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駆除人 作者:花黒子

~南半球を往く駆除業者~

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176話


 忙しいボウに指示を聞きながら、俺たちは建材確保に奔走した。
 キノコのようなスライムの粘液は砂や砂利と混ぜると立派な建材になることがわかった。魔力操作で形を作り、粘液と砂、砂利を混ぜて流すとコンクリートのように固くなる。
「この粘液を山頂付近まで持っていくとして、柱だな」
 俺とボウは昼飯とドワーフたちの引越し作業の合間に打ち合わせ。
「もしかしたら、世界樹で見つけたほうがいいかもしれないよ。フハ、さすがにまだ無理か?」
「いや、柱の強度の問題があるから、先に世界樹に潜った方がいいかもな。とりあえず、簡易的なテントを持ってくか……」
 アイテム袋の中に入っている一番大きな布を広げつつ、形状や設置場所などをボウと一緒に検討した。
 山頂付近は雪崩の可能性もある。丸いドーム型のテントが良いのか、岩肌が見えるまで雪を掘った方が良いのか、などと2人で考えてみたが、どうにかなることがわかった。
「フハ、山壁に魔法陣を描いた杭を差して、魔力の紐で結べば……フハハ」
「なんだよ、急に笑って」
「いや、雪崩が起こったところでナオキが死ぬとは思えなくて。フハ」
 うちの会社の建築家が無茶を言うようになってしまった。誰に似たんだか。
「いや待て待て、俺も人なんだから雪崩に巻き込まれたら死ぬだろ?」
「フハハ、魔力操作で、加熱の魔法陣を描けば死なないんじゃないか?」
「……んん、まぁそうかなぁ」
 とはいえ、寝ている間に雪崩に遭って魔法陣を描く間もなく即死する可能性もあるので、なるべく雪崩の被害を受けないようテント自体を風船のように飛ばしてみることにした。
 杭を山肌に差し込み魔力の細く強力な紐で結び、テントをアドバルーンのように飛ばし、雪崩を回避する。
 計画が決まれば早速準備を始め、試作品を作っていく。大きな布に重力魔法と風魔法の魔法陣を描いて浮かせる。布は余っているものをメルモに繋ぎ合わせてもらった。すでに布や糸、紙などの物資が限界に近づいている。あとは魔物の毛皮や骨があるばかり。世界樹で蜘蛛の魔物の糸でも採れるとありがたいのだが。
ドワーフたちの引っ越しも魔道具のアドバルーンで荷物を運べば、かなり楽だった。鳥の魔物もいないので襲われる心配もなく、ただ風に流されるように移動するので、とても安全。風向きが良かったので、朝出発した魔道具のアドバルーンは午後には隣の大陸に着いていた。コムロカンパニー全員の魔力量は底上げされていたので、誰一人魔力切れを起こすことなく移動は終了。仮拠点のコウモリの洞窟には次々と荷物が運び込まれている。
 いずれは火山灰に埋まった町を掘り起こし、そこで住めるようにする予定だ。

 魔道具のアドバルーンで世界樹がある大陸に戻り、俺とボウとともに山頂に行く人選を行う。一度山頂付近までは行っているので、そこまで危険はないと思うが、できればそこから世界樹まで行き、建材になり得るものの採取もしたい。
メルモに加え、最も植物に詳しいベルサも連れていくことに。
準備には時間をかけ、出来るだけ色んな種類の解毒剤を作った。麻痺、幻覚、睡眠などに対する解毒剤と、石化のための針と純度の高い回復薬や、出血毒の解毒剤も用意した。もちろん物資に限りがあるため、完璧ではないので出来る限りでしかない。薬草類も世界樹で見つかるといいのだが。
 知識が物を言うことがわかり、アイルとセスも最近では俺とベルサから本を借りて読むようになった。隙さえあれば本を読む2人など、北半球では考えられなかった姿だが、確実に成長しているようだ。教師役はリタで、とても教え方が上手い。
「4人が帰ってくる頃には、ベルサの論文も読めるようにしておくさ」
 アイルが胸を張って見送ってくれた。

 4人各々、荷物を確認し、花畑を一気に駆け抜け、山登りを開始。全員に魔力回復シロップは渡しているが、出来るだけ使うことがないようにしたい。
 数時間ほど歩き、絶壁に到着。ここから空飛ぶ箒で雲を抜ける。
「雲の中にはカミナリを操る魔物がいるからな」
とボウとベルサに伝えると、ベルサの瞳が大きく見開いた。ただ、すぐに自分の興奮を抑えるように、目をつぶって深呼吸して落ち着いていた。ベルサも自分の心をコントロール出来るようになっているらしい。

