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駆除人 作者:花黒子

~水の勇者と興ずる駆除業者~

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119話

 

 崖を背に俺たちは再び、立ち尽くしていた。どこに向かえば良いのかわからないのだ。
 広い。広すぎる。
人の気配がまるでない。人だけではない。魔物の気配もない。
探知スキルで見ても虫系の小さな魔物が地面の下にいるくらいだ。
暗くなれば、地平線の彼方に人の生活の明かりでも見えるんじゃないかと思ったが、なだらかな起伏があり、遠くまで見通せない。
アイルが空から確認しても、「向こうに明かりが見えた気がする」と難しい顔で言っていたくらいだ。
 結局、ぐるぐると周辺を走り回った挙句、この日も行き着いたその場でキャンプすることに。
「嫌になるくらい広いな」
 セスの作った魚の煮付けのような料理を食べながら、俺が苦笑い。
「いやぁ、もう少し詳しく聞いておけばよかったな」
「計画が雑だからなぁ。『たぶん、向こう』とかで普通は行かないよなぁ」
 ベルサもアイルも笑っている。
 笑うしかないのだ。
「でも、もう水の勇者がいるっていう国には入ってるんですかね?」
 セスは真面目に聞いてきた。
「入ってるんじゃないか?」
「入ってなかったら悲惨だもんな」
「入ってると思おう」
 俺たち会社の古株の3人が適当に答える。
「逆にこっちがどんどん火を焚いて見つけてもらうっていうのはどうです?」
 メルモが言った。
「それいいな!そうしよう!」
「なら、私が光魔法で光の玉でも作ろうか?」
 アイルが提案してきた。
 一瞬、こいつ何言ってるんだ? と思ったが、そういえばアイルと初めて会った時、光魔法で自分の姿を隠していたことを思い出した。
 そうだった。アイルは筋肉バカの剣士ではなく、ちょっとした魔法も使える魔法剣士だったのだ。
「最近、伸び悩んでいてな。剣術スキルも体術スキルも限界に達しているようで、スキルレベルの低い光魔法のスキルを上げようか、と思ってるんだ」
「え!?アイルさん魔法使えるんですか!?」
 セスが声を上げ、メルモと共に驚いていた。
 ベルサも心配そうに見ている。そうか、アイルが光魔法を使えることは俺しか知らなかったのか。
「失敬な。これでも私は魔法剣士だ」
 そう言って、アイルが手の平から、光の玉を頭上高くへと打ち上げた。
「「「おおーっ!」」」
 知らなかった3人が感嘆の声を上げ、拍手している。
 アイルも得意げだった。
 晩飯後にアイルの光魔法を打ち上げながら、キャンプ地の周囲を歩いてみることにした。


 アイルの魔力は30分保たなかった。
 魔力切れを起こして倒れたアイルに魔力回復シロップを飲ませ、
「頑張った頑張った。無理すんな」
と、肩を叩いて励ましておいた。
「やっぱり、私には魔法は合わないのか」
 キャンプ地に戻り、見張りの俺を残して全員就寝。
 見張りと言っても探知スキルを展開させておけばいいだけで、俺はかなり暇だ。
 魔石灯の明かりを頼りに、俺はアイテム袋から手頃な木の棒を取り出して、光魔法の魔法陣を焼き付けていく。飾りに小さな魔石を先端に取り付ければ、杖の完成だ。ノームフィールドにいた頃、石つぶてが出る杖を作ったが、それの光つぶてバージョンだ。
 空に向かって、シュボボボボボっと光のつぶてが飛んでいく。連発の打ち上げ花火を持っているようで、面白かった。
 遊んでいたら突然、探知スキルに無数の魔物の反応があった。地面から湧き出てきたようで、人型をしている。ゴースト系だろうか。魔物に向けて光のつぶてを放つと、人型の影の魔物に当たり四散した。
「ゴメン!みんな起きて!遊んでたら、魔物呼んじゃった!」
 俺の声に、目をこすりながら全員起きた。
 すでにキャンプ地の周囲を影の魔物が取り囲み始めている。
 俺は急いでアイテム袋からポンプを取り出し、回復薬を入れた。
「敵は人型で影の魔物っぽい」
「ナオキ!音爆弾をばらまけ!」
 俺の説明を受けて、ベルサが叫んだ。
 先日、廃村でシャドウローとかいうのと戦った時、確かに音爆弾が効果的だった。
 俺はアイテム袋から、音爆弾を取り出し、周囲に投げた。

