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駆除人 作者:花黒子

~水の精霊を窺う駆除業者~

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158話


「社長! モラレスの冒険者ギルドから職員さんが来てますよ」
「え!?」
 ツナギ姿のメルモに言われ、振り返るとギルド職員の小人族がモヒカン頭を掻きながら、挨拶していた。
 俺は、ボウの小屋で地図とにらめっこして、どこで神様と水の精霊を会わせるかを考えながら、音爆弾や燻煙式の殺虫剤などを作っていた。作業をしながらのほうが思いつくこともあるだろうと思っていたが、まるで思いつかない。人目につかない場所で、土の精霊のときのことを考えるとなるべく被害が少ない方がいい。
ちなみに、ボウはすでに荷物を南の洞窟に送っていて、雨期はレミさんとリタとともに洞窟で過ごすという。今は収穫祭に出品する野菜を選んでいるはずだ。

「収穫祭の前日なので、打ち合わせを。北の町からも衛兵たちが集まってきています」
「あ! もう前日か。わかった。うちの社員は?」
 メルモに聞くと「全員、集合してます」と返された。珍しいことがあるものだ。全員協調性をようやく理解したのかな。

 小屋を出るとうちの社員が全員ツナギ姿で揃っていた。
「気味が悪いな。どうしたんだ?」
「ここでの最後の仕事だからね」
 ベルサは避難所の方を振り返った。きっと、養魚池が運用されていくのを見ていたかったのだろう。ただ、それは避難所に住む人たちに任せるしかない。俺たちが出来るのは準備だけだ。使うのは南部の住人たち。
「服が揃っている方が、他の人たちにもわかりやすいだろ? それに精霊の危険性は知ってるからな」
 アイルは俺を見た。
 全員、直接精霊と対峙しているわけではないが、俺が土の精霊に両手両足を折られたことは知っているので、一番防御力の高い服を選んだようだ。
「じゃ、行くか」
 全員、清掃・駆除業者としての正装で、モラレスへ向かう。
「そういや、箒どう?」
 セスに聞いてみた。皆には数日前に、空飛ぶ箒を渡して練習してもらっていた。風に煽られたりすると、結構操作が難しいのだ。
「風を読むのが難しいですね」
「それでも、池で溺れてるメルモは救えるようになったよ」
 アイルの言葉にメルモは顔を真赤にしている。
「ならいいか。何かあったときのためだからね。メルモは?」
「私は後衛なんです。溺れていた人を復活させる技の練習は完璧です」
 練習だけ完璧でも困るのだが。そもそも溺れた人を復活させる技なんて、俺が前の世界で、学生時代、プールの監視員をやっていた頃覚えた人工呼吸と心臓マッサージのことだ。心臓マッサージは肋骨を折るくらいの衝撃じゃないと意味が無いと聞いたことがあるので、もしかしたら、意味ないかもしれないんだけど。
「問題ないよ。みぞおちから骨の下に手を突っ込めばいいんだろ?」
 ベルサの心臓マッサージは荒そうなので、受けたくはないな。