 呼吸を整え、俺の合図とともに、空飛ぶ箒で一斉に飛ぶ。
 雲の中に入ると視界不良になるが、全員の身体を俺が魔力の糸で結んでいるので位置はわかる。
 カミナリの音と光が近づいてきた時は多少焦ったが、自分たちの周りに展開している魔力の壁がちゃんとカミナリを防いでくれたので安心した。しかし、相変わらずカミナリを操る魔物の姿は確認できなかった。
 雲を抜ければ、山頂まで雪景色。空飛ぶ箒から下りて、ゆっくり移動しながら高所に慣れていく。魔力の性質変化で周囲の気温は変えられるが、魔力消費を抑えるため、全員、魔物の毛皮を被った。
 仮の拠点を設置する場所は山脈の峰で、世界樹も見える場所にした。
 初めて世界樹を見たベルサとボウは言葉を失い、しばらく目が世界樹から離れなかった。俺たちと同じ反応だ。
 俺とメルモは急いで雪をかき分け、固い岩肌に杭を打ち込んだ。作業を始めれば、ベルサとボウも加わる。準備で何度も練習した魔道具のアドバルーンは、10分で完成。魔力の紐を杭に結び、アドバルーンの中に4人が入って、そのまま重力魔法の魔法陣を作動させる。
 強風に揺られながらも、仮とは言え拠点ができたことで、やっと気持ちが落ち着いた。
「ようやく第一段階が終わったな」
 用意していたお茶が入ったポットをアイテム袋から取り出し、休憩。お茶と一緒に塩分補給と栄養補給のため、チョクロを潰して焼いた煎餅も食べる。
「うわっ! 山頂付近は結構揺れるな。フハハ」
 ポットからお茶をコップに注ぐだけでも一苦労だ。ボウはお茶を注いだコップに魔力の蓋をして器用に飲んでいた。
「やっぱり、ここまで揺れると流石に寝れそうにないですね」
「そうか? ……私はすでに眠いけど」
 ベルサならどこでも寝れそうだが、もしかしたら酸素が薄いから眠くなっているのかもしれない。
「力を抜いて、大きく呼吸をすると楽になるはずだ」
 3人に前の世界で登山家が話していたようなことを教える。
 全員が大きく深呼吸をして落ち着いた瞬間、強風でアドバルーンが回転し雪の上に叩きつけられた。山頂付近の雪は固く、アドバルーンの布は破れ冷たい風が入ってきてしまった。
「ダメかぁ。山頂付近の風を舐めてた」
 俺は全員を魔力の壁の範囲内に入れ、風が止むのを待った。ただ、山頂付近の天気は変わりやすく、いつの間にか雲は出てくるし、雪も降るという最悪の状態に突入。性質変化で魔力の壁内の温度を変えたため、ゆっくりと地面の雪は溶けていき、雪は魔力の壁の外側に積もり始めた。
2日雪が止まなければベルサが交代することに決め、4人は俺の周囲で徐々に出来上がっていく雪のカマクラをじっと眺めた。

「結果的に山頂の仮拠点は出来たね」
「フハ、まぁ、ナオキだからな」
 上まで雪に覆われたところで、ベルサとボウが笑いながら魔石灯を取り出した。
 床は雪が溶け、山の岩肌が見えている。周囲は360度雪に覆われ、天井まで雪が積もっている。体感時間では1時間も経過していなかったように思う。このままではいずれ酸素がなくなるため、ボウが魔力の腕で横穴を掘ってくれた。
 外は完全に吹雪。今出ていっても無駄に魔力を消費しそうなので待機。
ボウが出来上がった天然カマクラを広げ、メルモが床に毛皮を敷いてくれたので、すっかり快適な空間と化してしまった。ベルサは雪が止んだと同時にカマクラの形に建材を流し、拠点作りをする予定を立て始めている。俺は魔力消費を抑えるため、木の板に加熱の魔法陣を描きストーブ代わりにした。
「始めからこうすれば良かったな」
「失敗しないとわからないことも多いさ。フハ」
 準備万端で来てしまった俺たちは早くもやることがなくなってしまった。食事も7日分アイテム袋に入れていたので問題なし。
誰も高山病にかかることもなく、空気穴が雪で塞がれないように見ているだけ。本はアイルたちに置いてきてしまったし、心を落ち着けるためのベルサの瞑想講座も聞き飽きた。
 前の世界で聞いた俺の怖い話レパートリーも「なんで魔法使わないの?」という疑問が残り、3人にとっては消化不良だったようだ。

