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駆除人 作者:花黒子

~水の精霊を窺う駆除業者~

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154話



「新しい勇者の形なのかもしれないな」
 ベン爺さんが、勇者の帽子を持っているリタを見ながら、頷いた。
「『勇者の証』をリタが吸水スポンジのように扱っていたことは置いといて。つまり、リタが現・水の勇者ということですか?」
「そうよ」
 俺の疑問に女王が答えた。
「え!? そうなの!?」
 一番驚いているのがリタだ。リタはレミさんの目を見ながら、「本当?」と繰り返し、レミさんは何度も「本当よ」と答えていた。
「ということは……?」
「そう、つまりリタの思い人である、あなたが水の精霊様に狙われるということよ」
 女王は俺の方を指差して言った。俺は後ろを振り返ると、ボウは顔を手で隠しており、周囲を見てもなぜか、全員俺の方を見ていた。
「コムロ社長、いえ、ナオキくん! 覚悟を決めてくれますか?」
「え!? 俺? いや俺じゃない俺じゃない。ボウです」
「へ!? そうなの!? どうなの? リタちゃん」
「いや、私が水の勇者って、私、男じゃないし、え?」
 その後、数分、場が混乱したが、サッサさんとベン爺さんが女王に事情を説明し、レミさんがリタを落ち着かせた。
「えーちょっと場が荒れましたが、女王が話したのが、この国の王家として『水の精霊様を追い出したい』理由です。それとは別に、国を運営・管理する立場としてなのですが、女王話されますか?」
 サッサさんが女王に振ったが、女王は頭を抱えている。どうやら女王は、ボウが魔族であることに困惑しており、「親子ってどうして似るの?」とぶつぶつベン爺さんに文句を言っている。ボリさんもセイレーンと駆け落ちしたからなぁ。
「えーでは、王弟である自分の方から説明させていただきます」
 サッサさんは王族なのに、非常に腰が低い。
「えー300年前、つまり、水の精霊様がこの国に居着いて以降、出生率が徐々に低下し始め、ここ50年ほどは顕著に数値として表れています。理由としては親同士で決める結婚や見合い婚がほとんど見られなくなり、さらに晩婚化が広まっていることも影響しているでしょう」
 何処かで聞いたような話だな。
「なにより、一番の問題は吟遊詩人ですね。顔の整い、歌がうまい吟遊詩人たちが、地方の町や村に行き、何人の女性とも付き合うという例が増えました。また、水の勇者たちの恋物語も影響しているでしょう。女性たちが、『真実の愛』を探し始め、交際している者の愛と水の勇者たちの恋愛とを比べ始めたというのも一因だったと個人的に思っています」
 『真実の愛』って自己犠牲の精神とかですかね。女性の要求に応えるために何かを犠牲にするってことですか。えーなにそれ、やだー。「あの水の勇者は、愛する人のためにこれほどのことをやったのに、あなたって人は!」とか言われたら、俺なら泣いちゃうな。だいたい、真実じゃない愛ってなんだ? って話になるし、不毛。
「やはり面白いから一緒にいる、とかいう結婚観ではダメなんでしょうか?」
 一応俺だって会議に参加してるのだから、意見らしいことを言ってみた。
「女性の方、ナオキくんの意見はいかがですか?」
「ダメに決まってんだろ! ぶっ飛ばすぞ!」
「面白いから結婚するってことになると、ナオキは、私とアイルにプロポーズしなくちゃならなくなる。そんなことは絶対に気持ち悪いし、そもそも新しい土地に行けば、どうにか娼館に行こうなんて思う奴の妻になるなんてまっぴらゴメンだ! あとなんかイラッとしたので、あとでぶっ飛ばす!」
 アイルとベルサから非難轟々だ。というか、なんで俺が二人からぶっ飛ばされないといけないんだ?
「ちょっと待て、俺がお前らと一緒にいて面白いと思っているなんて言ったことあるか!? だいたい底なし沼で仮眠したり、研究してて思わず飯食ってなかったとかいうダメ人間たちを迷惑だとは思うが、面白いなんてこと思うわけないだろ!」
「調子に乗んなよ! 私たちより、もっとダメなナオキと一緒にいてあげてるというのに! はっきり言って死体拾って捕まるなんてのはナオキくらいのもんだ! しかも私たちまで牢に入れられて。こんな社長に雇われて、かわいそうだよ、私たちが!」
「そうだ! 酒に溺れて、踊り狂って外で寝たり、娼婦のパンティを後生大事に仕舞っておくようなダメ人間にダメ人間と言われる筋合いなんてない!」
「なっ! 女ってのは男心がわかってないんだよ!」
「確実に言えることはナオキはモテないってこと!」
「モテる見込みもない!」
 ああ言えばこう言う。全くもって腹の立つ社員たちだ!
「傍から見れば、3人共、面白いですけどね」
「「「「「うん」」」」」
 セスの言葉に俺たち3人以外の全員が同意した。
「えー話を戻します。グレートプレーンズでは水の精霊様が来てからというもの出生率が徐々に下がり続けました。それを理由に領主である貴族たちの中には、15歳になった村や町の娘を自分の寝室に呼ぶという条例を出す者まで現れ……」
「俺たちが貴族を襲うきっかけになった」
 サッサさんの話している途中で、それまで黙っていたラウタロが割って入った。
