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駆除人 作者:花黒子

~水の勇者と興ずる駆除業者~

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126話

 
「この国がおかしいのか、俺がおかしいのか、わからねぇ」
 両手を長めの鎖で繋がれた同世代くらいの男が言った。髭面で筋肉はセスのようにムキムキだ。男は崖の壁面にある階段に身を預けるようにして座っている。汚れた手には小さな金槌。階段の補修でもしていたのだろうか。
「いや、宿がないか聞いただけなんですけど……」
 俺は急に哲学的なことを言う男に言った。
「こんな場所に宿なんかねぇ。階段上ったところにいる爺に聞け」
 俺は礼を言って、男の脇を通り階段を上った。
 階段を上った先には横穴が掘られ、木のドアがついていた。崖の壁の中を探知スキルで見ると、20ほどの部屋があり、迷路のようにつながっていた。人も多く、奥の部屋にいる何人かは状態異常になっていた。メルモに中の状況を伝えると、眉を寄せて渋い顔をしていた。
 ドアをノックをすると、かすれた小さな声が返事をした。
 ドアが開き、極端に猫背のみすぼらしい老人が顔を出した。老人の首筋にウロコが見えた。爬虫類系の獣人のようだ。
「旅をしている者なんですけど、一晩泊めさせていただけませんか?」
「旅?」
「ええ、明日の朝には発ちます。雨風がしのげれば良いので空いている部屋を貸していただけませんか?」
 老人は俺の顔を覗き込むように見て、「入れ」と言った。
「すいません、ありがとうございます」
 俺とメルモは部屋の中に入った。部屋は小さく、椅子と机が置かれているだけで、奥へと続く通路があった。
「ここはいったい何なんですかね?」
 メルモが小声で俺に聞いてきた。俺は肘でメルモに「聞くな」と合図した。良くはわからないが、聞いてはいけない雰囲気がする。
「ここはこの国で最後にたどり着く場所だ」
 老人がかすれた声で言った。案外、老人は自分たちの状況を話したいのだろうか。
「……最後ですか?」
「町に売ってる回復薬で治らない傷や病に罹った者、牢から追い出された犯罪奴隷、精霊に見放された奴らが集う場所だ」
 老人の言葉には諦念が満ちている。ここはグレートプレーンズの闇か。
「お前ら、回復薬は持っているか? 毒でも構わないが」
 老人が聞いてきた。回復薬も毒も奥の部屋の状態異常の人たちを楽にするために使うのだろうか。
「両方持ってますけど、毒は人には使えませんよ」
 楽にするためとは言え、病人やけが人を俺が作った毒で殺したら寝覚めが悪い。
「そうか……」
 老人はそのまま椅子に座って黙ってしまった。
 まいったなぁ。一晩泊まるだけだと思ってたんだけど、とんでもないところに来てしまったようだ。
「この部屋使わせてもらっていいですか?」
「ん?ああ」
 とりあえず、確認が取れたので固い床に、毛皮を敷いて寝床を作り、さらにIHの魔法陣を描いて、メルモに晩飯を作ってもらう。終始無言で、空気が重い。
「……社長!」
 無言に耐えかねたように、メルモが言った。
「何だよ」
「回復薬を渡さないんですか?」
「あ、そうだな」
 俺は回復薬をアイテム袋から取り出し、老人の目の前の机に回復薬の瓶を置いた。
「一晩泊めてもらうお礼です。受け取ってください」
「良いのか? 回復薬って高いんだろ?」
「いいんです。どうぞ」
 老人は回復薬を手に取ったものの、そのまま動かなくなってしまった。
「社長!」
 メルモが小声で抗議するように言った。
「え?なんだよ?」
「ほら、アイルさんもベルサさんもいないんだから、好きにして良いんですよ!パパッと助けちゃえばいいじゃないですか? 回復薬をいくら使っても私は黙っておきますから!」
「あ?ああ、そうだな」
 人に親切にすると、いつか自分に返ってくるとも言うし、ずーっとこんな重い空気じゃ、一晩もいられそうにないので、出来る限りのことはやろうか。
「あの、良かったら、そのぉ…病気の人やけが人たちを診察してもいいですかね?」
「診察?」
「ええ、これでも診察スキルってのを持ってて、簡単な病気やけがなら見ることが出来るというか……」
「そうなのか。金は払えないぞ。やれる物も何もない」
「いいんですよ。案内してもらってもいいですか?」
「ああ、こっちだ」
 老人は立ち上がって、奥の部屋に俺を案内した。メルモは鍋に食材を入れながら、拳を握って「ファイト!」と声を出さずに口を動かしていた。
 通路は入り組んでいて、屈まないと通れないところもあった。
「ここは、はるか昔、シマントというアリの魔物が掘って作った場所なんだそうだ。ワシがここへ越してきた時は魔物はいなかったけどな」
「ここへはいつから住んでるんですか?」
「20年前だ。川が氾濫して、流されてたどり着いたのがここだった。少し北に行ったところに、崩れた町がなかったか?」
「ありました」
「あそこは以前、モラレスと言われていたんだ」
「今のモラレスはもっと北に移動してますよ」
「そうらしいな。怪我をしてここに来た奴に聞いた。ここだ、入ってくれ」
 老人は通路の先のドアを開けて、俺を部屋の中に入れた。
 部屋の中には12人の病人とけが人が2列に並んで寝ていた。
「簡単なまじないでは助からなかった奴らだ。助かるか?」
「診てみます」
 俺は12人全員に触れ、診察スキルで体内を見ていった。
 足や肋骨などを骨折している者が多く、陶器の破片のようなものが腹部に刺さり毒状態になって体力を奪われている者、魔物の針が皮膚に埋まり麻痺し続けている者、どれも対処可能な患者だったので、その場でアンチドーテという毒消しや、病状に効果のある薬を作り、全員治していく。回復薬は補充してあったものを使った。
 呆気にとられていたように見ていた老人も、全員が治った時には顔をクシャクシャにして喜んでいた。探知スキルで見ると、その部屋の全員が正常になっていた。
「安静にして、寝ててください」
 正常になり起きだした患者たちを再び寝かせる。
「薬師だったのか?」
 老人が聞いてきた。
「いや、駆除業者です。薬学は片手間です」
「そうか。それでも助かった。治ったところでここを出るわけにもいかないし、何も変わらないと思っていたが、人から怪我や病がなくなるというのは、こんなにも嬉しいものなのか」
「次の部屋に案内してくれますか?」
 状態異常になっているのはこの部屋の人だけではない。
「っ!!知ってたのか!?」
「探知スキルを持っているので」
「呪いだぞ!治せるのか?」
「ものによります」
「わかった。こっちだ」
 老人は俺を次の部屋へと案内した。

