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駆除人 作者:花黒子

~南半球を往く駆除業者~

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177話


 俺はアイテム袋からポンプを取り出し、深緑色の液体を風上に向かって散布。
「何してんだよ! ナオキ」
 山頂の風で、散布した液体は俺たちの魔力の壁にべっとり。風下にいた巨大なトンボの魔物は液体を避けた。
 よし、南半球の魔物にも魔物除けの薬は有効なようだ。
「全員、燻煙式の魔物除けの薬を風上に設置しろ! 自分の魔力の壁で煙を覆って、トンボの魔物に投げつけてやれ!」
 4人全員、燻煙式の魔物除けの薬を設置した。風は山の斜面に沿って吹き上がり、煙がどんどん空へと舞い上がる。ローカストホッパーを駆除した時と同じような緑の壁が峰に沿って出来上がった。
 トンボの魔物の群れは煙を嫌がり、飛び回る。
 俺たちはその煙を小さな魔力の壁に閉じ込め、トンボの魔物めがけて投げつける。トンボの魔物に当たった魔力の壁は弾け、トンボの魔物の顔を煙が覆う。
 羽をこすり、「ブブブブ……」という警戒するような音を出しながら、トンボの魔物の群れは世界樹へと帰っていった。
去り際、他の個体よりも大きなトンボの魔物が振り返って、挨拶でもするように旋回してから世界樹へと消えた。空のスピード勝負では勝てないだろう。
「うう……追い返したは良いけど、やっぱり、オレこの臭い苦手だ」
 ボウは鼻の穴に木の実を詰めていた。

 危険が去ったので、一先ず拠点建設予定地にポールを立て、赤い布を巻いておく。ポールは魔物の骨だ。
 すでに出発から2日経っており、皆の魔力の壁も限界。下山して、魔力が回復してから再び戻ってくることに。何事も時間がかかる。
「これ、誰か輸送係を作ったほうが良くないか? 全員を魔力の壁の中に入れておけば良いんだからさ」
「帰ったらセスに言っておきましょう」
 ベルサの提案と、メルモの一言で、輸送係はセスに決まった。
ベルサがどうしてもというので、ハエの魔物に寄生していたキノコを採取して瓶に入れ、完全密封。キノコの表面はすでに凍っていたが、世界樹産だ。何が起こるかわからないので、俺のアイテム袋の中に貯蔵しておいた。いつか実験に使える日がくるのだろうか。

 帰りは空飛ぶ箒で一気に下山する。
ほとんど落下するルートを選択したので、かなり時間短縮になった。時間を短縮しないと、メルモの魔力が保たなかったかもしれない。訓練で2日間魔力操作を維持するのと、動きながら魔物相手をしつつ魔力操作を維持するのとでは、やはり魔力消費量が違う。
「ボロボロだな。おかえり」
 アイルの言葉に、疲労困憊の俺たちは返す元気もない。
「大丈夫っすか?」
 セスが食事を作ってくれていたが、今食べたら吐きそうだ。

 山頂に行った4人はクリーナップをかけて、そのまま就寝。
 寝ている最中に、ドワーフのおばさんが脱ぎっぱなしにしていた俺たちのツナギを洗濯してくれていた。なんて優しい人だ。結婚はしないけど。
腹が減って起きたのは半日近く経ってからだ。すっかり体力も魔力も回復していて、セスの作った食事をバクバク食べた。冷めても美味い。

