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駆除人 作者:花黒子

~水の勇者と興ずる駆除業者~

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125話


 冒険者ギルドのテントの中。テント内には俺たち5人の社員とチーノがいるだけで、ギルド職員たちはどこかへ行っているらしい。
 昼食はメルモが作った中身がアンチョビっぽいサンドイッチとセスがチャレンジしたカボチャに似た野菜のポタージュ。狭いギルドのテントでポタージュを作っていいかチーノに聞いたら、「俺にもくれるなら」と言っていた。味はサンドイッチもポタージュも大変美味だった。
「それも一因だろうな」
 俺が農家のおじさんから聞いた『耳あり獣人差別の話』を説明した後、ベルサが言った。
 先代の水の勇者が国民全員に勇者宣言した理由の一つには、耳がある獣人に対する差別を無くす、もしくは薄めるといった狙いがあるだろう。
「それが全ての理由だとは言えないか?」
 アイルがポタージュに口をつけて聞いた。
「その後、ボリさんは国を出ているからな。差別を無くすのが目的だったとしたら、出る理由がない。むしろ少し留まって、差別意識が薄れていくのを見ていたいんじゃないかな」
 ベルサは先代勇者はボリさんだと確信しているようだ。
「ボリさんが国を出た理由は、やっぱりセイレーンの奥さんとの駆け落ちじゃないですか?」
メルモが言った。
「それも原因の一つとして間違いないと思うんだけど、この国って海に隣接してるのか?どこでボリさんはセイレーンの奥さんと出会ったんだ?駆け落ちするくらいだから、逢瀬を重ねたんだろ?どこでだ?」
 西は山脈、南は崖の上にジャングル。セイレーンの生息域が海なら、どこで出会ったのか。ベルサが言うとおり、確かに謎だ。
「今回は謎が多いな。何も知らない土地に来たのだから、当たり前なんだけど。時間かけてしっかり調べていこう」
 俺は心底、神様の依頼のめんどくささを嘆きながらも、仕事だからしょうがないと思った。
「だな。雨期まで3ヶ月か。それまでが勝負どころだな」
 アイルが言った。雨期になって冠水したら、調査できなくなるし、俺たちも足止めを食らうだろう。水の精霊をクビに出来る証拠を掴むためのリミットは3ヶ月。
「マッピングからやっていくか」
 手始めに大平原の地図作りからだ。チーノに地図がないか聞いたら、この冒険者ギルドにはモラレス周辺の地図しかないらしい。
「規模はグレートプレーンズ全体ですか?」
 セスがあまりの業務にビビっている。
「そうだ。他の町で地図があれば、随時買うことになるだろう。ただ地形が変わってる可能性もあるから……」
「大丈夫だ。走りこみには持ってこいだ」
 早くもアイルはやる気になって、屈伸し始めた。
「ちょっと待ってくれ。ある探検家の日誌を雑貨屋で見つけたんだ」
 ベルサが自分のリュックから、分厚い革表紙の本を取り出した。中の紙は弱いようで、破れたり、紙片が飛び出したりしている。
「100年前くらいの探検家のものらしくて、全部は読めてないんだけど、この探検家は大平原での冠水の調査に来てるんだ。ただ、当時、大平原では冠水しなくて、徒労に終わったと記している」
「つまり、過去にも冠水した時期があり、冠水してなかった時期が20年前まで続いて、20年前から冠水が始まったと。リタの母親がそんな説を唱えているって言ってたな」
「うん、だから、私はちょっとリタの母親と話しておこうと思ってるんだ」
 ベルサが言った。
「わかった。そうしてくれ。そういや、アイルは営業どうだった?」
 たぶん、アイルは剣を振り回したりして、宣伝活動をしていたはずだ。
「人は集まったぞ。情報としては、雨期に入る前に収穫祭があって、毎年、優秀者を決めるってことくらいだ。あとは吟遊詩人のギルドがあるらしいってことと、北の方の町で闘技会があるってこと」
 アイルは目を輝かせている。闘技会に出たいんだな。
「マッピングのついでに闘技会に出るつもりなんだな?」
「ちょっとした寄り道だ。小銭稼ぎにもなりそうだし」
「まぁ、別に止めないけど、仕事はしてくれよ」
「わかってるよ」
 食べ終わった食器をクリーナップでキレイにして、仕事を割り振る。
 アイルとセスはマッピングと情報収集のため北へ、俺とメルモも同じ目的で南へ、ベルサはリタの母親と接触。
 水の勇者と水の精霊についての情報があれば、随時通信袋で連絡を取り合うこと。もし、水の精霊に遭遇しても、近づかないこと。あくまでも俺たちはクビにする証拠を集めるだけ。注意事項としてはそんなところだ。
本物の水の勇者に関しては見つけ次第、監視に入るが、自称勇者だらけの国なので、あまり期待していない。
「お前ら、いったい何者なんだ?」
 チーノが聞いてきた。忘れてた。ギルドマスターがいたのか。
「清掃・駆除業者です。ただ、今俺たちが話していたことは内緒にしておいてください」
「ああ、どうせ誰も信じない……でも本当なのか? 精霊をクビにするって」
「ええ。でも別に悪魔に雇われたとかいうわけではありませんよ。もっと上の人たちです」
「上?…まさか!わかった!絶対に言わない!約束する!」
 かなり誤解されているような気がするが、秘密にしてくれるならいいか。