キーンッ

人の耳にはそれほど大きく聞こえないが、魔物に対しては効果抜群で、影の魔物がドロっと溶けて地面の草にへばりついた。
俺は探知スキルで見ながら、魔物の生き残りに回復薬を吹きかけていく。
強烈な異臭とともに、影の魔物が消えた。後には魔石が幾つかと、黒い液体が残った。
「この黒いのは、腐った血だな。昔、戦場だったんだろう」
 ベルサが説明しながら、魔石を回収。
「まったく、人騒がせな。今夜はナオキがずっと見張り当番ね」
 アイルが言った。
「すいませーん」
今回は俺が全面的に悪いので受け入れる。
することもなく、俺は一晩中、石鹸作ったり、閃光弾作ったりして過ごした。


早朝、草原の向こうから2人の戦士風の小人族がやってきた。
「お、お前たち、何者だ? 冒険者か?」
「清掃駆除業者です。あ、冒険者ギルドにも登録してますが」
 小人族の質問に俺が答えた。
「そ、そうか。1、2…5人とも冒険者か?」
「そうですね。あなたたちは誰ですか?」
「あ、あ、すまん。俺たちは冒険者ギルドの者だ。昨夜、シャドウィックに襲われてなかったか? 深夜に光の玉が見えてな。もしかしたら冒険者じゃないかと思って見に来たんだ」
 小人族の2人はヘッドギアのようなカブトを脱いで、説明した。2人ともモヒカンだった。あの魔物はシャドウィックと言うのか。
「すみません。ご心配おかけしました」
「いやいや、いいんだいいんだ。平原の外からくる冒険者は珍しくてな。情報もあまり伝わってないだろう?」
「そうですね。一番近くの町はどこですかね? ちょっと広すぎて迷ってしまって」
「街道から外れると、我々でも迷うんだ」
 街道があったのかよ。
「もしかして、お前たちは街道を通ってきてないのか?」
 俺の表情を見て、小人族のギルド職員が聞いた。
「ええ、南西の浜について、ジャングルを通り、崖を下りてきたものですから。地図もない有りさまでして」
「そぉ…ぉ…ぉ……」
 ギルド職員の1人がそのまま固まった。
「そんなことってあるのか!? 何日かかるんだ?」
 目を丸くしてもう一人のギルド職員が聞いた。
「いや2日です。まぁ、信じてもらわなくてもいいんですけど。とりあえず、町に行きたいんですけど」
 小人族のギルド職員たちは、お互いに頷き合い、「こっちだ」「準備出来たら案内する」と言ってくれた。
「その……普通なのか?」
 急いでテントや寝床を畳み、アイテム袋に入れる俺たちに、ギルド職員が珍しそうに聞いてきた。
「へ?」
「いや、2日でジャングルを通ったり、その鞄のような物は、外では普通なのか? 3年前に俺はこの平原に赴任してきたんだが、3年の間に外の人は急激に、その……」
「あ、大丈夫ですよ。うちの会社の人たちがおかしいんです!」
 セスが自信を持って言った。
「そ、そうだよな。良かった」
 何が良かったのかはわからないが、納得したようだ。

 小人族のギルド職員たちについていくと、馬車がすれ違えるほどの幅がある街道に出た。
 街道を北に向かうと、所々に林のようなものがあった。遠くから見ると緑色の饅頭のように見える。
 ギルドの職員たちは平原の外の情報に飢えているのか、たくさん質問をしてきた。
「あまり冒険者がやってこないのだが、全体的に冒険者の数は減ってるのか?」
「どんな魔物に出会ったことがあるのか?」
「海から来た時、何に遭遇した?」
「それ(ツナギ)は流行っているのか?」
などなど。俺たちは一々それに答えていった。
「あの、この国には勇者がいるって聞いたんですが?」
 逆にこちらから質問してみた。
「ああ、水の勇者がいる。この国はそれで保っているようなものだ。それよりも魔道具についてなんだが…」
と、結局は質問されてしまった。

 昼前に周囲よりも少し高い場所に林が見えた。
 その林を抜けると、お椀を逆さまにしたような形の家が数えきれないくらい並んでいた。
「ようこそ。平原の町、モラレスへ」
 小人族のギルド職員が言った。
 国の名前はグレートプレーンズだと言っていた。
 街の中には活気があり、道に人が多い。ウロコを持つ獣人が多いようにも感じた。
土で出来た家の間に大きなテントを張っている人もいて、生活スタイルも様々だ。木材で出来た建物もあるにはあったが、数は少ない。
民族衣装は色鮮やかで、道端に座った女性たちが談笑しながら、編んでいる。
「面白そうな町だな」
「ちょっと私、こっち見て回ってくる。冒険者ギルドの方はよろしく」
「私も向こう行ってくる」
「じゃ、私はそれについていきます」
 うちの会社の女性陣は自由だ。
「適当に宿取っておいてくれ!」
「了解!」
 アイルが返事をしたので、宿は任せよう。