「知っての通り、俺たちは元々軍にいた。平原の戦士なんて言われていても、爵位もないし、貴族には対抗ができなかった。ただ、俺たちは田舎の娘たちを助けたかっただけだ。自分たちの妹や親族もいたしな。殺人、強盗、詐欺、助けるためになら、なんでもやった。その内、貴族たちがライバルの貴族の間違った情報を俺たちに掴ませようとしてきた。わけがわからなくなって逃げた先が南の洞窟ってわけだ」
 ラウタロは淡々と自分たちについて話した。言葉は少ないが、初めに会った時、『この国がおかしいのか、俺がおかしいのか、わからねぇ』と言っていた理由はわかった気がした。
「だが洞窟には、先客がいた」
「ワシだ」
 今度はベン爺さんがラウタロの話に割って入った。
「血気盛んな星詠みの民たちが水の精霊様を探ろうとして、呪われる者が続出していてな。療養も兼ねて身を隠していたんだ」
「えー王の夫であるはずのベンジャミンさんですら、このように王都に近づこうとしませんでした」
 再び、サッサさんが説明をし始めた。
「これが、この国のねじれです。主に、水の精霊様及び吟遊詩人が原因となっているわけですが、このねじれに終止符を打とうとしたのが、二人の息子、つまり私の甥であるボリビアーノです。まぁ、なにより自由を求めていた男でしたからね。自分の娘には勇者の宿命を受けさせたくはなかったのでしょう。この国の男全員を水の勇者にして娘を隠し、女性全員をバカな貴族から守るために水の精霊にするという宣言をしました。ボリビアーノはもっと理由をあげるかもしれませんが、概ねそういうことだと私は理解しています」
 サッサさんはお茶を一口飲み、さらに続けた。
「ただ、ボリビアーノにもわかっていないことがありました」
「自分がセイレーンに恋をしてるってことと、水の精霊様が水の勇者を見つけられなかったら南部が雨期に冠水するってことね」
 レミさんが割って入り、サッサさんは目をつぶって譲った。
「人って自分の気持ちが一番わからないのよ。でも、傍から見たらすぐにわかる。だからコロシアムから帰ってきた彼に、私はすぐ別れを切り出した。彼には自分の気持ちに素直に、自由でいてほしかったから。まぁ、ムカつくし、一生許す気はないんだけどね」
 レミさんは俺達の方を向いて、「お互いを罵り合っていても、他人から見ると、違う言葉に聞こえる事があるものよ」と言った。そんなバカな。
「えー、それから二十年、水の勇者は現れず、南部は冠水に見舞われることになりました。南部の町が幾つか消え、衰退の一途を辿り、他国からの脅威にさらされることも増えていきました。そして女王が南部の民を北部に移住させるか、切り離すか、決断を迫られていた矢先、コムロカンパニーさんが現れたのです」
 ようやく繋がった。この国の、いろんな人のいろんな思いが絡まっていたんだな。
「事情はわかりました」
 女王が立ち上がり、
「この国に水の精霊様がいるということは、他国に対する牽制になりますし、実際にその御蔭で、現在守られているという側面は否めません。ですが、それではこの先ずっと悲劇が繰り返され、新たなる世代にも、このねじれた国のまま、手渡すことになります。それでは、あのバカ息子が報われませんし、私の右目もレミリアの片足も、ソニアも、歴代の水の勇者も、勇者が愛した人も、この国の民も救われません。どうか、どうか、水の精霊様を追い出すために協力して下さい」
 と、頭を下げた。
 こちらとしては、元々、水の精霊をクビにするつもりだったのだ。さらに、一国の女王からの頼みとあれば、やらないわけにはいかないだろう。
「ワシからも頼む」
「俺からもだ」
「王弟として、また、輜重部部隊長としての私からも」
「一国民として、私からも」
「私も」
 ベン爺さんやラウタロ、サッサさん、チオーネ、レミさんがこちらに向かって頭を下げてきた。
「やります、やりますから! 止めて下さい。ダメ人間なんで、期待されるのに慣れてないんですよ」
 謙遜とかではなく、精霊相手だと、できるかどうかわからないからだ。ただ、望まれない存在になってしまった水の精霊はクビだろうな。
「あ、そうだ。水の精霊様が次にどこの部位を狙うか、わかりますか?」
「水の精霊様は右腕を狙うはずよ。もうそこしか残っていないから」
 女王が答えた。
「やはり、人間の部位を揃えたら人間になれると思ってるんですかね?」
「おそらく……」
 どうして精霊は何百年と生きているのに、バカな考えを起こすんだろう。
「ナオキ、オレ左利きだから問題ない。フハ!」
 なぜかボウは笑顔だ。相変わらず、子どもが見たら泣きそうな笑顔だ。練習は捗ってないらしい。
「ボウ、いいか。これはお前の右腕を守る戦いでもあるんだぞ。そう簡単に水の精霊に差し出すな」
「でも、それで水の精霊がいなくなってくれるなら、オレは差し出すぞ」
 ボウの言葉は、言葉足らずな分だけ純粋に聞こえる。
「これが真実の愛か……」
 俺はサッサさんが呟いた声を聞き逃さなかった。
「ボウ、いいか。もっとズルく生きていいんだ! 自分が犠牲にならなくたっていいんだ! バカな水の精霊に右腕を差し出さなくたっていいんだよ!」
「……でも、右腕一本持ってかれても、リタと友達だろ? ナオキは右腕なくなったら、友達やめるか?」
「やめないよ」
「なら、右腕一本くらい、わけない。フハ!」
 俺はボウの頬をつねっていた。
「痛い! ナオキ、なんでつねるんだ?」
「なんとなくだよ」
 リタの気持ちを考えないからだ、とは言わなかった。他人の恋愛になんか口挟んでられないし、二人が、歴代の勇者たちが苦しんだ問題に答えを見つけるかもしれないからだ。人それぞれ愛の形は違う。勇者と魔族の恋愛は、特に違うかもしれないな。みんな違ってみんないい、か。

