挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
駆除人 作者:花黒子

~水の精霊を窺う駆除業者~

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

149/250

149話



『え!? ナオキさん、どうしたんですか!? 急に! ちょ、ちょっと! 待ってください! ……チュド!』
 避難所に風呂を作った翌日、アイルが魚を捕まえている間、ジャングルにて俺はセーラと通信袋で連絡を取っていた。
 セーラは戦闘の真っ最中のようで、『邪魔だぁ!!』という声の後、魔物の断末魔の咆哮が聞こえた。
『それで、何ですか? もしかして私が恋しくなりましたか?』
「いや、別に。聞きたいことがあるんだけどさ、セーラが呪いにかかったのって、グレートプレーンズで精霊様を探し当てたから?」
『ナオキさん! 今、グレートプレーンズにいるんですか? どうして? いますぐ脱出してください!』
 セーラの甲高い声がジャングルに響き、俺は通信袋を耳から離した。
「あんまり興奮するなよ。まだ、何も起こってないはずだから。それよりどうなんだ? 精霊様を見つけて呪われたのか?」
『そうです。たぶん!』
「たぶん?」
 思わず俺は顔をしかめた。
「たぶんってどういうことだ? 水の精霊様を見たんだろ?」
『水の……精霊様だったんですか、あれは? 正直よくわからなかったんですよね。私の鑑定スキルでもなんだかわからなかったので』
 未知の生物か。触らぬ神に祟りなし、といけばいいんだけど。
 やはり収穫祭で確認するのが得策か。
「わかった。ありがとう」
『ちょっと待ってください。最近どうしてるかとか教えて下さい! 私も教えますから……』
 その後、お互いの現状を話しつつ、適当に旅で美味しかったものなどについて教えた。
 セーラは魔法学院の近くにあるダンジョンで学友たちと修行しているという。
 魔道具について聞きたがっていたが、俺のスキルはポイントを割り振って手に入れたものだから、大したアドバイスは出来なかった。
 最後に「がんばれよ」と励ますと、大きな声で『頑張りますよ!』とセーラは叫んでいた。
時々、よくわからない『やる気スイッチ』があるので、またしばらくセーラとは連絡を取らなくてもいいかな。

 ドゴッ!! ボゴッ!!

 ジャングルの奥地では、アイルが巨大な猿の魔物と殴り合いをしている。
「あんまりやる気出すなよー!」
「わかってるよー! バランスだろー!」
 俺の声に反応しているので、大丈夫だろう。アイルには「捕食者がいなくなるとジャングルのバランス崩れるからな」と言ってある。
 レッドドラゴンの時と同じ。生態系は微妙なバランスで保っているのだ。捕食者が消えると、ワイバーンが大量発生したり、地獄絵図になることもありえる。
「ナオキー、回復薬~!」
というアイルの言葉とともに、殴り合いは終わった。ケンカのあとは傷を治して仲直りをしているつもりらしいが、魔物からすれば押さえ込みからの絞め技になっている、ようにも見えた。

「ん~それがなぁ。生態系とは関係ない魔物もいると思うんだ」
 ベルサが人差し指を立てながら言った。
 俺とアイルが適度に魚の魔物をジャングルから捕ってきて、ベルサが選別している最中に、生態系のバランスの話になった。
「生態系に組み込まれてない魔物なんているのか?」
「シャドウィックさ」
ベルサは言った。「まぁ、いわゆるゴースト系と呼ばれる魔物は、生殖行為をしなくても発生することがわかっているからね。ただ、正体が煤なのか黒く変色した血液なのか、それとも古い血液に蔓延るカビなのか、未だよくわかっていない部分が多くて、分類したという話すら聞いたことがない」
「じゃあ、ベルサが分類すればいいね!」
「いいなぁ、サボる方法がある奴は」
 アイルと俺が羨ましそうにベルサを見ると、「2人もうまくサボらないとセスとメルモみたいになるよ」と、煙が立ち上る広場の方を指さした。

