そうなのに、こんなに汚れていていいのだろうか。
 箒でゴミを集め、袋に詰めて、石畳にクリーナップをかけていく。作業の間、門兵はずっとこちらを見ていたようだが、俺はただ掃除をしているだけなので怪しくはないだろう。
 城の横にある役所には、相変わらず長蛇の列が出来ていた。
 石畳の掃除を終え、役所のベンチに座って列を眺めていると、見知った顔の獣人が紙袋を抱えてやってきた。獣人は俺の顔を凝視しながら通り過ぎて、抱えていた紙袋を落とした。
「まさか! まさかですけど、コムロカンパニーの社長さんじゃありませんよね!?」
 すっ飛んで戻ってきて、俺の顔をじっと見てきた。
 俺も彼を思い出した。レミさんと一緒に役所に通っていた時、受付にいた話のわかる獣人の彼だ。
「やあ、久しぶり。よく覚えていてくれたね」
「やっぱり! 忘れるはずないじゃありませんか! 南部開発機構の発起人ですよ! いったいここで何を? 行方不明になったと聞きました。噂では、がけ崩れに巻き込まれて、全員……いや、失礼しました。生きてますもんね?」
 俺の足を確認しながら、獣人の彼が言った。
「ああ、ちゃんと生きてるよ。ちょっと仕事でいなくなってただけさ。それで、サッサさん……今の国王に貸しているお金と受け取ってなかった報酬をもらいに来たんだけどね。門兵さんに追い返されて途方にくれてたところ」
「わかりました。すぐに僕が上に掛け合いますから! ちょっと待っててください!」
 獣人の彼は、「のんきに昼飯休憩取ってる場合じゃなかった」と言いながら、役所の中に駆け込んでいった。

 数分後、役所の重役たちに囲まれて、再び門兵のところに行き、役所の人たちがコムロカンパニーについて説明してくれた。青ざめた若い門兵が、城に向かって報告しに行った。
何人か確認のために、城の中の人たちが俺を見に来た後、貴族っぽい服を着て、ハゲ散らかしたサッサさんが慌てて外に飛び出してきた。
「生きていてくれたか……ナオキ・コムロさんでよろしかったですね?」
 サッサさんは、2年前、ラパ・スクレの宿で聞いたのと同じ質問をしてきた。
「そうです」
 俺は胸に手を当てて、敬礼し答えた。
「現グレートプレーンズ国王、サッサ・ホモス・レスコンティです。貴殿の帰還を首を長くして待っていました」
 サッサさんは、俺に敬礼をして2年前と同じように笑った。
「お城に通していただけますか?」
「もちろんです。あなた方の家と思っていただいて結構。これより、このナオキ・コムロと同じ青い服を身にまとった者が城にきた際は、間違いなく城内に通すよう厳命する!」
「「「はっ!」」」
 門兵たちが返事をした。
 俺は通信袋を取り出して、社員たちに連絡する。
「サッサさんが城に通してくれたよ。青いツナギを着たら通してくれるようになってるから」
『『『『了解』』』』

 俺はサッサさんの職務室である塔の一室に連れていかれた。ここなら、誰も来ないらしい。
「いや~久しぶり。そこら辺の椅子の本どかしていいから適当に座ってください。今お茶出しますから」
 机にはグレートプレーンズの地図とチェスの駒のようなものが配置されている。戦争中だから敵兵と味方の兵かな。本棚には雑然と本やスクロール類が並べられ、床も椅子も本の置き場と化している。何か焦っているようだ。
「戦争は突然始まったんですか?」
「ん? ああ、そうです。だから、慌てて戦略や戦術の勉強をしてるんです。一応、軍の輜重部部隊長だったから、ある程度わかっているつもりだったんだけど、火の国の新技術じゃ通用しなくてね」
「サッサさんもすっかり王様ですね?」
「嫌なもんですよ。人の上に立つってのはね。見てくださいよ、こんなに頭皮が目立つようになってしまった」
 サッサさんはお茶が入ったカップを片手に自分の禿頭を軽く叩いた。
 俺は仕事柄か、自然と本を本棚に片付け、スクロールをまとめ、部屋にクリーナップをかけていた。
「申し訳ない。王の執務室だから、使用人もここまで掃除しに来てくれなくて」
「清掃・駆除が俺の仕事ですから」
「うむ、いいもんですね。掃除をすると頭がすっきりする」
 そう言って、サッサさんは窓を開けて空気を入れ換えた。
「それで、この2年間、どうやって生きてたんですか?」
「南の洞窟のがけ崩れに巻き込まれた後、南半球に行って……」
 俺は簡単に、これまでのことを語って聞かせた。サッサさんは何度も質問してきたので、全てに答えていった。水の精霊がいたので、邪神や土の悪魔と言っても話が通じたので良かった。
「それまたすごい話ですね。世界の半分を救ってしまったんですか?」
「まだ救ってはいませんよ。道筋を作っただけです。これからどうなるのかわかりませんし、北半球の世界樹も探さないといけませんしね」
「いやはや、一国の王になって大変だと思ってたけど、はぁ~ちっぽけだなぁ……」
「いや、背負っている人の数も違うので、一国の王様のほうが立派ですよ」
「南部開発機構を作って、南部の避難所を査察しに行ったことがはるか昔のことのように思えます」
 それだけ多くのことがあったのだろう。
「あ、そうだ。忘れるところだった。今日は南部開発機構で貸していたお金と報酬を貰いに来たんですよ」
「あ~やっぱり忘れてなかったですか? いや、もちろん貸してもらっていたお金くらいは返しますよ。ただね……」
「戦時中ですから、現物支給でも構いませんよ」
「助かります」

 ドタドタドタドタ!