 俺とセスは冒険者ギルドに行く。冒険者ギルドは小さなテントだった。
「ギルド長、今帰りました」
「おう、ご苦労さん」
 小人族のギルド職員の言葉に、テントの中のカウンターに座っている坊主頭の小人族が答えた。
 ギルドのあまりの小ささに、「これだけ…」とセスがつぶやいた。
「ああ、これだけだ。モラレスの冒険者ギルドには3人しか職員がいない。ギルド長のチーノだ」
 そう言って笑いながら、チーノは耳の横で手を振った。ボリさんとコリーがやっていた挨拶だ。
 俺たちは同じように挨拶を返した。
「コムロ・カンパニーです」
 そう言って、カウンターに出された羊皮紙にモラレスに滞在していることを書き込む。
「清掃駆除業者だそうです」
 職員の1人が俺たちの説明をしてくれた。
「そうか。業者か。商人ギルドがあればいいんだが、俺の知る限りモラレスにはない。依頼を募集するなら、うちで預かるぞ」
「わかりました。酒場はありますか?」
 「社長!」とセスが抗議の目で見てきたが、「情報収集だ」と言っておいた。
「酒場ならギルドの裏だ。何か探してんのかい?」
「ええ、ちょっと水の勇者を。居場所知ってますか?」
「ああ、酒場に行ってみるといい。水の勇者のことがわかる」
「ありがとうございます」
 俺たちはギルドの裏手に回った。モラレスでは珍しい木で出来た建物だ。
 人気店なのか、混んでいる。中の作りは他の場所のバーと変わらず、立ち飲みスタイルだ。
 カウンターに行き、銅貨を取り出して使えるか聞いた。
 バーテンダーは耳の側に銅貨を近づけて、爪で弾き音を確認した。銅の含有量でも調べているのだとしたら、すごい技術だ。たぶん、パフォーマンスだろう。
「問題ない。何にする?」
 そう言って、バーテンダーは銅貨をポケットに入れていた。
「なんでもいい。酒を」
「はいよ」
 すぐに、コップ一杯の酒が出てきた。
「聞きたいことがあるんだが」
 俺はバーテンダーに言った。
「なんだい?答えられることならなんでも答えるぜい」
「ここに来れば、水の勇者の居場所を教えてもらえるって聞いたんだが」
「ハッハハハ!ああ、あんた外から来たのかい?」
 なんかおかしなことを言ったか、と俺は隣りにいるセスを見た。セスは首を横に振った。
「そうだ。今日来たんだ」
「そうか。なら、教えてやる。俺が水の勇者だ。覚えておいてくれい」
 バーテンダーが答えた。
 早くも水の勇者を見つけてしまった。しかもバーテンダーをやってるとは。
「お!なんだ?水の勇者だったら、酒おごってくれんのかい?だったら、俺だって水の勇者だ!」
 隣で聞いていた酔っぱらいが言い始めた。それを皮切りに「俺だって水の勇者だ!」「俺もだ!」「俺ほどの勇者はいない!」などと酒場中で声が上がった。
 なんだ? 他所者だからからかわれてるのか?
「兄さん。悪く思わないでくれ。からかってるわけでも何でもねぇ。教えてやるよ。グレートプレーンズの男は皆『水の勇者』だ。そう、先代の勇者が20年前に宣言したんだ」
「じゃ、本当にここにいる男たちは水の勇者なのか?」
 バーテンダーは俺の質問に頷いた。
「あんた!油売ってないで仕事しな!」
 奥の厨房の方から女性の声がした。
「わかったよ!悪いな。うちの『精霊様』がお怒りなもんで、仕事に戻るよ。また、なんか聞きたいことがあったら言ってくれ」
 バーテンダーがウソを言っているようには見えなかった。酒場にいる酔っぱらいも、笑っているものの、人を騙しているようには見えない。
「この国のよぅ。男は皆『水の勇者』、女は皆『精霊様』だ。な?酒おごってくれる?」
 髭面の酔っぱらいが教えてくれた。俺は手に持ったコップをそのまま酔っぱらいに渡した。
 俺とセスは狐につままれたような顔で酒場を出た。
『ナオキ!アイルだ。水の勇者が見つかった!』
 アイルから通信袋で連絡があった。
『こちら、ベルサ。水の勇者を見つけた。これから追跡する』
 ベルサからも通信袋で連絡が来た。
「2人とも追跡しなくていいぞ。一旦宿で合流しよう」
『なんだ?』
『どうしたんだ?』
「ルールがわからん!とにかく、追跡してもあまり意味はなさそうだ」
 水の精霊も水の勇者も1人だと思っていたが、これではどうしようもない。駆除なんかした日には大量虐殺者になってしまうじゃないか。
「セス、この町に教会ってあるかな?」
「どうでしょうね……」


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