 セスとメルモは、完全にゼロの顔で鍋をかき回していた。
「信じられないくらい面倒な料理を開発しているところです」
「私たちは何をしているのでしょうか?」
 2人には「精神が崩壊しない程度にしておくように」と言って、そっとしておいた。

「しかし、サボるって一体どういうことをするんだろうね」
 アイルの問いにしばし考えて、
「とりあえず、佇んでみる?」
「佇むかぁ……よし」

「社長、サボってるなら、こっち手伝ってください。シャドウィックに水草荒らされて、枯れてるんですよ」
 ベルサを手伝っている洞窟の民たちが、暇そうに広場で佇んでいる俺に話しかけてきた。
「わかった。夜になったら、ベン爺さんとボウと倒しに行くから」
「お願いします!」
 話しかけてきた洞窟の民は、一緒にベルサを手伝っている洞窟の民に「本当だったな!」と頷いていた。
何が本当だったのか、聞くと、「俺とアイルが暇そうにしているから、手伝ってもらうように」とベルサからお達しがあったそうだ。
まったくうちの会計は気が利いている。

「あ、社長! 社長が言っていた通り、娼館に売り込みに行ったらうまくいきましたよ!」
 回復薬を売りに行っていた洞窟の民たちが帰ってきた。
「社長、俺はうまくいきませんでした。門前払いでしたよ」
 うまく売れた者も売れなかった者も、なぜか俺の周りに集まってくる。
「うまくいった人たちはその調子で、売れなかった人たちも焦ることなくゆっくりやっていきましょう」
 あまり頑張らなくてもいいのだから。
「なるほど、地道に顧客を広げていくことで、浸透させるということですね」
 いつの間にか、近くにいたサッサさんは「流石です!」と俺の肩を叩いた。
 良いように解釈されてしまったようだが、俺は何もしていない。ただ、佇んでいるだけ。
 そして、回復薬を売る洞窟の民たちやサッサさんがいなくなると、再び佇む。
ずっと佇んでいると、避難所の広場では皆、なにかしら仕事を持ち、働いていることがわかる。他人が働いているのを見て、俺たちはただ佇む。
……。
 セスとメルモが鍋をかき回している音を聞きながら、俺とアイルは限界を早々に迎えた。
「いったい私たちは何をしているんだ!?」
「向いてない! 俺たちは佇むことに向いてない! 止めよう!」

 俺はすぐに神様と連絡を取った。
「向いてません! 俺たちはサボったり佇むことに向いてません!」
『へ? コムロ氏、何言ってるの?』
「だって、向いてないんですよ! しょうがないじゃないですか! もう南部差別とかを証拠にせずに、呪いとかをなんとか証拠に出来ませんかねぇ?」
 戸惑っている神様に向かってまくし立てる。
『そんなこと言ったって、コムロ氏が呪いを治しちゃったんじゃ……』
 そうだった。呪いを証拠にしようにも、呪われた人たちは俺が治しちゃったんだった。
「でも、この前、水の精霊を見つけ次第、クビにできるって結論になりませんでしたっけ?」
『それはだけど、冠水を水の精霊が止めていた証拠を見つけないといけないよ』
「だったら、もう良いんじゃないですか?」
俺は言った。「水の精霊と共存していくってことで。クビにせず、徐々に北部と南部の差別をなくして、水の精霊様はアンタッチャブルな存在として法律でも作れば」
『ヤケになるなよ。コムロ氏』
「ヤケにだってなりますよ! 俺がやってることは矛盾してるんですから! 働けば働くほど、依頼は達成できなくなるわけで! 神様は使えないし!」
『あ! 逆ギレってやつだ、それは! 僕に怒ったってしょうがないじゃないかぁ』
 まったく、そのとおりだ。ただ、神様なんだから、愚痴くらい聞いてくれたっていいじゃないか、とは思う。
『コムロ氏だってわかっているだろ? 水の精霊をクビに出来なければ、いつかまた同じように誰かが呪われる。なにより、水の精霊が何かの拍子にコムロ氏みたいにヤケになったり、逆ギレしたら、平原にいる民はどうなる? 水の精霊は平原すべてを水に沈めることだって出来るんだ』
「はぁ……そりゃあ、やらなきゃいけないってことはわかってるんですけどね。水の精霊をクビにする糸口を自分で消していってるみたいで。まぁ、神様に怒られる前に、逆に怒ってみせただけです」
 適当なことを口に出して、ヤケになった自分へのいいわけをしていることは自覚している。なにをやっているんだか。
『ふふふ、人間は面白いな。矛盾を抱え、矛盾している自分に怒る、か。ま、サボると考えずに、取っていなかった休暇をまとめて取ると考えたほうがいいかもしれないよ』
「そうします」
 通信袋を持っている手に脱力感を覚えた。そろそろ切らなくては。
「神様、収穫祭には来てくださいよ。水の精霊は出席するらしいですから」
『あ、う、うん。そ、そうだね。ま、予定が合えば』
「ちょと!」
 と言った時には切れていた。
 神様のヤロー!