 突然、塔を上ってくる足音が聞こえ、突然ドアが開いた。
「あなた! 不審な者たちが城の中を歩き回ってますよ!」
 やけに胸だけ大きな中年女性が金切り声で叫んだ。口ぶりからしてサッサさんの奥さんかな。とても豪華なドレスを着ている。
「ここは王の執務室だ。お前が来ていい場所じゃない」
 サッサさんは冷たく女性を突き放した。奥さんじゃないのか?
「でも! あ! その青い服を着た連中です。その者たちが城の物を物色するように見て回っているのです」
 あいつら気が早いな。
「こりゃ、失礼を。教育が行き届いてないもんで」
 俺はサッサさんに頭を下げた。
「いやぁ、受け取ってくれるものがあって何よりです。ナオキくんにかかると何でも作ってしまいそうだからね」
 ないものは作ってどうにかしてきたからな。素材でもあれば十分だ。
「あなた!」
 中年の女性が叫ぶ。
「わかっていないようだから言っておくけど、君は私の正室じゃない。それから、この青い服を着た方たちは当然の権利を行使しているだけだ。ナオキくん、リタは来てますか?」
「ええ、たぶん」
「なら、この城にあるものは全ていずれ彼女のものになる。結局、遅いか早いかだけの差ですよ」
「それをリタが望んでいるかどうかはわかりませんよ」
 女性は俺たちが何を言っているのか、わかっていないようだった。当たり前か。
「それでも私はリタに全てを残す。いいかい? どんなに君の息子が私に似てようと、どんなに戦争で武功を上げようと次の王にはなれない」
 サッサさんは中年の女性に言って聞かせた。女性は目を見開いたままわなわなと震え、近くにあった椅子に座って項垂れた。
「いやぁ、本当にナオキくんたちが生きていてくれたおかげで、いろんな目処が立ったよ。さ、皆に会いに行きましょう」
 サッサさんは俺を職務室から連れ出して、女性を置いて塔を下りた。
「彼女、大丈夫ですか?」
 一応、俺は置いてきた中年女性について聞いてみた。
「大丈夫ですよ。現実を受け入れてもらわないと」
「さっき正室とか言ってましたけど……」
「ああ、王になった途端、国中から私と関係を持ったという女性たちがやってきてね。勝手に骨肉の争いを始めちゃって大変だったんだ」
「本当に関係を持った人たちだったんですか?」
「若い頃は優しさをはき違えていたから。それにこの年になると覚えてないことも多くてね」
 さすが王族。女性関係はクズだ。

 うちの社員たちは城の中に散らばっているため、一度食堂に集合をかけた。
 長いテーブルにサッサさんとうちの社員たちだけ。ボウとリタは緊張した面持ちで座っている。他の奴らは「報酬どれにするか、決めた?」などと喋っており、あまり緊張感がない。いつからこんなふてぶてしくなってしまったのか。
「だって、サッサさん知ってるし、ボリさんの実家だと思ったら、別に……ねぇ」
「うん。だいたい邪神や悪魔の威圧感から比べれば、こんな雰囲気で緊張しろって言う方が難しいよ」
 アイルとベルサがテーブルに肘をついて言った。
「使用人の方々も、世界樹にいたリスの魔物に比べたら、優しい言葉をかけてくれますしね」
「人がたくさんいるので落ち着いちゃうんですよね」
 メルモとセスは城の使用人たちを見て言った。
「それで、報酬になりそうなものは見つかりましたか?」
 サッサさんがうちの社員たちに聞いた。
「ええ、いい砥石があったので、それと。スペアの剣を」
「私は魔物に関する本を」
「調理場にあった大鍋が欲しいです」
「羽ペンと羊皮紙をいただければと」
 うちの社員たちは遠慮せずに次々と言っていく。
「ボウとリタは?」
「私たちはいいですよ」
 リタが報酬を断った。
「それはいけない。何か貰った方がいい。俺だって娼館の回数券を貰うつもりだし」
「「「「……」」」」
 女性陣から白い目で見られてしまった。
「いや、ギャグよ。本当は魔法書とか貰うつもりよ」
 慌ててフォローしたが無駄だったようだ。
「だったら、王位をあげようか?」
 サッサさんがリタに言った。
「いやいや、それはもらえません。私たちは2人で静かに暮らしていければいいので……でも、もしよかったら、本当に都合が合えばでいいのですが、結婚式をする時に来ていただけませんか?」
 顔を真っ赤にしてリタが消え入りそうな声で言った。
「行くに決まっているじゃないか! 国中で祝うさ!」
 サッサさんは感極まったように目に涙を溜めて言った。
「フハ、いつになるかわからないけど、ナオキも来てくれ」
 ボウが俺にボソッと言った。
「わかった。二次会の幹事は任せてくれ」
 その後、次々と料理が運ばれてきて、そのまま城で一泊させてもらえることになった。

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