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駆除人  作者: 花黒子
~駆除業者の日常~
12/491

12話

 初めての森だ。

 実際にはこの世界に落ちてきて以来になる。

 あの時は、全然風景を楽しむ余裕もなく、ひたすら人の気配を探っていたが、今は踏みしめる腐葉土も、新緑に当たる日差しも楽しむことが出来る。


 アイリーンには注意事項として、最近、色違いのゴブリンが出てきているらしく、「気をつけるように」と言われた。


「あの時、何をどう気をつければいいのか、わからなかったが、バルザックはわかってる?」

「つまり、ゴブリンの新種がいるかも知れず、もしかしたら強力な固有種かもしれないので、戦う時に気をつけろ、ということですよ」

「そうだったのかぁ。バルザックは頼りになるなぁ」

「ナオキ様はレベルが高いのに、本当に何も知らないのですね」

「何にも知らないなぁ。しかし天気がいいなぁ。本当に魔物なんて、ぶふっ!!!」


 顔めがけて、何かが跳んできた。

 ほとんどダメージはなかったが、すごく驚いた。

 見れば、角が生えた中型犬くらいのウサギがこちらを威嚇していた。


「フォラビットです!」

「そうか、逃げる?」

「こんな相手に逃げないでください!」

 バルザックはそう言うと、剣でサックリ仕留めた。

「強いんだなぁ。バルザックは」

「違います!この剣がおかしいんです!どうしますか、皮剥ぎますか?」

「いいよ。討伐部位だけ持って行こう」

「わかりました。死体は焼かれますか?」

「そうだね」

 バルザックが耳を削ぎ、俺が地面に魔法陣を描いて消炭にする。

「全く、その力を何故戦闘で使わないのですか?」

「そうか、そうだね。次からはそうする」


 しばらく歩いていると、フォラビットやマスマスカルなどいろいろ出てきた。

 全て消炭にしていったら、「討伐部位が残らないじゃないですか!」とバルザックに怒られた。

 怒られながら、めんどくさいなぁ、と違うところを見ていると、紫色の人型の魔物らしきものが木の影からこちらを見ていることに気づいた。


「バルザック、あれがゴブリンか?」

「そうです。ですが、色が違いますね。アイリーン様が言っていたのはあれではないですか?」

「どうする?また消炭にすると良くないんだろ?」

「私が行きます!」

 

 バルザックはそう言うと、剣を横に薙いだ。

 色違いのゴブリンはしゃがんで避けたが、隠れていた木がすっぱり斬れて倒れてきた。

 ゴブリンは木を避け、慌てて逃げ出した。


「さ、追いましょう」

 バルザックが腰の鞘に剣を納めて言った。

「追うの?」

「ええ、仲間が近くにいるかもしれませんから。仲間がいれば一気に依頼達成ですよ」

「あ、そうか。頭いいなぁ、バルザックは」

「さ、走ってください。見失います」


 バルザックはゴブリンを追って、森の奥へと走りだした。

 俺も、一歩遅れて付いていく。

 日頃の運動不足で、走る速度は遅かったが何とか付いていけた。

 やはりジョギングぐらいはしておくべきか。

 ただ、体力は有り余っているので、全く疲れはしなかった。

 10分ほど走っただろうか、ゴブリンが消えた。

 前を走るバルザックは立ち止まり、俺に止まるように言った。

 

 そこは森の木々が切れ、大きな窪地になっており、土の地面が露出していた。

 ゴブリンが逃げ込んだ洞穴は、窪地の底に斜め下へと向かって伸びている。

 大人が十分に入っていける大きさだが、罠が仕掛けられていたりすると、面倒だ。


「この中、入る気?」

「どうしましょうか?私は鼻があるので、問題はないですが。ナオキ様が探索スキルを持ってれば…」

「持ってるな。はじめからそうすればよかった」


 探索スキルで見てみると、洞穴はとても広範囲に広がっていることがわかった。

さらに、中にいるゴブリンの数は数えられないほどおり、100や200では利かないくらい多い。

 洞窟の入口も多く、6つほどあった。


「さて、どうしようか?」

 バルザックと相談する。

「これは、ナオキ様が得意とする駆除殲滅系の依頼になったと考えるのがよろしいかと思います」

「まぁ、このままにはしておけないしなぁ。かと言って焼きつくすと依頼達成にならないし」


 そう言いながら、バッグの中身を漁る。

 出てきたのはバ○サン型の殺虫剤と粘着性のある板。


「これで、どうにかするか?」

「なんですか?これは」

「こっちは広範囲に使える殺虫剤。これの中身を強力な眠り薬に変えて中に放り込めばなんとかなるかも。そっちは粘着性のある板なんだけど、とりあえずバルザックは眠り薬に使うキノコを採ってきてもらいたい」