 モラレスの町の建物は、半分くらいになっていた。残っている建物のうち、ほとんどがテントや簡単な組み立て式だ。住人たちも半分近くは、すでに避難所に引っ越し済み。
 周囲に建物がないと、冒険者ギルドのテントは立派に見えた。周囲にはフィーホースが繋がれていた。衛兵たちが乗ってきたのだろう。
「こんにちは」
 入り口を開けると、テントの中は衛兵たちで埋め尽くされていた。20人ほどいるだろうか。こちらを見て、警戒している。そんなにツナギ姿が珍しいのかな。
「おう、コムロカンパニーさん。こちらに来てくれ」
 チーノが呼んでいるいるのだが、背が小さいのでどこにいるのかは見えない。ただ、自然と衛兵たちが道を開けてくれて、チーノのところまで通してくれた。
「それは会社の制服か。わかりやすくていいな! よーし! 皆、注目してくれ!」
 チーノが手を叩いて、衛兵たちの視線を集めた。
「この青い服を着た人たちが、今回、水の精霊様の護衛に協力してくれるコムロカンパニーの皆さんだ。社長、挨拶してくれ」
 突然振られたが、ローカストホッパー駆除の時もこういうことがあったな。
「えー、コムロカンパニーのコムロです。モラレスの住人の安全を第一に考え、楽しい収穫祭にしましょう。よろしくお願いします!」
 裏でいろいろな思惑があるとは言え、せっかくのお祭りだ。来場者たちには楽しんでもらいたい。衛兵たちから、ちょっとしたどよめきが起きている。
 衛兵たちは水の精霊を引き離す計画は知っているので、ちょっと戸惑っているようだ。
「じゃあ、明日の収穫祭のスケジュールの確認をするぞぉー!」
 この前打ち合わせをした中年の衛兵が、出てきた。衛兵たちの隊長なのだろう。ちょっと周囲の衛兵たちとは制服の色が違う。
「まず、朝、品評会に出す野菜が集まってくるので、出場者を出品する野菜とともに本部に案内。それから、モラレスの代表者から挨拶して、ダンスパーティーへ。ダンスパーティーのあと、品評会で各賞の発表。その後、水の精霊様の豊穣の儀式があって、収穫祭は終了だな。基本的には毎年やっていることだから。カンパニーさんは確認しておいてくれ」
 中年の衛兵が、テントの柱に収穫祭のスケジュールを書いた羊皮紙をピンで止めた。
「それで、水の精霊様と交渉人とはいつ会わせるかだが、これについては社長!」
「はい。えーっと、収穫祭の豊穣の儀式が終わったら、すぐに水の精霊様は去るんですかね?」
「いや、終わっても、しばらく吟遊詩人たちが歌を来場者に聞かせるから、祭りの会場にはいる。だいたい例年は、儀式が終わった後、すぐに馬車に戻るはずだ。水の精霊様は人前に出ることを嫌うからな」
中年の衛兵が答えた。
「なら、豊穣の儀式が終わったあたりが良いと思います。吟遊詩人たちが歌っている最中に、俺の方で水の精霊様が乗る馬車の下に、燻煙式の罠を仕掛けます。吟遊詩人たちへの対応はお願いします」
「わかった」
 中年の衛兵が手を上げて応じた。
「煙を吐き出す馬車の周りから御者や護衛の吟遊詩人たちをうちの社員たちで引き離し、そのまま馬車を乗っ取って、交渉人がいる南の町の跡地に向かいます」
「その時点で、コムロカンパニーには水の精霊様を誘拐した犯人になるが、大丈夫か?」
「んーっと、交渉人との話し合いが上手く行けば、大丈夫だと思ってます」
 そこは神様を信じるしかない。あれ? でも、クビにしたら、どうなっちゃうんだろう?
 ほとぼりが冷めるまで、どこかに身を隠すか。最悪、俺の単独犯ということでもいいかな。
「どうした?」
 黙ってしまった俺をチーノが心配してくれた。
「大丈夫、大丈夫です。吟遊詩人たちが追ってきたら困るので、なるべく交渉人には早めにしてもらおうと思います。しくじったら、住人たちを避難所に避難させて下さい。リタたちに関しては、全員気にしつつ、何かあれば逃してあげてくれ」
 俺はうちの社員たちを見た。空飛ぶ箒を持っている社員たちが一番機動力があるはずだ。
「まぁ、そんなに、心配しなくても、南部の人間は、急な雨や冠水に慣れているから、自分たちだけでも、避難所に泳げるはずだ」
 中年の衛兵が、いつの間にか眉間にしわを寄せていた俺の肩を叩いた。たったそれだけのことでもちょっと肩の荷が軽くなった気がする。年の功というやつだろうか。俺はまだまだだ。
「そうさ! 明日は楽しい収穫祭にしよう!」
「よろしくお願いします!」
「「「「よろしくお願いします!」」」」
 中年の衛兵とチーノが声をかけ、テント中が返した。
 明日は収穫祭、本番だ。

夜中、水の精霊と神様を会わせる南の町の跡に行って、周囲のシャドウィックを駆除。出来るだけ不確定要素を消しておきたい。
神様に連絡すると、『覚えてるよ、コムロ氏』と明るい声が返ってきた。
「明日ですからね。場所と時間間違えないでくださいよ」
『はいはい。ところで、行くのはいいんだけど、なんか忘れているというか、なんか違和感があるんだよね』
 神様は何かを感じているらしいが、神様がわからないことは俺にわかるわけがない。
「なんですか?」
『あいつがどこにもいないんだ』
 あいつ?
「ああ、邪神ですか?」
『うん、南半球にもいないし、邪魔されると困るんだよなぁ。それにさ、また土の勇者の時みたいに、精霊が悪魔化するかもしれないでしょ。そうなると、向こうの勢力が増えるんだよねぇ……ま、いいか!』
 神様は楽天的だ。
「信じてるんですから、お願いしますよ」
『僕も自分の力を信じるよ。それじゃ、明日。道わからなかったら、コムロ氏、迎えに来てね』
「え!?」
 神様は通信袋を一方的に切った。
「あ、また報酬のことを言いそびれた」
 今回は神様からの報酬は何を願おうか考えつつ、避難所へ帰った。

