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駆除人 作者:花黒子

~南半球を往く駆除業者~

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186話


 世界樹の下層部に拠点ができてから、俺たちはほとんどの時間を世界樹の中で過ごしている。
 脅威に感じていた魔物や植物は『対処が可能な物』に変わり、わけがわからない幹周辺の魔物や環境については『個別に対処する物』になった。
幹周辺は常に発見があり、面白い。
 悪口の念波を飛ばしてくるリスは身体を褒めるとモデルのようにポーズを取ってくれることがわかり見るたびに褒めまくったり、燃える泉の中にある小石が全て魔石であることがわかり網で掬いまくったり、落下地点を計算するナマケモノの魔物と硬い木の実でキャッチボールしたりと、夏休みの子どもみたいなことをしている。
 新種の魔物や植物も多く発見したが、こちらからアクションを起こさなければ無害なものばかり。大型の魔物が入ってくると、種を超えて燃える泉に誘おうとする連携まで見せる。異世界版さるかに合戦のようで、非常に興味深い。
たぶん、それがなかなか世界樹から出られない理由になっている。

 もちろん、駆除業務だって忘れたわけではない。特にメルモは大きなシジュウカラっぽい魔物を使役し上層部にいるケムシの魔物をどんどん駆除していった。
「幹付近まで日光が届くようになったので、トリの魔物も眠くならないようです」
 メルモのこの一言で、剪定班のアイルとリタは「良かった」と抱き合っていた。初めての作業で成果が出ているのかわからなかったため不安だったようだ。
 さらに下層部ではベスパホネットの巣は計3つ駆除した。駆除方法を確立してしまったので焦ることなく、いずれも1時間ほどで終了。巣に向かう途中で魔物に寄生するキノコを偶然見つけた。すでに魔物の方はキノコに侵食され形骸だけが残っていた。
 そのキノコを乾燥させてネズミの魔物に食わせると、とんでもない精力を発揮し次から次へと使役しているメスのネズミの魔物に襲いかかり、精力を出し尽くすと死んだ。こんな悲しい毒はない。
「フハ、辛すぎないか?」
「でも、子を残そうとしたんだから幸せなのかもしれませんよ。どちらなんでしょうね?」
 ボウとセスは悩んでしまったようだ。
「わからん。前の世界では生殖の後メスに食べられるオスや生殖するためにメスの付属品になってしまうオスがいたよ。残酷だろ? でも、愛情が深すぎて『その人の一部になるなんて幸せだよ』って考える奴もいるしさ。俺たちは悩めるだけ良かったよ」
男性陣はそのネズミの魔物を手厚く葬ってやり、魔物に寄生するキノコについては大事に瓶に詰め、アイテム袋にしまった。

 魔物の冬眠用の風呂の準備をするため、アイルがマッピングを急いでいる。
今、温めると下層部が温室になってしまうので、穴を掘るだけ。湧き水ではないが、燃える泉になるかもしれないという懸念もあって、世界樹の葉が枯れるまで水も入れず、なるべく幹から遠い場所に作る予定だ。

 毎日、幹周辺の魔物たちと戯れているうちに、幹までのルートを確保。いよいよ山頂付近の氷を持ってくることに。
「メルモ、トートバッグを作ろう」
 下層部の拠点で晩飯を食べた後、いくらでも氷が入るトートバッグを作ろうとメルモを誘った。
「トートバッグってなんですか? 氷は魔力の紐で縛って持ってこようと思ってたんですが……」
「ああ、そのほうが大きい氷を持ってこられるな。考えてるなら、いい。頑張ってくれ」
 氷運びはメルモとセスに任せることにしている。二人ともレベルが上がっているので自分で考えて動いてほしい。一応、名目上だけは社長なので社員の自主性を尊重したい。手が足りないときだけ手伝おうと思ってたけど、どうも手を出したくなってしまう。まったく面倒な社長だなと頭を掻きながら反省。
「社長、ちょっと! トートバッグについて教えてください」
「トートバッグってのは氷を運ぶ鞄のことだよ。魔法陣を描けばいくらでも入るし、持ち運ぶのに便利かなと思ったんだけど、大きい氷を運ぶのには適してないかな。魔力の紐のほうが大きい氷運べるよ」
「でも、そっちのほうが大量に持ち運びできますよね。そのまま氷室にもなるし」
「そうか。でも、大きい氷のほうが溶けにくいんじゃないか」
「そうなんですけど、大きさにも限りがあるからレンガみたいに積み重ねられるようにしようとセスと話してたんですよ。上層部と下層部の間を何度も行き来するのも大変ですし。で、トートバッグってどういうサイズのどういう鞄なんですか? セスも片付けは後にしてちょっとこっちに来て!」
 その後、俺はメルモとセスを前にトートバッグの説明をすると「そんなの普通のバッグじゃないですか!」と怒っていた。とはいえ、メルモはせっせと俺が描いた魔法陣を刺繍して、氷を入れるトートバッグを作っている。

 翌日から、メルモとセスはアイルたちを連れ、山頂付近の拠点に向かった。
アイルに氷を切ってもらうらしい。リタも連れて行ったのは、なくなった氷のせいで雪崩が起きないよう、氷を切り出した氷の穴は水で埋めようとしているのだとか。
それを聞いたボウは「なら、建材で型を作ったほうがいいかもな」と後を追いかけていった。通信袋でも連絡が取れるようになり作業の進み具合もわかるので、よほどのことがない限り大丈夫だろう。

