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駆除人 作者:花黒子

~水の精霊を窺う駆除業者~

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157話

 チーノと中年の衛兵との打ち合わせを終え、避難所に戻ると、ラウタロとその仲間たちが荷物をまとめていた。
「帰るんですか?」
「いやぁ、ちょっと網を仕掛けに行くんだ。社長も来るか?」
 すでに日暮れ。ラウタロは不敵な笑みを浮かべている。
「行く」
 もうすぐラウタロや洞窟の民たちとも別れることになるだろうから、出来るだけ思い出を作っておきたかった。社員たちとの打ち合わせは深夜か明日になるな。どうせセスが船で送り迎えをするのだから、しょうがない。
「おーい、社長も行くってよ~」

 俺は特に準備をせずに、セスが操舵する船に乗り込み、川を下る。セスは仄暗い魔石灯の明かりを頼りに船を進ませた。すでに何度も行き来しているせいか、揺れる場所がわかっているらしく「掴まって下さい」と気をくばっていた。
「網を仕掛けるって何を捕まえるんですか?」
 船が順調に進んでいるのを確認し、俺はラウタロに聞いた。
「何ってそりゃ、流れてくる物なら、なんでもさ。今、川の流れは崖の下にある穴を通って地下水脈へと流れていってるだろ?」
「あ、そうですよね」
 川が南へと流れていき、何処かに湖か海がないとすれば、どこか出口があるはずだ。マッピングした時は注意して見ていなかったから、川が崖で途切れていることに違和感を覚えなかった。どうして気づかなかったんだろう。
南の洞窟の近くに、崖の岩盤が縦に割れている場所があり、下のほうに隙間が空いているらしい。川の水はその隙間を通り、地下水脈へと続いているという。
「その隙間の許容量を超えたり、物が詰まったりする影響で、平原が冠水するわけだ」
 排水口が詰まると、シンクに水が溜まるのと同じだな。
「なるほど、それで川に網を仕掛けて流れてくるものを取ると」
「いや、雨期になると川は増水して勢いが強くなるから、川に仕掛けると網が持っていかれちまう。でも、冠水すると色んな方向から隙間に向かう緩やかな流れが出来るんだ。そこに網を仕掛けるのさ」
「だったら、冠水してからじゃダメなんですか?」
「ここは平原だぜ。網を仕掛けるったって、どこか結んでおける物が必要だ。そのために木の棒を地面にぶっ刺しておくのさ」
 平原ならではの漁のやり方か。
「なるほど、面白いですね」
「毎年、いろいろ掛かるぞ。酒樽なんかは当たりだな。壺の中に食料が入ってたりすると、かなり嬉しい。ただ、死体は最悪だ。平原を巡り巡ってくるから臭いがキツいんだ」
 ラウタロは心底嫌そうな顔をして言った。考えるだけで悍ましい。

 南の洞窟に着いたのは、夜中だ。アイルたちに連絡を取り、会議は明日にしてもらった。収穫祭はもうすぐだが、時間はある。
「洞窟で飯食って、夜は周辺のシャドウィックを討伐していく。網にイタズラされると厄介だからな」
 ラウタロはそのために俺を呼んだのか。
 晩飯は洞窟の民たちと一緒に、ワニの魔物の肉を燻製にしたものと、ナンっぽいパン、それに野菜スープもついていた。これから仕事をするので遠慮なく食べる。ワニの魔物の燻製は以前、俺がお裾分けした肉を燻製にしたらしい。
「社長の会社のおかげで食生活が変わりましたよ」
 料理を出してくれた洞窟の民にお礼を言われた。
「俺たちも崖を登れれば良いんだけどな」
 ラウタロは自分たちの願望を言いながら、俺の方をちら見した。何かを作れと言っているのだろうか。
「ベン爺さんが昇降機みたいなものを作ると言ってましたよ」
「なら、良い。あまりにもコムロカンパニーには世話になりすぎているしな。それに、ジャングルは危険が多いんだろ?」
「そうですね」
「よく鍛えてからだな。よぉし! やるぞ! 大平原の果てまで辿り着いちまった野郎ども!」
 ラウタロは仲間に発破をかけていた。
「「「「おおっ!」」」」
 ラウタロたちには明確な目標が出来たようだ。

