ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
#5 未来の風が吹く
 ベッドに横になっている聖樹の表情は至って元気そうであった。
「ボク記憶が曖昧なんだよね……後遺症なんだって言われたよ」
「脳震盪起こしたんだから、良くあることらしい。その内ちゃんと思い出せる」
 忍は、よそよそし気にしているが、あの時一番に駆け出して行った時の表情は、もうここには無かった。
「聖樹?喉乾かないか?飲み物買ってくるけど、何が良い?後のお二人さんも、オレが奢るからリクエストどうぞ」
 話に華が咲き始めた頃に、瑞樹が言った。
「じゃあ、オレも一緒に行ってやるよ」
「いえ、ここは後輩のオレが!」
 なんて言っている聞に、結局じゃんけんで決める事になった。その勝負は、瑞樹と、忍の二人に決まった。
 残される葵は、聖樹と二人で、病室で。
 何を話そう?聖樹と話すのは苦手意職が有る、そんな事を考えてると、珍しく聖樹から話し掛けて来た。
「どう思う?忍と瑞樹……」
 ギョッとした。聖樹のさっきまでの表情が崩れている。黒目がちな目が潤んでいた。
「どうって?」
 何の事か分からないとでも言うかのように問い返した。
「ボクの入る余地無いかなって事……」
 こんな時、どう答えれば良いか、葵には分からなかった。ただし、一つだけ分かる事が有る。
「聖樹が倒れた時、部長。いの一番に駆け付けてたぜ…病院にも行くってそりゃあ後が見えて無いって感じでさ……」
 聖樹の目が大きく見開かれた。その上、透き通るような白い肌がみるみる真っ赤に染まったのである。
「ほ、本当?」
 素直なまでに、こんなに分かりやすく反応されると、正直、葵が照れくさくなった。
「マジマジ!」
 少し考えるようにして、聖樹は、
「まだ少しは、望みは有るのかな……」
 うっすら徴笑みを浮かべる聖樹に、嘘はついて無いよな。と自分に言い聞かせる。しかし、こんな風に煽って良いものであろうか?後で、聖樹が辛い目に合う事は無いであろうか?
 その事がチラチラ頭を掠める。
「ねえ、葵。僕に力を貸してくれないかな?ちょっとだけ探りを入れてみたいんだ。どうしても知りたいし、そろそろ区切りをつけたいから……」
 と、葵の耳元にロを持って行って、何やら咳く聖樹。
「え?」
「良いよね?」
「う一ん。でも何だか……」
「決まり、決まり!誰にも言わないでね!」
 聖樹の企みは、やりたい事は良く分かった。しかし、この方法は、何だか気が引ける。
 葵は、踏躇してはいたが、聖樹に流されるまま承諾した。
 そんな時、ジュースを買いに行った二人は帰って来た。
「ほい、聖樹はこれ!で、葵はこれだね」
 と、瑞樹は手に持っているジュースの缶を二人に手渡す。
「あのね。二人に聞いてもらいたい事が有るんだ」
 聖樹は、ウーロン茶の蓋を開けながら、瑞樹と忍に話しはじめる。
 葵は、ハラハラしながら瑞樹と忍を眺めていた。
「ボクと葵、付き合う事にしたんだ。だからこれからは、邪魔しないでね?」
 聖樹は、普段しない微笑みで二人に言い放った。
 忍は、何を言われたのか分からないとでも言うかの様子で、聖樹を食い入るように眺めた後、呆然としていた。瑞樹は、サッと、忍に視線を移し、その後冷めた目で、聖樹を見た。
「ねっ?葵!」
 突然話を振られて、
「そう言う事なんです」
 としか言い様が無かった。
「ふーん。分かったよ。聖樹……邪魔はしないから安心して良いぜ。さて帰るか。こんな時間だし」
 手元の時計を見て瑞樹は立ち上がった。しかし、茫然自失の忍は、そんな瑞樹の行動について行く事が出来ない。
「じゃ、また明日。ゆっくり休めよ」
 瑞樹は、ドアの所から聖樹にそう告げると、静かに部屋を出て行った。
「あの、部長……帰りましょう」
 葵は、何だか気の毒になった。肩を軽く叩く、
「葵、また明日ね」
 聖樹は、この勝負のついた結果を楽しんでいるようである。
 その後、忍と葵は暫くして速やかにこの部屋を後にした。
 可愛い顔をした小悪魔は、葵の心を惨じめにさせていた。
 
 寮に帰った葵は、明口からの学校の課題に身が入らず、今日の事を振り返っていた。
 忍が好きなのが、聖樹であることはこれではっきりしてしまったのだ。
 じゃあ、瑞樹はどうなる?一番辛いのは瑞樹ではないか?
