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駆除人 作者:花黒子

~水の精霊を窺う駆除業者~

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148話

 会議の翌日から、俺たちはやる気を出さないように気をつけ始めた。
「どうかしたんですか?」
「なんのボケだ? フハ」
 リタとボウは不思議そうに、俺たちを見ながら、畑を拡大していた。
 あんまり拡大するとこちらとしては困るのだが、2人とも優秀で、畑を手伝っている洞窟の民たちのやる気もあるので、確実に野菜の苗は成長している。
「なに暗い顔してるの? こっち来てちょっと手伝って!」
 レミさんも空気を読まずに発掘現場へメルモとセスを連れて行き、発掘を手伝わせていた。古代人の新しいゴミ捨て場が見つかったらしく、忙しいのだとか。
 ベルサは洞窟の民たちに指示だけを出し、論文を書くという名目でボウの小屋に篭った。
 実際、微魔物の論文を書いているようだ。
ベルサが出した指示は的確だったようで、養魚池の生態系を保つ仕事は進んでいっている。
俺とアイルはというと……。
「ここが崖の上か……!」
「信じられない!」
 ジャングルにベン爺さんとサッサさんを連れてきていた。
 ほとんど観光案内。仕事に結びつかないようなことをして、どうにかサボろうとした結果、2人の希望を叶えることとなったのだ。
 2人を俺とアイルがそれぞれ背負子で背負い、崖を登った。
ジャングルに着いてすぐにサッサさんはカム実に噛まれて負傷するも、怪我のことなど忘れているかのように興奮している。病原体が怖いので、塗るタイプの回復薬でとっとと治しておいたが、足元に気を張っていないため転んだりして怪我するのではないかとヒヤヒヤだ。
ベン爺さんは植物に興味があるようで、木の実や花の種をポケットいっぱいに詰め込んでいた。
「これはいいかもしれん……」
 と、つぶやいて、ヒガンバナのような花を摘んでいた。
 数分後、ベン爺さんは額から汗を流しながら苦しみだした。見れば、花を摘んでいた指先が膨らんでいる。
指先を軽く切り血を出してから、毒消しのアンチドーテという薬を飲ませておいた。
「2人とも油断しすぎです」
 厳重に注意をしつつ、向かってくるヘビの魔物を真っ二つに裂いた。
 昼飯はヘビの魔物の白焼きとなった。