 残された俺とベルサはアイルに指定された場所に風呂を作っていくことに。相変わらず、アイルの地図はうちの社員にしかわからないんじゃないかと思われる記号だらけだ。
「暗号いらずの地図だから、北半球に戻っても使えるよ」
「剣士の地図は、魔物を追い込むために描いているから矢印が多いのかもな」
 ベルサも俺もアイルの地図は評価している。幹周辺の魔物も個性的だけど、うちの社員も変だからどうにか対応してるんだろう。
「この辺かな。ちょうど行き止まりだ。逃げてきた魔物が風呂に入れるようにしてるのか」
 三方を小さな崖に囲まれている谷の底に着いた。
「崖があるから魔物にとっては巣穴を作りやすいんだろう。意外にアイルも考えてるよね」
 さっそく作業開始。今はまだ草木を排除して穴を掘るだけなので、さほど苦労しない。
 掘ったあとはスコップで固め、板を敷き詰め魔法陣を描いて強化しておく。
「板からプラナスの香りがするね」
 板に魔法陣を焼き付ける時、ベルサが言った。世界樹にも慣れ、すでに魔力の壁を使っていない。
 油断しているといえば油断しているのだが、世界樹の端の方なので大きな魔物や素早い魔物くらいしかいないし、想定していることや経験済みのことしか起こらないので、随時耳栓をしたり、マスクをするだけで対処できてしまう。初めて世界樹に入った時はあんなに警戒していたのに、変な物を見すぎたせいであんまり緊張感がない。突然、魔物に襲われても、魔力の壁の中に入れて空気を抜いて圧縮するだけだ。
「ここ、発光スライムのために魔石灯も置いておくよ?」
 ベルサは地面に木の棒を突き刺し、枝が二股になっているところに魔石灯をかけていた。
「よし、次行こうか」
 その日、俺たちは2人で5箇所に風呂を作った。

『社長! ちょっと幹まで来てください』
 ドワーフの鉱山だった場所で休んでいると、氷を運んでいるメルモから連絡が入った。
「了解、すぐ行く。なんかあったか?」
『昨日なかったものが……』
 なんだろう。
 とりあえず、空飛ぶ箒で急行すると、そこには『この先、ダンジョン』と書かれた看板と、幹の下まで続いていそうな階段が出来ていた。
「昨日はなかったよね?」
「ないですね」
「じゃ、たぶん悪魔の罠だと思うから埋めてしまおう」
「いいんですか?」
 セスが聞いてきた。
「階段を下りて悪魔に精神を乗っ取られでもしたら面倒だろ? 見なかったことにしよう」
「冒険者としては行きたくなるけど、悪意しか感じないから埋めていいと思う」
 看板の引っかかれたような文字を見てアイルも俺の意見に同意してくれた。
 ダンジョンへの階段はそっと閉じられ、しっかり土で埋められた。
 一応、『悪魔へ、仕事の邪魔しないでね』と置き手紙を階段があった場所に置いて作業を続けた。

 幹の近くには氷のブロックが山のように積まれ、魔物たちも珍しそうに触ったり舐めたりしてはしゃいでいる。当たり前だが、下層部は気温が高いので氷はどんどん溶けていく。メルモに頼まれて俺は氷魔法の魔法陣が描かれた布を氷の上にかぶせていった。
「ちょっと溶けるのを遅らせるくらいだぞ」
「ええ、大丈夫です。今日はボウさんに氷の型を作ってもらったので、明日の作業はもっと速いかと」
 横を見ると、相当疲れた様子のボウがいた。世界樹の幹を囲うだけでもかなりの氷が必要だ。まだ全然囲えていないので氷を作る作業も、製氷機を作る作業も残っている。
「フハ、先が見えないよ~」
 ボウは霜焼けした大きな手を見せながら言ってきた。山頂付近では軍手など意味がないらしい。回復薬の塗り薬をリタに渡し、「塗ってあげてくれ」と頼んでおいた。

 1日作業をしただけで、世界樹が枯れてくれるわけもなく、その後、同様の作業が10日ほど続いた。
 初日に置いていた氷も完全に溶け、湿気だけが増え、霧が出やすくなった。こうなってくるとカビとキノコの天国になるらしく、世界樹では見なかったシャドウィックが現れ、キノコが樹木よりも高く伸び始めている。
 ちょっと大気中の水分量が増えただけで、目に見える形で環境が変化していくことに驚きつつも作業は続けた。水の入っていない風呂も各所に50個近く出来ている。

「ちょっと埒が明かない感じがしてきました」
 作業が15日を過ぎ始めた頃、メルモが弱音を吐いた。
「少しずつやっていくしかないだろ? 明日から風呂に水を張って、川にも冷却の魔法陣を描いた石を入れてみよう。下層部全体が冷えれば、きっと世界樹も枯れるさ」
 そう言ってやってみたものの、効果はあまり見られず、時間だけが過ぎていった。

 作業開始から30日目。メルモはシャドウィックを使役して手伝わせながら、幹周辺に氷を運んでいた。
 あとの奴らは川や風呂、泉に冷却の魔法陣を描いた石に魔力を込めて下層部の各所を回っていた。
 初めに気づいたのは落下地点を計算するナマケモノの魔物だ。上層部を見上げて声を上げた一匹に呼応するように、次々に声を上げていった。普段、群れない魔物だが、このときは集まって一斉に声を上げた。
 幹周辺から聞こえてくるナマケモノの魔物の声を聞いて、俺たちも上層部を見上げた。

 ひらひらと枯れ葉がゆっくり落下してきたのを全員が確認し、通信袋から『やったぁ!』『よっしゃ!』『やりました!』などと歓喜の声が聞こえてきた。

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