プゥオーーーーー!

 南からラッパの音が聞こえてきた。
「軍の新兵が行軍から帰ってきたようです」
 チオーネが教えてくれた。
「そう。新兵さん達の行軍が終わって、沼の渡り鳥が北へ飛び立ったら、収穫祭までもうすぐね」
「その前に収獲よ。お母さん」
「そうね」
 レミさんとリタの会話を聞きながら、俺は水の精霊をクビにする覚悟を決めた。

 会議が終わり、俺は一人、誰もいない平原まで走り、神様に連絡をした。
 事情を聞いた神様は『そりゃ、間違いなくクビだね』と言っていた。
『ただ、吟遊詩人ギルドの建物にも教会にも、水の精霊が見当たらないんだよねぇ』
 神様は一応、水の精霊の居場所を確認していてくれたようだ。
「収穫祭には来るらしいんですけどね」
『なら、そこで、だね』
「ちゃんと来てくださいよ」
『行く行くー』
 神様のゆるさはブレない。
『あ、そうだ。邪神から連絡来てない?』
「いや、来てないですよ」
『どこ行っちゃったんだろうなぁ。嫌な予感しかしないよ』
 邪神はどこかで潜伏しているらしい。絡んでこられるとめんどくさいんだけど。
『じゃあ、収穫祭には特別な格好で行くからよろしく~』
「特別な格好って……!?」
 神様は俺の質問には答えず、通信を切った。カボチャの頭にでもしてくるのだろうか。
「収穫祭までに、畑の作物の収獲と、洞窟の民達の引っ越しもあるのか。それから、水の精霊様の護衛もあるな。クビにするのに、護衛なんて必要なのか?」
 俺はブツブツ言いながら、避難所へと歩いた。

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