 部屋の中は暗く、うめき声が聞こえるものの、誰かが動く気配はない。
 先ほどの部屋と同じように2列で寝ている。20人以上いるが、何人かはすでに事切れているようだ。
「診ても?」
「ああ、もちろんだ」
 診断の結果、全員石化の呪いにかかっているらしい。セーラと同じ症状だ。
 回復薬に針を浸して、順番に治していく。事切れている者については手の施しようがないので、老人に言った。
 老人は頷いて、大きめの布を顔にかけて、黙礼していた。

「腕がなかったり、目がないという者もいるんだが……?」
 一通り治療が終わり患者たちを寝かせた後、老人が聞いてきた。
「流石にそれは治せませんね。治癒することは出来ても再生となると俺には出来ません。遥か北の国でそういう技術があるという噂は耳にしたことはありますが、それも本当かどうかはわかりません」
 リドルさんが言っていた異母兄弟の話を俺は思い出していた。
「そうか。しかし、助かった。感謝する」
「いえいえ」
 見返りを求めていない、というとウソになるが、病やけがで苦しんでいる人たちが良くなることは俺にとっても精神衛生上悪いことではない。
 俺はメルモがいる最初の部屋に戻り、晩飯を食べて、就寝。重かった空気も軽くなった気がした。

 翌朝、筋肉ムキムキの手錠の男に怒鳴られて俺は起きた。
「オメェか!あいつら全員治しちまいやがって、どうすんだよ!?あいつらに回す食料もなけりゃ、食い扶持もねぇんだ!雨期が始まったら、食料も手に入らないんだぞ!」
「やめんか!」
 老人が筋肉ムキムキ男を叱って止めた。
 開いたドアから朝日が差し込んでいる。外では子どもと大人が走り回っていた。昨晩、俺が治した患者たちだ。
そりゃそうだ。元気になれば走り回りもすれば、今まで少量でよかった飯だってちゃんと食うようになるんだ。
「まいったなぁ」
 俺は寝癖でボサボサの頭を掻きながら「まいったなぁ」と繰り返した。

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