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駆除人 作者:花黒子

~南半球を往く駆除業者~

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185話


 山頂付近の拠点に戻ってきた俺たちはすっかり疲れていた。
魔力的にも体力的にもまだまだ余裕があるというのに、まさか精神力を削られるとは思わなかった。あまりにも変なものを一気に見すぎたからだ。
「で、どうするんですか? 私たちが氷を運ぶルートは見つかったんですか?」
 メルモが、下層部に行けなかった腹いせに山ほど作っていたバレイモのマッシュポテトを盛り付けながら聞いてきた。
「問題はそれだよ。幹付近の魔物は、ナオキの探知スキルでも見えないんだろ?」
「見えないというか、魔素が多くて空気中の微魔物も多いから全体的に見にくいって感じだな。いや、それよりも問題なのが……」
「私たちが襲われないってこと、だろ?」
 アイルが言った。
「そう。飲んだら燃える泉も、魔力の壁を通過してくる透明なトカゲの魔物も、数学が出来るナマケモノの魔物もまったく俺たちを襲う気配がない。ベスパホネットくらいわかりやすい魔物なら駆除も出来るけど、あそこにいる魔物はただただ変なだけで害がないんだ。そんな魔物や環境を理由もなく破壊するのは駆除業者のやることじゃないだろ」
 いくら現実が変でも、自分たちが何者かさえわかっていれば、恐れる必要も崇める必要もない。
「でも、耳に残る太鼓のような音やリスの魔物に悪口も言われたよ」
 ベルサが反論してくる。たぶん、今回は何も獲らずに帰ってきたから、ベルサは珍しい魔物のサンプルが欲しいのだろう。
「あの音は時間が経てば消えたろ? 悪口に関しては……この中で悪口を気にする人っているの?」
 俺が皆に聞いた。
「オレもう気にしない、フハハ」
「あー私も親が変な考古学者なので、批判は言われ慣れてます……」
 ボウとリタは気にしないようだ。
「僕もこの会社に入ってから特に悪口を気にしたってことがないですね」
「確かにセスが何か言ってきたら先に手が出てると思うし、それだけです」
 セスもメルモもほとんど気にしていない。
 アイルに至っては「悪口? リスの魔物たちが言ってたのって悪口なのか」と悪口自体が何なのかわかっていない。
「だいたい、この会社でベルサが一番、悪口を気にしてないと思うけど?」
 ベルサが人の目や言われたことを気にしているシーンを思い出せない。
「……だって、悪口を直接心に語りかけてくるリスの魔物なんて、こんな面白い魔物いないよ! 捕まえて調査しようよぅ!!」
 ようやく本音が出たようだ。
「調査はするけど、殺しちゃったら悪口聞けなくなるよ」
「それも……そうなんだよなぁ。ナオキ、下層部に拠点を作ってくれ! 近くで観察したいから」
「それはいいアイディアです! この山頂付近の拠点だけだと、種の選別作業にも時間がかかりますし」
 ベルサの意見にリタも乗ってきた。
「でも、場所がなぁ……」
「フハ、ベスパホネットの巣跡は使えないかな?」
 うちの建築家であるボウが提案してきた。
「ああ! あそこは完全に穴が開いてるな。出来そうなら作るか」
 以前、駆除したベスパホネットの巣は、巨木の洞の中にあって地下まで伸びていた。まだ、他の魔物の巣になっていなければ、拠点に使えそう。
「で、幹までのルートはどうします?」
 セスが本題に引き戻す。
「ルートは幹周辺の魔物と環境の隙間を縫うように作っていくしかないだろうな。下層部の拠点には氷室も作っておこう」
 下層部に拠点を作ることが決まった。