 客観視している葵は、じゃあ、自分自身はどうなのだと振り返った。
 居心地が良い、四人と言うバランスの中で、突如、二人が出来てしまった。
 残されたのは、二人で……しかし、その一人は、見事失恋。こんな時、自分は残された者にどう言葉をかければ良いのか?
 ドキドキしているこの胸の内は、一体なんだろう?男同士でこんな事を悩まなければならないなんて、絶対変だ!と言う感情と、なぜだか、こうなってくれた事に、高鳴る鼓動を押さえ切れない感情が入り乱れて、よけいに苛立ち始めていた。
 夜風が、肌を突き刺し始めた夜に、もう戸を閉めないといけないと気付き、窓辺に手を掛けた。すると、 コツン。と窓を鳴らす音が聞こえた。
 窓の外を見る。ここは二階。気のせいかと再び窓に手を掛けた時、小石が窓を叩いた。
「葵!」
 声の主に無付き、葵は一階を見渡した。カーティガンをはおった瑞樹が、そこにいたのである。
「どうしたんですか?」
 周りに響かないように声を殺して、葵は話し掛ける。
「やっぱ、ここで合ってたんだ」
 と、近くの木によじ登りはじめる。
「危ないですよ!」
 言ってはみたものの聞き入れてくれる様子は無かった。仕方なく、二階の葵の部屋の窓辺まで上り詰めた瑞樹を招き入れる事になったのである。
「どうしたんですか?こんなことするなんて…」
 ベッドに腰を掛けた瑞樹に、温かいインスタントコーヒーを勧める。
「うん…あ、結構綺麗に片付けてるんだ?」
 と、部屋の中を見渡しながら、瑞樹は話を逸らせる。
 大体の想像はつく。こんな事までしてやって来たと言う事は、真相が知りたいからであろう。
「あれは、聖樹とつるんだ事ですよ」
 葵は、聖樹に黙ってるように言われたけど、敢えて話した。
「気付いてるよ。試したんだろ?あの聖樹の考え付きそうな事だからね」
 マグカップのコーヒーを啜りながらホッと息をつく瑞樹。
「あいつ我が儘だから…葵に迷惑かけたね」
 勉強机の椅子を後ろに向けて座り込みながら聞いていた葵は、
「迷惑と言うか……困ってしまったと言うか…聖樹に頼まれると何だか断れないと言うか……」
 フッと瑞樹は笑った。
「葵の場合、誰でも断れないだろう?」
「そうかも知れませんね……」
 葵は苦笑いをした。今迄こういう人格だったかな?
