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駆除人 作者:花黒子

~南半球を往く駆除業者~

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174話


 俺たちは、東西に広がる山脈を見上げていた。山頂は雲に隠れ、どのくらいの高さなのか定かではない。
「さみっ」
 ここは南半球。南に行けば行くほど、気温は下がるとはいえ、ここの寒さはちょっと異常だ。ドワーフの服装が薄手だったことも考えると、そこまで緯度は高くないと思うのだが。アイルはビキニアーマーなど着ていられない、とツナギ姿で身体を動かしている。
 曇天模様の空から今にも雪が降ってきそうな気配。
「今日だけこんなに寒いのか、それともずっと寒いのか」
 異世界にだって異常気象くらいあるはずだ。
「気候も異常ですけど、この気温で咲き乱れる花畑だって異常ですよね」
 セスの言うとおり、目の前にはタンポポのような黄色い花が咲き乱れ、風に揺れている。今まで、南半球では赤土の砂漠や砂砂漠、岩石地帯など基本的に草木が生える場所ではなかったが、山脈の側では一種類だけだが背の低い花が群生していた。
「二股に分かれているな」
 ベルサが一本、その花を摘んで見せてきた。確かに一本の茎に対し、二つの花が咲いている。
「別に珍しいことでもないんじゃないの?」
「うん、そうなんだけど。ほら、これも。そっちも。全部二股なんて規則的すぎるよ。変な進化をしてると思わない?」
 言われてみれば、花は全て一本の茎に対して、二つの花が咲いている。
「不思議だけど、そういう種なんじゃないの?」
「北半球では、こんなのなかったけどね。よし! 根っこも掘ってみよう」
 ベルサが腕まくりをして地面を掘ろうとしたら、メルモに止められていた。
「せっかくピクニックに来たんですから、昼食を食べてからにしましょう。先に汚れると面倒です」
 メルモが母親のようなことを言っている。うちの会社では後輩のほうが大人のようだ。

