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駆除人 作者:花黒子

~水の勇者と興ずる駆除業者~

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145話



昼飯を食べて、サッサさんたちを案内して、施設を説明していると、途中からベン爺さんがやってきて、「案内ならワシがやる」とサッサさんたちを連れて行ってしまった。
まぁ、知っている人のほうが伝わりやすいだろう。

 時間が空いたので、俺はボウたち畑班の方に向かった。
 畑では、洞窟の民たちが水路から水魔法で水を汲み、雨のように降らせているところだった。畑からは、なんの野菜かはわからないが、すでに芽が出ていた。
「おーい! ボウとリタはいますか?」
「あ、社長さん。ボウなら水路の向こう側だよ」
 降らせている雨を止めて洞窟の民の1人が答えた。
 水路の反対側を見ると、鍬を振るうボウとリタがいた。畑を拡大して畝を作っていたところのようだ。
 水路を飛び越えて、しばらく黙って様子を見ていると、リタが気がついた。
「ナオキさん!」
「お、ナオキ。来たか」
 二人とも作業を止めて、俺の方に来た。
「立派な畑だな」
「うん!」
 ボウは誇らしそうに頷き、リタは笑っている。
「この前言ってた水草を肥料にするって話なんですけど、水草を乾燥させて、細かく切って土に混ぜようと思ってるんです」
 リタが説明してくれた。
「うまくいくといいな」
「きっとうまくいくさ。リタは畑の天才だ。フハ」
 ボウがそう言うと、リタは照れたように顔を赤くした。
「いろいろ順調そうで、安心した。どこまで畑を広げる気なんだ?」
「わからないけど、雨期になる前に育つものは出来るだけ作りたいんだ。収穫祭に間に合えばいいんだけど。フハ」
 そういや、ボウは収穫祭に自分が作った野菜を出したいって言ってたなぁ。
「何かいるものがあったら、言ってくれよ」
「あ、なら、アルマーリオが出るんで、罠を仕掛けてもらえませんか?」
「おお、わかった。それが俺たちの本業だ。やっておく」
 リタの要望は、すぐに叶えた。畑の周りにベタベタ罠を仕掛けるだけだが、以前依頼で成功していたので問題無いだろう。
 畑にいる洞窟の民たちに向かって「罠を仕掛けたので、畑の周辺の板には気をつけてください」と注意した。