「休暇だ、休暇ぁ!」
 俺はうちの社員全員に休暇するよう言って回る。
「休暇? ってことは何してもいいんですよね!? じゃ、もうサボらなくてもいいんですよね!」
「よーし! 破れた服回収しまーす! 全部直してやるんだから!」
 セスとメルモはそれぞれ、鍋をほったらかして散っていった。
 アイルは笑いながら、空中を駆けて、どこかへと消えた。たぶんジャングルだろう。
 ボウの小屋で論文を書いていたベルサは「あ、うん」と言っただけ。仕事だろうが休暇だろうが、変わらないらしい。
 俺が不機嫌そうに歩いていると、
「やけに機嫌が悪いな」
と、ベン爺さんに言われた。
「ちょっとクライアントとケンカして」
「クライアント?」
「依頼人のことです」
「大丈夫なのか、社長」
 ベン爺さんは、依頼人を国と勘違いしているかもしれない。
「大丈夫です。あ、ベン爺さん、うちの社員全員、今日から休暇ですから」
「そうか。畑と養魚池の方は……」
「畑はボウとリタに聞いてください。養魚池は小屋にいるベルサに。たぶん、ずっと篭ってると思うので」
「わかった」
その後、避難所にいる洞窟の民たちに、自分たちが休暇を取ることを伝え、俺はひとまず、モラレスの宿に帰ることにした。避難所にいると、仕事を手伝ってしまいそうになるからだ。

休暇と言っても何をすれば良いのか。
モラレスの町を歩きながら、なにか駆除に使えそうなものはないか、水の精霊に繋がりそうなものはないかと、探してしまっていた。
いかんいかん、休暇だ。仕事のことは忘れよう。
風呂でも覗きに行くか、と思っていたら、
「あたしの尻触りたきゃ、銀貨持ってきな!」
 と、ボコボコにされた酔っぱらいが居酒屋から転がってきた。
 よし、覗きは止めよう。

 考えてみれば、ポンプのメンテナンスや読んでいない魔法書もある。
 宿に着くと、査察官のアプとチオーネが荷物をまとめていた。
「あれ? もう帰るのかい?」
「いえ、ベンジャミンさんが避難所の方に寝床を作ってくれて、そちらへ行くことになりました」
 アプが答えた。
「社長さんはこの宿に?」
「うん、ちょっと俺たち休暇を取ることにしたから」
「そうですか。先は長いですもんね」
 丸い顔のアプは人当たりが良い。
 チオーネはなぜか俺をじっと見ている。
 なにか顔に付いている?
「この前は、すみませんでした!」
 急にチオーネが頭を下げてきた。
「なに? なんの話?」
「王都で吟遊詩人たちに絡まれた時、止めてくれたじゃないですか」
 アプが説明してくれた。
「ああ、気にしなくていいよ。楽に行こう」
 そう言うと、チオーネは頷いて、慌てたように荷物のリュックを背負い、宿の外に出て行ってしまった。
「怒らせたかな?」
「いや、恥ずかしいだけだと思います。じゃ、僕も行きます」
 アプは「よっ」と荷物を背負って、宿を出た。

 宿には自分だけ。久しぶりに1人を楽しめそうだ。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