「忍は、聖樹のことを小学校の頃から好きだったんだ。でも、見かけに寄らず、忍は照れ屋でね、どうしても、好きだって言えずにいたんだ」
 あの様子だと、そうかも知れないと葵は思った。
「ロッカーも隣だと不味いからって、わざわざオレの隣にしてしまうくらいにね。莫迦じゃないかって思うんだけど、そんな忍は奴らしくって、好きだったな……」
 フッと遠い目をする。
「……オレ、瑞樹さんと部長が付き合ってるって聞いてたんですよ……噂もあったし……それに、ここで初めて会った始業式の日、その……キスマークつけてたから……」
 言って良いものか蹟躇いながらも、問いかけた。
「キスマーク?……ああ、鬱血してたんだよ確か……猫とじゃれあってたから」
 そんな事まで良く見てるんだなとばかりに、小首を捻っている。
「忍とは何もないよ。ただ、付き合ってる事にしてたのは、オレに悪い虫がつかないようにってね。でも大きなお世話だっての……昔から、そうだったんだ。何につけても、オレに付きまとって」
「やっぱり、身体を気に掛けてたんじゃないですか?部長、そう言う感じの人みたいだし……始めて会った時は恐い人かとも思ったんですけど……」
 あの時は正直ビビった。
「あの時は薬飲んでなかったのがバレてね。追い掛けられてたんだ…走るのはオレの方が断然速いから……逃げるの得意だし、待ちぶせされてね」
 思い出して笑いを堪えている。
「小学生の四年の時、忍が転入して来て、足の速いオレを陸上部に引き込んだんだ。で、大会に出てみたら、記録出してしまって……でも、その日にぶっ倒れた。しかも心臓に疾患がある事が発覚。突如、東京の病院に入れられたよ」
 それで、東京に来ていたんだ。葵は、あの時の事を思い出していた。
「それからだよ。忍がやたらと、オレにかまい始めたの……鬱陶しいったらありゃしなかったぜ……」
 そんな話をしていた時、訊いてみたい事が葵にはあった。
「どうして、あの時はあんなに綺麗な黒髪だったのに、髪の毛の色抜いちゃったんですか?」
 瑞樹は、ふと視線を泳がせて、
「聖樹とオレ、双子みたいに似てたから……見分けつけるためにかな……もう忘れちゃったよ……」
 続けて、
「それにこの方が、オレらしいだろ?」
 ニチャッと笑う瑞樹。
「オレ、始めは聖樹があの時の子かと思ってたんです。すみません……」
 目を見開いて、端樹は葵を見た。
「謝まんなよ。オレ名前言ってなかったしな……間違えられても仕方ないだろう。オレは葵の名前聞いてたから、すぐに分かったけどな。正直驚いたよ。こんな所で会うなんてな」
 また一ロコーヒーをすする瑞樹。
「覚えてたんですか?同姓同名かも知れないのに……」
「ああ。病院抜け出して、初めて声を掛けてくれた奴だったし。それに、あんな変な質問に律儀に答えてくれる奴なんて、滅多にいなかったから……あん時の言葉そのままに覚えてるよ」
 風が有るのか、悪がガタガタと小刻みに音を残した。
 ヤバイ泣きそう……
 葵の顔は見る見る赤く染まっていった。
「おいおい。何で泣くんだよ…」
「分からないけど。勝手に涙が……」
 ベッドの脇の木箱にマグカップを置くと瑞樹は葵の側に近寄る。
「来るなよ!何するかわかんないから!」
「何をしても構わないよ…オレの代わりに泣いてくれるやつがいるんだもの」
 葵は息が止まりそうになった。
 自分が発した言葉の駅も、瑞樹が言っている言葉も理解できなかった。
 一つだけはっきりした事は、葵は瑞樹を好きになってしまっていると言う事だ。
「オレ、聖樹が、葵と付き合うからって聞いた時、正直、腹が立った。忍がこんな風に鎌を掛けられる事に腹が立ったのは正直一つあったよ……だけどなにより、葵に頼んだってのが許せなかった」
「え?」
 それって……
 思考が入り乱れる。
「オレ…葵の事が好きなんだ」
 葵の心臓ははち切れんばかりに、ドクドク血液を体中に流している。
「え?……オレ…その…」
 次から次に、情けない事に涙が溢れて来るのを止められない。こんなに、自分が涙もろいとは思ってなかった。
「本気で言ってるんですか?部長の事好きなんでしょう?仕方なくオレの事好きだなんて言ってるんじゃないですか?」
 自分で何を言っているのか分からない。
 まるで女の子のように感情を露にしてる自分が嘘のようだ。
「嘘じゃない!本気だ!きっとあの時、既に捕われていたのかも知れない……オレ、葵に側にいて欲しいし、聖樹のことになんて従って欲しくない!オレ、オレ……」
 瑞樹は床にへたり込むように膝をついた、葵は溢れ出す涙をゴシゴシと服で拭うと、瑞樹の肩をそっと抱き、
「もう良いよ。瑞樹さんに涙なんて似合わない……オレが泣かせたみたいじゃん」
 軽く頬に唇を寄せる。
 笑っている瑞樹が好きなのだと改めて思った。
「キスして良い?」
 目蓋を閉じる瑞樹に、了解を得た葵は軽く唇を重ねる。瑞樹の唇は涙の味がした。

「それじゃあ、忍にはオレから伝えとくよ。聖樹にはちょうど良いよ。少しは人の気を知れってんだ!」
 再び、木の上から下に下りて行こうと窓から身体を乗り出す喘樹は、極上の笑みを讃えて葵の頬にキスを落とす。
「でもそれじゃあ、オレが喋った事になるのでは……」
 何だか気が引けるのは、聖樹の怒った顔を想像するからである。
「良いの、良いの!オレは、聖樹の魔の手から葵が離れてくれなきゃ気分が悪いんだから!」
 つまりは何だ。一番損な役を演じているのはこのオレなのか?