 ベン爺さんとサッサさんは「ジャングルに小屋があったほうがいい」「崖に井戸の滑車のようなものがあれば、我々もジャングルまで来れる」などと話しながら、ヘビの魔物の白焼きの美味しさに驚いていた。
「崖の上の魔物はこんなに身が引き締まっているのか!」
「こいつは美味しいですね!」
 2人はジャングルに入ってからずーっと感動している。
「あ、そうだ。収穫祭に水の精霊様が来るらしいじゃないですか」
 自分の分の白焼きの焼け具合を見つつ、ベン爺さんに聞いた。
「んぐっ! なんだ、藪から棒に」
「いや、冒険者ギルドから護衛の仕事を頼まれたんです。本物の水の精霊様の護衛を」
「そうか……。まぁ、お前さんたちなら問題ない。その頃にはワシたちは崖の下の洞窟に戻ってるだろうなぁ……」
 ベン爺さんは、鬱蒼とした木々の隙間から差し込む日差しを見て言った。
「洞窟の民の人たちは収穫祭に出ないんですか?」
「ワシたちの中には札付きだっているんだ。そりゃ無理だろう」
「でも、南部開発機構の書類には、ベン爺さんやラウタロさんの名前が書いてありますよね?」
 俺はサッサさんに振った。
「ええ、まぁ。ははは」
 こめかみを指で掻きながらサッサさんが答えると、
「なんだと!」
 と、ベン爺さんが立ち上がった。
「まぁまぁ、書類上はどうにでもなりますから。同姓同名だっているでしょうし、逃げ出した犯罪奴隷は見つけた人間が生殺与奪権を持っていますしね。なにより、南部開発機構の書類には女王の印が押されているので」
「サッサ! お前、それを知っていて……! 鼻ったれの小僧にしてやられた」
「今年の収穫祭には女王も来るつもりだそうです」
 サッサさんの言葉で、ベン爺さんの眉間の皺が深くなった。
「ベン爺さんは、女王となにかあるのか?」
 それまで黙っていたアイルが不意に聞いた。
「ない! なにもない! サッサしゃべるな! 口を開くな! 声を発するな!」
 と、ベン爺さんはまくし立てた。
 なにかあると言っているようなものじゃないか。女王とベン爺さんの年齢は近いように思うが、まさかな。
「人間長く生きてると隠したい秘密くらいあるもんだ。鼻ったれのサッサにもあるくらいだからな。聞くな」
 聞くなと言われると、聞きたくなるものだ。
 だが、それ以降、サッサさんは黙々と白焼きを口に入れ、声を出さずに顔で美味しさを表現していた。
 俺とアイルは、秘密を握っている者同士を眺めながら、「仲が良いな」と笑った。
 ベン爺さんの秘密は水の勇者と関係することかもしれない。洞窟の民の中に水の勇者がいるなら、ない話ではないだろう。
ただ、今さら水の勇者についての秘密は知りたくはない。俺たちが知ったところで、吟遊詩人たちや水の精霊にバレる可能性を増やすだけだ。
「秘密は秘密にしたままにしておいてください。それよりも、水の精霊様って吟遊詩人たちのトップだったって聞いたんですけど、王都の吟遊詩人ギルドの本部みたいなところにいるってことなんですかね?」
 俺は王都で見た教会を思い出していた。
 祭りの前に下見がてら、神様を連れて王都に行くのもいいか。
「いや、それはわからん。水の精霊様は祭りやなにかイベントでもない限り、あまり人に姿を見せない。探ろうとするなよ」
「なにか問題が?」
「呪われるんだ。お前さんも見たろ? 星詠みの民が呪われて身体の一部を石にされた姿を。探ろうと無闇に近づいただけであの様だ。他国の諜報部員が水の精霊様を探り当てたら、一族全員が呪われた上に奴隷落ちしたと聞いた」
 んっ!? そんな話どこかで聞いたことがあるな!
「その奴隷落ちした一族ってゲッコー族って名前じゃなかったですか?」
「ん~いや、覚えておらんが」
 ベン爺さんは「知り合いか?」と顎を擦りながら聞いてきた。
「ゲッコー族って……セーラか?」
 アイルが気がつき、俺を見た。確かに、星詠みの民たちがかかっていた呪いの種類はセーラと同じだった。
 ただ、俺がセーラから聞いた話だと奴隷落ちしてから呪われたはずで、それは鑑定スキルがあったからと言ってなかったかなぁ。しかも、セーラの母親にも会ったことがあるけど、呪われてはいなかった。
「聞いた」ということは口伝だから、いろいろと尾ひれがついているのかもしれない。
ま、久しぶりに連絡を取って本人に聞いてみるか。
「本物の水の精霊様と会いたいなら、祭りまで待つことだな」
「そうします」
 ベン爺さんから忠告を受けた時、ポツリと雨が降ってきた。
 空を見れば、雨雲がすごいスピードで流れている。
 大平原と違い、ジャングルの天気は変わりやすいようだ。
 俺とアイルは、急いで背負子にベン爺さんとサッサさんを乗せ、大平原へと戻った。

 ベン爺さんは避難所に戻ると、リタにジャングルで見つけた種や花をプレゼントしていた。それが目的だったのか。
 その後、畑に雨を降らせている星詠みの民を捕まえて、ジャングルについて語って聞かせていた。
 サッサさんはボウに雨に強い簡易的な小屋の作り方を教わり、どうにか大きな滑車で崖の下から上まで人を運べないかと聞いていた。
 避難所の広場では、セスとメルモが、査察官のアプとチオーネとともに昼食の食器を洗いながら、保存食について語り合っていた。

「まったく、新人たちときたら、仕事ばっかりして困ったもんだ。あんなんじゃ、真のダメ人間にはなれないよ」
 ろくでもない声がした方を見るとベルサが、ハンモックに揺られていた。
「ナオキとアイルもだよ。わがままに付き合って、接待なんかしちゃって。はぁ~まったく、うちの社員たちはなにを考えているのか」
 俺とアイルにも矛先を向けてきた。
「そういうベルサはちゃんとサボってたんだろうね」
「私は全部、洞窟の民任せだよ。ただ、養魚池を手伝ってくれてる洞窟の民たちが、1言えば10わかるタイプの人たちだったってだけで……私自身はダメ人間を極めたようなものだよ」
「じゃ、別に論文なんか書いてないんだな? 書いていたとしても俺に一切読ませずに燃やすと言うんだな?」
「そんなこと言ってないじゃないか! 窒素と微魔物についての論文を書いたんだから、読んでもらわなくちゃダメに決まってる!」
「このやろ、お前が一番仕事してるんじゃないのか!」
 俺はベルサの頭を掴んで、ハンモックごと揺らした。
「やめろー脳が揺れる~!」
「あ、もうベルサ汗臭い! 仕事のしすぎだな! そんなやつはこうだ!」
 アイルも脇腹をくすぐる。
「あ~もう! アイルやめて~! ナオキ、風呂~!」
「よし! じゃ、風呂でも作るか!」
 と、悪ふざけをきっかけに風呂作りが始まった。

