挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
駆除人 作者:花黒子

~東方見聞する駆除業者~

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

104/249

104話

 風は追い風。波は穏やかで、船酔いもアイルとメルモ以外は大丈夫そうだった。
 始めのうちはマストの上で海の様子を見たり、探知スキルを使って岩礁がないか探ったりしていたものの、左手に見える岸は離れるに連れて、岩礁の心配もなくなり、羅針盤を見るだけとなってしまった。
 セスも「順調です」と言っている。
 具合の悪そうな、アイルとメルモに効くのかどうかはわからないが回復薬を渡し、ベルサの様子を見に行く。
 ベルサは出港してから、ずっと船長室に篭って何か実験のようなことをしているようだった。
「何してんの?」
「ん?ああ、ちょっと実験。砂漠の植物とか手に入ったからね。いろいろ試してみてるんだ」
 そう言って、小皿の上の種に赤い液体をかけたりして、データを取っているようだ。
 邪魔しないように、俺はリドルさんから報酬で貰った魔法書を本棚から取って、甲板で読むことにした。本棚や机などはフロウラの町で手に入れたものだ。
 本当は船長室で食事をする予定だったが、食事はしばらく甲板で食べることにした。アイルとメルモが辛そうだから。
 魔法書を読みながら、潮の匂いがする風を受けていると、長閑な気分になってくる。
 探知スキルを使うと、海の中にはいくらでも魔物が潜んでいることがわかるが、特に襲ってこないようなので、放っておいている。
 魔法書には、魔力を操作する方法などが書かれており、本を読みながら実践してみる。
 魔力にはいろいろな性質があるらしい。ベタベタ罠は魔力に粘着質な性質を加える魔法の魔法陣を使っているので、なんとなくイメージしやすかった。
 魔力は他にも、ショックを和らげるゴムのような性質にも変化させることができるのだという。
 ただ、ほとんど利用価値は低く、使っている魔法使いはいないらしい。魔法書の筆者は「そういう魔法に新たな可能性があるかもしれない」としていた。
 魔力をゴムのようにする魔法の魔法陣があれば、船も衝突に強くできる。などと考えていると、ふと頭に魔法陣が思い浮かんだ。さすが魔法陣学レベルが10である。次、岸に着いたら船体に魔法陣を焼き付けようと思う。
「また、悪いことでも考えているのか?」
 俺がニヤニヤしていると、未だ具合の悪そうなアイルが絡んできた。よっぽど気持ち悪いのだろう。顔が青い。
「ちょっと船の魔改造をしようかと思ってね」
「まったく…船酔いを治す魔法はないのか?」
 アイルが魔法書を指して聞く。
「知らないね。波を見ながら平衡感覚を鍛えてくれ」
 アイルは「なんだそれは?」と言いながらも、波の様子を見に行った。
 俺はベタベタ罠で釣りができないかと考え、釣り竿の糸の先にベタベタ罠を結び、海の中の魔物に向かって投げた。だが、ベタベタ罠の素材は木の板なので、どうしても水面に浮かんでしまう。石に魔法陣を描いて試してみたが、今度は魔物に当てるのが難しかった。
 どうにか、新しい釣りの方法はないものか、と実験しながら時間は過ぎていった。
 昼過ぎに飯を食べた。アイルとメルモはいらないらしい。
 セスに「早めに岸に向かおう」と言って、再び作業に戻る。
 夕方前に、帆を畳み岸につける。

 ソルティリーという漁村で、この日は一泊することに。商人ギルドも冒険者ギルドもない小さな村だった。
 船から降りたアイルとメルモは「まだ地面が揺れている」と言っていた。
 村には漁船が多かったが、俺たちが乗っているような大きい船はなかった。
 珍しそうに船を見ていた村人に、村の名物を聞くと、ヘリングフィッシュという魔物の干物だと答えてくれた。買いに行くと浜辺に、台に載せられた干物が並んでいた。日持ちしそうだったので、20匹ほど買う。ヘリングフィッシュはニシンに近いだろうか。少し火で炙って食べると大変美味しかった。
 ベルサは、フロウラでは見なかった果物を買っていた。パパイヤに似た果物で、村人はパウパウと言っていた。
「種は残しておいてくれよ。洗って使うから」
 ベルサは皮を剥いて、種を傷つけないようにナイフで切り分けていた。
 村には宿があったので、宿に泊まる。一人、銅貨5枚で朝飯付き。あまりお金は使いたくなかったが、アイルとメルモが辛そうなので、仕方がない。
 夜中に、海とは反対側の森から、人の叫び声を聞いた。隣で眠っていたセスと一緒に行ってみると、ヒョウの魔物がいた。パッチオパルトという名前らしい。どうして名前がわかったかというと、松明を持って走ってきた冒険者らしき男が、
「パッチオパルドだー!」
と、叫んでいたからだ。 
 俺は地面にベタベタ罠をばら撒き、パッチオパルドを誘った。
 結構な勢いで走ってきた、緑色の目のパッチオパルドは俺が仕掛けたベタベタ罠に片足を取られ、転んだ。ベタベタ罠を取ろうとして、もう片方の足も罠にはまり、さらに、もがきながら口で取ろうとして頬にくっつけていた。前足と頭部がベタベタ罠にハマったパッチオパルドはただの大きめのネコだった。
 セスが後ろ足をロープで縛り、完全に身動きを取れなくさせてから、担いで村へと戻る。アイルに解体するか、メルモにテイムするか、聞いた。どちらも、眠そうな目をこすりながら、「ノーサンキュー」と答えたので、村の人たちが篝火を焚いて集まっている場所まで行って、煮るなり焼くなり好きにしてくれ、と渡した。
 呆気にとられていたようだが、飼うのか解体するのか、現地に住む村人が最良の判断を下すだろう。