「うわっ! なんだこれ!」
 言ってる側から、俺の後ろでベタベタ罠にかかっている奴がいた。
 回復薬を売りに行って戻ってきた洞窟の民の1人で、あまり足元を見ていなかったらしい。あまり売れなかったようで、落ち込んでいる。
「社長さん、なかなか難しいっすわ~」
 ベタベタ罠を取ってやっていると、その洞窟の民がボヤいた。
「そんなに売れないですか?」
「ええ。薬屋は領主に押さえられてて置いてもくれませんし、こんな身なりなんで町の奴らも警戒してるんですわ」
 言われてみると確かに、洞窟の民たちの衣服はところどころ破れたり汚れたりしている。これでは回復薬を売る姿ではない。どうして気が付かなかったんだろう。
「お前も売れなかったのか?」
「作るのより売るほうが難しいとは思わなかったな。お前は?」
「一個売れたけど、それだけだ」
 次々と回復薬を売りに行った洞窟の民たちが戻ってきたが、やはり町の人たちは領主を恐れて買ってくれないようだ。
「悲惨なのは北の町の方まで行った奴らですよ。衛兵に見つかって殴られたってよ」
 そう言った洞窟の民が指さした方を見ると、顔に青痣を作って戻ってきた洞窟の民がとぼとぼ帰ってきた。
「なんで作った回復薬使わないんですか?」
 ナオキが声をかけた。
「こんな痣、傷のうちに入らないよ。こっちは社長に呪いを解いてもらわなきゃ、腕丸ごと切り落とすところだったんだぜ。商品の回復薬を使うわけにはいかねぇよ」
 そう言って、洞窟の民が3本しかない指がない手を見せてきた。
「別に殴られて痛いとか悔しいとかはねぇんだけど、せっかく社長に教えてもらって作った回復薬が売れないってのが悔しくてね」
「そうなんだよなぁ。俺たちは、はなっからプライドなんかねぇんだ。どんな方法でも売りてえんだけど、売る方法がさっぱりわからねぇ」
 話を聞いているうちに次々と回復薬を売りに行った洞窟の民たちが戻ってきて、いつの間にか俺の周りに集まった。売れなかったことが、よほど悔しいようで地面に座ったまま動こうとしない。要は商売がうまくいかず、いじけているのだ。
 まったく商売下手だな。
「回復薬ってどういう人が最も欲しいか、考えました?」
 座っている洞窟の民たちに話しかけた。
「そりゃ、けが人だろ」
 洞窟の民の1人が答えた。
「そうです。この国で最もケガをする場所は?」
「そんなもんコロシアムだよ。社長に言われなくたってわかってるよ。でも北部の町では北部の貴族とコロシアムの経営者が牛耳ってるんだ。売れやしないよ」
「とはいえ、貴族やコロシアムの経営者がケガをするわけじゃない。この国のコロシアムは腕に自信のある人なら出られるんですよね? その人たちはどういう人たち多いですか?」
「それは、セスのあんちゃんみたいな筋骨隆々の奴らだろう? たまにアイルの姉御みたいな人もいるけど、稀だな」
 座っている洞窟の民たちは俺が質問する度に、顎に手を当てたり、空を見上げたりして、それぞれが考え始めている様子だ。
「つまり、男が多いってことですよね。コロシアムで殺し合いをして興奮した男たちが行く場所ってどこですか?」
「そらぁ……うまい飯屋、いや、娼館か!?」
「そう、回復薬を置いてある娼館ってどうです? 今まで心だけを癒やしていた娼館が身も心も癒やし始めたら流行りそうじゃないですか? 一流の剣闘士なら高い金を払ってでも行きたいと思うんじゃないですかね?」
「ってことは俺たちは娼館に回復薬を売り込めば良いんだな。娼館かぁ……確かにそれなら売れるかもしれねぇ」
「要はどういう人たちに売るのかってことです。娼館には『うちの商品を買えば、こういうビジネスも出来ますよね』て提示するのも、売るための武器になる」
「売るための武器か。考えたこともなかったな……んん……」
「「「んん……」」」
 洞窟の民たちは唸るような声を出して納得していた。
「でも、町の普通の人たちにも、いざというときのために買ってもらったほうがいいんじゃないか?」
「確かにそうなんですけど、必要に迫られないと人は買わないでしょ」
 町の普通の人たちにとっては、めったに大きなケガをするわけではない。
青痣作って帰ってきた洞窟の民と同じように、軽い傷なら自然に治るのを待つだろう。要は保険として持っておきたくなるようにすればいい。
保険はレディたちが売るほうが良いと思うけど、ここで座っている洞窟の民たちはほとんどがおじさんだ。
ただ、武器はある。
「社長。やっぱり俺たちじゃ売れないかな?」
「いや、そんなことないですよ。武器はあります」
「本当か!?」
「とりあえず、その青痣に塗るタイプの回復薬を塗ってみてください」
「え~そんなもったいない」
「いいから、治してください」
 青痣を作ってきた洞窟の民は「わかったよ」と回復薬を顔に塗ると、みるみるうちに青痣がなくなりキレイに治った。
「やっぱり、すごいな」
「ああ、効き目は確かだ」
「もっとヒドい傷だって治せる」
 洞窟の民たちは口々に自分たちが作った回復薬を褒めた。
「皆さん、今感心したでしょう。初めて見た時は驚きませんでした?」
「そりゃ、驚いたさ」
「それを町の人にも見せればいいんです。殴られても平気な身体と気持ちがあるなら、思い切って殴られてケガをして、人を集めてください。集まった人に治る様を見せれば、あなたたちのように驚き、感心するでしょ?」
「確かにそうだ。でも社長」
 誰だって殴られるのは好きじゃない。
「もちろん、無理に殴られなくたって良いんです。ケガした人や青痣を作っている商人の下っ端の子に回復薬をちょっとだけ使って見せたらいいんです。この回復薬が効くってことがわかれば、買う人も出てくるでしょう。もしくは、その手を見せてあげればいいんですよ。『この回復薬がなかったら、腕丸ごと切らなくちゃならなかったんだぜ』なんて言ったら、これほど説得力のある商売文句ないですよ」
 指が3本しかない手を持つ洞窟の民に言った。
「ハハハハ! そりゃそうだ!」
 洞窟の民たちは笑った。
 指がなくなってもこれだけ笑っていられるのだ。たくましい人たちだ。それが何よりの武器だろう。
「あ、それから、皆さん服を洗濯してくださいね。汚いなりじゃ、せっかくの回復薬が安く買い叩かれてしまいますから。破れた所があれば、うちのメルモに言って直してもらってくださいね」
「わかった。社長さんありがとよー」
 洞窟の民たちは、「汚いな、おめぇは」「どんだけ破れてるんだよ、その服」と罵り合いながら、笑って水路の方に歩いて行った。
「あ、ベタベタ罠について言うの忘れたな。ボウ! 『罠注意』の看板作っておいてくれ!」
と、畑仕事をしていたボウに頼んだ。
「わかった! 日が暮れる前に作っておくー! え?なに?」
 ボウの隣にいたリタがなにか入れ知恵をしているようだ。
「フハ、看板作っておくから、なにか便利な魔道具作ってくれ!」
「『なにか便利な』ってわかったわかった。考えておくー!」
 俺は手を振って、モラレスへと向かう。昨夜、ボウとベン爺さんと狩った魔物の魔石と素材を冒険者ギルドに売りに行くのを思い出したのだ。朝から忙しかったので忘れていた。
「モラレス行くなら篝火の脚も忘れずになー!」
 ボウが俺の方に向かって叫んだ。
「わかったー!」
 篝火の脚については完全に忘れていたので助かった。ついでに夜のミーティングに使う場所も確保しておこう。
一日でやる仕事の量が増えてきた気がする。
こんなんで、水の精霊を駆除できるのか。できなかったら、神様に謝ろう。

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