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駆除人 作者:花黒子

~南半球を往く駆除業者~

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165話


水辺は割りと近くにあった。探知スキルで見える範囲に小川が流れた跡があり、スライムの群れが小川を塞き止めていたのだ。
乾燥剤を撒き、駆除しながら小川の跡地へと進んだ。
生石灰が水と触れて、化学反応が起こると熱を発するのだが、沸騰したお湯くらい熱い。案の定、アイルが火傷していた。
「ヒリヒリする!」
注意はしていたので自業自得というものだ。
「火傷したんだから回復薬か、水を使ってもいいよね?」
「ダメだ」
最近、出来るだけ回復薬や水などの限りある資源は使わないよう気をつけている。俺たちは未だ南半球で水源を見つけていない。魔法陣や魔法で生み出せる水の量は、今のところ少量だ。魔素が少ないからだろう。
「こんなにヒリヒリするのに!?」
 そもそもアイルはビキニアーマーで森などに入っていたのだから、擦り傷や切り傷ぐらい耐えられるはずなのだが、俺の回復薬の恩恵をずっと受けていたためか、精神的に弱くなっている。うるさかったので、ハンカチに氷魔法の魔法陣を描いて渡しておいた。
穴の空いた俺のブーツもメルモに縫ってもらって使っている。替えの靴はサンダルくらいしかないので、南半球にいるうちは補修しながら使っていくしかない。
鍋や食器類、タオルなども同様だ。ボウは鉄鉱石を見つかれば、金床と炉を作ってみたい、と言っていた。
この世界に来た時はRPGのような世界だと思っていたが、南半球に来たらゲームの種類が変わってきた気がする。

 小川の跡地にいるスライムを駆除し、源流を探っていくと小高い山の中腹に小さな池が現れた。もちろん池にはスライムが大量にいて、水面が盛り上がっているように見える。スライムにとってこの池は人気のようで、他の場所にいるスライムより気性が荒い。
 こんもりと盛り上がった水面から、小さなスライムが何匹も吹き飛ばされている。吹き飛ばされた小さなスライムは再び、池に向かって突進し、吸収されるようにスライムの群れの中に入っていった。
「湧き水でもあるのか?」
 俺たちは加熱罠と乾燥剤を使い、時間をかけてスライムを駆除していく。
「スライム駆除は時間がかかるなぁ」
「仕方ないですよ。スライムと戦って魔石壊したら、乾燥剤の燃料がなくなりますしね」
 アイルの愚痴をセスが聞いていた。
池の周囲に加熱罠を仕掛け、襲ってくるスライムに乾燥剤をかけるだけなのだが、せっかちなアイルにとっては待つという作業が苦痛らしい。
とはいえ、俺も待っているだけの作業は暇だ。南半球での飯は1日2回、全員揃って食べることが決まっているので、食べられない。座禅でも組んで待っていられるほど人間はできていないので、自然と目の前にいるスライムで遊ぶことになる。
水にスライムが寄ってくるなら、水魔法の魔法陣でおびき寄せることが出来るのではないかと考え、地面に描いてみた。
「何をやっているんですか?」
「どうせろくなことじゃないんだろう?」
 セスとアイルもやることがないので興味津々だ。
「実験だよ実験」
 地面に描いた水魔法の魔法陣に小さなスライムが乗った瞬間、水が湧き出てスライムがぶるっと震えた。その後、何度も震えるうちにスライムの身体がみるみる大きくなっていった。ただ魔石は小さなスライムのままなので、形が球体を保てず上から押しつぶされたように広がり、最後は魔石の魔力がなくなったのか動きを止め固まった。
「死んだのか?」
 広がったスライムの端をナイフでちょんと刺すと、水がブシャーっと噴き出してきて、全身にスライムまみれになった。
「もう……最悪だよ」
「「アッハッハッハ!!」」
 アイルとセスは爆笑。俺も笑うしかない。
本当にクリーナップという魔法を習得しておいてよかった。魔石も砕けていたし片付けるのも大変なので、スライム駆除で水魔法の魔法陣は二度と使わないことにした。
池のスライムを駆除すると、予想通り水が湧き出ていた。
人気スポットらしいので池の周りの加熱罠はそのままにして、洞窟前の本拠地へと戻った。

本拠地周辺にもスライムは出るが、日を追うごとに数は減っている。
俺たちの家は大きな魔物の骨と布で作ったテントで、ものすごく簡単なものだ。どうせ移動するのだから、簡単な方がいいだろう。ただ、畑と石灰窯があるので、少なくとも1、2ヶ月はいることになる。今いる場所は温暖な気候なのでいいが、スライム駆除をするために南下していくと、寒くなることが予想される。
「できれば南半球に拠点がいくつもあればいいよな」
「フハッ、やはりレンガか。植林ができればいいんだけどなぁ」
 ボウとは最近こんな会話ばかりしている。すっかりコムロカンパニーの一員だ。リタの方もメルモと仲良くなって、料理を覚え始めている。