 大盛りマッシュポテトの晩飯が終わっても会議は続いた。
 アイルが下層部のマッピングをして、リタが種を選別すると剪定班がいなくなってしまう問題が出てきている。
「上層部はかなり風通しが良くなったよ」
「日光が幹周辺にも当たるよう工夫はしました」
 アイルとリタは、朝と夕方に木漏れ日が入るよう、ちゃんと計算して切ったようだ。
「かなり切って頂いたので木材の在庫は溜まってます」
 セスが在庫リストを見ながら報告してきた。
「ただ、ケムシの魔物がどうにもならなくて、殺して魔物除けの薬も撒いてるんだけど、なかなか減らない」
「ん~じゃあ魔物の力を借りるしかないな。メルモ、トリの魔物を使役してケムシの魔物を食わせてくれるか? それを繁殖させよう」
「わかりました。毒の実験はどうします?」
 セスが作ったリストを見ると、現段階でもいろんな種類の強力な毒が集まっている。むしろ、ドワーフたちに瓶作りを頼みたいくらいだ。
「一時休止で。世界樹が枯れたら毒もなくなるから、先に世界樹を生かそう」
「わかりました」
 初めのうちは大量にネズミの魔物を殺すのが精神的に辛そうだったメルモだが、尊い命のお陰で食料が増えたり毒が判明し、行く行くは人々のためになることを諭すと納得していた。今では慣れてしまったようで、脳みそをくり抜くのも、内臓を血を流さずに取り出すのも手際が良い。
「あとの問題は発光スライムか。はぁ……」
 ベルサがため息を吐いた。
 晴れた日に山頂付近で発光スライムを放つ実験をしたのだが、動きが極端に鈍くなり、寒さに弱いことがわかった。餌は食べるのだが空中に浮かび上がってもすぐに墜落してしまうのだ。
 これでは世界樹が枯れても、寒さで発光スライムたちが飛んでいかない。
「やっぱり冬眠させて時期ズラすのがいいんじゃないか?」
 俺は、春になって気温が暖かくなって世界樹の花が咲いている間に飛ばして、発光スライムたちを飛ばそうと考えている。
「それもどこに冬眠させるか。そもそも冬眠するのか、まだわかってないからねぇ。はぁ……」
「温泉があればいいんだけどなぁ」
 アイルが言うように、温泉があれば冬眠する必要もない。
「なければ作るのがコムロカンパニーじゃない? フハ」
「確かに、養魚池を復活させた皆さんなら温泉くらいできますよ」
 ボウとリタは俺たちを超人だと思っているらしい。
「温泉なんて掘ったら、魔素が吹き出してくるだろ? それに下層部に温泉があれば、世界樹が枯れたときに全魔物が集中するしさ。いや、そもそも世界樹に温泉なんてあったら魔素だらけで、どうにかなっちゃうんじゃないか?」
「どうにかって例えば?」
 アイルが聞いてきた。
「例えば、飲んだら体が燃えるとか? ……ああっ!あの泉って湧き水だったのか! ほら、でも危険だろ」
 意外なところから、答えが出てきた。
「でも、僕らってよく人工的な温泉に入ってるんじゃないですか?」
 セスに言われて、俺もようやく気がついた。
「風呂か」
「あれなら作り慣れているので何個も出来るし、魔物を分散できますよ。魔石の量は問題ありません」
 セスが在庫リストを見せてきた。最近は乾燥剤も作っていないのでほとんど使っていないということもあり、大小合わせて3万強。駆除していたスライムの魔石も含まれているとは言え、十分過ぎる量だ。一生魔石で困ることはないんじゃないだろうか。
「人工的に作るなら、冷やすことも出来るし、いいんじゃないか」
「風呂なら作るのに時間はかからないよ」
 ベルサとアイルも納得した。
「じゃ、拠点と魔物のスパ作りか。いよいよ、なんの業者かわからなくなってきたな」
「準備だと思えばいいんですよ。これだけ毒があれば、北半球で私たちに駆除できない魔物はいませんよ!」
 メルモが励ましてくれた。
「毒についてはかなりの量があるので、近いうちにドワーフの皆さんに瓶を頼んでおいてください」
 セスは事務的に言ったが、ドワーフの村に持っていく世界樹産の食料やクモの魔物の糸などのリストを渡してきた。ちゃんとドワーフたちのことを考え、瓶作りも仕事として依頼しようとしているようだ。
「はい」
 出会った頃のような初々しさがなくなって、社長としてはちょっと寂しい。

