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駆除人 作者:花黒子

~南半球を往く駆除業者~

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175話


 現在、深夜。月明かりが山脈を照らし出している。
俺たちは花畑から距離を取って、テントを張り、拠点を置いていた。

「先発隊は俺とメルモ。昼前には帰ってくる予定だ」
 メルモが先発隊に選ばれたことついて、本人から以外、異論は出なかった。
「なんで私なんですか?」
「一番慎重だから。ヤバかったら逃げるだろ?」
「逃げます」
「だからだ。よし、行くぞ」
 実はメルモ以外には言ってあったことだ。
ベルサたちにはツーネックフラワーと名付けられた花の分析を頼んでいる。麻痺系と幻覚系の毒など、駆除業者として回収しないわけにはいかない。

俺とメルモは自分の周りに魔力を張り、防御しつつ山登り。俺は普通の球体で、メルモはモーニングスターの先のような棘がついた球体の魔力で自分たちを覆っている。
山の低い場所は一気に駆け上がれるが、中腹辺りまで来ると崖が多くなってきた。
アイテム袋から空飛ぶ箒を取り出し、メルモを後ろに乗せて上空へ一気に飛んだ。急に現れた雲に視界を奪われた。探知スキルで見れば雲の中に魔物が数多く潜んでいることがわかる。魔物の種類は分からなかったが、かなり小さく魔力操作の防御で弾けたので、構わず上を目指そうと思う。
メルモにも相談すると、「雲の中に留まるよりも抜けたほうが安全なのでは?」と言われたのでとっとと雲を抜けた。
突然、視界が開け、震えるほどキレイな月明かりが白い山頂を輝かせていた。雲を抜けた先は、雪が積もり、一面真っ白。不純物が一切ない澄んだ空気に、思わず気を抜きそうになるが、ここは世界樹からそう遠くない場所。油断は禁物だ。
ここからは帰りの魔力も考え、空飛ぶ箒をしまい、再び歩き。
酸素が薄いのか、呼吸が荒くなりながらも山の峰を登った。もしかしたら、高山病になる高さかもしれない。順化するため、なるべく休憩せずに動き回ったほうがいいと聞いたことがあるので、俺とメルモも休まず目の前の雪で凍った坂を登る。メルモの棘付きの魔力操作の防御は正解で、俺はツルツル滑って何度もメルモに助けてもらった。
寒さについてはツナギに縫い付けたワッペンが久しぶりに仕事をしてくれた。マルケスさんのダンジョンにある冷蔵庫に入った時以来気にしていなかったが、俺が耐性スキルを取らなかった理由は完全にツナギとワッペンのお陰だ。
風が吹けば、何か世界樹から飛んでくるのではないか、と警戒し、何か音が鳴れば、身をかがめ臨戦態勢と取りながら進んだ。
山の峰に辿り着いた時には東の空が明るくなっていた。峰の向こう側にはまた『山』があった。今まで登ってきたような険しい山ではなく、こんもりとした緩やかな『山』だ。ただ、規模は大きく山頂付近には雪が積もっているように見える。
山脈の陰が移動し、朝焼けが明らかにしたそれは『山』ではなく、濃い緑や淡い緑などあらゆる緑が混在し、枝葉を広げる樹だった。大きさは周囲の山と変わらない。
まさに世界樹と呼ぶにふさわしい。

束の間、あまりの光景に見とれてしまったが、薄い緑の葉の陰から煙のようなものが噴き出て、バカでかいトンボの魔物が絶叫しながら腐ちていくのを見て正気に戻った。よく見れば、その他にも燃え続けているキノコ、消えない竜巻の中でずっと舞い上がり続ける枯れ葉など、世界樹からは奇妙な魔物の鳴き声や、明らかにおかしな形状の枝葉などが見て取れ、世界樹そのものが特殊な環境であることがわかった。

「一旦、帰りましょう」
「だな」
 俺たちはこれ以上進まず、帰ることに。世界樹を直接見れただけでも成果はあった。

 帰りは2人とも頭痛などの症状が出て厳しい状況のなか、雲の中でカミナリを操る魔物に襲われたが、魔力操作の防御で難なく突破。空飛ぶ箒を使わずに無事、下山することが出来た。
麓に着いた頃にはすっかり日差しがキツくなっていた。
 山脈の下に広がる花畑では綿毛が舞い、魔力操作の防御にへばりついてきた。花畑を通り過ぎてから、魔力にゴムの性質変化を付与し弾き飛ばす。メルモは地面に転がるようにして綿毛を落としていた。

