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駆除人 作者:花黒子

~南半球を往く駆除業者~

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163話

「皆、無事か?」
 周囲を確認する。邪神と土の悪魔が持っている魔石灯で、暗い洞窟の底でもそこそこ明るい。
全員どこか身体の一部を打ったらしく、「イテテ」と言いながら立ち上がり、邪神の姿を見て息を飲み、固まった。皆にはどう見えているのか知らないが、俺にはチャラ男にしか見えない。
「コムロ氏がいるってことは、もうここは北半球ってことでいい?」
「グレートプレーンズの南端で、たぶんジャングルの真下ですよ」
 邪神の質問に答えた。
「そうか。じゃあ南半球と北半球が繋がったわけだな。ほらダンジョンコア渡しておくから、あとやっとけ」
 邪神は土の悪魔に、金色に輝きグニャグニャ動くシャボン玉のようなものを渡した。あれがダンジョンコアか。渡された土の悪魔は無言で受け取り、身体の中に収納していた。
「ん~やけに上が騒がしいな。風の精霊か? 他にもいるなぁ。コムロ氏、何かやった?」
「あ~ちょっと前に水の精霊を消しました。勇者駆除の一環で」
「それでか。相変わらず、殺さずの駆除なんだな。土の勇者も殺してないんだろ? 精霊を殺すか、勇者を殺すか、どちらが駆除になるんだ?」
「水の精霊の場合は勇者が受け継がれていくので、精霊を消さないと勇者を駆除できなかったんです。まぁ、水の勇者と友だちになっちゃったっていう理由もありますけどね。そこにいる女の子が元・水の勇者です」
 リタを見ながら説明した。
「ふ~ん。まぁ、どうでもいいけど。……邪魔くせぇな、もう!」
 邪神はリタをちら見してから、上を向いて言う。
『カッ!!』
 土の悪魔が上へ向け、大声を発した。空気を震わせる振動が周りの岩に伝わり、洞窟全体を揺らしていくようだ。遠くの方から、岩と岩がぶつかるような音が鳴り、静かになった。
「ずいぶん、精霊に狙われているようだな。当たり前か。ハハハ!」
 人の不幸が楽しいようだ。邪神らしい。
「ほとぼりが冷めるまで南半球に逃げておくか。そうだ! それがいい! どうせ、北半球にいたって精霊どもに狙われるだけさ! そうしよう! なぁに南半球でも仕事はある。コムロ氏にはスライム駆除を頼むよ!」
 邪神はどんどん話を進め、俺の足元の地面を動かし、強引に南半球へ連れて行こうとする。
「ちょ、ちょっと落ち着いてくださいよ」
「なんだ仲間も一緒がいいのか? ……んんっ!? コムロ氏、面白いやつ連れてるなぁ」
 そう言うと邪神はボウの前に移動し、じっくり顔を覗き込み、匂いを嗅いでいる。まったく自由奔放だ。
「お前、魔王の血を引いてるな?」
「ひっ!」
 邪神に質問されたボウだが、怯えることしか出来ないようだ。
「ハハハハッ! 最後の魔王が死んで何年経つんだ? 300年か? 確か部下に裏切られて死んだんだよなぁ、愉快な死に様だった。お前も愉快な死に様を見せてくれるなら、この土の悪魔の加護を与えてやってもいいぞ?」
「い、いえ! 『悪魔とは契約するな』が、ジジイの遺言だから!」
 ボウは顔をクシャクシャにして、勇気を振り絞るように言った。ボウには邪神の言うことがわかるらしい。
「ハハハハッ! そうか、この俺の提案を断るか。だが、いつでも声をかけてくれれば契約に来るからな。覚えておいてくれ」
 邪神は腕を組んで、俺の方に振り向いた。
「元勇者に魔王の血を引く魔族か……面白いことになってきたな。ッハッハッハッハ!」
 なんだかよくわからないが、邪神の引き笑いが恐ろしく感じた。
「コムロ氏も本質がわかってきたじゃないか」
 どういう意味だ?
「さて、どうするか。あのバカの視線をそらしておく必要があるなぁ。どうせバカだから気づくことはないだろうが……コムロ氏もいるから大丈夫か……よし!」
 邪神は独り言を言って納得したようだ。何が大丈夫なんだ!?
「おい! コムロ氏たちを南半球に案内してやってくれ」
 邪神が土の悪魔に声をかけた。
「なぁに、こっちは心配するな。うまくやるから!」
 そう言うと邪神は一瞬にして火に包まれ、灰になって崩れた。
「何をうまくやるんだ?」
 俺の質問に、土の悪魔は首を振り、『ついてこい』と手で合図をした。
 邪神が消え、ようやく全員息を吐いた。
「はぁ~いったいなんなんだ。あれは?」
 ベルサが言う。
「ただの魔物ではありませんよね!」
「あんな恐ろしいものと社長が喋ってるなんて! いったい何を話してたんです!?」
 セスとメルモも身を震わせている。
 アイルは初見ではないので、気づいているようだが、顔が真っ青だ。ボウもリタも身体のこわばりを取るように全身を擦っている。