 翌日から、ボウと一緒に下層部に行って拠点作り。
 場所は覚えていたので、いつものアリの魔物や巨大カタツムリの魔物の対処をしつつ向かった。
巨木の洞には、取り逃したベスパホネットがいろんな魔物に食べられ、残骸が大量に落ちていたので、まずは清掃から始める。まとめて洞から出し、あとで焼いてしまおう。
あとは全体的にクリーナップをかけていく。
 ボウは割れている箇所に、洞窟スライムの粘液と砂利と砂を混ぜた建材を塗って隙間を埋めていく。俺も魔法陣を描いて洞自体を硬くしていった。
 ベスパホネットの巣は地面の中にまで伸びていたので、かなり大きく地中にいたワラジムシの魔物やワームの魔物などが自由に穴を開けていた。
 アイルとリタが剪定して切った木を加工し、床面や壁を作っていくことに。ケムシの魔物に食われていて使えないものも多く、選別して寸法を図っただけで1日が終わってしまった。
 2日目は先に洞の入り口にドアを作るところから始めた。
 ドアに風魔法を描いて、世界樹の空気が入ってこなければ、魔力の壁を展開させる必要もないため作業しやすくなるはずだ。
 初めて世界樹の下層部で魔力の壁を切った瞬間はちょっと感動的だった。
「おおっ! 世界樹の下層部なのに!」
 吸い込んだ空気には毒もなく、小さな魔物に襲われることもない。1時間毎に診断スキルで確認していたが、体調に変化はなかった。
「フハ! 普通に魔物たちも生活しているんだから、すぐ病気になったりしたら弱すぎるもんな」
 と言っていたボウだったが、知らない間にダニかノミの魔物に腕を食われた時は、人生の終わりのような顔をして、俺に助けを求めてきていた。ただの虫刺されで、回復薬を塗ったらすぐに治った。
 朝から晩まで、ボウと一緒にドワーフの集落跡にあったノコギリを勝手に借りて木の板を作り続けた。すべての板に防腐、耐火、耐衝撃などの魔法陣を描き、強化していく。
 地面の下なので、突然ワラジムシの魔物やワームの魔物、モグラの魔物などが現れる。閃光弾や吸魔剤をかけて対処していたら、木を切って強化する作業だけで1日が終わってしまった。
 3日目。
釘がなかったので、海の向こうのドワーフたちのもとへ向かった。
「よう来なすった!」
 ドワーフの族長たちは歓迎してくれた。大量の世界樹産の食料とクモの魔物の糸を渡し、釘と一緒に瓶作りもついでに頼んだ。
「釘はあるもので良いか? ここらへんでは鉄鉱石があまり採れなくてな」
「あ、忘れてました。これ、たぶんドワーフの集落跡だったと思われるところから見つけたものです」
 そう言って、鉄鉱石や鍋、包丁などの家財道具を渡すと喜んでくれた。
「一から作るより補修したほうがすぐに使えるからな」
 ドワーフのおじさんが包丁を見ながら言った。
「あ、ノコギリだけ借りてます」
「どれ刃毀れしてないか見てやる」
 ドワーフのおじさんは、ノコギリを持っていってサビや汚れを全部キレイに取ってくれた。すでに炉も稼働しているようだ。
「ほら、こっちの洞窟で取れた野菜だ。少し持ってていいよ」
「冬でもここはそんなに寒くなくて快適だよ。そっちは今頃寒くなってきてないかい?」
「1人黒竜の洞窟に残ったメリッサとはうまくいってるのかい?」
 待っている間、ドワーフのおばちゃんたちがどんどん話しかけてきた。あのドワーフのおばさん、メリッサって名前だったのか。仲良くなりすぎると情が移って、本当に結婚させられそうなのが怖い。本人は、すでに南半球の現地妻になった気でいるらしい。
「ありがとうございます。ぼちぼちです」
 と、答えておいた。
「瓶はちょっと時間がかかる。大きいのが良いんだろ?」
 キレイになったノコギリを俺に渡しながら、ドワーフのおじさんが聞いてきた。
「そうですね。お願いします」
「いやいや、これだけ食料も貰っといて、こちらからなにもなしってわけにはいかねぇさ」
 長く一つの共同体しかなかったドワーフたちだが、ギブアンドテイクの概念は消えてないようだ。
「ほら、釘だ。持ってってくれ」
 ドワーフの族長が余っているという釘を持ってきてくれた。他にも金槌や定規なども他のドワーフたちが持ってきてくれた。
 嬉しいニュースもあり、ドワーフのおばさんの1人が妊娠したという。海を渡ってから初めての子になる。食糧事情も良くなってきたので、人口も増えてくれればいいなぁ。

 その夜、釘と金槌を持って帰ってきた俺とボウはそのまま世界樹の下層部に入り、簡単な床と壁を作ると眠ってしまった。

 4日目の朝、異常な魔力量を感じて起きた。
 異常な魔力量はお互いの身体から出ているものらしく、身体の調子もすこぶる良い。
「フハ、どうなってんだ?」
「下層部は魔素の量が多いから、急激に回復したんじゃないか?」
「じゃ、本来オレたちはこんなに魔力量があるってこと?」
「そう言われると……」
 俺は自分の冒険者カードを裏返して確認し、ドン引きした。レベルは200を超え、300に届きそうになっている。そりゃ、こんだけ魔力量があるわけだ。
「フハハ、スライム駆除が原因かな?」
「だろうな。それに世界樹でも大量に殺してるし。いやはや、俺たち北半球に戻っても普通にやっていけるかな?」
「普通は無理だろ。フハ」

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