 花畑からちょっと離れたところに魔物の毛皮を敷いて昼食。
 地面に魔法陣を描いて持ってきた鍋料理を温めていると、風もないのに花畑の花が一斉に揺れ始めた。
「魔力に反応しているのかも!」
「まぁ、観察は後で。寒いから先に飯食っちゃおう」
 鍋からいい匂いが漂っているので、腹が減っている。少しの間、うちの魔物学者には我慢してもらおう。
「なんか甘い匂いがしないか?」
 初めに気づいたのはアイルだった。
「鍋には、甘い香りのするような物入れてませんけどね。あれ? でも本当だ。甘い香りがしますね」
 鍋を見ていたセスも顔を上げた。
「甘い果実の匂いですね!」
「フハ、どこにあるんだ?」
 リタとボウも立ち上がって、匂いの元を探し始めた。
 鼻が詰まっていた俺は一度鼻をかんでから空気を吸い込むと、確かに、甘酸っぱい匂いが周囲に漂っていた。周囲に果物もないのに!? マズいぞ、毒か!?
「全員マスク着用! 一旦、ここから離れるぞ!」
 俺はマスクをして、自分を覆うように魔力で球体の膜を作った。
「え!? どうしてですか!? こんなに甘い匂いなのに……」
「ナオキは香りを楽しむことも知らない朴念仁なのだから、放っておけ」
 アイルとセスは俺の指示も聞かず、フラフラと花畑の方に歩き始めた。
 2人を魔力の紐で縛り後方にぶん投げ、脱出。鍋はもったいなかったが、それどころではない。毒は復活のミサンガでもどうにもならないのだから。
花畑から、かなり距離を取ってから、アイルとセスを診察すると案の定、毒にやられていた。
「たぶん麻痺系と幻覚系の毒かな。見てよ、2人の目。トロンとして心ここにあらずって感じでしょ。それに、ほら、指先にナイフの先を当てても反応がない」
 容赦のないベルサは、実験魔物のようにアイルとセスの症状を確認している。
 しばらく2人に新鮮な空気を吸わせ、水を飲ませていると落ち着いて普通に歩けるようになった。
「今日は帰ろう。これじゃ、山脈も越えられない」
 準備不足だ。魔力の盾じゃ空気は防げないので、体の周囲に球体を長時間維持出来ないと毒にやられる。コムロカンパニーの中で一番レベルの高いであろう俺でも、せいぜい2時間も維持していたら、集中力と魔力が切れそうになる。
「2日間ぶっ続けで魔力操作を出来るくらいにならないとな」
「「はい……」」
 全員、ドワーフの洞窟に帰る足取りは重く、毒にやられた2人はかなり落ち込んでいる。
「目標が明確になったんだから、あとは達成するだけだよ。目標が見えている分、マシだと思わなきゃ」
 数々の失敗をしてきたベルサが励ましたが、いまいち効果はなかった。
「未だ世界樹も見ていないのに、このざまだ。ショックを受けるのは無理ない。悩みたければ、気が済むだけ悩めばいい。ただ、心が折れたやつは世界樹に連れていけない。うちの会社は駆除業者だ。動けないやつは休んでろ。世界樹には動けるやつらだけで行く」
「そんな! そんな言い方……」
 リタが俺に抗議しようとしてボウに止められていた。
 厳しいかもしれないが、俺たちは仲良しパーティではない。それぞれ得意不得意もある。足手まといになったり、気を使わなければならないようなやつを世界樹に連れていけば、誰かが死ぬ可能性だってある。
世界樹近辺ではレベルやスキルではなく、人として危機察知能力があるかどうかが重要なようだ。これが山脈を越え、世界樹のど真ん中に行ったら、さらに状況が変わるだろう。誰かがフォローに回れることの方が少なくなる。
自分たちで己の身を守り、自分たちで判断して行動しないと、どんな罠があるのかわからない状況では対処できない。向こうは純粋さも誠実さもなく狡猾に魔力を吸い取ってくる、邪神が育てた世界樹。
「俺は社長としてお前たちのリスクを考えないといけない。正直、世界樹は俺の想像の遥か上をいく代物のようだ。普段は適当にノリでいけることも多いけど、こればっかりはどうしようもない。誰も死なせるわけにはいかないからな」
 ここには精霊の時みたいに神様も邪神もいない。誰にも頼らず、自分たちがどこまで出来るのか、知るにはいい機会だ。
 ここで、どれだけ俺たちが成長できるか。コムロカンパニーの正念場だ。

「僕は、どんな場所でもついていきますよ! たとえ灼熱の砂漠だろうが、極寒の山だろうが、世界樹だろうが、生き残ってみせます! 生き残るためならどこまでも狡猾になります! できなきゃ殴ってでも止めて下さい!」
「ここで前に進めなきゃ、私はこの先ずっと後悔したまま生きていくことになる。そんなことはわかりきっていることだ。ただ、このまま無闇に進んでも死ぬだろう。時間をくれ! 限界まで自分を追い込んで、それでもダメだったら置いていってくれてかまわないから!」
 セスとアイルは決心したようだ。
「皆、今回の仕事は、誰でも出来るようなものではないから、自分が危険だな、と思ったらやめていい」
 俺は全員に言っておいた。
「私は、自分が未知のものに飛びつく傾向があることを自覚している。それを抑えて、自分の命を考えられるようになったら行くよ」
 ベルサらしい言葉が返ってきた。
「私は……考えさせて下さい!」
 メルモは悩んでいるらしい。大いに悩んだらいい。誰も責める者はいない。
「オレは行く。誰かが犠牲になったら誰かが助かるって時に、オレは自分が犠牲になればいいと思ってた。そのほうが考えなくて済むから。それがオレの弱さ。自分を守れないとリタを守れない。世界樹から自分を守れたら、リタも守れるような気がする。そのためならなんでもやる!」
「私は、ボウさんの帰りを待ってようかな……でも、もしかしたら帰ってこないかもしれないって思うと、絶対に側にいたい! どこまでやれるかわかりませんが、一緒に修業させて下さい。その上で、ダメな時は歯を食いしばってボウさんの帰りを待ちますから!」
 ボウとリタも心を決めた。

