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駆除人 作者:花黒子

~南半球を往く駆除業者~

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189話


 世界樹の各所にある風呂に通う日々が続いた。
 もちろん湯治などではなく、風呂周辺にいる発光スライムに、種団子を食べさせるためだ。ちょっと油断すると、腕ごと食べようとするので注意が必要。軍手がいくつか食べられてしまった。相変わらずライトワームが好物なようで、雪を掘り腐葉土に突っ込んでライトワームを探す個体もいる。冬の寒さに耐えきれなかったライトワームは無残に凍りついているのを何度も見た。食べるなら残さず食べればいいのに。
 アイルは光魔法のスキルがあるためか、発光スライムに何度も顔ごと食べられそうになっていた。窒息する前に助け出さないといけないので、初めは大変だった。
「魔力の壁に光魔法を閉じ込めて、一気に集めちゃえばいいんだよ。あとはあまり動かないでね。助けるの面倒だし」
 というベルサの言葉で、アイルの作業は発光スライムを集めるだけになった。
 アイルの魔力の壁は剣の形なので、光輝く剣に発光スライムが殺到すると、大きい蛍光灯のように見える。その蛍光灯から一匹ずつ引き剥がして種団子を食べさせ、風呂へと戻す。全員でやれば、作業はすぐに終わるので、どんどん風呂を回っていった。

 春も近くなり、暖かい日も出てきた。
 雪は溶け、地面の中では虫系の魔物がもぞもぞと動き始める。
発光スライムもふわふわと浮かび、太陽へと向かっていくのだが、上層部の方まで行くと寒いようで動きを止め、再び風呂へと帰っていった。

 現在、下層部の拠点は、発光スライムの分裂実験場と化しており、日夜ベルサとメルモが、どうやったら分裂するのか実験を繰り返している。
 発光スライムを増やすには魔力と水が必要なようで、魔石を細かく砕いて水に入れた魔水をふりかけていく。魔石は口にすると燃える泉から採取したものがあったし、他のスライムから取ったものもあるので実験の回数を重ねることは問題ない。魔力と水の割合が重要なようで、魔力の濃度が濃いと爆発して飛び散ってしまい、薄いと分裂せずに、個体が大きくなってしまうようだ。2人なら近いうち、分裂にぴったりの割合を見つけてくれるだろう。

 来年1年間は南半球で過ごすことに決めたので、ドワーフたちに挨拶をしに行くことに。
 洞窟に1人で住んでいるメリッサに伝えると、「あと1年経ったら、北半球に戻っちまうのかい?」と突然、泣きそうになったのでかなり焦った。全身、隈なく撫でて「1年に一度くらいは世界樹の様子を見に来ると思う」と言い訳がましく言うと、ようやく落ち着いたようだ。
「来年1年はあんたたちについて回ることにするよ」
 メリッサは、俺たちの代わりに世界樹を管理できるようになりたいという。
「でも、俺たちも管理できてるわけじゃないよ。それに、来年は南半球の違う島とかにも行かないといけなくなるだろうし。それでも、いいの?」
 メリッサの決意は固いようで、「うん」と頷いた。
「なら、今年何をやっていたのか、ちゃんと書いておくよ」
 そう言って、俺は世界樹での出来事とやるべき仕事をメモ帳代わりの硬い葉にリストアップしていった。
「まず、山頂で死にかける。魔物がバカみたいにデカい上に恐ろしく速いからね。それから、下層部でも死にかける。効果のわからない植物が多いんだ。あ、その前に小さいアリの魔物に魔力の壁を食べられたなぁ。お湯は必須だよ。で、バカでかいカタツムリの魔物に押しつぶされそうになって死にかける。幻覚効果も続いてるから、このときは本当に死にかけたなぁ……」
「そ、そ、そんなに死にかけるのかい?」
「大丈夫だよ、今のところ生きてるから。それに一回死んだことあるけど、違う世界に転生できる場合もあるみたいだよ。あ、それから幹に近づくとわけわからないものも多くなってくるから……」
 メリッサが若干引いているのを感じながらも、説明を続けた。
「身体を鍛えなきゃならないね。海の向こうにいるドワーフたちにも声をかけてくれるかい? 私一人でどうにかなるようなことじゃない気がしてきたよ」
 最終的に、メリッサは自分ひとりじゃ無理だと判断したようだ。