 夕食後、シャドウィック駆除に向かうラウタロたちを見送って、俺たちは、レベルが低くてもシャドウィックを倒せる方法を考えることに。洞窟の民たちの中には、すぐに体調を崩す者たちもいるらしく、出来ればレベルを上げたいと相談されたのだ。
とりあえず、晴れた日は洞窟から出て、洞窟の中を清潔に保つようアドバイスした。シャドウィックはカビの魔物なので火で倒せば良いのではないか、と思ったのだが。
「暗い中で、火の明かりを見ると、シャドウィックが近づいていることに気が付かなくて、いつの間にか後ろに回られたりするんですよね」
 洞窟の民の女性が、服をずり下げ肩甲骨の傷跡を見せてきた。長く娼館に行っていない俺には艶めかしすぎるので、すぐに服を着てもらった。
 シャドウィックの生態については、ベルサがすでにほとんど解明しているので、それを踏まえて方法を考えれば、なんとかなるだろう。
 ちょうど、現在、洞窟の中でまとめ役になっているペドロに壊れた食器や調理器具、捨てる余った魔物の骨などがないか聞いて、集めてもらった。俺たちがやれば、魔物の血でシャドウィックを集めて、音爆弾投げて終わりだが、今後のことを考えるとこちらの持ち寄りで作っても、引き継がれていかないので意味がない。
 穴の開いたフライパンに、魔物の腸を引き裂いて伸ばした紐をテニスラケットのように網目状に巻いていく。
要するにシャドウィックはカビの集合体で、影が人の形をしているだけだ。普通に考えると、触れるのは難しいが、集合体が守る魔石を外に出してしまえば、残ったカビの集合体は拠り所がなく霧散するだろう。だとすれば、剣や棒よりもラケットのほうがカビはすり抜けられるし、魔石に当てるには効果的に思える。
出来上がったラケットの柄に長めの棒を紐で巻きつけて、振りやすいようにした。洞窟の民の女性に振ってもらって、具合を確かめてもらう。
「これくらいなら、子どもでも振れますね」
「良さそうですね。中身が入ってない樽ありますか? なければ割れた皿でもいいですけど。あとは雑巾代わりの布ですね」
 俺は、端のかけた皿と、雑巾代わりの布をゴミの中から拾い、外に行く準備をする。
「じゃ、行きますか?」
「え、もう行くんですか?」
「夜も深いですし。ちょうどいいですよ」
 俺とセスが外に出ると、ちゃんと洞窟の民の女性はついてきた。
 星明かりくらいしかないので、平原の夜は暗い。ただ、俺は探知スキルがあるし、問題はない。女性一人くらいなら守れる。
 探知スキルで見ると、ラウタロたちは川辺で、シャドウィックを探しているようだ。
 俺たちはちょっと川から離れた場所で罠を張ることにした。近くに見えているので、皿に魔物の血を入れて、しばし待つ。今回は、アイテム袋から魔物の血を出したが、今後は洞窟で料理する時は魔物の血を捨てずに溜めておくように言っておいた。
 血の臭いに釣られて、どんどん周囲にシャドウィックが集まってきている。