そこから俺たちはドワーフの洞窟に帰って、魔力操作の修業に入った。まず、自分の周囲に魔力の膜を張って生活をすることから始めた。考えたいと言っていたメルモも皆と同じようにやっている。魔力の形は、アイルなら剣、ベルサならスライム、セスは船など、各々、最もイメージしやすい形だ。
1時間も経てば次々と魔力切れを起こしていく。
より効率的に、より安定させるため、魔力を薄く強度を固くする必要がある。イメージのため、鍛冶場に行って、ドワーフのおじさんに鉄を打たせてもらうことまでした。それでも、半日もすれば全員が魔力切れを起こす。
ただ、魔力切れを起こす度に、維持する時間は延びていく気がした。僅かではあるが、少しでも魔力の膜の継続時間が増えるなら、と1日に何度も魔力切れを起こした。
1週間もすれば、精神的に辛くなってくる。それでも誰も止めない。
メルモは料理に魔力回復シロップを混ぜたソーセージを作るようになった。ソーセージにはたっぷり魔物の血も入っている。いつもなら、血を見て喜びそうなメルモだが、ソーセージを作る目は真剣そのもの。
「私は血や虫の魔物を見ると、勝手に興奮してしまうんです。世界樹で一々興奮していたら足手まといになりますから! でも、私だって本当は行きたいんです! 自分を抑えて慎重に、的確に、狡猾に行動しなくちゃ世界樹では生きていけないし、それに……身内が毒で苦しんでいるのは、もう見たくないんです」
 よく話を聞いてみると、メルモは昔、毒蜘蛛の魔物を飼っていて自分が死にそうになったことがあると言っていたが、実は家族も殺しかけたらしい。アイルとセスが毒になってトラウマが蘇ったようだ。
「だから、もっとちゃんと考えないといけないんです。私の場合は!」
「うん、ちゃんと考えるってことは慎重ってことでもあるんだから世界樹に行くのには向いてるよ。ただ、実力はつけないといけないけどな」
「はい!」
 結局、俺たちは全員で世界樹に向けて修業している。

 俺たちだけ別メニューのソーセージを食べていることに、ドワーフたちが羨ましそうに見ていたので、一口ずつ食べてもらったが、あまりの苦さに吐き出していた。俺が作った魔力回復シロップの苦さは、飲んだあと舌がしびれるほどだ。全員が使うので、数が減っている。南半球では素材もないので補充できない。
 あと出来ることと言えば、ひたすらスライムを駆除して、レベルを上げ、魔力量の底上げを図ることくらい。
 スライム駆除の範囲は砂砂漠を越え、岩石地帯と東の塩湖周辺にまで及んだ。塩湖周辺にはダンジョン跡と思われる遺跡がむき出しになっていて、中を探索するとキノコのように動かないスライムも発見した。できるだけ動かず、消費カロリーならぬ消費魔力を少なくしているのかもしれない。前の世界でも新海に生息するダイオウグソクムシという甲殻類は6年間くらい絶食していたはずだ。
 キノコのようなスライムは動かず襲われないからといって害がないわけではなく、触れば胞子のような粘液を吐き出すので、もちろん駆除する。粘液はベタベタ罠並にベタベタするので絞って瓶に回収しておく。

 修業を始めてから1ヶ月経った頃、ようやく俺が2日間ぶっ続けで魔力操作を出来るようになった。寝ているときも魔力を切らさないコツを掴むのが、とにかく大変だった。
 程なくアイルとベルサもコツを掴み、遅れること2週間経った頃、全員が魔力操作を2日間維持できるようになった。
 これで世界樹に再挑戦できるくらいにはなっただろうか。
 二度目の挑戦は慎重に、山脈の山頂まで行ってみることにした。


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