「またなにか変なものを作ろうとしている匂いがするな。フハ」
 妙な匂いを嗅ぎつけて、ボウもやってきた。
 風呂は避難所の広場の近くの丘が良いだろう。風呂に入ってすぐ寝られるように。
 レミさんの調査が終わっていて、養魚池の仕事にも邪魔にならない場所が条件だ。
「え!? お風呂! いいじゃ~ん! こっちこっち、こっちがいいと思う。お風呂いいじゃ~ん!」
 レミさんはノリノリで、場所を決めてくれた。
 俺がいなくなっても使えるようにと、石焼き風呂を作ることに。
 焼け石を入れる小さい穴と、湯船用の穴を掘って穴を底のほうで繋げる。
「なんか、養魚池と同じような構造だね」
「確かに」
「でも、みんなで入れるようにした方がいいんじゃない?」
「そうだね」
「じゃ、浴槽の周囲に焼け石用の穴を沢山作ったら?」
「そうしよう!」
 ベルサと俺とアイルは、いつの間にか真剣に風呂を作り始めていた。
「浴槽は木のほうがいいんじゃない? ナオキの魔法陣じゃ壊れたら直せなくなるから」
「そうだな。じゃ、ちょっとジャングル行って切ってくる!」
「私も行く!」
「オレは?」
 ボウが仕事を探している。
「ボウは石を焼くための窯作っといてくれ」
「わかった!」
 そんな風に風呂づくりは急ピッチで進んだ。

 俺とアイルが、全長20メートルほどの大木を担いで戻ってきた時には、洞窟の民たちも、査察官の3人も目を丸くしていた。
 風呂作りの現場には人が集まってきたので、全員手伝わせる。
「いいかぁ! 今は養魚池よりも畑よりも風呂が大事だ! 皆、心して作業にかかってもらいたい!」
 社長っぽく鼓舞すると、全員が「おおっ!」と返してくれた。精神衛生上、やはり風呂は大事なのかもしれない。
「ヤバい、日が暮れてきた。誰か明かりを!」
 ベルサの言葉通り、日が沈み始めていた。
 一先ず、アイルの光魔法で凌ぐことになったが、アイルは鍛え上げた剣のスキルで、木の板を作るので忙しい。なにか明かりになるようなものは……。
「そうだ! 俺、篝火台を頼んでたんだ! ちょっと受け取りに行ってくる!」
 俺は急いでモラレスの鍛冶屋に行き、不機嫌そうな女将さんから篝火の脚と台を受け取った。なにか文句を言っていたが、銅貨を2枚握らせて、店を出た。

 避難所の風呂作りの現場に戻ると、すでに窯作りを終えたボウが、木の板に墨を入れていた。建築スキル、恐るべし。
 意外に手先が器用な、元犯罪奴隷の洞窟の民たちがボウの付けた墨通りに木の板を切ったり削ったりしている。「刃物を使うのは得意なんだ」とラウタロは言っていた。
 削って要らなくなった木の破片を篝火台に入れて、火を点け、明かりを灯す。
 作業は深夜にまで及んだ。

 風呂が出来上がったのは月が天高く上った頃だった。
 石は平原にいくらでも転がっているので、集めるのは簡単。水は水魔法が得意な星詠みの民が出してくれた。
ボウの作った窯は乾燥待ちだったので、今夜だけ俺の魔法陣で石を温めることに。加熱の魔法陣に一気に魔力を注ぎ、石を魔法陣の中に入れた。
十分に熱くなった石を小さな穴に入れていくと、ジュッと音を立てて水に沈んだ。
いい感じに水がお湯になったところで、順番に入る。
最初は女性陣が入り、後が男性陣。女性陣の中にはもちろんアイル、ベルサ、メルモがいて、覗きは即死を意味するので、チャレンジャーはいなかった。

「あ~~~~~~」
 満点の星空の下、風呂に浸かると自然と声が漏れる。
「しまった。普通に仕事してしまった。良い汗かいてる場合じゃない」と反省しつつ、風呂の魔力には敵わなかった。

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