 砂漠と海を渡って火山付近のドワーフの集落に行くと、すっかり畑も鍛冶場も出来上がって、カンカンと心地よい金槌の音が聞こえてきた。
「こんちはー」
「おおっ、コムロの社長が来たぞー!」
 ついにドワーフたちからも社長と呼ばれるようになったようだ。
「とりあえず、これを」
 アイルが狩ったシカの魔物の肉をお裾分け。木材も足りなそうなので、世界樹を剪定した時に切ったプラナスの木も鍛冶場の脇に置いておいた。
「おお、いつも悪いな社長。こっちじゃまだまだ木材は手に入りづらくてよ」
 鍛冶場の入り口から顔だけだして、ドワーフのおじさんが挨拶してくる。
「あら、社長! みんな~コムロの社長が来たよ~」
 畑にいたドワーフのおばちゃんに気づかれ、おばちゃんたちが集まってきた。
「あのボウ君とリタちゃんのカップルすごかったよ~」
「2人だけで一気に畑広げちまってね~」
「この分なら春になったら、野菜がたくさん取れるよ。2人にはお礼を言っておいてね~」
 冬休み中にボウとリタはドワーフの集落で畑を広げていたらしい。
 おばちゃんたちにもメリッサと同じように「世界樹を管理してみないか」と聞いてみた。
「そりゃあ、世界樹の管理が出来れば、料理のバリエーションも増えるだろうし、いいだろうけどねぇ」
「私たちの故郷でもあるし、出来ることならやりたいけど……」
「私たちは、あんたたちみたいになんでも出来るってわけじゃないしさ……」
「いや、俺たちがあと1年で北半球に戻るって言ったら、メリッサが管理したいって言ってきたんですよ。ただ、俺の話を聞いて1人じゃ無理そうだと思ったみたいで、手伝ってくれそうな人がいたらメリッサと一緒に世界樹に行ってみませんか? もちろん、今すぐじゃなくていいです。春になったらでかまわないので」
 ドワーフのおばちゃんたちは「わかった、考えとくよ」と返していた。強くならないといけないだろうし、家族と相談する必要もあるだろう。決めるのはゆっくりでいい。
 たとえ、おばちゃんたちが手伝ってくれなくても、俺たちが毎年秋の終わりに上層部と下層部の境界に穴を空けにくればいいだろう。ただ、世界樹の病気だけが怖いな。

 俺は春にまた来ることを伝え、世界樹へと戻った。
 山脈を越える時、久しぶりに雲の中でカミナリを操る魔物に遭った。相変わらず姿は見えなかったが、バリバリと雷鳴を轟かせながら俺についてきていることがわかった。こいつも春雷の準備をしているのかもしれない、と思うと春が待ち遠しくなった。
 拠点では、新年を迎える準備をしており、社員たちは各々自分たちの故郷の正月を再現しようとしていた。
こちらの世界では立春が新年。俺もなんちゃって門松を作ってみた。ザザ竹を切って松っぽい木の枝をあしらったものだが、それらしくなった。
「社長のはどういう意味があるんですか?」
 クリスマスのリースのようなものを作っているメルモが聞いてきた。
「門に置いて、家に神様を迎え入れるためのものさ」
「ナオキ、終わったら、こっち来て燻製を手伝ってくれる? フハ」
 ボウが頼んできたので手伝うことに。魔族の新年はとにかく肉を腹いっぱい食べるのだという。拠点の外には燻製器がいくつも置かれていて、ボウも俺も時間を気にしながら燻製肉を作っていった。
南半球に来て、一時はどんどん痩せていっていた俺たちだが、すっかり元に戻っている。
 これも世界樹のおかげだ。
 雪の下から、気の早いふきのとうのような植物も芽を出し始めた。