 社員たちは、避難所の住居の一処に固まって夕飯を食べていた。
「おう、ナオキ! 明日はちゃんと依頼人来るんだろ?」
 アイルが俺の分の夕食を渡してくれた。
 うちの会社では、周囲に人がいる場合、神様のことを依頼人と呼ぶ。
「うん、来るって。また、報酬について言いそびれたけどね」
「報酬かぁ……」
 ベルサは天井を見上げながら、神様からの報酬は何がいいか、考えているようだ。
「明日、大丈夫ですかね?」
 セスが心配している。
「皆は、臨機応変に動いてくれればいい」
 計画は、この前の打ち合わせが終わった後、全員に話しているし、先程テントでも確認した通りだ。
「もし誘拐犯として追われることになったら、俺の単独犯ってことにしていいからな」
「「了解」」
「「OKです」」
 全員、俺の単独犯にすることに迷いが一切ない。誘拐犯として指名手配されても、あまり変わらないと思っているのかもしれない。ま、困るのは仕事受ける時くらいか。
 夕飯を食べ終えると、緊張した様子のボウに呼ばれた。
「どうした?」
「ちょっと、カラバッサ運ぶから手伝ってくれ」
 すでにやることもないので、ボウについていった。畑には巨大化したカボチャによく似たカラバッサが実っていた。小型車くらいありそうだ。
「デカいな」
「2人で持てる限界まで育ててみた。フハ」
 やりすぎなんじゃないか。
「ベルサから薬を貰って与えていたら、ここまで大きくなった。中身はスカスカで、そんなに重くないはずだ」
「わかった」
 俺とボウは巨大カラバッサの両側に行き、「よいしょ!」という掛け声とともに持ち上げた。思っていたよりも遥かに軽い。ボウが言うように、1人で持とうとするとバランスが悪く、2人で持ったほうがいい。
 俺たちはそのまま収穫祭の本部があるモラレスの北にある広場に向かった。以前、アルマーリオの駆除の依頼を受けた畑が、野菜を収穫した後、収穫祭の広場になっているのだ。
「ナオキ」
「ん?」
「オレ、リタと付き合うことになった」
「……そうか。良かったな」
「うん。フハ」
 なんだろう。学生時代、モテない者同士で仲良くしていたら、急に1人が「彼女、出来た」と言いだして、変な空気になったことを思い出した。
「好きな者同士が一緒になるのは素敵なことだ。人生でもなかなかあることじゃないさ」
 今では、こんなことを言えるようになってしまった。学生時代はとりあえず一発殴っていた気がする。
「俺も頑張らないとな」
「チオーネが……」
「チオーネが?」
「いや、リタが言うにはチオーネがよくナオキのことを見ているって」
「本当か!? それ、俺のおじさん臭に迷惑してるってことじゃないのか?」
「フハハ。それはわからん」
 女性は時に残酷だからな。慎重に行こう。
 そんなどうでもいいことをボウと話しながら、巨大カラバッサを収穫祭の本部近くに置いて、避難所に帰った。

 収穫祭当日、早朝。
 俺たち、コムロカンパニーは箒を持って、広場を清掃していた。広場の土は、この日のために固めてあった。
落ち葉やアルマーリオの糞などが落ちているので、袋に入れて、掘った穴に埋める。品評会の出品者たちが本部に集まり、モラレスの町から衛兵たちも集まってきた。洞窟の民たちも北部の町で買ってきたという酒や燻製肉を持ち寄っていた。
朝の日差しが強くなってきた頃、街道の北から、連なった馬車の一団がやってきた。吟遊詩人たちだ。中年の衛兵が言うには、一番後ろには水の精霊様が乗った馬車があるはず。
どの馬車もフィーホースが牽いているなか、一番後ろの馬車はデザートサラマンダーに似た爬虫類系の大きな魔物が牽いていた。魔物の幅は街道ギリギリで、行き交えないだろう。フィーホースの馬車は道を譲れということか。
「こんなこと聞いていなかったんだけど……」
 俺は、あの馬車を動かせるんだろうか。収穫祭が始まってもいないうちに、早くも予測していなかったことが起こっているようだ。


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