 幸せな気分から突然冬風を手にした気分だ。
「それじゃまた明日!部活で会おうな!」
 元気に木を降りて行く瑞樹は、一階に降りてからも、手を振り続けていた。
 そんな中、聖樹に会うのが恐くなって来た葵であった。

「喋ったでしょ……」
 二日後、妬ましい目で葵を見る聖樹の目は、意外とそこまでは恐くなかった。
「でも良いよ……忍、ちゃんと訳話してくれたから…」
 フッと微笑んだ聖樹の顔には、全てを洗い流した後が見られる。
「そうなんだ。良かったね」
 葵はバーを元に戻しながら答える。
「葵も、良かったんじゃない?」
「え?」
「瑞樹と良い事あったでしょ?」
 何もかもお見通しと言うような目で葵を見る。
「……何の事だか……」
 はぐらかそうとしたけれど、聖樹には全て分かっているようであった。
「気付いてないのは、本人だけか?葵の目、見れば分かるんだけどな…」
 訳が分からない葵は、唖然と聖樹を見る。
「目?」
「目と言うか、視線かな?」
「……視線?」
「葵、いつも瑞樹を追ってる事に気付いてないんだから不思議だよね。多分、部の連中はみんな気付いてるよ。今日は視線を向けてないから、あれ?とか思っちゃった」
 葵の顔は火が吹き出しそうな勢いで真っ赤になった。
「無意識って、恐いよねえ」
 下から眺めて来る聖樹の目から逃れようと視線を流した。すると、
「そこ!さぼってないで、さっさと練習に入れ!」
 突然の声に掘リ返る。
 瑞樹が腕組してこちらを見ていた。
「知ってた?瑞樹、葵が部に入部してから一度も遅刻してない事!」
 そう言い残すと、聖樹は駆け足でトラックへと走り出した。
 なんてこった。
 葵は、空を仰いだ。
 秋空は、綺麗な鰯雪を漂わせて流れている。後一刻もすると、綺麗なタ焼けを拝む事ができるだろう。
 もうすぐしたら総体も絡わり、このグラウンドから瑞樹の盗を見る事も適わなくなる。そう考えると何だか寂しい気もするけど、今は精一杯の事をやろう。
 心地よい風が優しく葵の身体を包み込む。
 あの大空目掛けて舞い上がれ!
 そう心に願うと葵の身体は、綺麗な弧を描いてバーを越え宙を舞った。
作品としてはもう七年前くらいのものです。
古いんですが、自分がBLらしきもの書いてたのって珍しいなという事で、載せてみたと言う所でした。
小説というよりシナリオのような・・・
結局、この後葵や瑞樹、忍、聖樹たちがどうなったのか?書いて無いんですが・・・幸せになってることを祈ろう。という所ですね。
続き、今書いたらきっと大人な恋愛しか書けそうに無いな〜うむむ。
macで書いてた小説なので、少し化けてる文字あるかもしれません。気付いた所は直したんですが・・・
という事で、雰囲気だけ楽しんでいただければ幸いです。そういうBL小説なんで・・・では、また違う作品で。
評価
ポイントを選んで「評価する」ボタンを押してください。

▼この作品の書き方はどうでしたか?(文法・文章評価)
1pt 2pt 3pt 4pt 5pt
▼物語(ストーリー)はどうでしたか?満足しましたか?(ストーリー評価)
1pt 2pt 3pt 4pt 5pt
  ※評価するにはログインしてください。
ついったーで読了宣言!
ついったー
― 感想を書く ―
⇒感想一覧を見る
※感想を書く場合はログインしてください。
▼良い点
▼悪い点
▼一言

1項目の入力から送信できます。
感想を書く場合の注意事項を必ずお読みください。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。