 ベルサは消石灰を土に混ぜて、畑の準備をしていた。
「ベルサ、ついに湧き水を見つけたよ」
魔物の骨と木の板で作った鍬を担いで朝昼飯を取りに行こうとしていたベルサを呼び止めた。
「なに!? 本当か! こりゃ飯食べてる場合じゃない!!」
 ベルサが場所を教える前に突っ走っていってしまったので、追いかけて湧き水が出た池に案内した。
「加熱罠だけじゃスライム入ってきちゃうよ! 堀を掘って内側に高い壁を作ろう! 池は出来るだけ広くしたい。こっちにも畑作ったほうがいいね!」
 ベルサの言うことは尤もなので、すぐに作業に取り掛かる。
 南半球ではスライム駆除がメインだと思っていたが、まずはサバイバルからだった。
「池には水草、一年草のチョクロから育てないとな」
 チョクロとは、とうもろこしに似た野菜だ。
 俺たちがなかなか帰らないので様子を見に来たというアイルとセス、メルモも作業に加わり、池の周囲になかなかの立派な堀と土壁が出来上がった。
 池の水は着実に溜まっていっている。
「ボウとリタは飯か?」
「たぶんね。ま、でもたまには気を利かせて2人きりにさせてあげてもいいかなってね」
 アイルが、らしくないことを言う。「私が提案しました」とメルモがすかさず言っていた。
「そうか。セスとメルモも2人きりになりたい時は言えよ」
「僕たちは別に関係ないですよ!」
 セスが必死に否定していた。
「……ちょっと! なんで私がフラれたみたいになってるの!?」
「痛いっ! なんで殴るんだよ! そういうところがモテないんだ!」
 セスとメルモが喧嘩を始めたので、俺たちはゆっくり本拠地に戻ることにした。

 本拠地の近くまで来たら、適当な歌を大声で歌い、ボウとリタに俺たちが戻ってきたことを知らせた。
「あ、おかえりなさい」
 妙によそよそしいリタが俺たちを迎えてくれた。ボウは何もなかったと言うようにレンガの窯を見つめているが、耳が真っ赤だ。
「やはりテントを増やすか?」
「いやいやいや」
 リタは顔を真赤にして首を横に振っていたが、「いらない」とは言わなかった。
 結局その日は、朝昼飯を昼過ぎに食べ、ボウとリタのテントを建てて過ごした。
「すまない。ありがとう、フハ!」
「うん、ま、いろいろ計画的にな」
 俺はそう言ってボウの肩を叩いた。

「俺はいつになることやら……」
赤土の地平線に太陽が沈むのを見つめた。
空も地面も朱く、感傷的な気分になる。
こんな遠くまで来てしまったな……。
「なにやら浸っているようだが、来世に期待するのだって選択肢の一つだぞ」
「私より先に結婚したら、たぶん殴る」
 アイルとベルサのせいで雰囲気は台なしだ。
「氷魔法の魔法陣を描いたハンカチってまだあります?」
「社長、夜の見張り交代して下さい」
 セスとメルモは昼間のケンカの傷が、まだ痛むようだ。
 風景がキレイだってのに、こいつらときたら。まったく。

 翌日から湧き水の池周辺の開発が始まった。
 水が溜まった池に水草を浮かばせ、池の畔に畑を作る。畑のために堀と壁を広げた。
 小川へと流れる水は一旦止めてあるが、スライムの駆除が進めば水を流すつもり。
「ナオキ! 魚の魔物だ!」
 ベルサが目を丸くして池の中を指差した。
 見れば、確かにとても小さな細い魚の魔物が池の中を泳いでいる。しかも1匹だけでなく、数匹いた。
「どういうことだ!?」
 池に水が溜まったことで卵から孵化したのだろう。砂漠の水たまりに生息する魚は乾期の乾燥に耐えられる卵を生むと聞いたことがあるが……。
「だからってこんなことあるか!?」
「邪神の破壊にも耐え、スライムの群れにも耐えて、じっと土の中で孵化するのを待っていたんだ」
「生命の力って神の力をも超えるんだな」
 俺とベルサは池の中の魚の魔物にただただ驚かされた。
その魚の魔物はいつ産卵したのか、卵は何年耐えていたのか知らないが、南半球では独自の進化を遂げた魔物がいる可能性を俺たちに見せてくれた。
「土の中に微魔物がいることは確認してたけど、これはもっと大きな魔物もいるかもしれないな」
「うん!」
 ベルサは目を輝かせていた。
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