 ジュルジュルジュル。
 ズズズ、ジュルジュル。
セスが魔石灯に魔力を込め、仄かに仕掛けた皿の周りを明るくすると、シャドウィックが5匹ほど、皿に頭を突っ込んでいる。
「ひっ!」
 隣りにいた洞窟の民の女性が、怯えている。確かに、異様な光景だ。見た目としては首のない人影が、薄い皿から生えているようにも見える。
 女性は動けそうになかったので、俺がラケットを受け取って、一度駆除の様子を見せることに。
「セス、雑巾用意してね。セスの方に魔石飛ばすから」
「え? あ、はい」
 俺はシャドウィックの群れに近づき、胸あたりに向けてラケットを振った。
 ポーン。
 という音とともに、シャドウィックの黒いからだから魔石が飛び出し、セスの方に飛んでいった。セスはそれを雑巾で挟むようにキャッチ。
 途端に、核となる魔石を失ったシャドウィックは身体を維持できなくなり、溶けるように霧散し、地面に黒い血の跡を残した。
「セス、その魔石のカビはちゃんと磨いて落としてね」
「OKっす!」
 これを繰り返すだけ。俺は次々に、シャドウィックを討伐していった。
「やってみます?」
 残り一体になったところで、女性に声をかけた。
 女性は頷いて、ラケットを受け取り、シャドウィックに向かっていった。シャドウィックは襲撃を受けているにもかかわらず、皿の側を離れようとせず、むしろ皿の中の血を守ろうとしている。
 シャドウィックが手を広げて、実態は無数のカビで、ほとんど霧や煙と変わらない。攻撃する時や、武器が魔石に当たるときだけ、カビを一点に集中させている。
 女性がシャドウィックの胸にラケットを振ると、カビがへばりついた魔石がセスの方に飛んでいった。セスがへばりついたカビを拭えば、ここでのシャドウィック討伐完了だ。
「どうです?」
「わかった気がします」 
 まだまだ夜は長いし、周囲の平原にはシャドウィックがいるので、再び皿に血を入れた罠を仕掛け、洞窟の民の女性とセスでコンビを組ませ、駆除に当たらせる。
 俺は走り回り、音爆弾でどんどん駆除しつつ、シャドウィックを女性とセスがいる方向へ追い込んでいった。これはサービス。
 小一時間も駆除作業していれば、川の西側にはシャドウィックの気配がなくなった。
「そっち行った!」
「ぬおっ!」
「てりゃ!」
 川の東側からは、ラウタロたちが剣や木の棒を振るい、シャドウィックを討伐する声が聞こえてくる。
 俺たちが東側に渡り、討伐を手伝うと、ラウタロたちは驚いたように洞窟の民の女性を見ていた。
「社長、何をやったんだ?」
「何って、駆除ですよ。ラウタロさんたちがやっているのは討伐で、俺たちがやってるのは駆除ですから。やり方を見て覚えておいて下さい。これなら女性や子どもでも出来ますから、教えてあげて下さい」
「でも、怪我でもしたら……」
「それは回復薬を使って下さい」
 せっかく回復薬を作れるようになったのだから、使わない手はない。