 山頂付近の雪はしっかり2日間降り続けて止んだ。
 久しぶりに外に出ると雪に日光が反射してまぶしい。目を瞑って冷たい空気を肺いっぱいに吸い込みつつ、2日間で固まった身体をほぐした。

 ブブブブブブ……。
 耳慣れない音が聞こえてきた。
 探知スキルで見れば、巨大なトンボの魔物の群れがこちらに向かってくる。スピードが尋常ではない。何かに追われているようだ。
「全員退避!」
 俺の指示で、全員カマクラに逆戻り。
「巨大なトンボの魔物の群れがこちらに向かってくる。何かに追われているようだ」
 カマクラで全員に説明した時には、周囲に「ブブブブ……」というトンボの魔物の羽音が鳴り響いていた。羽音に混じって、雪が落ちる音も聞こえる。羽音で雪崩が起きているようだ。
「拠点作ってる場合じゃないね」
 ベルサが魔力の壁を展開しつつ言った。
「巨大なトンボって前に見た奴ですか?」
「そうだ」
「あんな大きな魔物を捕食する魔物がいるってことですよね?」
 メルモの疑問に俺も焦りを感じた。
 事実、探知スキルでは巨大なトンボの魔物を追う、さらに巨大な魔物が見える。
 小さな村くらいなら破壊できるんじゃないかってくらいの大きさだ。そんな災害クラスの魔物が世界樹から飛び出したら、南半球が終わるんじゃないか?
 恐る恐るカマクラの入り口から顔を出し、直接確認すると、その巨大な魔物はハエの魔物だった。しかも、頭や腹からキノコが生え、どう見ても正気ではない動きをしている。山にぶつかり羽が破けているのに、トンボの魔物を捕食しにいく姿は、狂気を孕んでいた。
2つの複眼は白く濁り、複眼の間にある3つの眼は血走ったように赤い。これが世界樹産のキノコに寄生された虫の魔物の末路か。
「なんだよ、あれ!」
 思わず、俺は展開させた魔力の壁に、一気に大量の魔力を注いでしまった。
俺の声に反応したのか、魔力に反応したのか、巨大なハエの魔物がこちらに気づく。すでに飛べなくなった破れた羽を羽ばたかせ、太い脚を動かして山を登ってきた。
「全員カマクラから退避! 外に出て空に逃げろ!」
 空飛ぶ箒にまたがった3人がカマクラから飛び出し、上空へと逃げる。
最後に残った俺が箒にまたがって上空へ逃げるのと、巨大なハエの魔物がカマクラを壊すのは同時だった。
さらに巨大なハエの魔物は6本の脚を駆使して飛び上がり、俺を食おうと口を開く。鉄ほどの強度を持つ魔力の壁だが、この巨大なハエの顎には砕かれそうだ。俺はありったけの魔力を込めて、とにかく上へ飛んだ。勢いは巨大なハエの魔物の方が速く、目の端にハエの顎が迫ってくるのが見える。
人生が終わったと思った瞬間、俺はボウの魔力の手によって斜め上へ引っ張り上げられていた。巨大なハエの魔物の顎は空を切った。
「やったか!」
 俺が引っ張られ上げられている中、ベルサが用意していた毒薬のうち一本を投げつけていた。
 振り向けば、巨大なハエの魔物が全身を震わせて脚をバタつかせている。見る間にハエの魔物に寄生していたキノコが増殖し、身体を侵食していくのが見えた。例の成長促進剤を毒として使ったようだ。
 ハエの魔物の身体は膨らみ、弾けるように肉片が飛び散る。
 山頂に吹く風が、肉片とキノコを雪で覆っていく。
「はぁはぁ」
 全身汗でびしょ濡れだ。空気が薄いなか、動いたので息が切れる。他の3人も肩で息をしている。
俺たちはカマクラがあった場所に下り、大きく息を吸って、吐いた。
 ブブブブブブ……。
 耳障りな音がやけに大きく聞こえる。
 気づけば、巨大なトンボの魔物の群れに囲まれていた。
 一難去ってまた一難。

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