表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

作者: きくぞう

「人間の脳みそってどんな味がするのかしら」

 放課後の下校途中、少年と並んで歩く内田は、まるで昨晩の献立を尋ねるかのようにあっけらかんと聞いてきた。

 表情を変えず、少年は視線だけをわずかに彼女へと向ける。

 透き通る陶器のような白い肌に、大きな瞳が特徴的な美しい彼女。髪は腰まで届きそうな黒のストレートヘアーで、一本一本がまるで絹糸のように繊細で美しい。

 白と黒のコントラストで織り成す彼女は、まさに絶世の美少女といえよう。だが、そんな彼女の口から出てくる話題と言えば、人の死にまつわるグロテスクな話ばかり。彼女の素性を知らないクラスメイトたちは、彼女の事を畏敬の念を込めて白雪姫と呼ぶが、彼女の性格を良く知る少年は、内心彼女の事を皮肉を込めて黒雪姫と呼んでいた。

「知ってる? 人間の脳みそを食べると、その人の生前の記憶を知る事が出来るって話」

 無視して歩き続ける少年に、内田は前に回り込むと後ろ歩きをしながらお構いなしに話を続ける。どうやら意地でも少年に話を聞かせるつもりらしい。

「ロマンチックよね。死んで初めてその人の想いを知る事が出来るなんて。もし、あなたが死んだら、私があなたの脳みそを食べてあげるわ」

「それはどうも」

 そっけない少年の態度に、内田は不服そうに頬を膨らませる。

 今にも降り出しそうな、灰色の曇り空。内田は、何気なく上空を見上げる。そこには、一匹の鴉がカァカァと鳴きながら旋回しているのが見えた。

「あの鴉、最近良く見かけるわね」

 内田がポツリと呟く。少年は何も答えず歩き続ける。

「今から1ヶ月前だったよね、クラスメイトの黒木さんが事故死したのって」

 唐突に内田が話を切り出した。少年の動きに変化は無い。

「実はね、あの事故の第一発見者って私なのよ」

 その言葉に、少年の足がピタリと止まった。内田は嬉しそうに微笑む。

「崖下で見つかった黒木さん、凄い有様だったのよ。打ち所が悪くて頭がパックリ割れていてね……」

 まるで、昨日のTV番組の内容を話すかのように、内田は嬉々として話す。

 少年の首が、ゆっくりと彼女の方へと向き直る。

「遺族の方には言っていなんだけど、はみ出した脳みそを鴉がついばんでたの」

「……何が言いたいんだい?」

 その言葉に、内田は狂気を孕んだ目を大きく見開きながら、少年の顔を覗き込んできた。

「確か、あのカラスがあなたに付き纏うようになったのも一ヶ月くらい前からよね。どうしてあの鴉はあなたに付き纏うのかしら。何か言いたい事でもあるのかしら」

 少年の目から光が急速に失われ、ただの黒い玉となった。濁った沼のような瞳で、少年は内田を見つめる。そして、しばしの沈黙の後、少年はゆっくりと口を開き、

「さぁね。僕には関係ない話さ」

 それだけを言い残し、少年はその場から立ち去って行った。

 内田は、小さくなっていく少年の背中を見つめながらポツリと呟いた。

「あれは、本当に事故だったのかしらね……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