 拠点であるテントに行き、全員に世界樹について報告。
「つまり、世界樹は植物というよりも環境だというんだな?」
「ング、そうだ。ただ樹なんて言えない。あの環境の名を世界樹と言ったほうが正確な気がする。俺が邪神に言ってから育ったと考えて、数ヶ月の間にここまで成長するとなると、どこまで広がるのかわからない。はっきり言って、ドワーフたちを違う大陸に逃した方が良いように思う」
 ベルサの問いに、カラカラの喉に水を流し込みながら答える。
 北半球と南半球を繋げようと考えていたが、それどころではないことがわかった。ただ、南半球全体に魔素を拡散するには、とても効率的ではあると思う。
「幸い、山脈を越えてきたのはあの花だけだろ? 今のうちに対策を取らないと、南半球全体が世界樹に侵される可能性があるな」
 今なら空間の精霊が北半球と南半球を分けた理由がわかる気がする。
「ちなみに、この前、私たちが食べ損ねた鍋がこれ」
 アイルが見せてきた鍋から、黄色い花が元気よく伸びていた。まるで鉢植え。鍋の底からは根が生え、鉄の鍋を突き破っている。
「いや、大丈夫なのか? 普通に持ってるけど」
 花から毒が出てるんじゃなかったか。
「ああ、大丈夫。花びらが香るわけじゃなくて、蜜腺からでる香りが毒なだけだから。もう採取して、この花はカラッカラのはずだよ」
 ベルサが言うとおり、花を近づけても甘い匂いはしなかった。僅かではあるが、ベルサは瓶の中に黄色い液体を採取していた。
「花びらを傷つけずに、よくそんなこと出来たね?」
「いったい私が何回水草を解剖したと思ってるんだい? しかも今は魔力操作があるからね。魔力で針は作れるし、細い管は出来るし、やりたい放題だよ!」
 ヒャッハーな顔をしている。やはりベルサの本性はマッドサイエンティストだ。こいつを世界樹に連れていくのは最後にしよう。
「まぁ、ツーネックフラワーは魔物や人に対しては強いかもしれないけど、対植物、つまり吸魔草に対しては弱いことがわかったよ。というか、南半球の吸魔草はかなり強いのかもしれない」
「花畑に吸魔草を植えたら、すぐに花が萎れ綿毛を飛ばし始めました」
 ベルサの説明をリタがフォローしてくれた。その綿毛に俺たちが被害にあったようだ。
「フハ、吸魔草の壁を作って花畑を抑えようかって話をしてたところ」
 ボウの提案は試す価値ありだったので「やってくれ」と頼んでおいた。

「吸魔草の壁はやるとして、世界樹には空飛ぶ魔物もいる。奴らが世界樹にある植物の種を持ってくることも考えられるから、ドワーフの皆さんには避難してもらうのが良いと思う」
「避難させるなら元いた大陸の火山の側にあった廃墟はどうですか?」
セスの言うとおり、あそこならスライムはほぼ駆除してあるし、コウモリがいるくらいで噴火に気をつけていれば、問題ないだろう。
「ん、良いんじゃないか」
 俺は、すぐにセスの意見を採用。
「俺たちの業務において世界樹の環境調査は必須だ。世界樹の中にスライムがいる可能性もあるし、なにより世界樹の毒や環境は駆除業者にとって魅力! 毒はそのまま使えるし、環境は罠のヒントにもなる。ということで、環境調査には拠点が必要だ」
 そこでボウを見ると「え? オレ?」と戸惑っていた。
「うん、山頂付近に拠点となる施設を作ってほしい。酸素は薄いけど、山頂付近に拠点があって寝泊まりできると、かなり助かる。行く行くは世界樹の中に拠点があるのが望ましいけど、まずは世界樹の空気を採取してきて実験しないとな」
「でも、実験魔物がいないよ。……まさかスライム?」
 ベルサの指摘は尤もだが、人体実験をするには危険すぎる。南半球で余っているのはスライム以外いない。あとは全て絶滅危惧種で、ドワーフたちが飼っているニワトリっぽい魔物でさえ、貴重なのだ。
「スライムじゃなかったら、カビ育てて魔物にする? シャドウィックに毒が効くかどうかわからないぜ」
「だからってスライムの次は私たちってこと!? 危険すぎない?」
「じゃなかったら世界樹の中で探すしかない」
 状況はかなり厳しい。ただ、世界樹にはバカでかいトンボの魔物がいたくらいだから、小さい魔物だっているはずだ。雲の中にいた魔物だっていいかもしれない。姿は見ていないが、カミナリを操るネズミの魔物の可能性だってある。名前は何チューにしようかな?
「なにはともあれ、ドワーフの皆さんを避難させて、山頂の拠点づくりから。少しずつ地道に攻めていこう」