「セスには俺たちの輸送をしてほしい」
 食べながら、今後について話し合う。と言っても、俺がセスに輸送を頼むだけだ。
「輸送ですか? つまり、僕の魔力の壁の中に皆さんを入れて山頂に運ぶということですかね?」
「そうだ。全員を輸送してもらいたい。それだけで現地での行動が楽になるんだ。セスの魔力の壁は船の形だし、どう?」
「わかりました。練習するので、時間もらえますか?」
「よし! 全員、できるだけセスに協力するように」
 食後、セスが自分の魔法の壁を広げ、どのくらい保てるのかの実験が始まった。
 船のイメージは、北半球に置いてきた俺たちの会社の船を元にしており、大きさも申し分ない。ただ、自分の周りだけでよかった魔力の壁が他の6人を中に入れて保たなくてはいけないのだ。魔力のバランスが難しい。
「皆さん、極力動かず、魔力も出さないでください! 特に社長とアイルさんは魔力量が多いので、僕の魔力の壁が内側から破壊されそうです!」
 相変わらず、セスには迷惑をかける。
 俺もアイルも座禅を組むように「無」になって協力するが、どうしてもボウに笑われてしまう。
「フハハ! そんな笑わせ方あるんだな!」
 俺とアイルの真顔がよほど面白いらしい。釣られてリタも笑いを噛み殺している。「集中しろよ!」と怒っている俺の鼻毛が鼻の穴から飛び出していたらしい。
 鏡を貸してもらって、処理。ついでに伸びっぱなしだった髪の毛もメルモに切ってもらった。
「メルモは散髪がうまいな」
「実家でゴートシップの毛を嫌というほど切ってましたからね。こんなもんでどうですか?」
 ボリュームがあった俺の髪もすっきりして前と同じくらいになった。虎刈りやモヒカンになるんじゃないかと思っていたが、メルモは本当に散髪がうまいようだ。
 セスは練習を再開し、「山頂仮拠点設置作戦」の再挑戦に向けて準備をする。
 俺とアイルが大人しくなり、セスはコツを掴んでいった。
すぐにセスは魔力の壁を展開したまま空飛ぶ箒に乗り、「ちょっと、まだ人を乗せたまま飛ぶのは怖いので」と砂と魔石を詰めた樽で練習を始めた。
一度に幾つかのことを同時に行わないといけないので、なかなか大変そうだったが、セスを信じよう。

 一方、仮拠点設置に関して、ボウは、リタとともに山頂でカマクラを作ってから建材を使うことを提案してきた。
「たぶん、山頂付近だとリタの水魔法で出した水は凍るから、カマクラも作りやすいと思うんだ。どうかな? フハ」
「それもいいな。いや、俺も考えてたんだ。先に外側だけでも作っておくのはどうだ? 幅がアイテム袋に入る大きさならセスの負担にもならないし、柱も魔物の肋骨でできないかなと思ってな」
 俺は紙に絵を描いて説明した。
 柱とその間の壁を先に作ってしまい、山頂付近でかまくら型のプレハブ小屋を組み立てようということだ。前の世界で南極に行った観測隊がプレハブ小屋で基地を作っていたことを思い出したのだ。
「山頂付近は風も強いし、気温も低いだろ? 建材のスライムの粘液がすぐ固まっちゃうことも考えられるからさ。先にパネルにして固めておけば、山頂で組み立ててしまうだけで済むし、どうだ?」
「フハ、なるほど面白い。作ってみよう」
 俺とボウが頷いて作業に取り掛かろうとしたら、リタが不安そうに声をかけてきた。
「私、拠点作りに要りますか?」
 プレハブ工法だと自分が必要ないと思ってしまったらしい。
「リタ、山頂付近はすごい危険なんだ」
「フハ、世界樹の方から巨大な虫の魔物が飛んできたりする」
「仮拠点ができたらその魔物たちに狙われるかもしれないから、リタは最終的な仕上げとして拠点を水魔法を使ってカモフラージュしてほしいんだよ」
「そもそも人手がないと作れないし、オレと最も息が合うリタがいないと組み立ても遅くなる。山頂付近は寒いから作業が遅くなった分だけ、魔力の性質変化で温度を調節しないといけなくなるから魔力消費が激しいんだよ。だから絶対リタは必要だよ。フハ」
「わかりました!」
 3人でパネル作りが始まった。
 かまくらの形に穴を掘り、逆さにしたカマクラを作っていく。アイテム袋の口の幅が決まっているため細長いパーツが多く、柱もパネルも弓なりになっているため扱いが難しい。
 試しに組み立ててみると、かなり頑丈に仕上がった。柱にはパネル用の溝があり、はめていくので、ほとんど隙間風はない。
「だけど、ちょっと小さいかな? フハ」
 ボウが言うように7人が休憩するには少し小さい。さらに、かまくら型、つまり半球状だとそれ以上、広げられないことがわかった。
「こういう形にするのは、どうですか?」
 リタが設計図の端に、かまぼこ型の拠点を提案してきた。確かに、これならあとからでも増築しやすそうだ。
「よしこれにしよう! フハ」
 俺も異論はない。パネルもかまくら型より、はるかに作り易かった。
 結局、2日がかりでパネルと柱を作った。途中、魔物の骨がなくなりかけたが、以前、砂漠でスライム駆除をしていた際、見つけた大型の魔物の骨を拾ってきたり、過去に黒竜が住んでいたというドワーフの洞窟にあった竜族の骨を掘り出したりして、補充した。