「わかりました。エルフの薬屋に置いてあるのでよろしいですね?」

「わかるか?」

「ええ、カミーラ様の仕事を見ておりますので」

「じゃ、頼むな。あ、そうだこれ持ってってくれ」


 そう言って、巾着袋を2つ取り出し、魔法陣を描きバルザックに渡す。


「それに話しかけてみて」

「え? これにですか?」

『え? これにですか?』


 巾着袋からバルザックの声が聞える。


「な。遠くにいても魔力を少し込めれば話せる袋だ。まあ一定時間経つと魔法陣が消えるから2時間ってところだな。これ持ってってくれ。あとで落ち合おう」

「なんと! すばらしい! わかりました」

 バルザックは巾着袋を大事そうに抱えて、森の中に消えた。


「さて、こっちも入り口潰していかなきゃな」

 俺は魔法陣を描いて、土魔法で入り口を塞いでいく。

 探知スキルでゴブリンがいない入り口を優先的に塞ぎ、出入りが激しそうなところは木の板に魔法陣を描いて放り投げる。

 魔力を持つ誰かが通ると岩が降ってくるようにした。

 ゴブリンだって魔力ぐらいあるだろ。


 案の定、一匹目のゴブリンが現れた岩に潰されて大騒ぎになっていた。

 どんどん放り込み、入り口は塞がれた。

 ひと通り、入り口は塞ぎ、空気穴を探す。

 と、ここでバルザックから連絡があった。


『ネムリダケ、確保しました。ナオキ様、聞こえてますか?』

「ああ、聞こえてるよ。じゃ、初めのゴブリンが逃げ込んだ入り口まで来てくれ」

 

 バルザックと合流し、強力な眠り薬を作る。

 作った強力眠り薬を、バ○サンの中に入れ空気穴を探す。

 探知スキルを使い丹念に探すと、川のそばの岩に裂け目があった。

 洞窟とつながっているようなので、強力眠り薬のバ○サンから煙を出し、裂け目に放り込む。

 あとは裂け目を土魔法の魔法陣で塞ぐだけ。


 暫くすると、洞窟の中でゴブリンたちが大暴れしているようだ。

 森の中を探知スキルで見ると、まだ空気穴はあったようで、あちこちで煙が上がっている。

 眠り薬の解毒薬を飲んでから、煙が上がっている場所を土魔法の魔法陣で潰していく。


 バルザックにも魔法陣を板に描き、協力してもらう。

 地面から煙が出なくなった頃、探知スキルで洞窟内を見るとゴブリンの動きが悪くなった。

 効いているようなので、あとは待つだけ。

 その間に昼飯を済ませる。


「今日もだいたい終わったなぁ」

「全く、ナオキ様と一緒にいると魔物を討伐している気がしませんね」

「討伐って言うより駆除だからな。俺がやってるのは。あれ?レベルが上ってる」


 何気なく冒険者カードを見ると、レベルが72に上がっている。

 探知スキルを見ると赤く光っていたゴブリンが暗くなっている。


「強力すぎたのかもしれませんね」

「確かに眠り薬を大量に飲むと死ぬからな。じゃこのまま全員死ぬまで待つか」

 バルザックが淹れてくれたハーブティーでティーブレイクしながら、森の切り株で待つことにした。


 魔物が出たら、バルザックが狩った。

 外に出たまま、帰れなくなったゴブリン達もいて襲ってきたので、バルザックが首を刎ね飛ばしていた。


 どうして紫になったのか、は俺が毒袋を投げつけた時にわかった。

 緑色のゴブリンには毒が効くのに紫色のゴブリンには毒が効かなかったのだ。

 ゴブリンの上位種らしい。


 バルザックの話では、毒を食らいすぎたゴブリンが進化したものだという。

 毒と聞いて、前に毒で死んだマスマスカルを森に投げていたことを思い出した。

 巡り巡って、俺を襲ってきたと思うと感慨深い。


「さて、そろそろ開けますか」

「わかりました」


 まずは空気穴の上の魔法陣を消し、土をどける。

 入り口の岩を消し、風魔法で空気を送り込み、眠り薬を飛ばしていく。

 一応、清浄な空気を吸えるように、手ぬぐいに魔法陣を描き、口をマスクのように覆う。

 入口付近には多くのゴブリンがいたので、討伐部位である右耳をどんどん切り落としていく。

 ゴブリンにしては巨大な個体や、衣装が派手なゴブリンもいて、バルザックは上位種だと教えてくれた。


 上位種はゴブリンよりもはるかに強く、クーベニア周辺に出現するのは稀で、何年かに一度、初心者冒険者を襲い恐怖を植え付けていくのだという。

 どうやらそれを全て駆除してしまったらしい。


「全部、燃やしていいかな?」

「一応ギルドに報告した方がいいかもしれませんよ。これだけの量のゴブリンの集団はなかなかいませんから。専門家を呼んで調査したら、今後未然に防ぐことが出来るかもしれませんし」

「そうだな。あ!魔石だ」


 上位種の中には胸の真ん中に魔石を持っているものもいる。

 お金になるし、魔道具を制作するときにも使えるので回収。


「しかし魔石持ちも多いですね。そういえばベスパホネットの女王蜂から魔石回収しました?」

「いや」

「たぶん、持ってるはずですから、探しておきます」

「すまん、頼む」


 全てのゴブリンの死体から右耳を切ると636匹になった。

 よく切ったものだ。

 倒れているゴブリンの耳を切ったので腰が筋肉痛になってしまった。


「一応、現場保存ということで密閉しておくか?」

「そうですね。そのほうがいいかもしれません」


 俺は入り口に再び魔法陣を描き、洞窟を閉める。

 空気穴はそのままにしておいた。

 

 右耳が大量に入った袋を担いで、町に帰り、ギルドに向かった。

 右耳だけとはいえ、量があるのでそこそこ重い。

 家に帰ったら、どんなに入れても重くならないアイテム袋を作ろうと思う。



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