 ズンッ。

 俺とラウタロが話していると突然、崖の方から地響きのような音がなった。
「な、なんだ?」
「あ、たぶん大丈夫ですよ。最近、よく鳴るんです」
 ラケットを振っていた女性が教えてくれた。大丈夫かな? 以前、地面が揺れるような気がすると言っていた洞窟の民がいたような気がするが。あとで、ペドロに聞いてみよう。
 周囲のシャドウィックを駆除したところで、今夜の作業は終了。洞窟へと帰る。
「これ、たくさん作れば、誰でもシャドウィックに対抗できますね」
 女性はラケットを振り回しながら、俺を見た。
「まぁ、それくらいなら、子どもでも作れると思います」
「そうですね!」
 洞窟に帰った女性は、少し胸を張っていた。自信がついたようで何よりだ。
「シャドウィックは狩れましたか?」
「ええ。あのラケットを持っている女性に駆除方法は教えたので」
「ありがとうございます。社長には世話になりっぱなしだ」
「いえいえ。それより、地響きのような音が崖の方から聞こえたんですけど、大丈夫ですか?」
「あれは、地下水脈の方から聞こえてくるんですよ。たぶん、水脈に流された岩同士がぶつかっている音だと思うんですが……」
 ペドロは「見てみる?」と案内してくれるらしいので、ついていってみた。住居に使っている通路とは違い、魔石灯の明かりもない。
 洞窟の東側、通路の最奥ではゴウゴウという水の流れる音が聞こえる。
「この奥が滝になってて、地下水脈へと続いているんです。真っ暗でしょう?」
 魔石灯の明かりを先に向けると、通路の奥は巨大な空間になっているのがわかった。崖の隙間から入ってきた川の水が地下へと落ちている。探知スキルでも見たが、どのくらい深いのかわからなかった。探知スキルの範囲を超えている。絶対に落ちたくないな。
「深そうですね」
「うん。落ちたら帰っては来れないだろうなぁ。雨期にはこの通路は岩で閉めるんです。雨期の終わりには、岩を開けて崖の隙間に溜まった漂流物を水魔法で掃除して水を流すんですよ。20年間、洞窟の民が受け継いでいる仕事になってますね」
 確かに、地下の方から水が流れる音とともに何かがぶつかりあうような音が、巨大な空間に反響している。
「今日は、泊まっていくんでしょう?」
「ええ。さすがにこんな夜遅くに帰ってられませんから」
「じゃ、ちょっと飲みますか?」
 ペドロと軽く飲むことになった。
 セスやラウタロたちはすでに飲み始めていて、シャドウィックを駆除した洞窟の民の女性はラケットを持って、自慢げに語っているが、擬音が多く、周囲は笑っている。
「社長、こっちこっち!」
 女性に呼ばれて、シャドウィック駆除について洞窟の民たちに語って聞かせた。
 子どもでも出来ると聞いて、洞窟の民の女性陣は興味津々だ。酒に口をつけると、俺もどんどん饒舌になっていってしまう。
 そのうち、セスとラウタロが腕相撲を始め、場が盛り上がっていった。
「気のいい人たちだな」
「え? どうしたんだ、社長」
 酔っ払ったペドロが小声で言った俺の一言を聞き漏らさなかった。
「いや、初めてここに来た時はどんよりした雰囲気だったけど、本当は明るい人たちだったんだな、って思って」
「病気に呪い。全部社長が治しちゃったからなぁ、ナハハハ」
 ペドロは笑ってグイッと瓶に入った酒を呷った。
「そんなに飲むと明日の作業に響きませんか?」
「そしたら、また社長に治してもらいますよ」
「俺は治しませんよ」
「そ、そんなぁ……」
 ペドロは眉毛をハの字にして、情けない顔のまま、後ろに倒れた。大丈夫かと思って、顔を覗き込むと、瓶を抱えて鼾をかいていた。幸せそうでなにより。
徐々に部屋のそこかしこから寝息が聞こえてくる。俺も床に敷かれた絨毯の上に雑魚寝。魔石灯の明かりが消えると、洞窟の中は真っ暗だ。周囲には幾つもの寝息が聞こえる。穴蔵の中、身を寄せ合っていた寝ていた原始人もこんな気分だったのだろうか。案外、寝心地が良い。あれ? こっちの世界にも原始人っていたんだよな。そんな、古のロマンを感じつつ、洞窟の夜は更けていった。

 翌朝、川からちょっと離れた場所に網を仕掛ける。地面に棒を突き刺し、崖から網を張っていく。
「あんまり、下の方はきつく結ばなくてもいいんだ。網が破れると面倒だからな」
 ラウタロが教えてくれる。冠水が始まって、20年。洞窟の民たちは環境に順応して、生活をしていたようだ。
 網を仕掛け終わると、俺とセスは朝飯前に避難所の方へと戻ることにした。少しでも、食料は蓄えていてほしい。
「じゃ、収穫祭の前には顔出すからよ」
 そう言ってラウタロたちは、船に乗り込む俺たちを見送ってくれた。


 避難所に着いたら、すぐにうちの社員たちとミーティング。ざっくりとした計画を話し、それぞれが自分の役割を確認する。今回は、水の精霊を収穫祭の会場から連れ出して、神様に会わせるのが主な目的になるので、俺以外はほとんどサポートに回ってもらう。俺も神様のサポートだ。
 復活のミサンガだけは全員に5つ以上渡した。細かいことは、前日でも大丈夫だろう。
それより、依頼達成後の身の振り方も考えておかなくては。次の勇者は、どこにいるんだろう。そんなことを考えていたら、アイルに「眼の前のことに集中しろ」と叱られた。
まったくその通り。

モラレスの町から引っ越してくる人たちは増えていて、町で使っていた住居をそのまま避難所の空いている丘の上に建てる人もいた。軍のアプやチオーネが案内し、一通り避難所や養魚池について、越してきたモラレスの人たちに説明してくれた。銭湯はとても喜んでくれたらしい。

社員用の空飛ぶ箒や、燻煙式の煙が出るだけの罠の準備、やけに大きなカラバッサの収獲を手伝っていたら、いつの間にか収穫祭前日になっていた。

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