 アイテム袋に柱と建材を詰めていき、一息ついていると空から歓喜するような叫び声が聞こえてきた。
「ヒャッホーーー!!」
 セスは空飛ぶ箒に乗りながら魔力の壁を展開し、アイルを乗せて空を飛び回っていた。アイルはジェットコースターにでも乗っているようにテンションが高い。
 空を飛びながら大きな魔力の壁を維持するのにもだいぶ慣れたようで、セスは空中で一回転してから急上昇など、曲芸のようなことまでしていた。これなら大丈夫そうだ。

 ベルサとメルモは何をやっていたのか、と様子を見に行くと、マスクをしてツーネックフラワーの花畑で蜜を採りまくっていたようだ。
「あ、ナオキ。これで燻煙式の罠を作ってくれる?」
 大量の瓶と壺に入ったツーネックフラワーの毒を見せて、ベルサが頼んできた。
瓶と壺をあわせて50以上はある。瓶一つ分の燻煙式の罠を使えば、広範囲に麻痺薬と幻覚剤が撒かれることになる。まさに業者が使う量といえるだろう。
「出来うる武器は最大限活用しないとね」
 世界樹にいる魔物をすべて行動不能にしようとしているのかもしれない。

 翌日、燻煙式の罠を作り、セスの練習に全員参加。
 ボウとリタは何度も拠点の組立作業について確認し、最も効率よく組み立てられるよう打ち合わせを重ねた。
 夕方前に全員就寝し、深夜に山頂に向かうことに。
「ずいぶん早く寝るんだね!」
 残っていたドワーフのおばちゃんが驚いていた。
「ええ、夜には出発します」
「そうかい、また世界樹に挑むのかい。あんたに惚れると大変だね。毎回、今生の別れと思って送り出さないといけないんだから。尻でも揉んでおくかい?」
「帰ってきたらにします」
「生きて帰ってくるんだよ」
 ドワーフのおばちゃんが抱きしめてきたが、俺は背中をポンポンと叩くことくらいしかできなかった。いつか別れなくてはいけない者としては、あまり関係が深くなると後々辛くなるからだ。

 ドワーフのおばちゃんは俺たちが起きてくるまで寝ないと言っていたが、深夜、俺たちが起きたとき、酒瓶を抱きしめながら鼾をかいていた。
 全員、ツナギ着用で荷物を確認。「いってきます」と眠っているドワーフのおばちゃんに声をかけ、洞窟を出る。
 月明かりのなか、ツーネックフラワーの花畑前まで走る。特に急ぐ必要はないので、そんなにスピードは出さなかった。
 中天にかかる月。周囲から風の音が消えた。
 セスの周りに集まると、船の形をした魔力の壁が全員を包み込んだ。セスの手には空飛ぶ箒。
「よし! 出発!」
 俺の掛け声で全員の足が地面から離れた。
 一気に上空へと向かう。
 セスの魔力の壁は安定し、雲の中でも崩れることなく、カミナリにも対応していた。
 雲を抜け、そのまま白く輝く山頂に向かった。

 山頂に着けば、すぐに拠点設置場所を決め、アイルが剣で山の岩肌を平らにしてしまう。
 平らになった地面にボウとリタが降り立ち、瞬く間にかまぼこ型の拠点を設置。その後、リタの水魔法の霧で拠点を覆い、山頂の寒さにより水が雪へと変わった。
 ツーネックフラワーの花畑前から山頂の拠点設置までわずか1時間。

 未だ日が明ける気配はない。
「ナオキ、風が出てない今がチャンスだよ」
 ベルサが言った。
 確かに、山頂付近にも強い風は吹いていない。山を下っていくうちに日も明けるだろう。
「よし、わかった。これより俺とアイル、ベルサ、メルモが先発隊として世界樹に向かう。セスは頃合いを見て、ドワーフの洞窟に戻ってくれ。ボウとリタは、昼過ぎまでに俺たちが戻らなかったら、完全装備で探しに来てくれ。どんなことがあろうと2日後、この拠点に集合」
「「「「了解」」」」
「わかった。フハ」
「了解です」
 俺たち4人は、世界樹へ向かって山を下った。

 すぐに探知スキルには無数の魔物の反応があり、ツーネックフラワーの蜜で作った燻煙式の罠を仕掛ける。暗闇の中、周囲に煙が立ち込め、世界樹に向かって広がっていく。
 探知スキルには状態異常になった魔物たちが次々と落下していくのが見えた。耳をつんざく鳥の魔物の鳴き声や虫の魔物の羽音が、山にこだまする。その振動が世界樹の上に積もった雪にあたり、雪崩の音も聞こえる。
 俺たちは、その場で、周囲が静かになるのを待ち、ゆっくりと世界樹の中へと入っていった。

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