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駆除人 作者:花黒子

~水の精霊を窺う駆除業者~

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161話

 大粒の雨の中、旧モラレスの廃墟周辺には深い霧がかかっていた。
 探知スキルで、うちの社員たちとボウ、リタを確認。まだ、水の精霊は見えない。
俺は暗い雨雲を見上げた。雨雲からは嫌な圧力を感じる。
水の精霊はまだ雲の中か。
 空飛ぶ箒から降りて、霧の中に入った。
 2メートル先が見えないが、探知スキルと水が弾ける音を頼りにボウとリタに近づく。
 廃墟の真ん中に、ベルサが育てたと思しき、大きなフキのような植物が伸びていた。マルケスさんのダンジョンにあったキノコの薬を使ったのだろう。急成長を遂げたフキのような植物の下にボウとリタが休んでいる。
「ナオキ!」
「社長!」
 近くにいたベルサとセスが俺を見つけて近づいてきた。
「状況は?」
 俺は短く聞いた。
いつ空から水の精霊が降ってくるかわからない。
「リタが魔力切れを起こして、休ませてる」
「雨に混じって、『水の妖精?』みたいなのが降ってきています。今は音爆弾で対処していますが量が量なので……」
 ベルサとセスが周囲を警戒しながら説明しながら、地面を歩く人型の水滴を踏み潰し、音爆弾を放り投げた。水の精霊の部下っぽいので妖精か。
「メルモは使役したシャドウィックの群れで、その降ってきた『水の妖精』を撹乱してる。アイルは地面掘って、例のいくらでも入る水袋を設置してるところ」
 俺が聞く前にベルサが言った。
「わかった」
 俺はフキのような植物に近づく。
リタはボウに抱えられ、目を閉じてゆっくり息をしている。眠っているのかな。
「魔力回復シロップは?」
「飲ませた」
 ボウはリタの頭をなでながら、答えた。
「ごめん。風に帽子が飛ばされて……」
「いいよ、気にすんな。それより生きててよかった」
「死にかけたけどな。フハッ」
 相変わらずボウの笑い方は下手だ。いつ水の精霊が来るかわからない状況で、ウソでも笑っていられるのだから、腹をくくってるんだろう。
「神様がちょっと遅れてる。時間稼ぎをしなくちゃならない」
「わかった。右腕切っておこうか?」
 ボウが袖を捲り上げ、右腕を露わにする。
「それは最終手段に取っておいてくれ」
 俺はボウの袖を下げた。
リタが目をつぶったまま、ボウの右手をギュッと握っている。起きてて俺とボウの会話を聞いていたようだ。
 パシャンッ!
 セスが降ってきた『水の妖精』を踏み潰した。
 それが合図だったかのように、雨脚が強くなった。
「「「「ドコ?」」」」
 周囲から『水の妖精』の声が聞こえ始める。セスとベルサが周囲に音爆弾を投げたが、『水の妖精』の「ドコ?」という声は消えない。むしろ増えている気がする。
「ナオキ!」
「社長!」
 アイルとメルモも合流してきた。
「量が多くて私たちだけでは捌ききれない!」
「わかった。全員、空飛ぶ箒で地面から離れてくれ」
 俺は準備していた魔道具の杖を取り出しながら指示した。ボウとリタにも空中に浮いてもらう。
俺は自分もアイルの浮いた箒に掴まりながら、フキのような植物に近づいてくる『水の妖精』に、魔道具の杖を向け、魔力を込める。魔道具の杖は以前、テルに持たせていたスタンガン代わりの物だ。魔力を流せば、電気の丸い玉が発射される。
発射された電気の玉が『水の妖精』に当たり、周囲の濡れた地面に電気が広がった。
一瞬にして『水の妖精』たちの声が止まり、人の形を保てなくなったのか、崩れて水たまりに変化した。探知スキルでも『水の妖精』は何も表示されないので、死んだのかどうかすらわからないが、消えた。
時間稼ぎとしては有効なようので、周囲に向け電気の玉を乱射。
『水の妖精』の「ドコ?」という声が辺りから消え、しとしとと降る雨音だけが聞こえるようになった。
「消えた……?」
「油断するな!」
 メルモをアイルが叱った。
「はっ! 口が!」
 ボウの後ろに乗っていたリタが地面を指差す。濡れた地面を見えると、水たまりが、大きな唇の形に変化していった。

「みーつけた!」

 水たまりに浮かび上がった口が声を発した。

 ボトッ。ボトボトボトッ!

 雨音に混じって何か柔らかいものが落ちてくる音がした。振り返ると、身体のパーツが空から降ってきていた。
その身体のパーツがゆっくり、正しい位置に集まって水の精霊を形作っていく。
別に俺は特撮ヒーローの変身を待つ怪人ではないので、水の精霊の身体が出来上がる前に走って近づき、電気の玉を大量に放つ。
全弾命中せず、水たまりに電気が流れ、俺の穴の空いたブーツから全身に電撃が走る。
くそっ! 縫っておけばよかった。
ものすごく痛いが、何発かは当たるので、さらに近づきながら電気の球を放つ。それでも、水の精霊は人の身体へと変化していった。