「ギルドの方に依頼が来たら、ナオキに連絡する」
 ギルドのテント前でベルサがいう。ベルサはモラレスの宿にそのまま滞在するので、1日1度はギルドに寄って、依頼を確認することに。よっぽど大きな依頼でもない限り、俺が走って帰ってくれば、間に合うだろう。
「うん、頼む」
「最悪、3日に一度は連絡をして、7日に一度はモラレスで集合だな?」
 アイルが確認する。
「うん。ちゃんと町以外もマッピングしてくれよ」
「わかってるって」
 元気よく返事したアイルの隣では、苦虫を噛み潰したようなセスの姿があった。
「じゃ、皆、よろしく」
「了解」
「わかった」
「OKっす」
「OKです」
 それぞれの方向に向かった。


 俺とメルモは一旦、東に向かい、ボウにメルモが作ってくれた革の帽子を届けることに。
 相変わらず、ボウは地面を掘るように耕していた。
「よう」
「お、ナオキ」
 俺が声をかけるとボウは下手な笑顔で手を上げた。
「これ、帽子な。メルモが作ってくれたんだ」
 そう言ってボウにメルモを紹介しつつ、テンガロンハット風の帽子をボウに渡した。
「おおっ!いいのか!?ありがとうございます」
 ボウは驚きながら、メルモにお礼を言っていた。
「本当に魔族、なんですね」
 メルモは流暢に話すボウに感心していた。
「あと、野菜も少し置いてくよ。食べたら、種を植えてみろよ」
「なにからなにまで、悪いな」
「いいさ。その内、俺たちの会社の秘密基地でも作ってもらうから」
「おう!任せろ!」
「じゃ、また近くに来たら寄るわ。リタによろしくな」
「うん。リタが来たら言っておく。ありがとなー」 
 そう言ってボウは帽子をかぶった。サイズはぴったりだったようだ。角も見えない。
 南に向かう俺たちにボウはいつまでも大きな手を振っていた。


 俺たちは、川を渡り、街道を南へ進む。一先ず行き先は街道の南端。
「社長は、魔族と友だちになって、魔物を駆除できなくなるってことはないんですか?」
 走りながらメルモが聞いてきた。
「ああ。ないな」
「どうしてですか?」
「駆除するのが仕事だからだ。魔物がスキルを持って、知性を持てばコミニケーションが取れる魔族になり得る。魔物と魔族は違うそうだ」
「でも、それを見分けるのか難しくないですか?」
「そうだな。きっとこの先も、俺は魔物と魔族の違いをわからぬまま駆除することになるだろうな。魔族が俺の目の前に立ちはだかるようなことがあれば殺すこともあるだろうし」
「だったら……」
「俺はボウというあの魔族と親しくしている。他の魔族は知らん」
この先、俺が人の害になる魔物や魔族を駆除していくことに変わりはない。ただ、駆除したくない奴が出来た。ということはこの先、ボウのように駆除したくないような奴が出てくる可能性がある。人がその場の環境を壊している可能性もあるだろう。だからってエコを訴えるかどうか、その時、その場で判断していくしかない。可能性はあくまでも可能性に過ぎない。たぶん、今深く考えても、『ボウが気にいったから』とか曖昧な理由しか見つけられないだろう。ただ、俺はそれで良いと思っている。
「明確な答えが出なくても、時は待ってくれない。進んでいく時とともに考え方も変わることもあるだろう? この国で魔族が受け入れられなくても、違う場所に行けば受け入れてくれることもあるかもしれない? 今、この時、この場では個人的な判断をしただけだ。ボウに危険性はない。他の魔物は違う」
「社長も悩むことがあるんですね」
「俺なんて悩みっぱなしだよ。娼館も行けてないしな」
 フロウラから出てからというもの、ほとんど考えていなかったが、大事なことだ。
「社長セクハラですよ!」
 メルモが走りながら、揺れる胸を隠しながら言った。
「社員に手出すほど、焦ってないよ! 仕事がしづらくなるだろ? ま、アイルとベルサがいないから、少し自由にさせてもらおうとは思ってるけど。ナハハハ」
「2人に言いつけますよ!」
「言いつけるんじゃない!」
などと、どうでもいい会話しながら走っていると目の前に数えきれないほどの建物跡が現れた。
 建物はいずれも原型をとどめておらず、そのほとんどが土台の石垣を残し崩れていた。石垣の間には苔が生し、地面からは雑草が生え、白い小さな花が咲いていた。
冠水によって捨てられた町だろう。
真ん中に一本道が通っていて、その道以外は使われていないようだ。
町の跡を通り、さらに南へと向かう。
街道の先に崖が見えてきた頃には、すっかり地平線に日が落ちていた。

 崖の周辺には畑があった。崖の壁面には幾つもの魔石灯の明かりが見える。
 崖に穴を掘り、住居にしているのだろうか。崖の上にはアマゾンがあったが、崖の下には人の生活があったようだ。
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