 世界樹の拠点と山頂の拠点をコムロカンパニー総出でキレイに掃除をして、大晦日にメリッサがいるドワーフの洞窟に行った。
「お酒がいい感じでできてるよ」
「メリッサ、大好きだ!」
 大晦日はメリッサが作ったお酒は、度の強い芋焼酎のようなもので飲んだ後に、柑橘系の小さな実を噛るのがドワーフの女子流らしい。テキーラみたいな飲み方だ。久しぶりにべろんべろんになるまで飲んでしまい記憶がない。
 起きたときには、俺は裸で俺の隣りにいたメリッサも裸だった。一瞬ヒヤッとしたが、アイルも裸だったしボウもほとんど裸だったので、たぶん大丈夫だ。一応、俺の息子にも聞いてみたが、なにも言っていなかったので間違いがあったわけではなさそうだ。メリッサには服をかけておいてあげた。
「社長の踊りがまた見れるとは思いませんでしたよ」
 顔を洗ってる時に先に起きていたセスが言ってきた。酒を飲んで踊るのはフロウラ以来だろうか。何度も「俺とメリッサで間違いはなかったよな?」と確認した。
「なにもないですよ。盛り上がって裸踊りをしていただけです」
 何度聞いてもセスの答えは変わらなかったので、本当に何もなかったようだ。いやはや、お酒の力は恐ろしい。
 朝風呂に入り、砂漠の風で自然乾燥。
 正月なので仕事は休み。燻製肉を食べながらダラダラと過ごす。積読状態だった魔法書を読んだり、ベルサの論文を流し読みしたりと、俺のかわいいお尻が取れそうになるくらい座り続けていたら、脚がしびれて悶え苦しむことになった。
「あ~誰かお年玉くれて、働かなくても生きていけないかなぁ~……あ! お前たち、お年玉をあげよう。ついでに今のうちに給料を計算しておこう」
 急に思い立ったので、ベルサに言って、金貨や銀貨を出してもらった。ただ、グレートプレーンズで立て替えておいたお金を受け取らずに南半球に来てしまったようで、全然お金がない。女王とは全て終わったあとに報酬について話し合う予定だったとか。
「北半球に帰ったら、必ず請求しよう。あと魔石を金貨に交換してもらおうな。あ! そういや水の精霊をクビにした報酬ももらってない。どうせ、神様が花見に来るなら、その時に話しておく」
「お正月にお金の話をしなくても……」
 メルモが言った。
「いや、お金の話はちゃんとするべきだよ。仕事のモチベーションにも繋がるんだから。俺たちはあんまりお金を使わずに生きていけちゃうから、そんなにお金の話をしないけど、金の切れ目が縁の切れ目ともいうし、ちゃんとしておいたほうが後々のためにもなると思うんだよ。ベルサとセスは皆の給料を計算しておいてね。北半球に行ったら、必ず払うから」
「わかりました。でも、南半球でお金もらっても使うところがないので、お年玉は魔法陣かなにか教えてください。そちらのほうが価値がありますから」
「セスは尤もなことを言うなぁ」
 俺はすぐに魔法陣講座をその場で開き、教えていった。ただ、スキルポイントで得た知識なので、どうして魔法陣が起動して効果があるのかなどさっぱりわからず、結局は魔法書に書いてあった「真理は己の頭と手でつかめ」という言葉をそのまま引用した。
 そんなダラダラとした三が日を過ごし世界樹の拠点に戻ると、発光スライムが溢れていた。分裂させる実験が成功していたようだ。

 世界樹に春一番が吹き、雪を溶かしていった。
 地面の下で蠢いていた虫の魔物たちが地表に出てきて、木から新芽が顔を出す。

 春。

 1日だけカゲロウのような魔物が大量に発生し、風に吹かれて世界樹から飛び出していってしまった。個体も小さく特に害はなさそうなので放っておく。
 翌日は寒の戻りで寒くなったが、翌々日は再び春の風が吹いた。下層部の植物は、雪に抑えられていた活力を取り戻すかのように、見る間に伸びていった。
 幹周辺の魔物たちも冬眠から目覚めはしゃいでいる。
 上層部はまだ寒いのか接ぎ木された植物は芽を出さず、世界樹の蕾だけが膨らんでいった。
 小さなアリの魔物にスネを食われるようになったので、出来るだけ魔力の壁を展開しつつ、お湯で駆除していった。木をまるごと一本、大量のカメムシの魔物がへばりついていることもあったが、吸魔剤をかけて駆除。その後も、魔物が大量発生していないか世界樹を見て回った。
 冬に大きくなっていたグリーンタイガーが地面から出てきた甲虫の魔物の群れに捕食されていた。春になって弱肉強食のバランスも変わる。

 相変わらず、出来るだけ発光スライムには種団子を食べさせる作業は続いている。一定量は拠点の中で夏になるまで飼育することに。剪定班だったアイルはリタと一緒に上層部で切り口に病気が入り込んでいないか、ケムシの魔物が枝を食い荒らしていないかを確認しているので、昔作った光の玉が出る杖で発光スライムをおびき寄せている。
 そんな日々が続いたある日。
『ナオキ! 咲いたぞ!』
『花が開きました!』
 上層部にいたアイルとリタから連絡が入った。
 ついに、世界樹の花が咲いた。
 全員で見に行くと、両手で抱えられそうなほど大きな桜の花が咲いていた。
世界樹から見ればとても小さい。しかし、大きな一歩だった。


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