 翌朝、宿の朝飯を食べ、出港。
その後、3日間、アイルとメルモが徐々に船に慣れていった。ベルサは論文を書き始め、俺の釣り計画は海の中で大きな音を出す魔道具を作るという方向へと変わっていた。
夕方前に、岸に行き、近くの村に泊まり、冒険者ギルドか商人ギルドがあれば、立ち寄ったことを報告するくらいだ。
ソルティリーの村を出て4日目。ベルサがやらかした。
実験をしている最中に、イバラのような棘のある蔦植物を一気に成長させてしまい、船中に蔦が伸びてきた。俺とアイルが帆に絡み付こうとする蔦をナイフと剣で切り、帆が裂けることは防いだ。
「ごめんごめん。まさかこんなに相性が良い植物があるとは思わなかったんだ」
 そう言って、船長室から出てきたベルサは傷一つなかった。
「何をしたんだよ!?」
「マルケスさんのところのキノコの成分を抽出して、草原と森の間に咲いていたパッシフロラの種に与えてみたら、急激に成長してね。たぶん、空気中の魔素を取り込んだんだと思う……」
 すまなそうにベルサは説明した。
「他の植物はこんなに成長しなかったのか?」
「うん、今のところ、これだけだね」
 いつも金銭面では強気のベルサだが、本業で失敗したので結構凹んでいるようだ。
 全員で蔦を剥がしながら、ベルサに実験の理由を聞くと、
「メルモが魔物を飼うなら、エサが必要だと思って。船で植物を育てられたら、それに越したことはないだろ?魔物を飼えるようになると、魔物学者としての私の研究も捗るし」
 もっともな理由があったようだ。誰もベルサを責める者はいなかった。
 その日、初めて錨を下ろし、船で一夜を明かすことにした。
 蔦を処分して、掃除しているうちに日が暮れてしまったからだ。探知スキルがあるので、岩礁に当たらずに岸には辿り着くのだが、今後、岸に上がれない日もあるかもしれないので、危険ではないこの日に練習しておこうということになったのだ。もしかしたら、夜の海は昼とは違うかもしれないので、交代で見張りをすることにした。
「夜の海は魔物が活発になると言われていますね」
 船長のセスは言った。
 実際、日が落ち暗くなると、周囲に海の魔物が増えた気がした。探知スキルで見ると、完全に囲まれている。肉眼でも、水しぶきを上げて跳ねる黒い魔物が見えた。さらに、海面の上を歩くゴースト系の魔物もいた。海で死んだ人に化けているようなのだが、混乱の鈴で混乱させると、殺し合いを始めた。見ている分には、死んだ人たちが殺し合いをしているので、なんだかよくわからないものを見ている気分になった。
 大きな音を出す玉状の魔道具も試してみた。
 投げて海面に当たった瞬間に、キーーーンという音が鳴った。人間の耳にはあまり大きな音には聞こえないようだ。投げてから気づいたが、これで爆発音でもして、寝ているアイルたちが起きてきたら、ボコボコにされる可能性もあった。
「何やったんだ?」
「はっ!」
 隣にアイルがいて、死ぬほどびっくりした。
「びっくりした。なんだ、寝てたんじゃないのか?」
「いや、なんだか眠れなくてさ。皆も眠れないらしい」
 見れば、皆甲板に出て、俺が魔道具を投げた方を見ていた。
 周囲に魔物がいて落ち着かないのかもしれない。野生の勘があるのかな。
「うわっ!社長、なんてものを作ってるんですか?」
 セスが海面を指差して、俺に言う。
 音で気絶した魚の魔物たちが海面に浮かび始めた。
 ベルサとメルモは、ベタベタ板に糸を付けただけの俺の失敗作を使って、魔物を回収していた。
「いやはや、夜は大漁じゃないか」
 アイルが甲板の魚の魔物の山を見て言った。すべて殺してアイテム袋に仕舞う。
 魔物に止めを刺して、アイテム袋に入れるだけの作業だったが、結局明け方までかかってしまった。海には霧が立ち込めていた。
 そろそろ寝ようかと思ったら、探知スキルにおかしなものが引っかかった。灰色の点が波に流されてこちらにやってくる。肉眼で見ると、小舟が一艘近づいてきていた。
「なんだ?」
「わからない。ただ、乗っている人は生きてはいないようだ」
 小舟を引き寄せて、中を確認すると身なりの良い服を着た中年男性が、肩から胸にかけて斬られ、死んでいた。小舟の中は血まみれで、舳先には刃物で切ったような跡があった。
 このまま見なかったことにして、小舟に遺体を乗せたまま流していってもいいのだが、この男性を待つ家族がいたら、と思うと可哀想だ。なにがあったかは知らないが、どう見ても他殺だ。
 遺体を甲板に上げ、小舟も証拠になるかもしれないので、ロープで引っ張り上げた。
「霧が晴れたら、岸に向かおう」
「そうだな」
「この人の知人がいるといいのだけど」
 そういうことになった。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