 ドワーフの族長に山脈付近に花畑が出来ていることと、世界樹が山と同じくらい育っていることを告げると、血の気が引いて赤い肌が青ざめていた。
「花畑!?」
「私たちが逃げてきた時には花畑なんてなかったよ!」
「どうすりゃいいんだ! これ以上どこに逃げろっていうのさ!」
「北も西も砂漠、東は塩湖。逃げ場なんてないよ!」
 ドワーフの族長が言葉を発さない代わりに、聞き耳を立てていたドワーフのおばさんたちが集まってきた。
「俺たちは北西にある大陸からやってきました。その大陸の火山の近くに廃墟になった町があります。近くには洞窟もありますし、スライムも駆除してあるので、住みやすいかと。いかがでしょうか?」
「あんたたちが連れてってくれるっていうのかい?」
「ええ、もちろんです。一応、準備するための期間はありますが、かなり大きい空飛ぶ魔物もいたので、いつ襲ってくるかわからない状況です」
 またイカダを作る必要がありそうだが、今度は皆、魔力量を上げているので誰かが操縦しても大丈夫だろう。やはり、うちの船長であるセスが適任か。
「あんたらはどうするすもりだい?」
 以前、俺に夜這いをかけてきたドワーフのおばさんが迫ってきた。
「世界樹の対処方法を探ります。世界樹にいる魔物や植物について調査して、人にとって害があるのかどうか見極めて、駆除すべきものは駆除します。ただ、邪神が世界樹を育てた理由は魔素の拡散が目的ですから、それは阻害しないようにしないと何されるかわかりません」
「じゃ、ここに残るんだね?」
「拠点は山脈の山頂付近に作るつもりですが、畑があるのでここには戻ってきますよ」
「だったら、アタシは残る。アタシはあんたが世界樹から帰ってくるのを待つって決めたから」
 いやぁ、愛されちゃって困るなぁ、などと後頭部を掻いている場合ではない。
「逃げた方がいいですよ」
「そんなことはわかってる。でも、あんたは逃げずに世界樹と一緒に住めるようなことを考え出すんだろ?」
 そうか。言われて気づいたけど、俺たちは世界樹と共存する方法を生み出さないといけないのか。そんなこと出来んのかい! でも、それが出来なきゃ、北半球と南半球の間にある壁を壊せない。いや、南半球を世界樹が侵食し尽くすこともあり得るのだから、共存できなくちゃ、全滅だ。
まさに人類対世界樹の生き残りをかけた戦いじゃないか。あれ? なんか急にミッションのレベル高くなってない?
「だ、大丈夫かい? あんた顔色悪いよ」
「おばちゃんは美人だから生き残ってくれ」
「ななな、なんだい藪から棒に」
「まず、魔力操作を覚えて、自分の周りに魔力の壁を作れるようになってね。マジで死んじゃうから」
 せめて、俺を信じてくれる人くらいは生き残ってほしい。
「わ、わかったよ……結婚する気になったのかい?」
「結婚する気ってなったことないからわからないけど、生き残ってくれたらいくらでも褒めるから、一緒にがんばろう」
 赤い肌のドワーフのおばさんがさらに赤くなって、ボウの下に駆けていった。
「やれ魔力操作を教えな! アタシが再婚できるかどうかの瀬戸際なんだ!」
 相変わらず、ボウは下手な笑い方で頭を掻いている。
「あれ!? ボウの奴、右腕で頭掻いているぞ!」
「そうなんですよ。ボウさん魔力操作で右腕を再現したんです。元々あったものだからイメージしやすかったみたいで」
 驚く俺にリタが教えてくれた。大きくしたり、飛ばせたりするらしい。
 普通の腕より汎用性が高くなっている。 

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