「ちょっとピリッとくるわね」

 水の精霊にとってはその程度のようだ。力の差なのか、水の精霊が純水なのかはわからないが、もうこの杖は使っても意味がなさそうだ。

 ガンッ。

 まったく予想外の方向から脇腹に攻撃が飛んできた。一瞬見えたのは、くるぶしにハートのような痣がある片足が俺の脇腹にめり込む様。身体がくの字に曲がりながら、俺は廃墟からすっ飛び、草原に転がった。
また一本、復活のミサンガが切れた。
探知スキルで見ると、うちの社員もボウとリタも空飛ぶ箒で逃げ出している。
息を吸い込み、潰れた肺に空気を入れながら水の精霊を確認。探知スキルでは灰色の点にしか見えないので、確認しにくく視認するしかない。
 今にも飛び上がり、ボウとリタを追おうとする水の精霊がいた。
 俺は全力で濡れた地面を駆け、水の精霊の足に飛びつく。
「あら、まだ元気なのね」
「ブホッ!」
 顎を掌底で打たれ、再び俺はふっとばされた。
 うつ伏せに地面に叩きつけられ、泥水が鼻と口に入ってきた。頭がフラフラとして、泥水を吐き出すこともなく、ただ全身に力を込めて立ち上がる。あと少し、神様が来るまでの間、リタとボウを守らなくては。
「守らないと……」
 その一心で、再び水の精霊に飛びつく。
「しつこい男は嫌われるわよ」
 水の精霊に肺が潰れるほど背中を踏まれた。
身体が緑色に光り、細胞が再生していくのを感じる。復活のミサンガは、あと幾つしていただろう。
「あなたが水の勇者と期待していたんだけど、残念ね」
 水の精霊は俺をアイアンクローをしながら持ち上げ、頭全体を水の玉で覆った。振り払おうとしても、水の精霊の手が万力のように動かず、息もできない。
「ゴボッ!」
復活のミサンガは死ぬほどの攻撃を受けたときには作動するが、溺れて肺に水が入ったときには作動するのかわからない。
「どんなにレベルを上げても、身体の構造は変わらないなんて不便よね、人間って。でも、そこが魅力かしら」
 水の精霊は笑いながら、水の玉に入った俺の顔を見た。水の精霊は言われていたように、美しい顔立ちで、左右違う目の色をしていた。
「ゴボゴボッ!」
 一瞬、この顔を見ながら死ねるなら、割と良いかもしれないなどと諦めかけた時、唇の下にホクロがないことに気づいた。
 突如、胸を突き刺すような衝撃があり、俺は吹き飛ばされた。今日は、よく吹き飛ばされる日だ。ただ、今回は、痛みに耐えられないほどではなかった。しかも、頭には水の玉もなくなっている。
 起き上がろうとすると、目の前に手が差し出された。
「ナオキ、今回のミッションはお前じゃなきゃダメっぽい」
 ベルサだった。
 手を掴んで立ち上がると、周りにセスとメルモも集まっていた。
 俺が吹き飛ぶ前にいた場所にはアイルだけがいて、水の精霊の形をした分身は霧散したように消えた。
「本物の水の精霊は?」
「リタとボウを追っている」
 どこかのタイミングで水の精霊は分身と入れ替わったようだ。
「私たちでは止められない」
ボロボロになったアイルが濡れた髪をかき上げながら、こちらに近づいてきた。
「霧と水の精霊に自分たちの分身を作られて、惑わされました」
 セスが報告した。
 水の精霊なら、一度見た人間の姿くらいなら水で再現できるということか。
 確認のため、探知スキルで全員を見た。全員本人だ。
「探知スキルのあるナオキが追ってくれ」
アイルが荒く息をしながら、空飛ぶ箒を渡してきた。
俺が受け取った瞬間、周囲の水たまりが波打ち始め、水の塊が空中に伸びたかと思うと、水の精霊の姿に変化した。その数、ざっと20。さらに、俺たちがいる場所から遠くでも、水たまりから水の精霊の分身が現れ始めている。水の精霊の分身が増え続けている。
ベルサがローブから植物の種と瓶を取り出し、種を地面に撒くと瓶に入った液体を種にかけた。
植物が一気に成長し、水の精霊の分身を蔓が貫いていく。
「こちらは気にするな! ナオキ、行け!」
 ベルサが叫ぶ。
「私たちは駆除業者だ!」
 アイルが叫ぶ。
「社長、行ってください!」
「水の精霊の分身くらい、僕たちでやっときます! 社長は本体を!」
 メルモとセスも叫ぶ。
「泥水で作った分身なら効くかもしれない。これ使え! 俺は行く!」
 俺は電気の球を放つ杖を社員たちに放り投げ、空飛ぶ箒にまたがり空へと飛んだ。

 探知スキルで範囲を出来るだけ広げ、ボウとリタを探した。青と赤の光が重なっている場所はすぐに見つかった。2人とも移動せず、立ち止まっているようだ。
 自動車のアクセルを踏むように、目一杯魔力を込めて急いだ。
 霧の中、俺はボウとリタの前に水の精霊の影を見た。

「フハッ、そんなに欲しいならくれてやる」
「やめてぇぇえええええ!!!!!」

ザシュッ!

俺は空飛ぶ箒の上で、ボウの声とリタの叫びと肉と肉が離れる音を聞いた。

「フフフフフ! ついにやったわ! とうとう全て揃った!」

 水の精霊の笑い声が聞こえた。

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