「あれは邪神だ。一応、依頼主だよ。北半球にいると精霊に狙われるから、ほとぼりが冷めるまで南半球に逃げろってさ。スライム駆除の依頼も受けた」
 そもそも、北半球と南半球とを繋げるダンジョンを作るのも、スライムを使った魔素溜まり解消も俺のアイディアだ。あとは世界樹も育ててるはずだが、どうなっていることやら。
「スライム駆除ってなんだ?」
 ベルサが聞いてきた。
「南半球には魔素溜まりに魔素が集中してるらしくて、それを拡散させるためにスライムとか世界樹とか使ったらどうかって前に俺が提案してたんだよ」
「それで、南半球にはスライムが発生してるってこと?」
「たぶんね。実際にはどうなってるか、見てみないとわからないけど」
 俺がベルサに説明していると、岩に掘られた通路を進み始めている土の悪魔が振り返り、「グォッ!」と唸り声を上げた。「早くついてこい」という意味だろう。土の悪魔ってこんな感じだったか? もっと喋れた気がしたけどな。
「社長、その黒いゴーレムに付いていって大丈夫なんですか?」
 俺がアイテム袋を肩からかけて土の悪魔についていくと後ろからセスが声をかけてきた。
「そう言ったって北半球じゃ、俺は精霊に狙われてるし、ついていくしかないだろ?」
「でも、それがウソだったら……」
「嫌なら、元来た道を戻って、ここから岩登りすればいい。空飛ぶ箒だってあるんだし」
 俺が通路に入って土の悪魔についていくと、社員たちは「まったく」「これだから」「ナオキには計画性ってものがないんだ」「あとで大変なのはこっちなのに」などと愚痴を言いながらもついてきた。ボウもリタも、その場に留まっていても仕方がないと思ったようでついてきた。
 ただ、片腕を失ったばかりのボウは早々に遅れ始め、俺が背負子で背負うことになった。いろいろ巻き込んでしまったボウには改めて謝っておこう。
「悪かったな、ボウ。必ず、右腕の再生医療を受けられる場所には連れていくから。少し我慢してくれ」
「覚悟していたことだよ。ナオキが謝ることじゃない。それより、オレが魔王の血を引いてるってことを隠しててごめん」
「気にすんなよ。親と子は違うからな」
 背中合わせになった俺とボウは、故郷での話をしながら土の悪魔の後ろを進んだ。ボウは異世界人である俺が、前の世界で同じ仕事をしていたことに驚いていた。
「ちょっと、ナオキ! 歩く速度が上がってないか?」
 アイルに言われ、そう言えば土の悪魔の進む速度が上がっている事に気がついた。
「まぁ、ちょっと下り坂になっているからじゃないか。まだまだついていけるだろ?」
「私たちは問題ないけど、リタがさ」
 確かにリタが少し遅れ始めていた。
「大丈夫です! まだなんとかついていけます!」
 後ろからリタが叫んだが、結局、1時間ほどしてアイルが背負うことになった。
「南半球についたら、少し鍛えればいいさ。スライム駆除したらレベルも上がるだろうしね」
「……はい。すいません、アイルさん」
「いいよ。リタは軽いから、ほとんど気にならない」
「あと、どのくらいなんですかね?」
 と、リタに聞かれたが、正直どのくらい進んだのかまるでわからない。真っ暗な洞窟の中、ひたすら南へ向かっていることはわかるが、南半球に入ったのかどうかすらわからない。土の悪魔が持つ魔石灯の明かりを目印についていっているだけだ。
「走っている時間から考えて、そろそろ南半球だと思うんだけどな。あと2、3時間じゃないか?」
 という俺の予測はあっさり崩れ、その後、正確な時間は分からないが2日間ほど走った。
 セスもメルモも音を上げ、ベルサもきつそうだった。なぜか、俺とアイルは元気で、気付け薬さえ嗅いでいれば眠ることはなかったし、交代でセスとメルモの2人抱えて走っても支障はなかった。
「お2人とも、おかしいじゃないですかっ!?」
 メルモが抱えられながら抗議した。
「ま、2人がおかしいのは今に始まったことじゃない」
 ベルサが言う。
 俺とアイルは、なんだったら土の悪魔が遅いとすら感じていた。「早く行かねぇかな」という俺の小声にアイルも頷いていた。土の悪魔は地獄耳だったようで、そこからさらに速度を上げた。土の悪魔は「ダンジョン作りの下見もあるんだ、こっちは……」とゴニョゴニョ言っていたような気がするが、気のせいかもしれない。
 とにかく2日ほど経った頃、日の光が通路の奥に見え、俺たち7人は南半球にたどり着いた。
 赤い土の上にエチゼンクラゲくらいの大きさのスライムが隙間なく蠢き、地平線まで広がっている。
「マジかよ」
「これ駆除すんの?」
 アイルとベルサの言葉に俺は返せず、ただ、呆然とスライムの大群を見ていることしかできなかった。


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